第二十二話「深い深い穴」
「ああああ! これ落ちてるよなぁぁぁ!」
「わぁぁぁ! 楽しいぃぃ!!」
そう、今ユウキたちはタケダに真っ暗な穴へと押され落ちている最中なのだ。本当に光が一筋もないので表情は見えないがユウキは顔を歪め、さつきは満面の笑みのようだ。そしてれいなはスカートを押さえる余裕を見せていた。
「落ち着きなさいよ」
「いや、いきなりこんなことになってるのになんでそんな冷静なの!?」
「別に死にはしないわよ」
「その根拠はなんなんだよぉぉぉ!」
ユウキの絶叫が穴全体に響く。そしてその音が収まる頃、ようやく地面に辿り着いた。うつ伏せのままぶつかったユウキを、もふっと地面が包み込む。
「いてぇ! と思ったけどあんまり痛くないな」
床を触ってみるとまるで超低反発のクッションのようである。ぶわっぶわっと感触が心地よい。
「ほら、死ななかったでしょう?」
ユウキは暗くてもれいながどや顔で見下ろしているのが分かった。だがそれを確かめるように腰につけていた雷の魔石で辺りを照らす。懐中電灯ほどの明かりだがそれだけあれば十分だ。見上げればやはりれいなはどや顔だった。
「ここどこなんだろうな……」
周りを見ても壁ばかりで出口は見当たらない。城の地下にこんな場所があったとは。そういえばタケダが地下に国民が住んでいると言っていた。もしかしたら近くにいるのかもしれない。
「出口はどこにあるかな?」
「とりあえず私が跳んでみるわ」
そう言ってれいなが膝を曲げジャンプする。弾丸のようなスピードで五十メートル程上がってからまた下りてきた。ぼすんっと思いっきり柔らかい床にめり込んでかられいなは顔を出す。
「駄目だったわ。ここじゃ上手く跳べないみたい」
柔らかい地面は上手く蹴ることが出来ず、思ったように跳べなかったらしい。それにしてもやはり人間離れした力だが。
「どうすればいいんだ……」
頭を抱えたユウキにさつきが声をかけた。彼女は口を手で隠しながら大きな欠伸をしている。
「私眠いから寝るねー。おやすみー」
「は?」
「そうね。することもないし寝ましょうか」
「いやいや、この状況でよく寝れるね」
「あら、睡眠は大切よ。これから何が起きるか分からないし体力は回復させておきましょう」
「それはそうだけど……ってもう寝たのか」
二人を見ればすでに地面に埋まるように寝ていた。メイド服のままだが気にしてないようだ。
「じゃあ俺も寝るか……おやすみ」
これはユウキたちが穴に落ちる前のこと。ちょうどれいなとさつきが風呂に入ってるときだ。一人の男が女王の部屋へと入っていった。
「あら、どうしたのかしら? ちゃんと仕事はしなさいよ。久し振りに『妖精』が来たのだから」
「その件です。今回は止めませんか! 彼らは今までの人たちとは違う! ちゃんとした心を持っている!」
男の声にはいつもと違って迫力があった。そんな様子を見て女王は鼻で笑う。
「あなたがそれを言うなんて、結局あなたもこの世界の人を人扱いしてないじゃないの」
「っ! そんなことは……」
「それに、あなたは分かっているでしょうが私には逆らわない方がいいわよ。私の強さは知っているでしょう?」
そう言って女王は高笑いした。彼女は顔面蒼白し、言葉を失った男の背中を押す。
「じゃあ、頑張ってらっしゃい」