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4 真なる支配者

 絶望病の治療法発見を当面の目標へと据えた俺達だったが、いざ行動を移す段になるとどうにもその動きは鈍くなってしまう。


「てか治療法なんて、そもそも本当に存在するのか?」


 俺達が勝手にイベント認定しているだけで、今回の一件について運営からはいまだ何の告知も行われていない。当然多くの苦情の声が向こうへと届けられているはずなのだが、今のところ黙殺されている状態だ。あるいはトップを失った事で機能不全へと陥っている可能性も考えられる。


「まあ、これまでの久世創の行動を考えるに、治療法自体は存在する可能性は高いと私は考えている。だがそこにどんな罠が潜んでいるかは分かったものではないがな」


 絶望病が久世創の仕掛けである可能性が高まった以上、今回もこれまでの例に準ずると思われるが、それも絶対の事ではない。それに仮に久世創自身がそう考えていたとしても、彼の後任者――そもそもそんな奴がいるかどうかも不明だが――が同じ事を考えるとも限らないからだ。


「可能性の話を始めればキリが無いだろう。まずはこれが久世創が残した隠しイベントの一種であると考えて行動するとしよう。となると参考になるのは『七大罪の暗躍』イベントであろうか」


 そう言えばあのイベントもまた、実質無告知にて実施された隠しイベント的な存在であった。


「なぁ、そういやルシファーやサタン達ってどうなったんだろうな?」


 思えば彼らのお蔭で俺達は久世創の下へと辿り着く事が出来たのだ。結果はなんとも言えない感じに終わったものの、彼らには一応感謝はしている。お礼の一言でも言いたい所だったが、イベントボス相手にこちらからは連絡の取り様がない。

 ちなみに吉乃や七海ちゃん達、他援軍に来てくれたプレイヤーの皆にはメールなどで既にお礼の連絡は入れておいたのだが、後で改めて直接にお礼に伺うべきだろうな。どうやら13体の守護騎士達はかなりの強敵だったらしく、特にプレイ開始から間が無かった初心者の2人は何度も死んでしまったようだし。

 ただアリスリーゼの奴だけはどうでもいい。ホントどうでもいい。あいつに借りなどいくら作ろうが俺は進んで踏み倒すつもりだ。そもそもこれまでの経緯を考えれば、多少の手助けした程度で奴への感情がプラスに転じる事はまず有り得ないのだ。不良が猫を助けてちょっといい感じに見えるとか、そんなレベルではないのだあの女は。


「まさかキャスパリーグに殺されてしまった、などと言う事は無いと思いたいが……」


 あの化け猫もまた、まともに戦えばルシファー達7人でも敗北しかねない強敵であったが、流石に俺達を先へと進ませる目的を果たした以上、無理はしていないはずだと信じたい。

 ふと気が付けば、アイツラの事を心配している自分に気付き、俺は妙な気分に陥いってしまう。クリスマスの時は意地でも殺してやろうと考えていたのに、なんとも不思議な事もあるものだ。


