9 これからの道筋
俺達がラグナエンド・オンラインからログアウトしてから一週間程が経過した。
その間、俺はどこか気が抜けた日々を送っていた。
勤めていた会社は案の定というべきか、首となった。
より正確に言えば、懲戒解雇ではなく依願退職という形ではあったが、実態はさほど変わらないだろう。
その事自体は元々覚悟していた事だったし、あっさりと受け入れる事が出来た。
むしろ、自分ではどうしようもない未練に引き摺られてダラダラと辞める決断が出来なかった実状を鑑みれば、良い機会だったとすら言える。
そんな終わった話よりも、現在進行形で俺の心に棘となって突き刺さっていたのは、ラグナエンド・オンラインについてだった。
「ああぁ~。くそっ、後1秒もあれば確実にユグドラシルを倒せてたのに……」
そう。今から一週間程前に、仲間達と共に挑んだユグドラシル。
いくつものハードルを苦しい試行錯誤の上で乗り越え、最後に大博打を成功させて掴みかけた勝利。
それを理不尽な仕打ちによって逃してしまった事に対する行き場の無い憤りが、俺の心をずっと蝕んでいたのだ。
たかがゲームと、人はそう言うかもしれない。
だが、ラグナエンド・オンラインで俺が過ごした日々は、短いながらもかつてない程に充実していた。
ネオユニヴァースを、そしてSDIを通したあの世界での日々は、現実以上の現実感を俺に与えてくれたのだ。
そうなった要因は色々あるだろう。
現実では、自身の中性的な容姿のせいで女性と見間違われるストレスと日々戦っていたが、あの世界では全員が女性の姿をしており、その心配もない。たったそれだけの事実が俺に齎した解放感は、余人には理解出来ない程に大きかった。
それもあってか僅かな期間ではあったが、共に過ごしたパーティメンバー達に対する信頼感は、大きく育っていた。
現実の彼らが例えどんな年齢どんな容姿であっても、きっと親友になれるだろうと、そんな根拠の無い確信をつい覚えてしまう程に。
だが残念な事に、そんな彼らとゲームを通さずに連絡を取る手段を俺は持っていなかった。
「はぁ。連絡先の交換くらい、しとけば良かったな……」
現在、ラグナエンド・オンラインはメンテナンス中の為、ゲーム内にログインする事が出来ない。
まあ、あれほどの大問題を引き起こしたのだ。メンテナンスはかなり長期に渡る事が予想される。
問題の大きさ故、サービス終了を心配する声もネット上では多く囁かれていたが、俺としてはそこまで心配してはいない。
だって、あれ程のクオリティを可能性を持つゲームなのだ。死人が出た訳でもあるまいし、その程度であのゲームを終わらせてしまう事こそ、人類にとって間違いなく大きな損失だ。政府のお偉いさん方にだって、それくらいは理解できるだろう。
今回の1件については、運営が真摯に反省をし、心を入れ替えて頑張ってくれればそれでいいのだ。
多分、仲間達もきっと同じ事を思っている筈だ。
ただ何にせよ、今現在はゲームにログイン出来ない為、仲間達が今何をしているのか、俺に知る術は無かった。
◆
それから暫くの間、俺は平穏な日々を過ごしていた。
退職の手続きや荷物の引き取りの為に一度会社に出向いた際には、周囲からなんとも言えない視線を向けられた。
それが哀れみや同情によるものなのか、あるいは侮蔑の感情から生じるものなのか、俺にはまったく判断が付かなかった。
かつては、そんな彼らに対して俺は仲間意識を抱いていた筈なのだが、今は他人のようにしか思えない。
だが、今更そんな事はもうどうでも良いのだ。
かつて俺が会社へ、そして仕事と向けていた情熱の矛先は、もはや完全にラグナエンド・オンラインへと向いている。
既に彼らは俺にとってもう過去の存在となってしまっていたのだ。
