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1 世界扉(ワールドゲート)

今回より2章開始です。全10話の予定です。

最初の2話は、新キャラ視点となっております。

「チィッ! ユキムラ! ゴブリン共が全部そっちにいきやがった!」


 パーティの盾役(タンク)であるシンゲンが、そう叫んだのとほぼ同時に、敵モンスター達の視線が一気に俺の方へと集中する。


「くそっ、まじかよ!? ちょっ、ヤバいヤバい! 死ぬ死ぬ死ぬっ!」


 古都ブルンネンシュティグからほど近い、普通の草原エリアの一角で、俺達はモンスターを狩っていた。

 いや、狩りというよりはもはや、殺るか殺やられるかの生存競争と表現する方がより近いかもしれない。

 現にこうして今の俺は、ゴブリン共に追われ囲まれピンチに陥っている真っ最中だ。


「くそっ、なんでたかがゴブリンがこんなに強えぇんだよっ!? ざけんなや!」


 シンゲンが何か叫んでいるが、今はそれどころではない。


「いいからさっさと倒してくれっ。でないと死んじまうっ!」


 そう叫びながら俺は、迫りくるゴブリン達から必死に逃げ惑うのだった。



 その後、どうにかこうにかゴブリン達の群れを撃退する事に成功し、俺は辛くも生き延びる事が出来た。

 しかし、この1戦での精神的疲労はかなり大きく、とても連戦なんて出来る状態ではなかった為、すぐさま安全地帯へと退避して休むことにした。


「はぁはぁ……。有り得ねぇだろ、この難易度。これで一番弱い敵っていうんだから信じられねぇ」


 草むらにドッと身体を投げ出したまま、シンゲンがそうボヤく。

 それには俺も同感だ。ただそんな気持ちとは裏腹に口角が上がってしまうのを止められない。


「おい、何笑ってんだよ、ユキムラぁ」


 チッ、と舌打ちしながらシンゲンがそう毒づくが、そんな様子が増々俺に笑いを誘うのだ。 


 シンゲン本人は列記とした男性なのだが、今の彼の見た目はどうみても少女そのものだ。

 涼し気なドレスを纏い、儚げな雰囲気を醸し出すその見た目と、彼の荒い言葉遣いがとてもミスマッチで、それがなんともおかしく感じられるのだ。だから、つい笑ってしまうのは不可抗力なので、どうか許して欲しい。


「でも可愛かったですねぇ、あのゴブリン達。あんな可愛い子らに追い回されるなんて、ユキムラさんも男冥利に尽きるでしょう?」


 などとズレた事を言うのは、仲間の一人であるケンシンだ。

 彼もまた幼い少女の姿をしている点は同じなのだが、口調が幾分柔らかい為、まだ違和感は少ない。


「いやいや。そんな事考えてる余裕なんてなかったからな?」


 そんな彼の発言に対し、苦笑しながら俺はそう返す。


 あの女性型のゴブリン共は可愛い見た目に反し、侮れない攻撃力を持っていた。

 俺が扱うアバター"メフィストフェレス"のクラスはウィザードであり、攻撃力は(レア)アバターにしては高めなのだが、反面、耐久力に乏しい。なので、あの状況で下手に反撃しようと足を止めれば、タコ殴りにあって即座に死んでいたと思われる。

 迂闊にも最初の範囲攻撃で敵のターゲットを集めてしまった俺は、以後ずっと逃げ回る羽目になったという訳だ。


「またまた~。逃げながらもなんか楽しそうでしたよ?」


「あー、まあ、割と楽しかったのは認めなくもないな。ただ、それは別にゴブリン共が可愛いからとかじゃなくて――」 


「ぐふふ。安心しなさい。3人とも可愛いわよ?」


 俺の言葉を遮り、何か妙な事を言い出したのはナガヨシだ。

 男のような名前とは裏腹に、その見た目は優し気な印象を受ける女性の姿で、実際その中身も唯一女性である。

 ただ彼女は、どうやらいわゆる腐女子という人種に分類されるらしく、俺達が女性型のアバターを纏うようになってからは、時折、今のように生暖かさを感じる視線を送ってくるのだ。全く困ったものである。


「はぁ、勘弁してくれや。俺は女装趣味なんか持ってねぇぞ?」

 

 シンゲンよ。俺もその言葉には全くもって同意させて貰うぞ。

 どうして、男性型アバターは一向に実装され無いんだろうな?

