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5 炎上

「ふむ。良く良く考えてみれば、炎上が起こるのは自明の理であったな」


 一人納得したような表情で頷くネージュ。


「どういう事だ?」


「なに、至極簡単な話だよ。ゲーム内からログアウト出来ないなどという、フィクションの中でしか聞いた事が無い有り得ない不具合を、まさか現実に引き起こしてしまったのだ。運営に批判が殺到するのも、さも当然の話ではないか」


「まあ、確かにな……」


 現在の時刻は、日曜のお昼前である。

 ずっとゲームをプレイを続けていた為、時間感覚が狂っていたせいで気付けなかったが、既にゲームにログインしてから丸1日近くが経過している。それすなわち、丸一日食事を摂っていないという事にもなるのだが、そこはSDIがちゃんと機能しているのだろう。今の所、身体に特に異常は感じられない。


「そう言えばこのままだと、俺、会社辞めるんだよなぁ……」


 ふとリアルへと意識が向いた事で、忘れていた少し憂鬱な現実の事を思い出す。

 もっとも俺の目下の心配事は、会社を首になる事事態では無く、その後の後処理についてだ。

 色々と荷物やらなんやら会社に置きっぱなしである以上、首になってハイさよならという訳にもいかない。

 少なくとも一度は会社に顔を出さなければいけないが、今更どんな面を下げて行けというのか。

 想像するだけで、気分がドンドンと沈んでいく。


「てか、お前らなんか余裕だよな?」


 俺が落ち込んでいるのを余所に、他の3人からはログアウト出来ない事に対する焦りが全くと言って良いほど感じられない。

 これは一体どういうことだろうか?


「何、特に難しい話ではないよ。何といっても今の私は、天下無敵の引き篭もりという尊き身の上だからな。なので、たかが数日、ゲームからログアウト出来ないからと言って、特に慌てる必要などこれっぽちも無いのだよ」