結局俺は、数年を過ごした会社から去る事に、何の感慨も抱く事が出来なかった。
「さーて、これから何して時間潰すかねぇ……」
退職した事で出来た暇な時間だったが、俺は少々持て余していた。
別に、無気力になってしまった訳ではない。
単に俺のやる気の全ては、ラグナエンド・オンラインの世界へと向けられていただけだ。
だが、肝心のゲームがメンテナンス中で、やる気のはけ口が無かっただけなのだ。
ラグナエンド・オンラインの世界に恋い焦がれるあまり、他の事をやる気にもなれなかった俺は、代償行為としてひたすらラグナエンド・オンラインに関する情報を漁り続けていた。
幸いにして、僅かなサービス期間であったにも関わらず、数多くの動画や画像がネット上に投稿されており、俺の心に空いた隙間を多少は埋める役目は果たしてくれた。
「しっかし、俺は本当に運が良かったんだな……」
同時に俺は知る事になった。
当時の自分がどれ程、幸運に恵まれていたかという事を。
まず第一の幸運と言えるのは、やはり初回の無料ガチャでソルのアバターを引き当てた事だろう。
ソルのレアリティはSSRで、クラスも当時では最も需要が高かったクレリック。そのデザインも俺の好みドンピシャだったし、ステータスの高さや各スキルの有能さも十分に満足出来るものであった為、当時の俺としても運の良い事を十分自覚していたつもりだった。
だが、実際は俺が思っていた以上の幸運だったことを、今になって知った。
空いた時間を使い、ネット上で情報を隈なく調べ尽くしたが、それでもソルを入手したという報告は、ただの一つも見つける事が出来なかったのだ。より正確に言えば、そういった発言自体はそれなりに散見されたのだが、証拠となる画像や動画などが添えられた確実性の高い報告は一つも無かったのだ。
少ないながらソル自体の動画や画像は出回っていたが、どうやらその出所は全部俺らしかった。当時を振り返れば、街を歩いていると野次馬に囲まれる事が良くあった気がする。あの時はSSRばかりのパーティが珍しいのだと思っていたのだが、実際の所はソルのアバターを一目見ようというプレイヤーがかなり居たのかもしれない。
第二の幸運は、なんといっても良い仲間達に恵まれたという事だ。
この良いという言葉には、色々な意味が含まれる。
彼らは中々個性的ではあったものの、俺にとっては概ね付き合い易い性格であった事。
またVRゲームに習熟しており、高いプレイヤースキルを保持していた事。
そして、何より全員が強力なSSRアバターを有していた事だ。
SSRアバターを入手するには、相当な額を課金ガチャに投資するか、もしくは俺のように余程の幸運に恵まれるしか無いようだ。
パーティ内では俺を除いて最も課金額が少なかったルクスですら、30万円近く課金していたのだ。そんなに課金してたった一つだけなのかとルクスの運の悪さに同情していたが、どうやら見当違いだったらしい。
実際のところ、30万以下でSSRアバターを引き当てたルクスは、どちらかと言えば幸運な方へと分類されてしまうようだ。
どうもネット上の情報を見る限り、50万程度の課金ではSSRアバターを1つも入手出来ないのはザラ。
課金額が100万を超えても、1つも手に入らなかったという報告も恐るべきことに多数存在していた。
酷いモノになれば、300万円課金しても1枚も引けなかったという猛者も存在していた――そいつは300万円分の課金ガチャを回す様子をネットに上げていた――のだから、正直色々な意味でドン引きである。
「そういや、ネージュの奴。いくら課金したんだろうな?」
その事実を知ってから、俺がすぐに思い出したのは、ネージュの事であった。
ネージュはソル以外のSSRアバターを全て入手したと言っていたが、果たしてそれにはどれ程の金額が費やされたのだろうか?