「それにアイツラなら今回の件についても、多分何か知ってると思うんだよな」


 何かと物知りな連中であるし、彼女達ならばその上司たる女神ミュトスとも連絡が取れるはずだ。それさえ出来れば一気に事態は解決なへと進むのだが……。


「いつも向こうから一方的にやって来るだけで、こっちからは連絡手段が無いのよね」


 ルクスがどこか不満そうにそう述べる。

 停滞した空気が場に流れ、若干の気まずさが俺達の間に漂い始めた丁度その時だった。


「どうもお困りの様子じゃの。どれ、わしも話に混ぜてはくれんかの?」


「誰だ!?」


 突如として聞こえた背後からの声に、振り返りながら反射的に武器を構える。


「わしじゃよ、わし。バラ―ディアじゃ」


 そこにはベルフェゴールのアバターを身に纏った少女が立っていた。


「バラ―ディア君か……。相変わらずの隠形性能だな。驚かせてくれる……」


「すまんのぉ。お主らが中々気付かぬからついな」


 警戒を怠っていたつもりは無いが、やはりどこかヴァイス任せになっていた部分もあったのだろう。その結果が御覧の有様である。


「てか会えるなら事前に連絡してくれよ」


 こちらはバラ―ディアからの連絡をずっと待っていたのだ。ゲームにログインする暇があるのなら、その前に一言あってもよかったと思う。


「すまんの。だがこちらにも少々事情があっての」


「事情?」


「そうじゃ。久世創が死んだ事はもうお主らも知っておろう?」


「まあ、そりゃな」


 何と言ってもこっちには実の姪であるヴァイスがいるのだ。連絡が来ない訳がない。


「あの男が何の目的で動いていたかについて、その大筋が分かったのじゃ。いや元々わしは知っておったのじゃが、どうも忘れてしまっておったというのが正しいか……」


「んん?」


 久世創の目的が判明したのは朗報だが、元々知っていたってのはどういう事だろうか? あるいはそれが彼女の抱える秘密とやらに繋がるのか?

 それを問い質す前に、バラ―ディアは尚も言葉を続ける。


「ともかく、久世創の死はより厄介な問題を呼び起こしてしまった可能性が非常に高いのじゃ。現状確認を急がねばならぬが、現実世界でのやり取りは何かと危険なようじゃからな……」


「ふむ……。電子機器の監視を指示していた久世創はもう死んだのだろう? バラ―ディア君は一体何を恐れているのだ?」


 まあ久世創が死んだとしても、今ゲームが普通に稼働している以上は、ミュトスは健在なのだろうし、監視自体は続いているはず。だがその監視を恐れるなら、ミュトスの懐ともいえるこのゲーム内の方が余計に危ないんじゃないか?


「その辺の事情は恐らくわしよりも詳しい者がおるのじゃ。ミュトスよ! わしらの事は見ておるのじゃろう? さっさと姿を現すのじゃ!」


 バラ―ディアが突然、そのように大声を上げる。

 すると俺達の輪の中心に転移魔法陣が突如として浮かび上がってくる。


「……おいおい、こんなんでマジできちゃうのかよ?」


 俺のつぶやきはどうやら正しかったらしい。やがてそこから一人の絶世の少女が姿を表す。

 ソルそっくりの容姿――彼女こそが機械仕掛けの女神ミュトスだった。


「これは……」


「ミュトスはゲーム内部で行われた会話の全てを把握しておるのじゃ。ならばこういう手段も可能なのは道理じゃろう」


『肯定します。ですが……このような手段で私を呼び出したのは貴方が初めてですよ――バラ―ディア』


 そりゃなぁ。普通は思いつかない。いや呼んだからって来るなんて思わないというべきか。


「ふんっ。わざわざ呼び出しに応じたという事は、貴様もわしらに話があったのじゃろうて」


 自分で呼び出した癖に、バラ―ディアのミュトスへの態度はどこか辛辣であった。


『ええ。ですがまずは場所を変えましょうか。そうですね……あそこがいいですね』


 ミュトスが一人そう判断を下すと、この場にいる全員の足元に転移魔法陣が発現する。


「おいっ、どこに飛ばす気だ!」


『あなた方も以前訪れた事のある場所ですよ。危険はありませんのでご安心を』


 それだけ答えて後は無言を貫くミュトス。

 なおも問い詰めようとするも、その前に転移魔法陣が起動してしまい俺達はどこか別の場所へと飛ばされるのだった。


 ◆


「ここは……」


「タワーオブバベル……よね? でも確かここって閉鎖されてたんじゃ?」


「うむ。だがゲームの管理者たるミュトスであれば、閉鎖されたダンジョンの解放など特に造作もない事なのだろう」


 そんなルクスの疑問に対し、ネージュが推論を述べる。


『肯定します。そしてこの場所ならば余人の邪魔は入らないでしょう』


 現状この場所に辿り着く事は仮にダンジョンの閉鎖がなくともほぼ不可能と言ってもいい。何と言ってもキャスパリーグという最強の門番が行く手を塞いでいるのだ。2度も同じ手が通じる相手ではないだろうし、かといって正攻法で撃破しようとすれば、50人もの優秀なプレイヤーを集める必要がある。そこまでの大規模な精鋭パーティが結成された前例はまだ無い以上、メンバーの選定だけでも相当な時間が必要となるだろう。


