第十七話「花の国『エアリアル』へようこそ!」
「綺麗……」
小高い山から見下ろした国、一面が花で覆われた絶景がそこにはあった。白、赤、紫、黄など鮮やかな色が散りばめられた絵画である。
あまりの美しさにれいなは息を飲んだ。そんなれいなとは対照的に、肩車から降りたさつきは気を失って倒れているユウキの頬をビンタしていた。
「起きてー!」
「……ぐっ……」
パチン、パチンと良い音が響く。一瞬目を開けたユウキだったがその衝撃で再び眠りへ……
一時間ほどしてようやく目を覚ました。
「大丈夫ー?」
「…………川の向こうに花畑が見えたよ……」
「そう! 花畑だよ! 今から行こう! 早く行こうよー」
「嫌だよ! 死にたくない!」
笑顔で肩を掴みユウキを揺らすさつき。そんなさつきを怯えきった表情で拒絶しようとするユウキ。
そんな二人の噛み合わない掛け合いにれいなが割って入った。
「ユウキ、私たちはあの国に行こうって言っているのよ」
れいなに言われ振り返ってみると、そこには見事な花園が広がっている。建物もいくつか見えるため、人が住んでいるのは間違いなさそうだ。
「おー!! なんか凄いな!!」
「早く行こー!」
ユウキとれいなに手を繋ぎ、さつきは走り出す。そんな彼女の肩まで伸びた金髪は、彼女の気持ちが乗り移ったように風に踊っていた。
「わーい!」
そうして三人は山を一気に下っていく。またまたユウキの顔は恐怖に歪んでいたがそんなことは誰も気にしなかった。
「ついたよー!」
「よかったわね、ユウキ……!」
れいながうつむいているユウキの顔を覗き込むと、彼の顔は顔面蒼白であった。
「もう、無理……!」
「! 待って吐かないで! 吐くなら向こうで……ああああ!!」
ユウキは国の入口で思いっきりリバースしてしまった。すると入口の向こうから黒スーツの男がゆっくりと歩いて来る。
「誰か来たよー!」
「待って、今それどころじゃ……」
「ようこそ! 勇者様でいらっしゃいますね! この国は花の国『エアリアル』でございます!」
黒スーツの男は両手を拡げ大きな声でそう言った。ぴっと背筋を伸ばし、革靴を履いている。陽気な口調とは裏腹に顔からは真面目そうな雰囲気を漂わせている男だ。
「えありある?」
「はい、エアリアルでございます! 一面花で覆われた美しい国ですよ! どうぞ中へ!」
男は腰を直角に曲げ、腕だけで入口を示す。
「あっ! 少しだけ待って下さい。ちょっと彼が……」
「おやおや、どういたしました! お客様! 少し顔を拝見!」
男がぴっぴっと、どこかロボット的な動きでユウキに近づき顔を覗くと
「ん?」
「オロロロロロロロ!!」
「……ぎぃあぁぁぁぁぁ!!」
至近距離からユウキの『リバース』を喰らってしまった。その声はまるで断末魔のような悲痛な叫びだった。