単に幸運に恵まれた結果であればいいのだが、もしそれが相応の課金をした結果によるものだとしたら、などと考えると正直恐ろしい。
まあ何にせよ、彼らが俺にとって良い仲間だったという事だけは、事実なのだ。
「なんか、こうも幸運が続いた事を自覚しちまと、今度は揺り返しが怖くなるな……」
そもそもからして、高い競争倍率を乗り越えて、ネオユニヴァースやSDI、そしてラグナエンド・オンラインを無事購入出来た事からして、俺はかなりの幸運に恵まれていたのだろう。
その上、更にゲーム内で数々の幸運を引き寄せた俺は、反動で酷い目に遭うんじゃないかと、戦々恐々としている。
「会社を首になった事で、チャラにしてくれないかなぁ……」
それくらいの不運で済むのなら、安心できるのだが。
「あーでも、良く考えれば、幸運続きなのはここ最近だけだよな……?」
思い返せば俺の人生、特に社会人となってからは、決して幸運だったとは思えない。新卒で入った会社がいきなり倒産の危機に陥ったり、それを必死で乗り越えたと思ったら、今度は両親の余りに早すぎる死が訪れた。
もし、バランスを取った結果が、今の俺の幸運な現状だとするのなら、余り手放しには喜べない。
「まっ、運の良し悪しなんてなるようにしかならんしな。俺はこれからの人生、ラグナエンド・オンライン一筋で頑張るんだ!」
幸いにして、相続した遺産による不労所得やそれなりの額の収入や貯金がある為、慎まやかに生きていくだけなら一生働かなくても良いくらいだ。
だが、俺が進もうとしているのは、茨の道。ラグナエンド・オンラインにその身を捧げると決めたからには、相当な課金が強いられるのは、これまでの経験からも明らかだ。
「そうだ。動画を投稿して、それで金を稼ぐってのはどうだろうか?」
金策の必要性を感じた俺は、悩んだ末、ラグナエンド・オンラインでのプレイ動画を投稿する事にした。
幸いSDIには、プレイ動画を自動保存する機能が備わっており、それを切り取ってちょこちょこ編集するだけで、ある程度形にはなった。
それを試しに某動画サイトへと投稿してみた所、予想を遥かに超えた凄い反響が返って来た。
「ちょっ、ヤバいな。指数関数的に再生数が伸びてやがる……」
評判は評判を呼び、俺の上げた動画はあっと言う間に、ラグナエンド・オンラインの販売数すら大きく上回る程の再生数を記録していた。
どうしてこんな結果になったのか分析すれば、いくつも要因は思い付く。
「やっぱソルの注目度ヤバいな。流石の俺の理想の女神様だ!」
第一に、投稿したのがソル視点の動画だという事が挙げられる。
女神の如き美しい姿を持つソルのアバターの魅力については、今更語る必要も無いだろう。
それに加えて世間の興味を引いたのは、これまでソル視点の動画が1つも存在しなかったせいだ。
まあ、それは当然の話だろう。俺以外にソルのアバターを入手したとされるプレイヤーが存在しないのだから。
ソルが持つスキルやステータスなどに関する詳しい情報は世間にはほとんど知られていなかった。
SSRアバターでは唯一のクレリック――しかもSRアバターにはクレリックが居ない――であった為、元々プレイヤー達の関心はかなり高かったらしく、それが視聴者を引き付けた要因の一つであった事は、いくつも寄せられたコメントを見るに疑いようもない事実だ。
今になって思い返せば、数名のプレイヤーからソルについて質問を受けた記憶がある。だが当時の俺はユグドラシル攻略に夢中なあまり、そんな彼らを適当にあしらっていた。だが、そんなつれない対応こそが、ソルに対する彼らの興味を余計に掻き立ててしまったのかもしれない。
「ユグドラシル戦の動画、他にロクなの無いもんな~」
第二の要因として考えられるのは、俺の投稿した動画には、ユグドラシルとの本格的な戦闘シーンが映されていた事だ。
当時も薄々察してはいたのだが、どうやら俺達以外には、ユグドラシルが放つ〈アクシス・ムンディ〉を犠牲者無しで乗り切ったパーティは存在しなかったようだ。
その理由は恐らく、ソルとミカエル、2つのアバターの存在の有無だと思われる。
それだけだと良く分からないと思うので、少し順を追って説明するとしよう。
まず理解すべき認識として、ユグドラシルの放つ初見殺しの必殺技〈アクシス・ムンディ〉。
これに耐えるには、ミカエルの持つスキル〈サン・ミシェル〉と〈神の啓示〉の2つが絶対に必要だという事だ。
◆◆◆
アバター名:〈ミカエル〉 Lv:40/40
クラス:ナイト 属性:火 レアリティ:SSR 召喚装備名:〈セフィロトの盾〉
アクションスキル
〈フレイムアセンション〉
神の炎によって周囲の敵を焼き払う。 範囲(中)、ヘイト値上昇(大)、CT15秒、倍率600%
〈サン・ミシェル〉
パーティ全員の防御UP(中)、リジェネ(小)付与、CT10秒、持続120秒
〈魂の天秤〉
パーティ全員のラグナゲージを20%上昇、CT300秒
〈神の啓示〉
参戦者全員にバリア(大)付与、CT300秒 (NEW!)