 口調や態度などからネージュはてっきり社会人だと思いこんでいたのだが、どうやらそれは思い違いだったらしい。

 となると、大量の課金ガチャに使った資金の出所が非常に気になるところだ。


「ルクスは?」


「わ、俺様はスケジュールなんてものに縛られない自由な存在だからな! この程度のトラブルで動じたりはしないぜっ!」


 思いっきり動じた声で、そう答えるルクス。

 色々と引っ掛かりを感じるが、ルクスの名誉の為にそれ以上の追及は控えておく。


「んじゃ、ヴァイスは?」


「ボクは一定の不労所得があるから、特定の仕事には現在就いてない」


 ヴァイスの口振りから察するに、大方資産家の息子か何かといった所だろうかと推測するが、それ以上追及出来る雰囲気でもない。

 この1日でそれなりに仲良くなった筈だが、まだ距離を測りかねているのだ。


「てことは、社畜は俺だけなのか……」


 もっとも今の俺は、社畜という程、会社に従順でも献身的でも無かったが。 

 むしろどちらかと言えば、お荷物に近い。


「まあリアルの話など、どうでも良いではないか。それよりも問題は、ユグドラシルをどうやって倒すかではないか?」


 勿論どうでも良い筈は無いのだが、心情の上では同感だったので、あえてその言葉に乗っかる事にした。


「一通り見て回った感じ、どうやらネット上では、REOに関する話題で相当炎上しているみたいだな」


 その範囲はかなり幅広く、匿名掲示板からオープンSNSまで、ありとあらゆる場所で炎上しまくっている。

 ただ不思議な事に各報道メディアでは、何故か取沙汰されていないようだが。


「んだな。おかげでダンジョン攻略に関する話題が、すっかり埋もれちまってるぜ」


 俺も色々と見て回ったが、確かにルクスの言う通りであった。


「一番の炎上ポイントは、やはりゲームからログアウトが出来ない点についてのようだ。まあこれは当然だろうな」


 ゲームとして致命的かつ、社会的な影響もかなり大きい問題である以上、それは必然の事態と言えるだろう。

 むしろ、やらかした事のデカさに比べれば、まだ騒ぎは小さいようにすら感じられる。


「次いで話題になっているのは、どうやら課金ガチャに関してのようだな」


「あーな。あのガチャは正直かなり悪質だからなぁ」


 ルクスが珍しく若干テンション低めの声でそう反応する。

 それに頷きを一ついれて、ネージュが話題を続ける。


「どうやら、ガチャの入ったボックスの見た目が問題視されているようだな。パッと見では、虹色のガチャ、すなわちSSRが多く入っているように見えるが、その実態は大きく異なりSSRの出現率は僅か0.5%だ。これが景品表示法に違反しているのではないかと、取沙汰されているようだ」


 景品表示法とは端的に言ってしまえば、商品内容についての表示は、事実と相違しないように消費者が勘違いしないようにちゃんとしましょうね、という事を定めている法律である。

 詳しい内容については俺も知らないが、まあ大体そういう認識で問題無いだろう。


 今回の課金ガチャの件では、プレイヤーから見たガチャボックス内の状態が、実際に排出される内容物と著しく剥離している事が問題視されているるといるそうだ。


「ああ、あれは確かに俺も違和感あったもんな。あの見た目だと、SSRがもっとポンポン出るモノだと普通は勘違いするよな」


 説明資料の隅っこに小さく書かれた確率表記を偶々見つけていなければ、恐らく俺も同じ勘違いをしていた事だろう。


「ガチャに関する問題は、どうやらそれだけでは無さそうだがな」


「それ一つだけでも十分悪質な気がするんだが、まだあるのか……?」


 どうやら俺の思った以上に、ラグナエンド・オンラインにおけるガチャの闇は深いらしい。


「うむ。まずは同レアリティ間での格差についてだな」


「……どういう事だ?」


「ガチャから排出されるアイテムは、大別すると、幻獣、アバター無し装備、アバター解放装備の3種類とある。中でもアバター解放装備が取り分け重要になるのは分かるかな?」


「……ああ、それは勿論理解してるぜ」


 アバター解放装備を獲得すると、プレイヤーは自分の分身となるアバターを入手する事が出来る。

 ラグナエンド・オンラインにおけるアバターの存在は、ゲーム内でのプレイスタイルにまで影響を与える最重要のファクターと言える。

 なぜなら用いるアバターによって、クラスや使用スキル、属性などの重要なファクターの多くが決定するからだ。


 対して幻獣やアバター無し装備の影響は、アバターの存在と比べるとそれ程でもない。

 無論、高レアリティのそれらを手に入れれば、その分だけステータスを引き上げる事が出来るが、逆に言えばただそれだけの話であり、1つ2つ入手した程度では大きな変化を体感出来ないのが実情なのだ。


