第十三話「戦闘特訓② VSツバメ」
日が明けてユウキたちはツバメを探していた。勿論特訓のためだ。
「でもなんでツバメなんだよ?」
「まあやってみれば分かるわ」
れいなが長い黒髪をかき上げながら言う。そんな彼女は何故か昨日から機嫌がいいような気がする。きっと今日の特訓がろくなことにならないのだろうと、ユウキは内心思った。
「あ! あれじゃない?」
さつきが指で示したところにツバメがいた。そしてやはり魔獣は体のシルエットしか分からない程に真っ黒である。
「こんなにすぐ魔獣って出るのか……。巣とか近くにあるの?」
「いえ、それはないわ。魔獣は何もないところから急に現れるものよ」
ふと湧いた疑問の答えはすぐ返ってきた。しかし、魔獣とは本当になんなのだろう? 死ぬと跡形もなく消えるし、食べるわけではないのに人を襲う理由も分からない。
「さあさあ、早く戦いなよー! 楽しみだなー」
「ん、ああそうだな。じゃあ行ってくる」
さつきに急かされて腰に差した刀を手に取る。そして二、三歩歩いたところで振り返った。
「どうかしたの?」
「なあ、これ安全?」
「大丈夫よ。死にはしないわ」
「その時点で不安しかないんだけど……」
「いいから行きなさいよ。強くなりたいんでしょう?」
「そうだよな。やるしかないか!」
「がんばってねー」
手を振るさつきを後に歩き出したユウキは、空を飛ぶツバメに小刀を掲げた。
「よっしゃー! かかってこいやー!!」
大きな声に魔獣が反応した。空から助走をつけて滑降してくる。
「きた!」
勢いをつけて突っ込んできたツバメ。それはまるでプロ野球選手の球だ。
ギリギリのところでその嘴を小刀で弾く。
火花が散った。思わぬ衝撃にユウキは尻餅をつく。
「いってぇ!」
魔獣は再び空に舞うとそんなユウキを捉える。
「ぐっ!」
咄嗟に腕を交差してブロックの体勢に入る。
だが衝撃は強く、腕から痛みが広がった。
それでも無事なのはこの戦闘用の浴衣のおかげなのだろう。
そうして起き上がったユウキに魔獣は何度も攻撃を与える。
「がんばれー!」
「上手くかわしなさいよ」
「それが出来たら苦労しねぇよ!! ぐぁ!」
一方的だ。
口から血を吐きそう。吐きそうなだけで中々出てこないが。
再び襲い掛かる魔獣から、ぐるぐると地面を転がってなんとか距離をとった。
「やっぱ異世界バトルなんてろくなもんじゃねぇな」
傷だらけになって身体中が痛い。
だが、そんな状態でユウキは笑った。
「それでもやってやるぜ! 異世界に来た者として、かっこつかねぇことばっかやってらんねぇ!!」
刀を正面に構える。
空高くこちらの様子を伺っているツバメを睨み付けた。
「きやがれ!!」
また猛スピードで突っ込んできた魔獣を右に転がってかわす。
「そのスピードにはもう慣れたんだよ!!」
目標を再度確認し助走をつける魔獣。
とどめのつもりか、その速さは今までで一番だ。
「はぁぁぁぁ!!!!」
勝負は一瞬。
ユウキの斬撃は嘴を尖らせ跳んできた弾丸を切り裂いた。
「ギィャア!!」
断末魔が聞こえる。先から真っ二つになった魔獣は砂になって消えた。
「やった……!」
倒れこんで空を見上げる。ユウキは太陽に向かって拳を掲げた。
「どうだぁぁ! 俺はやれば出来るやつだろうがぁ!」
喜びを爆発させるユウキを見て、れいなとさつきは顔を見合せ笑った。