第十一話「戦闘特訓① 兎狩り①」
「くらえ!」
思いっきり小刀を左から右へ振る。
空を切る音がする。当たった手応えはない。
「おら! とう! だりゃあ!」
出鱈目に振り回した斬撃は当たるはずもなく、またもや空を切る。ユウキには目の前の黒い兎が自分を嘲笑っているように見えた。
「このやろう……」
「ちゃんと相手の動きを見て、よーく狙って」
「がんばれー!」
れいなとさつきの声援が後ろから聞こえる。こんな小さな兎位は倒して見せなければ……
なぜ、こんなことをしているのか。それは町を出て三日目のことが原因である。ごつごつした地面を進んでいた昼、三人の前に鷹と思われる鳥が五羽現れた。真っ黒に染まったその姿。魔獣だ。
「おー! やっと魔獣が出てきたよー」
「さっさと倒しましょう」
「よ、よし。俺もやるぞ!」
それぞれが臨戦体勢に入る。すると鷹は五羽一斉にユウキに向かって突っ込んできた。
「あー! なんか、来たー!」
小刀な対抗しようにも、数が多すぎる。ユウキは背を向けて逃げ出した。
魔獣の鳴き声にやたら迫力を感じる。地面は凸凹、最悪のピッチ。ユウキは派手に転んでしまった。
完全にやられると思った瞬間だった。
「水壁! はい、通行止めでーす」
地面に手をついたさつき。
彼女の声を合図に、魔獣とユウキの間に水の壁が現れる。
「ギイャアー!!」
勢いよくそこにぶつかった鳥たちの嘴は、折れ曲がってしまったようだ。水で造られているのに恐ろしい強度である。
壁が壊れないと見て、魔獣は狙いをさつきに変えた。猛スピードで向かってくる鳥たちを見ても、彼女は余裕そうな表情を崩さない。
「ははははは! いいね! 楽しいよ!」
突っ込んでくる鳥たちをほとんど動かずにかわす。
まるで踊っているかのようで、とても美しかった。
「大丈夫?」
傍で眺めていたれいながユウキの手をとる。ユウキは彼女に引っ張られ起き上がった。全身泥だらけだ。
「ありがとう。でも俺はいいんだ。さつきは……」
「あっちは大丈夫だから」
れいなが指さした方向を見ると、さつきが空高く飛ぶ鷹に攻撃している。
手で銃の形を作ってそこから水の弾丸を放つ。
向かってくる魔獣はかわしてから追い撃ち。血が飛び散る中心で舞いながら銃を連発し高笑いしていた。
「私に当たってみなよ! 水鉄砲をかわしてみなよ!」
……前回のときも思ったが、戦闘になると人が変わるようだ。恐い。だが、確かに大丈夫そうだ。
「……なるほどね」
こうしてさつきが魔獣を全羽倒しきったあと、ユウキはみんなに誓った。
「多分、さっきの魔獣は俺が弱いのが分かったから俺を狙ったんだ。このままじゃ駄目だ。俺、強くなるよ」
それを聞いたれいなが頷いた。
「確かに酷いわ。このままでは私があなたを守るのも大変。だから特訓しましょうか」
「ああ。で何を……?」
そんなことがあって今、兎を仕留めようとしているのだ。れいなは
「兎は魔獣の中でも最弱……」
と言っていた。だからやらなければ。
ユウキは某伝説の二刀流剣士を真似て、小刀を後ろに引いて前傾姿勢をとる。
「おらぁぁ!! いくぞぉぉ!!」
そうしてユウキは再び走り出したのだ。