「にも拘らず、課金ガチャから排出されるアバター解放SSR装備は、僅か7種類のみ。対してSSR幻獣、アバター無しSSR装備は各14種類ずつ存在するそうだ」


 要するに、折角0.5%という恐ろしく狭き門を潜り抜けSSRを引き当てたとしても、実質的な当たりはその中の更にたった7/35=1/5しか存在しない事になる。

 0.5%の1/5であるから、実質の当たり率は単純に考えても僅か0.1%しかない計算になるのだ。

 1回500円のガチャで、当たりが実質1000個中1個しか入っていないというのは、実に渋いと言えるのでは無いだろうか。

 そう言った点についても、プレイヤーからの批判の声はかなり大きいようだ。


「更に話題になっているのが、各アバター解放SSR装備内での排出率の偏りだな」


「というと?」


「どうやら、アバターの種類によって、排出率の設定がそれぞれ異なっているのではないかと噂されているようだな」


「んん? そりゃ、どういう事だ?」


「不特定多数のプレイヤーが集めた情報を統合した上での推測なので、確実性には欠けるのだが……。どうも"ソル"のアバター排出率が極端に絞られているそうだ」


「ああ、そういや確かに、ソルの獲得報告だけなぜか全然見かけなかったな。いや、そもそもSSRアバターの獲得報告自体が、ビックリするほどに少ないんだが……」


 匿名掲示板や各種SNSには、レア度の高いアバターなどを入手した際に、自慢げにその事を吹聴する輩が数多く存在している。

 特にソルはSSRアバターで、しかも貴重なクレリックのクラスだ。もし手に入れたプレイヤーがいれば、率先して自慢しまくると思うのだが……。


「そうだな。私も相当数ガチャを回したつもりだが、他は何度か被る程に出たにも関わらず、唯一ソルだけは入手する事が叶わなかったからな」


 当時を振り返りながら、若干遠い目でそう話すネージュ。


「おいおい。何度か被る程って……。一体いくら課金したんだよ……」


 俺自身はまだこのゲームで課金した事が無い為、その言葉に特に何も感じなかったのだが、それなり以上に課金したらしいルクスなどは、ネージュの発言にドン引きしている。


「まあSSRアバターの排出率は0.1%しかないのだ。単純計算でも、各アバターの出現率はさらにその1/7しか無い事になる。である以上、単純にサンプル数不足から、結果が偏っただけという可能性も考えられるが……」


 まだ情報に確実性が欠けており、こうであると断言は出来ない状況だ。

 だが、その一方で掲示板などで賑わっているアバターの入手報告において、ソルについての書き込みが一切見当たらないのも事実である。

 これが一体何を意味するのか……。


「他にも、女性型アバターしか使えない事への不満や、敵モンスターが女性型しか存在しない事への苦情など、細々とした問題は数多いようだ」


 事前にユーザーに与えられた情報と実際の大きな乖離や、ゲームバランスに関する問題など、ネット上で挙げられているラグナエンド・オンラインの問題は多岐に渡っているようであった。

 そういえば、事前発表で存在していたSSRアバター"ランスロット"。あれどうなったんだろうな?

 獲得報告は見かけないし、というかどうもガチャ自体に入っていないようだ。

 割と人気のある英雄だし、出し惜しみしているのかもしれない。


「一方で、所謂単純なバグといったモノは、どうやらほとんど無いようだな」


 サービス開始直後のオンラインゲームで多くのバグを発生するのは、割と良くある話だ。というかむしろ、大きなバグが存在しないゲームの方が珍しいまである。

 だが、ことラグナエンド・オンラインにおいては、そういったゲームに関するいわゆるバグ報告というのは、ほとんど見受けられない。


「技術面での定評の高さは、やはり本当のようだな」


 それについては俺も同意見である。

 ネオユニヴァース対応ソフトにおいて、初のミュトス社謹製のソフトであるラグナエンド・オンラインは、バグやラグの無さ、プレイ感覚のスムーズさ、グラフィックの美しさなど、開発者の純粋な技術という面では、明らかに群を抜いていると感じていた。

 それだけに、今回のログアウト不能バグが惜しく思われるのだ。


「これ程に素晴らしい出来のゲームに対し、じゃぶじゃぶ課金する事自体は、私も決して吝かではないのだ。だがその一方で、課金ガチャの錯誤を誘うような悪質さについては、正直思う所があるのもまた本心なのだ」


「いや、じゃぶじゃぶ課金するのもどうかと思うぞ……?」


 ネージュとしては多分、後半の内容に主軸を置いて発言したのだろうが、悲しい事に前半の内容に対し俺とルクスは思いっきり引いていた。


「ふむ、そうか? 素晴らしい商品に対しては、ユーザ―側もそれ相応の対価を支払うべきだと、私は常々思っているのだが……」


「はぁ。その意見そのものには賛成だが、もうちょい冷静に判断した上で行動した方がいいんじゃないか?」


 会話の節々から想像出来るネージュの課金額は、どう少なく見積もってもゲームに対する相応の対価だとは言えない気がするのだ。


「ふむ……。私としては、課金はしたくなったその瞬間に、欲しいアイテムが出るまで課金するのがポリシーなのだが……」


 口を開けば開く程に、重度の課金中毒である実態が露わとなるネージュを前にして、何を言っていいのか分からず俺は遠くへと視線を逸らす。


「ま、まあ課金の話は置いといて、今はユグドラシルの攻略についてだ。何か有用な情報はあったのか?」


 本来の俺達の目的はそちらだ。

 ゲームからログアウト出来ない以上、運営についての糾弾よりも、そちらの方が余程重要事項である。


「ふむ。……残念ながら我ら以外に、ユグドラシル本体に到達したプレイヤーの数は少ないようだな。そして私が調べた限りではあるが、どうもその全員が我々と同じ目に遭ったようだ」


