第十四話「戦闘特訓③ ユウキVSれいな」
「くらえっ!」
スパッという切れの良い音が聞こえる。ユウキは襲ってきたツバメの魔獣を一撃で仕留めた。
「おおー!」
「ずいぶんよくなったわね」
「へへへ、もっと褒めてもいいんだぜ」
「でもそこまではすごくないわよ」
旅を始めてからもう3週間ほど経つ。ずっと特訓を続けたユウキの体は少し筋肉質になった。細マッチョと言えば聞こえが良いだろうか。
だが同時に痛々しい傷も目立つ。この世界には治癒魔法の類いはないらしい。かといって医療レベルも進んでいない。だから怪我をしたら応急措置だけで終わりだ。
「いやいや、これでもけっこう強くなったんじゃないかと思うんだけど……」
「確かに最初に比べればそうだけど、でもまだまだよ」
れいなは左手を腰に当て、右手でやれやれと表現する。その表情はどこか挑発的だ。そんな彼女の様子にユウキは苛立つ。
「そんなに言うんなら俺が凄いこと認めさせてやるよ!」
「あらあら、何ができるのかしら?」
「決闘だ!」
ユウキはれいなを指さしてそう言い放った。そんなユウキにれいなは一瞬驚きを見せた後にやりと笑った。
「いいわよ。あなたに現実を教えてあげるわ」
「後悔すんなよ!」
二人の口論の中、黙っていたさつきが口を開いた。
「いいね、おもしろそう! 私がルール決めていい?」
何故か一番楽しそうな金髪の少女がそう言って笑った。
「はい、じゃあルールは、一撃先に決めた方の勝ち! それでいい?」
えらくシンプルなルールだが分かりやすくていい。ユウキは首を縦に振る。だが、れいなは右手を挙げた。
「ハンデをつけましょう? 私は五分間攻撃しないわ。それでいい?」
「私はいいけどー、ユウキはそれでいい?」
分かりやすくなめているれいなの言葉に顔を歪めた。そんな彼女は髪を弄っていてこちらを気にもとめていない様子だ。
「いいぜ……マジで後悔させてやる!」
「よーし、じゃあオッケーだね。始めるよー」
二人は握手をあっさりと済ましてから距離をとった。今いる場所は草が生い茂った草原。晴れていた空には雲がかかってきた。
「よーい、どん!」
やや気の抜ける合図で決闘は始まった。
ユウキは走って一気に距離を詰める。 剣の代わりに持っている木の棒を真一文字に振った。
ぶんっ! と空気が押される音。
れいなは背中側に頭を倒してかわした。所謂イナバウアーだ。彼女は余裕の笑みを浮かべていた。
「っ! そんなかわし方したら次がかわせねぇだろうがぁ!!」
唯一動いていない、その黒い脚に斬りかかる。
「そんなスピードじゃ無駄よ」
「!!」
イナバウアーの状態かられいなはバク転して起き上がった。
目に止まらぬほどの速さだ。さらにそこからの風圧でユウキは立っているのがやっとである。
この瞬間、勝ち目がないことを悟った。だがそれでも。
「はぁぁぁぁ!!」
「そろそろ五分経つのだけど」
「はぁはぁ、やっぱすげぇや」
何度も繰り出す斬撃も全てかわされてしまった。それも全てギリギリまで引き付けてからだ。
しゃがんだり、ジャンプしたりと上手く遊ばれた。さらにはユウキの頭の上に立ち
「遅いぞ、ユウキ」
なんてことまで言われた。
やろうと思えば手の届かない距離を保つことも出来ただろうに。
「降参する?」
「はぁはぁ、ここまでやって降参で終わるのはないだろ」
「そう。なら、出来る限り手加減をするわ」
そう言ってれいなは歩いてきた。一応最後まで諦めるつもりはない。
ユウキが棒を構えると、その上から蹴りが入った。
強い衝撃。それに続いて感じる浮遊感。
「あ、俺飛んでる……。いてぇ!」
十メートルほどだろうか。確かに飛んでいた。これは売れるかもしれない。同時に痛みも感じるおまけつきだが。
「はい! そこまでー! れいなの勝ちー!」
さつきのアナウンスを聞いて、れいなが倒れているユウキの傍に来て顔を覗いた。
「お疲れさま。ユウキはまだまだ弱いけど強くなってるのも事実よ。これからも頑張りましょう?」
「ああ、そっか。れいなが挑発的だったのは俺にやる気を出させるためだったのか……」
思えば、最近、ユウキは強くなってきて調子に乗っていた。れいなを見て、真面目に特訓出来ていなかったことがわかったのだ。
「何か言った?」
「いや、ありがとう」
「な、なんでお礼を言うのよ! 蹴られて嬉しいの?」
「いや、そういうのじゃないよ。ただお礼を言いたくなった」
笑うユウキを見て、れいなは頬を紅く染める。そんな顔を見せないようにユウキから離れた。そして小さく
「この変態が……」
と呟いた。
ここまでに出てきた魔獣の強さをまとめておきます。
S 大蛇
A
B 熊、鷹
C ツバメ、兎
*ランクは実際には設定されていないのであくまでイメージです。
ユウキが倒したのは弱い魔獣のみです。
この世界で見ればまだまだ弱いので安心?して下さい。