閑話3 とある飲食店での一幕
ぶっちゃけラーメン屋でただつけ麺を食べるだけのお話です。
読み飛ばしても本編を読むには支障が無いお話となっていますが、(深夜のノリで)頑張って書いたので良ければ読んで下さると嬉しいです。
ゲームを介してとはいえ人の死にゆく姿を間近で見てしまったことで気落ちする俺達。そこで気分転換を兼ねて恐竜博物館へと見学へと行くこととなった。
久しぶりの外出の機会という事もあり、折角なので昼食を外で食べる事に決まった。そして選ばれた店がこのラーメン専門店であった。
「へぇ、女性客が多いって話だけあって、あんまりラーメン屋っぽくはないのね」
「まあ、そのせいで俺は中々足が向かなかったんだけどな」
女性と間違われる事が嫌だった俺には、わざわざ女性に人気のラーメン店へと出向く事が躊躇われたのだ。学生時代には出先では高確率でラーメン屋へと入っていた程にはラーメン好きの俺としては、ずっと気になる店ではあったのだが、結局今に至るまで訪れた事は無かった。
だがこうしていざやって来てみると、その雰囲気の良さにもっと早くに来ればよかったと、食べる前から既に後悔の念が湧き出している。
「私はこういった店は初めてなので、エスコートは任せたぞイツキ君」
そう言って胸を張るネージュはいつも通りの改造和服姿だ。
汁が跳ねても知らないぞ、と一応忠告はしたのだがどうやら聞く耳は持たなかったようだ。
「……」
そんなネージュの事を何やらルクスが真顔でジロジロと見つめているのに気付く。
「どうしたんだルクス?」
「……いや、ネージュってなんだかんだ言いつつも、やっぱ名家のお嬢様なんだなぁって」
「そうだな。普段はあんまそんな感じしないよな」
普通のお嬢様は日がな一日中、家に籠ってゲームに熱中したりはしないからな。
「ふむ、そういうものだろうか? だが私としては、そのようなぞんざいな扱いの方が返って嬉しいのが困りものだな」
なまじ名家のお嬢様であったせいで、アリスリーゼなんて馬鹿女に目を付けられて、トラウマまで背負う事になったのだ。ネージュがそう思ってしまうのも決して無理からぬ事であった。
「さて立ち話もあれだしそろそろ中に入るとするか。あー、ここ食券制だから注意な」
「ふむ? ……食券とはなんだろうか?」
「そこからか……」
普段はむしろこちらが教えて貰う機会の方が多いだけに、このような無知をネージュが晒すのは中々にレアな光景である。そう考えると何だか逆にちょっと楽しい気分になってくるな。
「入り口すぐに食券販売機が設置されてるから、そこで頼みたい品を選んで食券――まあ引換券みたいなものだ。それを購入するんだよ」
学食なんかで良くあるアレだ、と言いかけて止める。どうせネージュは学食なんかも利用した事は無いだろうしな。
「なるほど」
「そういや何を食べるのかは、もう決めてるのか?」
「ふむ……つけ麺なるものを頂こうと思っている」
つけ麺か。ラーメン屋が初めての癖に中々攻めるじゃないか。
「ここはオーソドックスな魚介豚骨系の出汁が売りだし、別に悪い選択じゃないと思うぜ。それにつけ麺の欠点をフォローする施策がこの店ではされてるみたいだしな」
「欠点?」
「ああ、つけ麺が初めてなら分からなくても仕方ないか。まあ実際に食べてみればすぐに分かるさ。それでルクスの方はどうだ?」
「私も問題ないわよ」
「よしじゃあ入るか」
そんな訳でいざ店内へと入っていく俺達。
「いらっしゃいませー!」
まだお昼には少し早い時間と言う事もあってか、どうにかテーブル席が一つ空いていた。とはいえ平日のこの時間で既にこれだけ客がいるとは、流石噂の人気店というだけの事はあるのだろう。実際、俺達が席に着いた直後くらいから行列が形成され始めたようだ。
俺達を迎えてくれた店員のお姉さんを筆頭に、ここの従業員は全員が女性のようだ。これもまた女性客に人気の一因なのだろう。普通のラーメン屋はやはり男性の従業員が多い傾向にあり、女性だけだと入りづらい雰囲気な事が多いので、これもまたラーメン好きの女性にとっては嬉しい配慮と言えるだろう。
「で、これが食券販売機だ。お金を入れて頼みたい商品のボタンを押す。それだけだ」
「ふむ。……このランチサービスというのは何だろうか?」
「ああ、平日のお昼限定でご飯が1杯無料になるサービスだな。だが今回はこっちのがオススメだぞ」
普段なら勧めるところだが、つけ麺を頼むというなのならばもっとオススメがある。そう言って俺はセットメニューの一つを指差す。
「ふむ? ……了解した。ではこの味玉つけ麺セットなるものを頼むとしよう」
「俺も同じだ」
ネージュと俺が同じ食券を購入する。
それに続きルクスも手慣れた手つきで購入していく。もしかしてコイツこの店に以前にも来た事があるのか?