 要するに俺達同様、初見殺しの一撃を食らい全滅してしまったという訳か。


「てことは、結局、ロクな情報は無いってことか?」


「……そういう事になるだろう」


 色々とどうでもいい情報ばかりを得て、肝心なところについての進展はまるで無しという訳だ。

 ったく、嫌になるな。


「結局無駄足って訳か……」


「そうでもない」


 俺のそんな呟きをヴァイスが即座に否定する。


「"ミカエル"がLv35で習得するスキルに、ダメージを軽減する効果があるのが判明した」


 メンバーの中で唯一、ヴァイスだけがLv35に到達しておらず、4つ目のアクションスキルを未習得の現状である。


「ん? てことは、それを使えば?」


「そう。生存可能。少なくともボクだけは」


 パーティ中最もレベルが低いヴァイスであったが、一方でその耐久力は、ナイトのクラス特性も合わさり一番であった。

 なので、ヴァイスが耐えられるからと言って、他の3人が耐えられる保証は残念ながら無い。

 とはいえ、耐えられないと決まった訳でも無いので、試してみる価値は十分あるだろう。


「うむ。少し光明が見えてきたようだ。よし、もう一度、改めてネット上の情報を精査するとしよう」


 直接、ユグドラシルに関する話題でなくても、問題解決の糸口へと繋がる事は十分に有り得る事が分かった。

 そういった視点から、再度調査をしようという訳だ。


 そんな訳で、俺もそういった意識を持って、調査を再開する。


「お、珍しいな。これバグか?」


 そんな最中、匿名掲示板にひっそりと書き込まれていたある事柄を俺は見つけた。


「HPが0になった瞬間に、偶々リジェネが発動したら死なずに生き残れた、か……。確かにこの現象は興味深いな」


「なぁ、これって俺の回復スキルでも狙えたりしないかな?」


 リジェネによる自動回復も、回復スキルによる回復も、プレイヤーのHPを回復するという面において差は無い。

 だったら、同じことが出来てもおかしくないと考えた訳だ。


「ふむ、どうだろうな……。書き込みを見る限り、HPが0になってから、実際に死亡判定が出るまでの猶予は、本当に極僅かなようだ。果たして狙ってやれるものだろうか?」


 理論上は可能であっても、実用性はほとんど無いとネージュは考えているようだ。


「そうか……。これを狙ってやれるなら、色々戦術の幅が広がると思ったんだが……」


 ふとした思い付きが形にならなかった事を少々残念に思いつつ、俺は調査へと戻るのだった。


 ◆


 そして再び訪れたユグドラビリンスの最奥。

 目の前の魔法陣を抜けた先に、今回のイベントボスである幻獣ユグドラシルが待ち受けている。

 ここまでは前回の挑戦の時と同じだが、今回は色々と情報を仕入れて準備を整えている。


「では各自バフを頼む」


 各員、常時維持が可能な各種バフスキルを次々に使用していく。


「〈神の啓示〉」


 その一つに、ヴァイスが新たに覚えた新スキルの存在があった。


 ◆


 アバター名:〈ミカエル〉  Lv:36/40

 クラス:ナイト 属性:火 レアリティ:SSR 召喚装備名:〈セフィロトの盾〉

 

 アクションスキル

  〈フレイムアセンション〉

   神の炎によって周囲の敵を焼き払う。 範囲(中)、ヘイト値上昇(大)、CT15秒、倍率600%

  〈サン・ミシェル〉

   パーティ全員の防御UP(中)、リジェネ(小)付与、CT10秒、持続120秒

  〈魂の天秤〉

   パーティ全員のラグナゲージを20%上昇、CT300秒

  〈神の啓示〉

   参戦者全員にバリア(大)付与、CT300秒 (NEW!)


