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1話

いつも書いてる小説を書く気力がなかったので代わりに以前書いたこの小説を投稿しときます

 さよならは言わない。例えそれで僕が、君が苦しむ時間が増えようとも。




 春が過ぎ、まだ夏は遠い6月。あれほど咲き乱れていた桜は全て散り、今は面影は全くない。これから緑一色に染まるために少しずつ葉をつけ始めるのだろう。散っては咲き、散っては咲くことを繰り返す桜は僕らに何を伝えたいのか。彼らが彼女らが何かを伝えたくとも僕らにそれを受け取る意思も手段もない。きっとこの先も僕らは気づくことはないのだろう。


 6月というこの微妙な時期を案外僕は好きだ。僕自身が大した取柄もない微妙な人間であるから親近感を抱いているのかもしれない。昔から何をしても一番は取れず、それでいて最下位でもない。だいたい真ん中から少し下くらい。目立たずに隅っこがお似合いだと言われたこともある。


 僕の何もなかった人生と人格について特にこれ以上いう事はないだろう。教室の隅にいる人間。それ以上でもそれ以下でもない。僕を知る人間の多く――と言っても僕を知る人間なんてきっと両手で数えきれてしまうだろうが――は僕を地味で暗いやつとでも思っているに違いない。それはきっと正解なのだ。僕はなるべく人と関わらないように生きている。そして誰も僕と関わろうとしない。……いや、一人だけいるか。両親がとうに他界してもそれでも僕を気にかけてくれている人物が。


 前日の雨が小さな池をつくる道を歩きながら空を見上げる。じめっとした空気をつくっている原因である雲を見てまた今夜も降るのかなと思う。

 雨を降る中を歩くのは好きだ。雨は周りの音を消す。雨だけの音を聞きながら、雑音のない中を歩くのは好きだ。今は雨が降っていないけど地面が濡れているから夜中に降ったんだろう。雨が止んでしまった後、雨の残り香を嗅ぎながら雨の様子を想像する。どしゃ降りだったのか、小雨だったのか、霧雨だったのか、誰を濡らし、何に滴ったのだろう。雨は誰にでも平等に振ってくれる。こんな僕でも。あんな人にでも。

 この季節で良いことといえば紫陽花が綺麗に咲いていることくらいだろう。だけど虫を得意としない僕にとって不意に出てくる蝸牛は不快以外の何物でもない。蛞蝓はもっと苦手だ。どっちも足がないし、昆虫とは呼べない。貝の一種だっけ?なら海に行ってほしいものだ。どっちつかずの微妙な存在に僕は同族嫌悪でも抱いているのかもしれない。


 空を見ても地面を見ても横を見ても僕にとって好きなものも嫌いなものもある。

 好きと嫌いが混じり合う、それが僕は好きだ。

 好きだけが集まるなんて吐き気がする。

 嫌いだけが集まるなんて近づきたくもない。

 だからこの微妙な存在、バランスの良い存在が好きだ。


 うん、朝からそこそこいい気分になった。

 久しぶりに前を見て歩こうかな。


「も~やだ~」


「お前がやれって言ったんじゃん!」


 ……はあ。嫌な気分になった。やっぱり下を見て歩こう。

 道端でいちゃつくなよ。学校なんか休んで家でいちゃついてろよ。そして先生に怒られろ。

 朝からムカつくものを見させられ、憂鬱な気分になり、陰険なオーラを出していた僕だが、肩に衝撃を受け危うく転びそうになった。


「なに下を向いてるのよ。そんなんじゃ誰かにぶつかっちゃうよ?」


 振り返ると予想通り長い付き合いである嘉田圭が鞄を振り回していた。


「……お前がぶつけるなよ。いいんだよ、アレを見たくなかったんだから」


 アレを顎で指す。あの憎きカップルどもを。


「ああー。あの人たちね。てか私たちと同じクラスの唐根君と佐田さんじゃない。一年間ずっとあんなんだから私はもう慣れたけど」


 なんと、アレは同じクラスだったのか。ということは教室に着いても見させられると?……恐ろしい。

 もっと良いことを考えよう。でなければ今すぐ帰りたくなる。


「ねえ康君」


 蝸牛も蛞蝓も苦手な僕であるが、蝶は好きだ。あの模様は綺麗だから。


「ねえ」


 蝶は好きだけど蛾はあんまし好きじゃないな。何か蝶の偽物って気がする。


「ねえってば」


 どっちも幼虫は嫌いだ。いかにも虫の権化って感じだ。そういう意味じゃ蝶も蛾も似たようなものなんだろうか。やっぱり蝶も嫌いだ。


「だから、聞いてるの⁉」


 またもや肩に衝撃。さっきは鞄だったけど今度は平手だ。こっちの方が痛い。


「……まだいたのか」


 もう先に行ってしまったのかと思っていた。


「ひどいな。私をそんなひどい奴だと思ってたなんて泰君ひどいよ!」


 だって、僕とお前は正反対みたいな立ち位置じゃないか。

 クラスの人気者と日陰者。どこでこんなに差が出てしまったのか、今でも不思議だ。


「不思議じゃないよ。康君は自分から隅っこから行っちゃうんだから。もっとみんなと関わろうよ。案外悪くないかもよ?」


 いつの間にか読唇術でも身に着けたのか?僕は今、口に出してしゃべってた?