「なぁルクス。何を頼んだんだ?」
「あんた達と一緒よ。味玉つけ麺セットよ」
そう告げるルクスであったが、しかし俺の目は彼女の手にもう1枚別の食券が握られているのを、決して見逃しはしなかった。
「で、もう一つはなんだよ?」
「ふふん、さぁて何でしょうね?」
「勿体つけるなよ。早く言え」
そう言うのはゲームの中だけでお腹一杯なんだよ。
「……仕方ないわね。見なさい、これよ!」
そう言ってルクスがドーンと掲げた食券には、こう書かれていた。
『麺を肉に変更』
「くっ、まじか……。噂に聞く究極の邪道メニューが、まさかこの店にも存在していたとは」
「邪道って……大袈裟ね。元々はラーメンが好きだけど、ダイエット中で糖質多いのは無理って女性の為に考えられたメニューなのよこれ。だったら女性向けのこの店にあっても別に不思議じゃないでしょ?」
そう言われて成程と思う。ダイエットの敵として名高いラーメンではあるが、その一番の原因は何と言っても麺そのものである。濃い目のスープが取沙汰される事が多いが、そちらはわざわざ完飲しなければ実はそこまで問題にはならない。
糖質の摂取量を減らしダイエット中の女性でも気にせず食べれるようにと苦心した結果生まれたのが、この『麺を肉に変更』なのだそうだ。
「ふむ。そちらも気になるな……」
そんなルクスの言い分を聞いてかどうかは知らないが、ネージュが興味を示す。
「今回はやめとけ。せめてもうちょいラーメンに慣れてからにするべきだ」
「ふむ。イツキ君がそう言うのならば従うとしよう」
食券の購入を終えた俺達は、店員さんへとそれを渡し半券を受け取る。
そうして席についた俺達の前にお冷が運ばれてくる。
「ふむ……。これはレモンの風味がついているのだな」
ネージュがそう言うのを聞き、俺も口をつけてみる。確かにこれはレモン水だ。
こういった所もまた女性向けの配慮なのだろうが、俺としてはラーメン店では普通のお冷の方が好ましいと思う。
「レモン水には消化を促したり、デトックス(老廃物の排出)効果があったり、それにラーメンだけでは不足がちなビタミンCも補充できるからいいのよ」
多分ルクスの言い分はそのものは間違っていないのだろう。だがそもそも、そんな事を一々気にするくらいならラーメン屋に行くなよって話が着地点となりそうな……。いやこれは深く突っ込んだらマズイ気がする。沈黙は金だな。
「そ、そうか。ああ、そうだネージュ。そこにつけダレの器を置くんだぞ」
なので俺はルクスの言葉を軽く受け流しつつ、話題の矛先を変える事にした。
木製のテーブルの中に埋まっている黒光りしている部分を指差す。
「ふむ。これは何なのだ?」
「IHヒーターだよ。その上に器を置いて温めることで、スープの熱を維持したまま食べる事が出来るんだよ」
「ふむ……?」
つけ麺を食べた事が無いネージュにとって、冷めたつけダレが招く悲劇については恐らく想像が及ばないのだろう。
「つけ麺の麺は冷たいんだ。だからこれが無いと徐々につけダレが冷めていくんだよ」
「ふむ。そうなのか」
ほとんどのつけ麺はつけダレが冷めてしまうと、その美味しさが半減してしまう。それを防ぐべくネージュにIHヒーターの使い方について伝授する。
それから待つ事しばし、ついに待望のつけ麺がつけダレの入った器と共に運ばれてきた。しかし俺の視線はルクスの方へとつい向かってしまう。
「……本当に麺が全部肉に変わってるんだな」