 アシストスキル

  〈神に似た者〉

   自身の攻撃UP(中)、防御UP(中)、速度UP(中)

  〈大天使長〉

   自身のダメージカット10%


 ラグナブレイク

  〈セラフィックブレイズ〉

   断罪の炎による範囲攻撃。 範囲(中)、ヘイト値上昇(特大)、倍率24000%


 ◆


「バリア付与か。問題はこれで一体どのくらいダメージがカットされるかだな」


 ダンジョン攻略途中にヴァイスが新しく覚えたスキル〈神の啓示〉。検証した所、ネットの情報の通り、一度だけダメージを大幅に軽減する効果があると判明した。

 ただ、道中に現れるモンスターには、そこまで強力な攻撃を仕掛けて来る敵は居ない為、軽減するダメージの許容値がどの程度なのかについては、不明なのが現状であった。


「まあ、これ以上は実際に試してみるしかあるまい……。さて、ではそろそろ行こうか」


 その言葉を合図に、全員が転送魔法陣へと飛び乗る。

 視界が歪んで、ユグドラシルの待つ大部屋へと転移する。


『〈アクシス・ムンディ〉』


 前回と同様、イツキ達がユグドラシルを認識したのとほぼ同時に、ユグドラシルの口から荘厳な声が響く。

 そして、その声をトリガーとして部屋全体を揺るがす大規模攻撃が発動する。


 部屋中の地面全てがまるで意志を持ったかの如くうねりをあげ、俺達へと襲い掛かってくる。

 そんな逃げ場の無い攻撃を前に、地面の揺れに耐えながら全員が防御姿勢を取る。


 ラグナエンド・オンラインにおいて、武器や盾で防げないような大掛かりな攻撃に対しては、例え防御姿勢をとっても完全に無効化する事は不可能だ。

 だが、多かれ少なかれダメージの軽減は狙えるし、何より半ば偶発的に発生するクリティカルヒットによる被ダメージ倍増という事態を避けるという意味でも重要な行為なのだ。


「くぅぅ」


 やがて隆起した地面が破裂し、とてつもない衝撃が俺達を襲う。

 だが、今回は吹き飛ばされつつも、ダメージ値を観察する余裕を持つ事が出来た。


 ……これなら耐えられる!


 ヴァイスが使った〈神の啓示〉がきちんと仕事を果たしてくれたのだろう。

 俺の視界に映ったダメージ値は、俺の最大HPをちゃんと下回っていた。

 そして、それは他のメンバーも同様だったようだ。


「うむ。皆、どうにか無事のようだな」


 ネージュの生存を確認する問いに、全員が頷きを返す。

 幸いにも今回は、誰も魂だけの存在に成らずに済んだようだ。


「ふぅ、俺様はちゃんと生きてるぜ」


 強がってはいても、ルクスのHPは残り2割にも満たない有様である。

 もっとも、俺やネージュはそれよりも更にギリギリであったが。

 それでも前回は全員が為す術なく全滅した事を考慮すれば、十分な進歩だと言えるだろう。


「さて、イツキ君。回復を頼めるだろうか?」


「ああ、任せてくれ」


 手に持った杖を掲げて、ソルの回復スキル〈ソーラーファーネス〉を発動させる。

 柔らかな日差しが皆に降り注ぎ、HPが3割ほど回復する。これによって一旦、全員が瀕死の状態から脱する事が出来た。


「よっしゃー。今度はこっちの番だぜっ!」


 瀕死から生き延びたルクスが、テンション高くそう叫ぶ。

  

「ルクス君。逸る気持ちは理解出来るが、ちゃんと打ち合わせ通りに頼むぞ」


「へへっ、分かってるって!」


 初見殺しの一撃をどうにか無事に耐えきった俺達。

 そして今、幻獣ユグドラシルとの戦いの火蓋が切られた。


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