「康君の思ってることなんてどうせ暗いことしか考えてないんだから、すぐ分かるよ」


「そんなことないぞ。さっきも蝶は好きだけど蛾は嫌いって今まで思ってたんだけど、結局どっちも嫌いだってことに気づけた。これからは嫌いなものを好きって思わずにすむ」


 あ、固まってしまった。女の子に蝶とか蛾って虫の話は駄目だったかな。


「違うよ!虫の話じゃなくてその思考回路がおかしいんだよ。全然楽しいこと考えてないじゃん」


 そうかな。十分生産的な思考だと思ってたけど。


「……じゃあ圭の言う楽しいことってなにさ」


「そうだなー。じゃあ私が色々話題振ってあげるから答えていってよ」


 それから学校に着くまで圭のおしゃべりにつき合わされた。

 圭の話す内容は学校での楽しかったこと、最近流行っていること、クラスの人間関係――僕はみんなに恐れられているらしい、なんでだろ――とさして僕にとって興味深い内容ではなかったけど、圭と話す時間は、まあ悪くはなかった。


 学校に着いてからはなんとなく僕は圭と離れて歩いた。圭も諦めたのか何も言わずに他の人と話している。

 

 圭は日本人らしい日本人。長い黒髪と整った容姿は和風美人を体現し、校内でも、僕が知る限りは一番の美人である。その容姿もさることながら誰にでも気軽に接せられる性格と、明るく振る舞う姿からきっと男子からの人気は高い。おかげで僕は登校中でも睨みつけられる感覚が絶えなかった。登校中でもこれなのだから校内で一緒にいるとこを見られたらどうなるんだろう。


 圭に対して僕は格好良いとは言えない凡百な見た目。それだけならきっと似たような見た目の人たちと仲良くやっていただろう。だけど僕は人と関わるのが嫌いだ。もっと言ってしまえば人が嫌いだ。

 嫌いな人と上辺で仲良くしようとするその姿勢が僕には理解できない。きっと圭は嫌いな人なんていないのだろう。だから誰とでも仲良くできる。だけど僕は嫌いなものを嫌いと心の中で言える(決して口には出さず態度で出している)性格なのだろう。

 人は素直に生きるべし。嘘はいけない。きっと幼い頃にそう誰かに教えられたのを僕は今でも守っているに違いない。以前に圭にそう言ったら、


「いや、康君はただめんどくさがってるだけでしょ」


 と笑っていたが。そういや僕に嘘はいけないとか教えてくれる人なんていなかったような気もする。微妙で曖昧で駄目な僕。記憶すらも曖昧だったのか……。


 授業中は真面目に授業を受ける。寝ていると教師に名指しで怒られるから。クラスの人も知らない人間が怒られるのに貴重な時間を使われるのも迷惑だろう。なぜか席替えをしても一番後ろの一番端になってしまうから寝てしまってもバレない気もするが、授業を聞いておくに越したことはない。聞いてる姿勢を見せるだけで考え事をするときも多いけど、だからテストの点数はあまり良くない。


 そんな何もせず、何も生まない生き方をしていた僕の人生でさえも過ぎていく。

 6月も半ば以上が過ぎ、少し暑くなってくる。アスファルトの道は熱を放出し、僕らを苦しめる。本格的に夏になればこれ以上暑くなるんだろうなと嫌気が差しながら今日も登校し、明日へと生きる。昨日と変わらず今日も変化はなく明日はきっと今日と同じ。変わらない毎日。変わることと言えばますます暑くなる登校中の道と授業内容。圭の話もちょっとだけなら変わるかな。


 毎日僕は6時半に目覚める。一人で目覚め一人で朝食を用意し、一人で食べる。一人で支度をし、一人で家を出て、二人になるまで一人で登校する。

 僕の家に誰もいないのは僕の両親がこの世にいないからであり、決して放棄されているわけではない。もうとっくに他界しているから感傷的にもならないし、誰も僕に気遣うこともない。


 延々と続くわけでもないのに炎天下の中を歩くとなぜか学校には着かないのではないかと思ってしまう。今日は今年始まっての猛暑日らしい。まだ6月なのに8月並みの暑さとかやめてほしい。6月は6月らしくもう少し涼しい期間を味わせてほしいものだ。

 

 とぼとぼと重い足取りで下を見ながら歩いていると今日は肩に衝撃を受けることなく背後から声をかけられた。


「康君!」


 普段はニコニコと笑っている圭がなぜか今日は泣きそうな顔をしている。

 涙というのは悲しいとき以外にも嬉しいときにも出るらしいが、泣きそうな顔はやはり悲しい顔だ。圭は悲しい気持ちである。それは一目でわかった。


「どうした?」


 朝から嫌なことでもあったのだろうか。圭は確か7時過ぎに起きるはず。今は8時を少し回ったくらい。この1時間で、しかも朝の支度をしながら泣きそうになるなんてどれほどのことがあったんだ。


「お、お父さんが、お母さんが……」


 圭のお父さんとお母さん?圭をこんな性格に育てただけあって圭の両親は人格者だ。夫婦仲は僕が見てきた大人たちの中でも一番良いだろう。

 圭の両親が圭を叱ったことなんて本当に圭が悪いことをしたときだけ。そして圭は今まで悪いことをしたことがない。

 そんな圭の両親がどうしたって?


「二人が私のことを無視するの……まるで私のことが見えてないみたいに」


まあ気まぐれなというか書いてみたいから書いたくらいなのでちょっとでも読んでくれる人いればいいかなー程度です


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