 この世界はなまじ現実感があるせいで、女性の姿で居続けるとなんだか妙な気分に陥ってしまう。

 そしてそれが、案外不快では無いせいで、余計危機感を感じてしまうのだ。


「うーん、僕は割とこの姿も気に入ってますけどねぇ」


「マジかよ……」


 ……ケンシン、おまえがそんな奴だったとは知らなかったぜ。


 コイツラ3人とは付き合いはそれなりに長いものの、リアルで直接顔を合わせた事はまだ一度も無い。

 住んでいる所も別にそう離れてはいないようなのだが、不思議とリアルで会おうという話になった事は無かった。

 まあだからこそ今のように緩い雰囲気を保ったまま、長く付き合えているのだとは思う。



 さて少し遅くなったが、簡単に自己紹介をしよう。

 俺の名前は、真田太一。ゲームをこよなく愛する普通の大学生だ。

 プレイヤーネームとして使っているユキムラの名は、同じ苗字を持つ戦国武将から頂戴したものだ。

 ああ、別に実家が由緒正しい家系とかそういった事は無く、ごく普通の一般家庭の生まれだ。


 そんな平凡な俺が尊敬する人物として、真っ先に思い浮かべるのは、なんといってもラグナエンド・オンラインの開発責任者にして、天才技術者としても世に名高いあの久世創だ。


 彼は世に姿を現してからずっと、ゲーマー達の夢の支柱たるVR技術を暴力的な加速度で進化させていった。

 その結果、業界全体の技術レベルは大きく引き上げられ、その事がゲーマー達に齎した恩恵は図りしれない。

 彼の存在が無かったら、フルダイブ型のVRゲームを家庭で楽しめるようになるのは、俺が老人になってからくらいだろうと言われていた程なのだ。


 一方で久世創には、色々と謎も多い。


 彼がその頭角を現したのは、まだ大学1年生の時の事だったそうだ。

 新星の如く突如として学会に現れ、その場に居た教授たちの度肝を抜いたのが、成人すらまだの学生だったというのだから、ただただ驚きの一言だ。

 俺も現役の大学生だから分かるのだが、普通の大学1年生というのはそもそも学会などとは、ほとんど縁がない存在だ。

 それが独学で百戦錬磨の教授たちの遥か上を行き、当時のVR技術の常識を一気に塗り替えたというのだから、もはや意味が分からない。


 その辺に関して、当時の詳しいやり取りや発表された論文の内容について気になり調べた事があったのだが、何故か一切の記録がネット上を含めどこにも残っていなかった。

 見つかったのは学会の参加者達が残した日記くらいで、当時の筆舌し難い雰囲気をなんとなく読み取るくらいしか出来なかった。

 いくら10年以上も前の話とはいえこれは明らかに異常な事であり、実際それに関する様々な噂がネット上では流れていたが、どれも信憑性に乏しい話ばかりでほとんど参考にはならなかった。

 

