第二十三話「妖精の正体」
「おい、新入りが来たって本当か?」
「へい、親分! 確かに昨日連絡がありました!」
細長い洞窟を二人の男が走る。親分と呼ばれた小柄で雑に髭を生やした男の質問に、もう一人のひょろっとしたのっぽな男が答えた。のっぽな方は二十代前半、親分は五十代といったところか。親分は走るのが少し辛そうである。そして二人とも元の色が分からない程に薄汚れた浴衣を身に纏っていた。
しばらく走ると行き止まりに辿り着く。そこには縦横約三メートル位の壁があった。この先に道はない。だが親分は慣れた手つきで壁の突起部分を押すと、壁はくるりと、まるで忍者屋敷の隠し扉のように回った。
「こいつらか……。おい! 起きろ! 何寝てやがる!」
「痛い! 何すんだよ……」
親分は扉の近くに寝ていた少年、ユウキを腹を蹴って起こす。その音を聞いてれいなとさつきも目を覚ました。
「んー、朝なのー? まだ眠いんだけどー」
さつきは大きな欠伸をする。れいなにいたっては親分とのっぽがいるのを確認し、それでももう一度寝ようと横になろうとしていた。
「お前らが新入りか……こんな状況になっても寝るとは随分大物が来たもんだぜ」
「えへへー」
「褒めてない!」
マイペース過ぎるさつきたちについ気が立ってしまう親分をのっぽがなだめる。れいなとさつきは眠いということが先行しているのか、知らない男たちが来たことはあまり気にとめていない様子だ。そんな二人の代わりにユウキが立ち上がり男たちに尋ねる。
「えーと、どちら様ですか?」
「おー! やっとこっちに関心が向きやしたね! こっちは親分で、俺はのっぽって呼ばれてるッス」
「ふん! そんなことはいいからついてこい! お前らにここのイロハを教えてやる!」
親分が鼻を鳴らす。訳が分からないユウキたちは眠い目蓋を擦り、彼らについていくしかなかった。
細長い通路がどこまでも続く。途中の道には幾つか小部屋のようなものもあった。
「今まであった小さい部屋は寝床だ。で、あっちから外に出れる。質問は?」
親分が指さした方向には螺旋階段があった。だが光は射し込んできていない。どうやらまだ夜中のようだ。
「えーと、色々聞きたいんですが、まずここって地下で合ってますよね?」
「そうだ。お前たちは今日からここの新入りとして一日中働いてもらう!」
親分が力強く言い放った一言にのっぽが頷く。だが依然として状況は見えてこない。
「働くって何をするのー?」
「国中の花の世話をするんだよ!」
親分の言葉に今度はれいなが小さく頷いた。
「……そういうことね」
「何か分かったのか?」
ユウキはれいなの顔を覗きこむ。うつむいている彼女の顔は険しさの色を増していた。
「この地下には国民のほぼ全員が住んでいるとタケダが言っていたでしょう? そしてここにいる人は花の世話という労働を一日中させられている。つまり、『妖精』っていうのは無理矢理働かされている国民のことなのよ」