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第二話「魔法に剣に浴衣に」

「さて、仲間も増えたし、新しく買い物をしよー!」 


 意気揚々とさつきは右手を握り高く掲げた。無邪気な様子の彼女だが、ユウキには先程の狂気に満ちた姿が焼き付いて離れそうにない。人が変わるとはまさにこのことだ。


「はい! ユウキ、一緒に行こー?」


 いつもならこんな美少女にそんなことを間近で言われたら即首を縦に振るのだが……  

 だが、戸惑っているユウキの心情など気にしていない様子でさつきはユウキの手を握り走り出した。

 

 ドアを開ければ広がる木々と青い空。爽やかな風が吹く森を二人が駆けていく。れいなはそんな二人を見送り、部屋の掃除をしてから地面を蹴った。


 



「はい! ここが勇者たち御用達の町だよー」


 さつきに連れられて門をくぐるとそこにはいくつかの建物があった。どれも木造建築で、歩く人は皆浴衣を着ている。


「異世界っぽくないな……」


「どういうことかしら?」


 いつの間にか隣にいたれいながそう尋ねる。


「いや、異世界って言えば洋風が基本だと思うんだけど……」


「ヨウフウとは何かしら? あなたの世界の言葉?」 


「ああ、そうなんだけど説明が難しいな……後で色々教えるよ」


「そう」 


 何も知らない人にそのものを説明するのは難しいものだ。それを分かってかれいなはそれ以上のことは聞かなかった。そんなれいなはさつきと違って狂気のようなものは感じないがどこか冷たい。一緒に旅をするというのには否定的ではなかったようだが、不満でもあるのだろうか。


「はい、ここでーす! ここで勇者に必要な物を揃えましょー!」


 さつきの案内で歩いていると、武器屋と書かれた大きな店で止まった。


「さっきから言ってるけど勇者ってなんだ?」


「ああ、勇者っていうのはー、神様の元を目指す人のことだよー。なんでか分かんないけどそう言うんだよー」


 さつきが答えながら扉を開けると「いらっしゃいませー」という店員の声が聞こえる。目の前には浴衣が飾られ、左奥には刀、右奥からは何やら怪しげな空気が漂っていた。  


「さて、まずは服から買おうかー」


 そう言えば今、ユウキはピンクの浴衣を着ている。どこか小さいそれはさつきの物だろうか。意識すると途端に恥ずかしくなってきた。


「そ、そうだな。これが戦闘用なのか?」


 ユウキは近くにあった浴衣を掴む。どう見てもただの浴衣にしか見えないが……


「そうよ。軽いし、良く乾く。それに衝撃をある程度吸収してくれるわ」


「ふーん、かなり優れものなんだな……」 


「これなんてどう? 似合ってるよ!」


「お、いいね! 俺青好きだし! じゃあ着替えてくるよ!」 


 さつきが持ってきた藍色の浴衣を受け取って、ユウキは試着室へと急いだ。



「どうでしょう!」 


 いざ着替えてみると割としっくりくる。鏡で自分を見ると中々決まっているような気がしてきたのだ。その鏡の中には大して特徴のない少年がポーズを決めていた。

 長くも短くもない髪、平均的な身長に痩せ気味の体。顔は悪くはない、むしろいい方なのだが、何故か印象に残らないのだ。


「いいねー! 似合ってるよー」


「まあ、悪くないんじゃない?」


「ありがとう! じゃあやっぱりこれにするよ!」 


 ユウキはさつきと見合わせてサムズアップをした。さっきまでの様子が嘘のようにさつきは普通の明るい子だ。まあ、何かに夢中になると人が変わる子はいるし、ましてや神の信仰となれば尚更だろう。気にしなければいいことだとユウキは思うことにした。


「あとこれ。刀はこれがいいと思うわ」 


「小さいな……って重っ!」 


 れいなから手渡されたものは刀と言うよりは小刀と言うべきだろう。だが予想していたよりはずっと重かった。五キロ位だろうか。

 

「うん、やっぱりそれくらいがちょうどいいわね。刀は神の加護を受けているから良く切れるけどその分重いのよ。試しにこれも、はい」 


「ぐっ!」


 れいながそう言って刀をユウキに渡した。刀と言って最初に思い浮かべる一般的な大きさである。れいなが片手で軽々と持っていたそれはドスンと地面に勢い良く落ちた。ユウキがとっさに手を離さなかったら危なかったかもしれない。慌てるユウキを見てれいなはとても楽しそうだ。


「ふふふ。力が足りないのよ」


「いやいや、これは重すぎるだろ……」


 れいなは落ちた刀をやはり片手で軽々と持ち上げ片付けに行く。ユウキは彼女の後ろ姿を見て、どれほどの怪力を持っているのかと恐ろしさすら感じていた。あんまり彼女を怒らせない方が良さそうだ。


 そんなことを思っていたユウキをさつきが後ろから


「ちょっと貰うねー」


と言って髪の毛を十本引き抜いた。


「痛ぁ!」


 異世界に来てから災難続きのユウキはしゃがみこんで頭を抱えた。もう涙目だ。

 

 少しすると右側の奥、怪しげな場所に行ったさつきがスキップしながら戻ってきた。


「はい、これ! 髪の毛で魔法の適正値が分かるんだよー」

  

「魔法の適正値?」


「そうよ。ゼロから百までの数値で判断されるの。炎の赤、水の青、雷の黄、土の茶、風の緑のそれぞれの魔法のね」


 どっかの忍者マンガみたいな属性である。せめて魔法くらいは全ての属性が使えるとか、数値が百とかのチート能力を望んだユウキだったが……


「茶が十、他が全てゼロね」


 覗き込んだれいなの言葉で膝をついた。終わった。ユウキの異世界生活はお先真っ暗だ。

 

「大丈夫だってー。茶が十あったら何もないところから泥団子を作れるんだよ! 羨ましいくらいだよー」


「なんだ、その微妙な能力……ところでさつきは適正値どれくらい?」


「えっ、私! 私は青が七十だけだよー」


「あ、一応言っておくと、魔法の適正値は才能そのもの。変わることはないわよ」


 さつきの適正値とれいなの一言がユウキに追い討ちをかける。ユウキは肘までついてうなだれてしまった。どうやらユウキが訪れた異世界はハードモードらしい。ユウキはこれからどうなるのか、どうしても不安になるのであった。

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