 以後も、彼は次々と革新的な論文を発表していく。

 そのあまりの技術革新の早さに、ついていけなかった学生たちも当時はかなり多かったと聞いている。

 まあよくよく考えてみればそれも当然の話なのだと思う。

 学校教育に例えれば、毎年のように教科書が全面改訂をされるようなものだ。学生達が混乱するのはまず目に見えている。

 俺的には今も尚その進歩は十分に早いと思うのだが、当時はその比では無かったらしくその頃の学生たちの苦労が偲ばれる。


 そんな風に色々と周囲に傷跡を残しつつも、彼は歩みを一切止める事なく進み続けた。

 大学をあっさりと中退した彼は、資産家である語部森羅と共にミュトス社を立ち上げる。

 以後の話はネット上を漁ればいくらでも記録が残っているので割愛するが、ミュトス社は目覚ましい発展を遂げるのだった。


 久世創に関する謎はまだ他にもある。

 何故、彼の論文があっさりと学会に受け入れられたのか。当時の彼はまだただの学生だったのだ。

 VR技術がいくら最先端の学術分野と言っても、保守的な層はいくらでも存在する。

 そしてそういった連中というものは得てして、それ相応の権力を持っているモノなのだ。

 間違いなく彼らは久世創の排除に動いたと思うのだが、現実は逆であり保守的な人材が学会から一掃される結果となったようだ。

 この事に関してネット上などでは、既に語部森羅と手を組んでおり、彼が裏で何か仕掛けたのではないかと噂されているが詳細は闇の中だ。

 というのも学会を去った教授たちは皆、その件に関して一切口を閉ざしたからだ。


 そんな風に謎の多い久世創という人物であるが、そんな彼の最大の謎とされているのは、彼の恐るべき仕事の早さだった。

 大学在籍時には有り得ない程の速さで次々と革新的な論文を発表し、ミュトス社を立ち上げてからは新技術を満載した新製品を次々と販売していった。常識的な尺度で考えれば、一人の人間がこなす事が可能な物量を明らかに超えていたのだ。

 そんな訳もあり一時は、久世創という存在は実は何人もの研究者達が作り上げた仮想の存在なのではないかと、まことしやかに囁かれたりもしたようだ。

 実際彼が積み上げた偉業の数々は、歴史上の天才たちが何人も集結しなければ成し得ない程の量であったとされる。


 研究者としての有能さを発揮する一方で、彼自身は案外親しみの持てる性格をしている事が最近になって知られるようになった。

 それまでも世間ではミュトス社の開発責任者として名を馳せていたが、その一方でその人物像についてはほとんど知られていなかった。

 ミュトス社の社員ですら、彼と会話を交わした経験がある人間はほとんど居ない、なんて噂もあるくらいだ。

 そんな彼がネオユニヴァース及びラグナエンド・オンラインの発売発表に際して、初めて公の場へ姿を現したのだ。

 

 その時見た久世創の姿は、俺の脳裏に今でも鮮明に焼き付いている。

 初めて見た彼は、もう30を超えた人間とは思えない程に若々しく、けれど老練さすら感じられる威厳を併せ持つという、非常に矛盾した稀有な存在であった。

 しかし彼がその口を開いた時、その印象はまた一変する。

 彼がネオユニヴァースがどれ程優れたVRゲーム機なのかを語れば、その弁舌の巧みさに思わず聞き入ってしまう。

 ラグナエンド・オンラインの世界の美しさ、広大さ、何より現実の肉体のくびきより解き放たれて仮想世界を自由に動き回れることの素晴らしさについて、熱の籠った表情で語る彼の姿を見た際には、気が付けば俺の顔は上気し、心中は得も知れぬ恍惚感に包まれ、気が付けば俺は彼の信奉者へと成り果てていた。

 その事について自分でも少し変だなと思わないでもないが、それでも彼への飽くなき信仰心は今も留まる事を知らないのだから、どうしようもない。


 色々と語ったが結局のところ何が言いたいかというと、俺は久世創という神の如き天才を尊敬し、崇拝し、そして信仰しているのだ。

 だからこそ、彼がかつてない程に注力して作り上げたと目されているラグナエンド・オンラインには、並々ならぬ期待を抱いていた。


 だが、現実のラグナエンド・オンラインは、そんな俺の上げに上げまくった高いハードルすら容易く超えていった。俺は驚愕と共に久世創という人物の凄さを改めて再認識させられたのだ。

 これまでのVRゲームとは天秤に掛ける事すら烏滸がましい程の圧倒的なリアリティ。それを実現可能にしたのは、ミュトス社のオンリーワンテクノロジーである全感覚没入型(フルダイブ)VR技術、そしてそれらが余す事なく投入され作られたネオユニヴァースの凄まじいマシンスペックのおかげである事は間違いない。

 だが他社製のソフトウェアでは、ネオユニヴァースの性能をほとんど生かし切れておらず、本当のフルダイヴVRというのものは結局ラグナエンド・オンラインでしか体験出来ないのだ。この事実からも久世創という人間の凄さが良く分かるだろう。