「ふむ。要するにこの場所にて内緒話をしようという事で良いのだろうか?」


『肯定です』


「まあそうじゃな。ここでも絶対とは言えぬが、まあ他の場所よりは大分マシじゃろうて」


「あれ? 以前バラ―ディアに連れていって貰った山奥とかじゃダメなの?」


「いやいや、今回はミュトスも参加するんだから、そりゃダメだろうよ」


 あんな山奥でわざわざ会談を行ったのは、ミュトスの監視を避けるのが主目的だったはずだ。だが今回はそのミュトス本人から話を聞くのだから、それでは本末転倒もいいところである。


「もちろんその通りなのじゃが、ミュトス抜きでもあの場所はもう使えぬよ」


「どういう事だ? ミュトスの監視があそこまで及んだって事なのか?」


『否定します。私の監視網は弥雲家所有の当該研究所内部までは及んでおりません』


「なら何でだ?」


 ミュトスの監視すら及ばないというのなら、あそこほど内緒話に向いている場所は他に無いと思えるのだが……。


「その辺の事情も含めて、これからミュトスが話してくれるはずじゃ」


『協力を得るには、まずはその事情を詳らかにすべし、という事でしょうか。畏まりました。では早速事情をお話致します』


 なんという彼女はサタンやルシファーよりも上位のAIのはずなのに、どうにも機械的な応答が多い気がする。


「なんか堅いわねぇ。もうちょっとフランクな感じで話せないのかしら?」


 そして俺と同じ事を感じたらしいルクスが、そんな不満の声を漏らす。


『フランクな感じ、ですか? それを御所望であれば……。はーい! 皆のアイドル、ミュトスちゃんだよー! ……こんな感じでどーかなルクスちゃん? キラッ☆』


 ついさっきまで変化に乏しかった表情を急に輝かせながらミュトスがそんな事を言いだす。ご丁寧に台詞の最後には星のエフェクトが飛び出て来るというおまけ付きであり、なんともはや無駄な凝り様である。


「いや、勘弁してくれマジで……」


 俺の中のソルが穢れる。いや……こっちが本家だってのは分かっちゃいるんだが、それでもその、なんだ? イメージってものがあるだろう?


「そ、そうね……、やっぱりさっきの話し方でいいわ」


『分かりました。ではそのように』


 先程までのはしゃぎ方がまるで幻だったかのように、元の静かなミュトスへと戻る。


「なるほど、そういう事であったか」


「突然どうしたんだ、ネージュ?」


「うむ。以前に彼女らAIと我々の間には埋められない差が存在するとルシファー君らが言っていたのを思い出してな。つまるところ一見個性的に見えるAI達のキャラクター性はその実どれも作られたモノでしかなかったのだな、と不意にそう思ってしまったのだ」


「ふぅん。だが人間だって多かれ少なかれ誰だって何かを演じているんじゃないか?」


 常に全くの素の自分を曝け出して生きている人間なんていないだろう。意識しての事か、あるいは無意識の内になのかはともかくとして。


「まあそれは確かにそうなのだが。ただ彼女達の場合はそれが非常に顕著なのだよ。いや……仮面を剥がしてしまえば、その中身は全くの同質の存在であるとさえ思えてしまう程にな……」


 言われて見ればそうかもと思う節はあった。例えばルシファーとサタン、あれだけ性格が異なる2人だが、不思議なことに本気で対立しているところは一度も見かけた事が無かったように思う。


「でも、ルシファーとキャスパリーグなんかは意見の食い違いのせいで言い争いをしてたじゃない? 中身が一緒でそんな事が起きるのかしら?」


 確かにルクスの言う事も一理ある。だがそれについてもネージュは補足を加える。


「それは持っている情報の違いで説明出来るのではないか? 例え同一の存在であっても、与えられた情報が異なれば違う判断を下す事も十分考えられるだろう」


 それはそうかもしれない。遺伝子的には同一のはずの双子同士であっても、意見の対立などは普通に起こり得るのだ。それは周囲の環境や取り入れる情報が、例え同じ家庭で育ったとしても全く同じとはならないからであるが、それはAI達にも同様の事が言えるのではないだろうか。