アシストスキル
〈神に似た者〉
自身の攻撃UP(中)、防御UP(中)、速度UP(中)
〈大天使長〉
自身のダメージカット10%
ラグナブレイク
〈セラフィックブレイズ〉
断罪の炎による範囲攻撃。 範囲(中)、ヘイト値上昇(特大)、倍率24000%
◆◆◆
この2つのスキルの効果を併用しないと、防御特化型のSSRアバター"ミカエル"でさえ一撃で死んでしまう事を、俺達はこの身で実証済みだ。
こう書けば、必要なのはミカエルだけでソルは不要かと思うかもしれないが、その考えは間違っている。
◆◆◆
アバター名:〈ソル〉 Lv:40/40
クラス:クレリック 属性:光 レアリティ:SSR 解放装備名:〈スヴェル〉
アクションスキル
〈アールヴァク〉
パーティ全員の攻撃力UP(大) CT300秒、持続30秒
〈アルスヴィズ〉
パーティ全員の速度UP(中) CT60秒、持続60秒
〈ソーラーファーネス〉
パーティ全員のHP回復(大)状態異常全解除、CT60秒
〈ホワイトプロミネンス〉
白き炎で前方の敵を焼き払う。範囲(大)、敵攻撃DOWN(中)、CT30秒、倍率1200%、持続60秒 (NEW!)
アシストスキル
〈天の花嫁〉
自身のダメージカット10%
〈妖精の栄光〉
パーティ全員のダメージカット5%
ラグナブレイク
〈アールヴレズル〉
上空からの太陽の落下による範囲攻撃 範囲(大)、倍率25000%
◆◆◆
ソルの持つアシストスキル〈妖精の栄光〉にはパーティ全員のダメージを常時カットする効果があり、これが無ければ装備やレベルにも多少左右されるだろうが、恐らくミカエル以外は生き残れない。
なら、ミカエルだけでパーティを組めばと思うかもしれないが、ラグナエンド・オンラインの仕様では、同アバターでパーティを組む事は不可能なのだ。もっとも他にソルのアバターを見かけなかったせいで、その事実に俺が気付いたのはゲームからログアウトした後だったが。
ミカエル以外に耐える可能性があるとすれば、土属性であるユグドラシルに対し有利な風属性SSRアバター"トリスタン"くらいだろう。
ただ、トリスタンのクラスはアーチャーであり、ウィザードと並び最も柔らかいクラスに分類される。
俺の記憶が確かなら、有利属性による相当なプラス補正があってなお、ミカエルより若干柔らかいくらいだった気がする。
ちなみに俺のソルについては、クレリック自体がナイト・モンクに次ぐ硬さを誇るクラスであり、アシストスキル〈天の花嫁〉の効果や、光属性が土属性に対して若干だが有利である事などが作用して、トリスタンに次ぐくらいの硬さはあったと思われる。
当時の俺が一番疑問だったのは、シヴァのアバターを使っていたネージュが、ユグドラシルの攻撃にどうして耐えられたか、という事だ。
シヴァのクラスは、ウィザードであり、かなり柔らかい。しかも、シヴァ自身も防御面で作用するスキルを、1つも所持してはいない。
これはあくまで俺の予想なのだが、ネージュは恐らくシヴァの脆さを、その途方も無い課金パワーによって鍛えた装備の力で、補っていたのではないかと思っている。
「普通は絶対そんなの無理だけどな。ただネージュならやりかねないのが怖い所だ……」
今の現在の常識としては、各アバターの耐久力は、アバターの基本性能(≒レアリティの高さ)、クラス、属性相性、所持スキルによって大よそ決まるとされる。
対してそれらの要素と比較すれば、装備による性能差による影響は小さい言われている。