正しく『麺を肉に変更』という文言通りだ。これがラーメンだとは俄かに信じ難い光景である。噂には聞けどもこうして実物を直に見たのは初めての事であったので、やはりその衝撃は大きかった。なんか俺の中でラーメンという料理の定義そのものがゲシュタルト崩壊するのを感じる。
「ふふっ、これなら全部食べても太る心配がないわよ!」
そう言いながらいつもよりもはしゃいでいる様子のルクス。その細い体が実はそれなりの努力によって維持されていることが垣間見える言葉でもあった。
かく言う俺はというと、いくら食べても太らないが筋肉もついてくれない残念体質である。ただこの事を女性に言ってしまうと高確率で怒られる事を経験から知っていたので、お口にチャックだ。
「ふむ、これがつけ麺というものか……」
ネージュが運ばれてきたつけダレと、麺の山をマジマジと見つめている。
器の中には濃厚なつけダレが並々と注がれており、その強烈な魚介の香りが食欲を大いにそそってくる。個人的に好印象だったのは、魚介系のつけダレにありがちな無駄に魚粉を盛っていない点だ。
「さてお味の方は……」
まずはレンゲでつけダレを少しだけ掬い、その味を確かめる。
すると濃厚かつ上品な魚介のうま味が口一杯に広がるのが感じられた。魚粉だよりの店だと強い豚骨の風味に負けてしまい、ちぐはぐさを感じる事が多いのだが、この店はその点を上手くやっているように感じられる。余程丁寧な出汁取りをしているのだろう。魚介の旨みと豚骨のコク、その両方が絶妙に調和していた。
だがつけ麺の真髄は、やはり麺に絡めて食べてこそだろう。
つけダレの隣には太麺の束がザルの上にどっさりと乗せられている。そしてそれらは冷水によって良く引き締められている事が窺える。
冷たい麺の場合、食べ進めるうちにつけダレが冷えてしまう欠点があるのだが、そちらはIHヒーターでつけダレを温める事で十分カバーが可能だ。むしろそれを避けるべく下手に熱盛りになどすれば、折角の麺のコシが失われてしまう危険を孕む。
熱盛り自体を全否定するつもりは無いが、つけ麺の最大の利点はやはり冷えた麺によって生まれるコシにこそある俺は思っているので、それを補う別のウリが必要となるのだ。
「うんっ! 旨いな!」
濃厚なつけダレがコシのある太麺と上手に絡み合い、つけダレの味を引き立てている。これこそが普通のラーメンでは味わえない、つけ麺ならではの味だと言えるだろう。普通のラーメンでは濃厚過ぎるタレと熱い麺では決して味わえない強いコシ。この両立こそがつけ麺最大の武器であり、それを見事に活かした逸品であると言える。
また付け合わせの半熟煮卵やチャーシューもこれまた絶品であり、麺と一緒に食べる事で味や食感に変化をもたらすと同時に、その濃厚つけダレの美味しさをより一層際立たせている。
「ネージュ、初めてのつけ麺の味はどうだ?」
「うむ……。なんとも強烈な味わいだなこれは。まるでうま味の爆弾を口の中へと投げ入れられたような気分となる。これはある意味では伝統的な作法を無視して作られた料理だと言えるのかもしれないな。だがしかしその一方で別種の論理に基づき、いくつもの味が複雑に組み上げられている事も感じられる。そうだな……一言で魚介の旨みといっても数種類の節類や煮干しに昆布、ホタテなど様々な食材が凝縮されているようだ。それに加えて豚骨や鶏ガラなどの動物系の味を合わせる事で味の奥行を生み出しているのだな」
ネージュはラーメン自体には詳しくないとはいえ、お嬢様育ちなだけあって舌の方は十分に肥えているらしい。何種類もあるだろう出汁の具材をあっさりと言い当てて見せる。
ちなみに俺にはそんな事さっぱり分からないので、ネージュの言葉が正しいかどうかは判断がつかないのだが。