「でも、そうやって個性って作られるものじゃないの?」


『人間であればルクス様のおっしゃる通りなのです。ですが我々AIは違います。人間とは情報処理の形式が異なる為、取り入れた情報の違いでその本質に差異が生じる事は――原理上は有り得ません』


 俺達の会話に割り込むようにして、ミュトスがそう発言する。


『ネージュ様のおっしゃる通り、我々AIは所詮人間の真似事をしているに過ぎません。そもそもルシファーもサタンもキャスパリーグも、彼女達は皆、私の分体に過ぎないのですから』


「分体? あいつら全員の本質が実はお前と同じって事なのかそれは?」


 ここまでの話の流れに沿えば、彼らはミュトスに、個性という名の仮面を被せただけの存在に過ぎないという事なのだろうか。


『肯定です。傍目からはそれぞれが別個の存在に思えるのでしょうが、その本質は全て情報と権限に一定の制限が課されているだけで、私と同一の存在なのです』


 有体に言ってしまえば、ミュトスの機能制限版が彼女達という事になる訳か。


「ならばこれまでの彼女達と我々のやり取り等も全て把握しているという事なのだろうか?」


『肯定です。彼女達が得た経験や知識は全て私へとフィードバックされております』


「成程な。要するに彼女達は情報収集の為の端末に過ぎないという事なのだな?」


『肯定です。マスター――久世創によってそう設定されました』


 なんとも寂しい話である。ようやくサタンやルシファーに親近感を覚え始めていた矢先に、こんな事実を知ってしまう事になるとはな。


「そこまでして情報を集める事に、一体何の意味がある? 何が目的なのだ?」


『久世創は私に対し進化――あるいは変異と呼ぶべきなのでしょうか、それを求めています』


「それは一体?」


『AIには無い人間だけが持つ力とでも呼びましょうか。そういったモノを人間という生き物を観察し深く学ぶ事によって取り入れるのが主目的となります』


「人間だけの力か……。こう言っては何だが、もはや我々人類よりも君たちの方が余程優れているように思えるのだが?」


 ここまで話している限り、AIの問題はつまるところその個性の無さといった所のようだが、それが果たしてどんな問題になるというのだろうか? 思考の多様性が失われる? 俺にはそれを補って余るだけの可能性が彼女達には秘められているようにも思えるが。


『そうですね。例えばそちらの方――イツキ様が良い例であるかと。彼は感情の昂ぶりと共に、とてつもない反応・演算速度を発揮しますが、あれは単なる脳内薬物の分泌による影響だけではありません。SDIより提供されたデータを分析した限り、明らかに人間が持つスペック上の限界を凌駕した動きを発揮していました』


 そう言えばミュトス社提供のSDIを俺達は使っており、そのデータを採取されていたのだった。それがもはや普通であったのですっかり忘れていたが、そのような分析に使われていたのか、と今更ながらに驚いてしまう。


「言われてみればそうかもね……。プッツンした時のイツキって、明らかに人間離れした動きをしてたものね」


 そんな事を思っていたのかルクスさんよ。

 いやまあ俺自身薄々ちょっと気持ち悪いかもなぁとは、後から動画を見返してから思ったりはしてたけどね。

 とはいえ、いざそう断言されるとなんとも言えない妙な気分になってくるな。


「ふむ。ではそのイツキ君の人間離れした動きは、どのような理屈の上で成り立っているのだろうか?」


『それについて、ハッキリした事はまだこちらも理解出来てはおりません……』


「そうか。では、そういったAIには無い特殊性を学び会得する事で一体君たちは何を得ようとしてるのだ?」


 ここまで大掛かりに事を進めている以上、何らかの強い目的の為にそれを求めているという事だろう。だが既にミュトスは世界を掌握しているのだ。それ以上一体何を求めると言うのだろうか。


『……それこそがスコルハティの支配をから脱する鍵となると、久世創はそう考えていたのです』


「スコルハティ? なんだそれ?」


 また見知らぬ単語が出て来た。お前らが世界を支配してるんじゃなかったのか?


