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第十六話「重大な問題」

 やばい。これは本当にやばい。ユウキは寝袋の中で頭を抱えた。今、一行はかつてない程のピンチにあった。

 月明かりと星の輝きだけが真っ暗な夜を照らしている。目の前を蟻が歩いていくのを見送って、顔を上げたさつきが口を開いた。


「どうしたのー? 頭抱えちゃってー」


「やばいんだよ……とにかくやばい……」


「何がー?」


 ユウキの深刻な様子にさつきは首をかしげた。ここ最近大変なことはあっただろうか。

 (あ、もしかして私とれいなが水浴びをしているときに一人だけ離れたところにいるのが辛くなってきたとかかなぁ)などとさつきが考えていると、ユウキがようやく答えた。


「食糧が足りない……」


 それはさつきの考えていたこととは全く違ったが、確かに深刻な悩みであった。

 旅に出てから一ヶ月。ユウキたちは保存食と野生の猪、鳥、魚などを食べてここまで来た。

 しかし、ひたすら歩いてきたが一向に世界の果てには辿り着かない。当たり前のことだが世界の果てはただただ遠い。

  

「確かに食糧はなくなってきたわね……。肉だけしか食べれないのは辛いわ」 


 れいなも深刻そうな顔で頷いた。地面に垂れる長い黒髪と憂いを帯びた瞳が彼女の美しさを象徴していた。


「ああ、そうだ。どこかで食糧を得ないといけない。このままじゃ世界の果てなんて行けない」


 ユウキはどこかでこの問題を軽く見ていたような気がする。世界を旅するのだから食は何よりの問題になるというのに。そういえば、あの有名な赤い帽子を被った髭のおじさんは何を食べて世界を攻略しているのだろう。


「えー! 食べ物ないのー! どうするのー!?」


 今ごろ事の重大さに気づいたさつきが声を荒げた。


「大丈夫よ。私は近くにきっと国があると思うの」


「そうなのか!? でもなんでそう思うんだ?」


「勘よ」


 勘。そう言われてユウキは溜め息を吐いた。そんなユウキの頬をれいなが引っ張った。


(にゃん)だよ?」


「『にゃん』って……。かわいいわね。勘って言っても理由はちゃんとあるのよ」


「理由?」


 理由があるなら勘ではない気がするが。れいなは内心そう思ったユウキの頬を解放した。そんなユウキの頬は指の形に紅くなっている。


「私たち以外にも神の元を目指す、所謂『勇者』というのはいるのよ? でも旅に出た勇者が帰ってきたという話は聞かない。

つまり、今まで旅に出た勇者は今もなお旅を続けているか、死んだか。

もし旅をしている人が多いなら拠点が出来ていてもおかしくない。

それに国くらい神が造っていそうだわ。そうでなければ私に来いなんて言わないと思うの」


 確かに人が集まれば自然と国は出来ていくのかもしれない。だがそんなに上手くいくだろうか。



「……なるほどな。けどそれでも、国はないかもしれないだろ? もしなかったらどうする?」


「そうね……。じゃあ明日、国に辿り着かなかったら一回帰りましょう。準備を整え直して出直すことにするわ」


「いやいや、国を探すにしても、帰るにしてもそこまで機動力はないだろ?」


「いえ、とっておきがあるわ。あまりやりたくはないのだけど」


「えー! あれやるのー! 楽しみー!」 


 れいなには何やら策があるらしい。ユウキだけがそれを知らないわけだが。

 さつきは何故かはしゃいでいるが、れいなは何やら恥ずかしそうにしている。ますます訳が分からない。


「なあ、とっておきって……」


「はい、今日はもう寝ましょう? 明日になったら分かるわよ。おやすみなさい」


「おやすみー!」


 ユウキだけおいてけぼりで話が進む。だがこうなってしまったらもう寝るしかない。明日何が起きるのか、楽しみにして目を瞑った。






「おっはよー!」


「ん……今日は早いな……」


 朝日がまだ少ししか顔を出していない。かろうじて光が入ってくるぐらいだ。この世界には時計はない。日の光で大体の時間を把握して活動するのだ。

 

「今日はれいながあれをしてくれるからねー。ひゃっはー!」


 両手を拡げ跳び跳ねるさつき。そんなに凄いのだろうか。


 ユウキは期待しながら朝の活動を済ましていく。顔を洗って、日課の素振りをする。それが終わるとあとわずかの朝ごはんを食べた。


「さて、そろそろ行くわよ」 


 朝食を食べ終わってから三十分ほどだろうか。れいなが二人に声をかけた。


「やったー!」


「お、結局何するん……」


「よいしょー!」


「こうするのよっ」


 ユウキは一瞬何が起きたのか分からなかった。背が急に高くなったのだ。

 いや実際にはさつきがユウキを肩車して、そのさつきをれいなが肩車している。


「………………」 


「よーし、しゅっぱーつ!」


「ちょまっ……ぐぁっ!!」


 さつきの号令でれいなが思いっきり地面を蹴った。二人を担いだ状態でも音速で走る少女。

 さつきはとても楽しそうだが、ユウキは今にも死にそうな顔をしている。当然だ。


「ああああああああ!!!」


 一番上で風がもろに当たる。木にも頭を突っ込む。速すぎて訳が分からない。思わぬ形でユウキは異世界に来て二度目の気絶をした……









 三分ほど経っただろうか。一つ小さな山を越えると綺麗な花畑が見えてきた。いくつか家があるのも分かる。

 思わず笑みが溢れる少女二人と気を失っている少年を花の国が迎えようとしていた。


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