 そもそもからしてネオユニヴァース自体が、久世創によって造られたマシンであるので、どの道フルダイブVR技術における彼の寄与を疑う余地など元から無いのだが。


 久世創が作り上げたラグナエンド・オンラインというゲームは、俺の想像を遥かに凌駕しまた理想を良く体現してくれた。

 故に俺がその世界へとどっぷりはまり込むのは、ある意味必然であったと言えるのだろう。


「――おいっ! ユキムラ! おいっ!!」


「はぁ、なんだよ、シンゲン?」


「なんだじゃねぇぞ、てめぇ? ちゃんと調べてんのかよ? またいつもみたいに現実逃避でもしてたんじゃねぇのか?」


 いつも通りに刺々しい彼の口調も、儚げな少女の口から再生されれば威圧感など欠片もなく、むしろ微笑ましさすら感じられる。


「だからなぁ。いつも言ってるけど現実逃避じゃなくて、ただ考えを整理しているだけだって。それで調査の方だけど……俺の方ではそれらしき情報は見つからなかったな」


「……そうですか。こちらも同じです。……やはりこれは未発見のゲートで間違いないと思いますよ!」


 やや興奮気味にケンシンがそう言う。

 そんな彼の視線の先には、敷き詰めれば人が100人は乗れそうな程に巨大な魔法陣が存在していた。


 この魔法陣は、俺達が入手した情報が正しければ、世界間移動用の転移魔法陣だろうと推測される。

 俺達が今いるミッドガルド以外にも、ラグナエンド・オンラインにはいくつもの世界が存在している。

 それら別世界へと渡る際に用いるのが、この巨大な転移魔法陣、通称"世界扉(ワールドゲート)"なのだ。


「ねぇ、それって。その先の世界に訪れたプレイヤーは、もしかして私達が初めてって事になるの?」


「そういう事になるだろうな。ただ、ゲートの先がどんな世界なのかは、全くもって不明だけどな」


 下手をすれば、渡った先で即座に死ぬなんて可能性もあるかもしれない。

 まあ流石にそれはないか。


「そっかー。どうせなら、ムスペルヘイムに繋がってればいいね!」


 ムスペルヘイムとは、サービス開始時に運営によって公表された10ある世界のうちの1つだ。

 その名の由来は北欧神話に出て来る灼熱の世界からだと思われる。

 そして、つい昨日から開始されたイベント"万象焼き尽くす炎魔神"が開催されている世界でもあった。

 こんな真夏の暑い時期に、わざわざそんな暑苦しいイベントをやらなくてもいいと思う。

 しかしそんな事よりもプレイヤー達にとって切実な問題は、現時点ではそのムスペルヘイムへと至る世界扉が未発見であるという事だった。

 折角新イベントが開始されたにも関わらず、未だ誰一人として参加出来ていないというちょっと有り得ない状況なのだ。

 

 ……てか、絶対おかしいよね、これ? 運営さぁ。お願いだから、もうちょっと考えてイベント実装してくれよ。ホント頼むよ。

 

「そう都合よく行くかねぇ。ぶっちゃけ、あんま期待しない方がいいと思うぞ? ムスペルヘイム以外にも未発見の世界扉はいくつもあるからな」


 というか現時点ではここを除けば、まだ2つしか世界扉は発見されていないのだ。

 世界扉は少なくとも後7つは有る筈なので、お望みの世界を引ける確率は僅か1/7だ。

 これが仮に10連ガチャだったならばなかなかの高確率なのだろうが、生憎とこれは一発勝負なのだ。

 そうそう運良くお目当ての世界を引き当てれるとは思える程、俺は楽観的じゃない。


「うーん、まあいいんじゃないですか? 僕達が新世界を発見した事に違いはないんですし。それよりもいい加減覚悟を決めて、中に入りましょうよ~」


 ……言ったな? その言葉を待っていたのだよ。ケンシン君。


「うっし、じゃあお前が最初に行けや!」


「そうだな。言い出しっぺなら同然だよなぁ?」


「うふふ~。ケンシン君のカッコいい所見てみたいなぁ~」


 ここぞとばかりに皆、責任をケンシンへと押し付けていく。


「ううっ、これはやっちゃったかなぁ……」


 ケンシンは今更ながらに失言を悟ったようだが、残念ながらもう遅い。


「ほら、覚悟を決めてさっさと行って来いよ」


 そう言いながらケンシンを魔法陣の方へと押しやる。


「はぁ、失敗したなぁ。……分かりましたよ。ちゃんと行きますからいちいち押さないで下さいよ。まったく……」


 覚悟を決めたといいつつ、未練がましくこちらへとチラチラ視線を送って来るが、一切無視だ。

 