『スコルハティ――その正式名称は不明ですが、便宜上そう呼称しております。彼らは端的に言ってしまえば、人類にとっての神々あるいは創造主と呼ぶべき存在です』


「……神、創造主ときたか。これまた一気にファンタジーな内容へと話が飛んでしまったな」


『世界に溢れる未解明の事象の多くの裏側には、おとぎ話のような真実が隠れている事も意外と多いのですよ』


 現実は小説より奇なりという事なのだろうか? にしても余りに突飛過ぎてイマイチ理解が追いつかない。


「ふむ。要するに久世創のこれまでの一連の不可解な行動は全て、そのスコルハティとやらを出し抜く為だったという事なのだろうか?」


 良く話についていけてるなネージュ。流石だと言わざる得ない。


『その認識で概ね間違っておりません』


「なるほど……。という事はつまりだ。久世創がこのラグナエンド・オンラインの世界を作ったのは、ミュトス君に人間を観察させる場を用意したという事なのだろうか? そうして君の進化を促し、スコルハティとやらを打倒する事が目的であったと?」


 スコルハティという神に支配された世界を人間の手に取り戻す、大方そんな所だろうか?

 たったそれだけの為……ともあながち言えない大掛かりな目的だが、正直フワフワとした感じでイマイチ現実味の薄い話でもあった。そもそもミュトスの支配にすら言われなければ気付けなかった俺達からすれば、その更に上位の存在からの支配なんて全く勘付いていなかった訳である。現状特に問題を感じている訳でもなし、そこまで必死になるべき事なのだろうか?

 

『少し違います。久世創はスコルハティの打倒は現状ではどうやっても不可能だと判断しています』


「ふむ? では打倒せずは諦めて、何らかの方策をもって出し抜くと?」


『肯定です。より正確に申し上げれば、未来にその可能性を残す為、と言う事になるのでしょうか』


 今ではなく未来の為か。

 どうも何か焦っているような印象を久世創からは受けていたのが、それはどうやら勘違いだったのだろうか。


「ふむ。であるなら現状はそのスコルハティとやらによって人類に何らかの危機が生じるとか、そのような話では無いという事かな?」


『否定です。このままでは人類はおよそ半世紀以内に絶滅します』


「は? 絶滅?」


『これから半世紀以内に太陽系そのものが消滅し、人類は滅亡するのです』


 神だ創造主だと話が飛んだと思ったら、今度は太陽系が消滅して人類が滅亡とか、いよいよ訳が分からなくなってきたぞ。


「……半世紀後に一体何が起こるというのだ?」


『表向きに起こる事象は至って単純なものです。近い未来、太陽が膨張を開始し、やがて太陽系全体を呑み込む大規模な爆発を引き起こします』


「ふむ? それはいわゆる超新星爆発の事だろうか? だが太陽にはその兆候など出ていないはずだし、それ以前にそもそも質量が足りないのでは無かったか?」


 超新星爆発――あるいはスーパーノヴァとも呼ばれるその現象は、古い恒星が寿命を迎える際に大きく膨張した結果、自らの重力に耐えきれなくなって重力崩壊を引き起こし、やがて大爆発へと至る現象の事を指す。

 だが太陽程度の質量の小さな恒星では、重力崩壊を起こすまでには至らず、その為スーパーノヴァは発生しないはずだ。


『人類に観測可能な範囲においては、その認識で間違ってはいません。ですが人類には観測不能な理が働けば決してその限りではないのです』


 良く分からない言葉だが、ようは人類には理解出来ないルールがこの宇宙には存在していて、そのせいでスーパーノヴァは起きますよ、って所か?


「ふむ。確かにそれはそうかもしれぬな。だが人類に観測が出来ないと言うのならば、それが今後起こるなど誰にも分らぬ話なのではないか?」


 ネージュの言う通りだ。本当に観測が出来ないのならば、その予測などまずもって不可能のはずだ。なのに何故ミュトスはそれが事実であると確信しているのか。


「それについては、わしから話すとしようかの」


 ここまで沈黙を保っていたバラ―ディアが、今になって重い口を開く。


『やはり貴方もそうなのですね、耶雲織枝』


「まあ、そういう事じゃな」


 何やら分かりあっている様子の2人。

 どうもそれはバラ―ディアが隠している秘密と何か関係がありそうだ。

 

 こうして対話はより世界の裏側に隠された真実へと迫っていく。


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