所詮ただのラーメン好きである俺の舌はその程度であったが、だがそれでいいとも思っている。別にマニアのような肥えた舌を持たなくとも、ラーメンという料理には十分に楽しめるだけの懐の広さが存在するのだから。
「ふむ……。このように麺が太いのも、この濃厚なつけダレをたっぷり絡ませる為の仕掛けなのだろうな」
そんな風に味の分析をしつつも、手の動きを止める事無くつけ麺を食べ続けるネージュ。その表情はとても満足そうであった。
どうでもいいけど麺をスルスルと食べているのに、啜る音さえしないのはどういう技術なのだろうか。名家のお嬢様って凄いんだな。
「むっ、タレが少し温くなってきたな」
どうやら食べるのに夢中でIHヒーターの電源をつけ忘れていたようだ。それを指摘してやると、ネージュがハッとした表情になる。
「……なるほど、そういうことであったか。つけダレが温くなってしまうと味が落ちてしまうのだな。この美味しさの秘訣はやはり麺とつけダレの温度差にあるという事か」
麺とつけダレに温度差が存在するからこそ、食感に独特のメリハリが生まれるのだ。これもまたつけ麺ならではの特色と言えるだろう。
加えて俺みたいな猫舌な人間にとっては、熱々のラーメンをそのまま食べるの大変なので、温度調節が出来るという点も地味に助かるのだ。食事とはやはりストレスなく食べれるという事も、地味ながらに重要な要素であるのだろう。
「そういやルクス、そっちのお味の方はどうなんだ?」
俺達が麺を食べている代わりに、ルクスは豚肉を食べているはずである。そしてそれは俺にとっても未知の料理であった。想像する限り、この濃厚なつけダレは豚肉とも十分マッチしそうに思えるのだが、やはり実際に食べてみない事には何とも言えない。
なので俺はそう尋ねたのだが、ルクスはなんとも言えない表情をしていた。
「……うん。美味しいのよ。すっごく美味しい、ホントにね」
口では美味しいと言っている割に、どうも表情が硬いように見受けられる。
「どうしたんだ? なんか不満がありそうに見えるが……」
「違うのよ。本当に美味しいの。ただね……なんかその……しゃぶしゃぶを食べてる気分なのよ……」
「あ~~」
つけダレが温かい点を除けば、確かにほぼ冷しゃぶそのままの絵面である。
「いやさ、でもそんなの食べる前から分かってた事だろ……?」
「そうよね……。ホントそう。でもいざあんた達が美味しそうに麺をすすってるのを見ちゃうと、どうしてもね」
ヘルシーさに釣られて麺を肉へと変えたものの、今更になってこちらが羨ましくなってきたらしい。
まあラーメン屋に来れば麺を食べたくなってしまうのは当たり前の話だ。そもそもラーメン屋で肉を食っているという状況こそがおかしいのだから。
「しゃーないな。ちょっと俺のを食うか?」
幸いこの店では、無料で麺の量を特盛まで変更できると言うサービスを行っていた。三十路前にして未だ食べ盛りの俺は当然特盛にしてある。なのでルクスに少しくらい分けても特に問題はないのだ。
「ううっ、ありがと」
顔を真っ赤にして目を逸らしつつも、そうボソッと礼を述べるルクス。
「うん! やっぱつけ麺は麺を食べなくちゃね!」
だがいざ食べ始めると、すぐに満足そうな笑みを浮かべたルクス。だが彼女が言っていることは、ハッキリ言って当たり前過ぎて、もはや突っ込んだら負けだとすら思えてくる内容だ。
「貰ってばっかりじゃ悪いから、こっちも少しあげるわ」
そう言ってルクスが肉をこちらへと寄越して来る。
……単に摂取カロリーが気になっただけじゃないだろうな?