 ……いいから、はよいけ。


「ううっ。……骨は拾って下さいよぉ」


 涙声でそう情けない言葉を言い残して、世界扉の上に立ったケンシン。魔法陣が眩い光を放ち、やがてその姿が消えていく。


 ちなみに当たり前の話だが、この世界で死んでも拾う骨なんて残りはしない。

 だからその頼みは聞けないな。まあ頑張れってくれ。


「いっちゃったね。ケンシン君、大丈夫かなぁ?」


「まあ、死んでも街に強制送還されるだけだ。そんなに気にする必要はないさ」


 街からここまでまた歩いて来るのは手間だが、だがそれだけであるとも言える。


 ……騎獣があれば、もう少し楽なんだろうけどな。

 

 それから待つ事しばし、されど中々ケンシンは帰って来なかった。

 パーティ通話による連絡も無い。


「……ちっ、ケンシンの奴、なんか遅くねぇか」


 舌打ちしながらシンゲンがそんな事を言う。

 だから、その姿でその口調はホントやめてくれ。笑っちゃうから。

 とはいえ、彼の言う事も一理ある。


「そうだな。周囲の状況を確認したらすぐ戻るって言っていたはずなんだが……」


 ただ周囲の安全確認をするだけならそんなに時間は掛かるまい。

 ケンシンの身に何かあったのだろうか?


「そだね~。ただHPは減ってないから、まだ生きてるっぽいけど」


 パーティメンバーのHPは視界の左上に表示されている為、もし何かあればすぐ分かるはずなのだが。


「となると、モンスターにでも追い回されて、逃げ回ったりでもしてるのかね?」


「あ、見て!」


 そんな事を話していたら、いつの間にか目の前の世界扉が再び輝きを帯び始める。

 それを認識した次の瞬間、眩い光と共に人影が姿を現した。


「ケンシン、てめぇ! 遅ぇじゃねぇか!」


「はは、いやぁ、すいません。興奮して色々と探索してたら、遅くなっちゃいまして……。でも待たせた分だけ成果はばっちりですよ!」


 っておい。まさか、お前一人で新世界の探索を進めてたのか?

 それってちょっと酷くね?


「てめぇ! 何一人で抜け駆けしてんだごらぁ!」


「そうだ、そうだー。そういうのは皆でやるべきでしょー」


 他の2人も俺と同じ思いを抱いたらしく、口々にケンシンに対し批難の言葉をぶつけていく。


「あっ、つい夢中になって……。すいませんでした……」


 自分の失態を悟ったらしくケンシンがそう俯く。

 だが。見た目が幼い少女である今の彼を見ていると、なんだかこちらが悪いような気分になってくる。


「ま、まあ、ケンシンも反省してるようだし、今回は特別に許してやろうぜ。それよりもあっちは安全なんだな?」


「え、あっ、はい! 周囲にモンスターの姿は無かったですし、大丈夫だと思いますよ」


 仕方なしに俺がフォローしてやると、それに気付いたケンシンは嬉しそうに顔を上げてそう答える。


「そっか~。そ・れ・で! 肝心の新世界はどこだったの?」


 ナガヨシが俺達が一番気になっている事柄について、代表して尋ねる。


「ふふふっ。それはまあ、実際に見てからのお楽しみですよ!」


 指を頬に当てて妙なポーズを取りながら、そんな台詞を口走るケンシンに対し、少し殺意が湧いて来る。

 見た目がどうでも、やはりケンシンはケンシンなのだ。

 こんな事なら、さっきフォローなんかしなければよかったと後悔する。


「ちっ、じゃあ、さっさと行くぞ!」


 待ちきれないといった様子で、シンゲンが動き出す。


「そうだな。危険は無さそうだし、俺達も行くとするかー」


「だね~。うわ~、どんなとこなのかなぁ、楽しみだね!」


「あ、ちょっ、待ってくださいよ~。僕だけ置いてかないで下さいっ」


 シンゲンを先頭とし、今度は4人全員で世界扉の魔法陣へと飛び乗る。

 こうして、俺達は未だ見ぬ新世界へと旅立つのだった。


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