どうしてそうなるかというと、実は同レベル装備で比較した場合、RとSSR、レアリティに大きな違いがあっても、実はその性能に大きな差は存在しないのだ。
レアリティによる格差が明確に生じるのは、装備をある程度のレベルまで育ててからとなる。これはレアリティ毎に限界レベルが違うからなのだが、これ以上を語ると話が逸れすぎるので、今は割愛する事にする。
俺達がラグナエンド・オンラインで過ごした期間は、僅か1週間足らず。
その期間では、各装備をR装備の限界レベルまで育てるなど、普通なら到底不可能であった。
装備の育成には、餌となる別の装備が必要となる。育てたい装備に、餌となる別の装備を合成する事で、装備のレベルを上げるのだ。
そして装備には大別して2種類が存在する。通常装備と、合成専用装備(通称:餌装備)の2つだ。
このうち、前者は課金ガチャなどで手に入るのだが、これを餌として合成に用いても、大した経験値が得られず育成効率が非常に悪いのだ。
後者はモンスターからのドロップなどで得られ、育成効率も良いが、量を集めるにはそれだけモンスターを狩る必要がある。
まだゲーム開始から大した時間が経っていない為、各プレイヤーが倒したモンスターの数に大きな差は生じていない。
よって各プレイヤーが手に入れた餌装備の数もまた、そう大きくは変わらない筈なのだ。
特にネージュを含めた俺達は、強制ログアウトまでの期間、ずっと同じパーティで狩りをしていたのだ。
である以上、入手した餌装備の数に明確な差が生じる事など有り得ない。
にも関わらず、俺達とネージュとの間で、明らかな装備格差が生じたのは、恐らくネージュの途方も無い課金が原因だ。
課金ガチャを大量に回せば、それに応じた数の通常装備を入手する事が可能だ。ネージュはそれらを惜しみなく合成へとつぎ込み、数の力で育成効率の悪さを補ったのでは無いだろうか?
試しに必要な課金額を概算してみた所、信じ難い数字が算出されたので、正直俺としては何かの間違いであって欲しいのだが。
話が大分逸れたが結論を述べると、ユグドラシルが初見で放つ〈アクシス・ムンディ〉に耐える為には、いくつも条件をクリアする必要があるという事だ。
だからこそ、パーティ全員がそれをクリアしたという事実が、プレイヤー達に与えた衝撃の大きさは、想像に難くない。
「初撃に耐えたからって、それでやっとでスタート地点だからなぁ……」
そうして全員が〈アクシス・ムンディ〉に耐えきる事で、初めてユグドラシル攻略への道筋が見えるのだ。
そこから先も、ユグドラシル討伐という偉業を成し遂げる為には、更に無数のハードルが存在している。
だからこそ、ユグドラシルを倒す寸前まで追い込んだ様子を収めたこの動画が、多くの人々の興味を引いたのだろう。
その結果として俺は、世間の注目を大きく集め、その幸運さに対して嫉妬や怨嗟の声を多く受け、無理ゲーだと思われていたユグドラシルを討伐寸前まで追い込んだ事に対する賞賛の拍手を浴び、そして大量の動画再生数の対価として、それなりの金銭を得る事になったのだ。
「結構儲かったな。メンテ開けたらこの金でガチャ回すぞー!」
こうして俺は、課金する為の資金源を一つ手に入れた。
とはいえ、今回はいくつもの幸運が重なったが故の特別だ。今後も同じような注目を集めて、再生数を稼ぐにはより一層の努力が必要となるだろう。
それでも、ラグナエンド・オンラインに人生を捧げる為の道筋が見えた事に、少しだけ安堵を覚えながら、俺はメンテナンスが終わる日を待ち侘びるのだった。