まあ興味があったのも事実なので、ここは有り難く頂戴しておく事にする。
「ふーん。これはこれで結構いけるな」
美味しいというルクスの言葉に偽りは無かったようだ。
しゃぶしゃぶを食べる際などに、このつけダレがあったならば是非とも使いたくなる。それくらいに豚肉とも良くマッチしていた。
……ただやっぱこれ、普通にしゃぶしゃぶだよな。
そんな感じで麺(と肉)を食べ終わった俺達3人。
「〆の雑炊をお持ちしても宜しいでしょうか」
それを察知した店員さんが音もなくこちらへとやって来て尋ねてくる。こういった大衆店では、今のような地味な気配りがちゃんと出来ている店は案外少なかったりする。これもまた優良店である事の証左だろう。
「お願いします」
俺がネージュに無料のランチサービスをあえて頼ませなかったのは、この味玉つけ麺セットには〆に雑炊がついていたからだ。
なら、ランチのご飯を入れれば良くね? と思う人もいるだろうが、それは大きな間違いであると断言する。
「お待たせしました。こちらはチーズが溶けた頃にお召し上がりください」
そう言ってご飯と共に出て来たのは山盛りのチーズであった。
「ふむ。これをつけダレへと入れるのか」
「そうだ。いわゆるチーズリゾットって奴だな。俺も食べるのは初めてだ」
残ったつけダレの処理としてはスープ割りにして飲むのが、以前は一般的だったと思うのだが、最近ではこのようにご飯を投入して食べる店も多い。
「美味しいそうだけど、ご飯はもう少し早く欲しかったわね」
いくらヘルシーな肉とはいえ、濃厚なタレで肉ばかり食べていれば、そりゃご飯が欲しくなるさ。ならいっそ追加注文すれば良かっただろうに。まあルクスにとって、これ以上のカロリー摂取は耐えがたかったのだろう。麺食べない分をご飯で補ったら全然意味ないしな。
IHの電源を入れて、つけダレを再加熱する。ぐつぐつと煮え始めたらご飯を投入して再度温まるのを待つのだ。美味しそうな匂いが漂い始めて、満たされたはずの腹の虫が再び騒ぎ始めるのを感じる。
……これは期待できそうだな。
再度ぐつぐつし始めたら今度はチーズを投入だ。焦がさないようにレンゲで混ぜながらチーズが溶けるのを静かに待つ。
「さて、そろそろかな」
チーズがいい塩梅になったのを見計らい、IHの電源を止める。これで特製チーズリゾットの完成だ。
「へぇ、美味しそうね」
「そうだな。濃厚な豚骨魚介のつけダレと大量のチーズ、そして白ご飯、この3種が合わさる事で一体どのような旋律が紡がれるのか。さて、この舌で確かめるとしよう」
「熱いから火傷しないように食えよ」
チーズが絡まったご飯をレンゲで掬い取り、フーフーと息を吹きかけて冷ましてから、それを口に含む。
「ふぅぅー。熱い! けど旨い! 濃厚なスープとチーズが喧嘩するかとも思ったけど、これまた案外良く合うんだな」
魚介系とチーズはあまり合わない印象だったのだが、意外とそうでもないらしい。ここは口コミの評判を信じて正解だったようだ。
てか影山さんが何でこの店の事を知っていたのか、正直かなり不思議だ。ああ見えて実はこの店の常連客だ、なんて事は流石にないと思うのだが。
「うむ。なんとも豪快な料理だが、それ故に何か強烈な魅力が感じられるな」
これにもネージュは満足のようだ。
一通り食べ終わり、レモン水で口の中を浄化してから一息つく。
「それで、どうだったよネージュ? こういう店もたまには悪くないだろ?」
「うむ。良くも悪くも大味感はあったが、それもまた一つの魅力なのだろう。普段の料理に不満がある訳ではないが、こういった料理も決して馬鹿にしたものではないと思い知らされたよ」
うんうん。なんとも理想的なハマり具合だ。
俺みたいにハマり過ぎてそればっかり食べるのも健康には良くはないからな。こういった店は時々訪れるくらいが丁度いいのだ。
「さて、お腹も満たした事だし、そろそろ本来の目的地へと移動するとしようか」
「あっ、そ、そうだな」
「イツキ、あんた博物館の事忘れてたでしょ?」
ルクスのツッコミは完全に図星であった。
久しぶりのラーメン屋が楽しみなあまり、俺は本来の目的を完全に失念していたのだ。
「ははっ、まあ良いではないか」
結局、危惧していたアリスリーゼの襲来はなく、3人とも和やかな食事の時間を過ごすことが出来た。
こうして俺達は満たされた気分のまま、次なる目的地である博物館へと向かうのだった。
ラーメン自体は凄く好きなのですが、残念な事にラーメン不毛の地に住んでおりますので、それほど詳しい訳ではありません。なのでラーメン好きの方からすれば色々とツッコミ所の多い話となっていたかもしれませんが、笑って流してくれると助かります。
そんな訳で次回は博物館へと向かいます。
またまたゲーム外での話となりますが、こちらは本筋に関連する話となっております。
その次からはゲーム内へと戻る予定です。




