1話 万屋
1章始まった!
起きる。
…目が覚めた。
緊張していた身体が、やけに弛緩を求める。
本能の赴くままに、ぐううぅっ、と伸びをした。本能って言うのかはちょっと分からんけど。
やけに身体が動きたがる。
どうやら調子が良いらしい。
薄い布団を退けると、するするそろそろ流れるようにたたむ。
右足、左足の順に日常の様に足を下ろす。
立ち上がり、大きな音を立てないように、とっとっ、と数回、ジャンプをする。
その勢いのまま食堂へ行こうとドアの前まで歩いて、止まる。
部屋着のままだったのを、思い出した。
2、3分の後、着替えた俺は、ドアを開ける。…かちゃ。きい。
部屋を出ると、室内とはまた違う空気が流れていた。
鼻で大きく息を吸い、同じく鼻で、大きく息を吐く。
部屋に鍵をかけて、たすたすと、廊下を歩く。
食堂へ行くと、少し朝早いこともあってか、数人が朝食を食べていた。
食堂に踏み入れて少し、宿のおっちゃんに声をかけられる。
「朝はバイキング形式な」
皿を渡される。
うんまあ、なんでもいいけれど。
食べるか。
※※※※※
食べ終わり、宿のカウンターに鍵を預けて、街に出る。
数度の深呼吸の後、改めて街を見てみるけれど、やはりきれいな街だ。
数分歩くと見えた。昨日見つけた、面白そうな場所。
暗い、路地。
つかつかと、歩をすすめる。
他の通りへ続いていた。
少し残念。
まあ、脳内マッピングの精度が高まったしいいか。
この通りに用はなかったので、くるりと踵を返し、戻る。
その途中、暗い路地が左手側にある。
来るときには見えなかった。
…………興味が湧くね。
じゃあ、行くか。
たすたすたすたす。
とことことことこ。
つかつかかつかつ。
ざっざっ。
……………………。
…………………………。
家が………あった。
何の変哲もないただの家。
どんなオチだ。いや、これをオチとは呼ばないな。
だって、気になったから行ってみました。と来て、見つかったのは見慣れた普通の家とは。
…………見慣れた?普通の?
家を見る。びっくりだ。
木造建築だ。
まあでもこうなると、何かないか探したくなるよね。
だって、この世界に来て初めて見る木造建築だ。何かあるに決まっている。
ゆるゆると視線を動かせば、木製の看板を見つける。
焦ることでもないので、とす、とす、と、少しスピードを落として歩く。近付く。
『万屋ヴァ二フェ』
と書いてある。
ただし、俺自身は文字を読めてはいない。スキルによって、脳が直接理解した。少し気持ち悪い感覚だ。
まあだが、これのおかげで読めるわけだから、慣れなきゃいけないが。
と、そういえばこの家の話だ。
なるほど、万屋か。
…………万屋?
万屋…………………。
………………………………。
万屋って、何すんの?
入ってみるか。
がちゃ、からん。
ドアを開ければ、ベルがなる。………ふつーだ。
しかし、店の中は、普通じゃあない。
薬、剣、盾、石、草、短剣、虫?、本、杖、などなどなど。あげていったらきりがない。みたいな感じ。
え、なにこれかっけぇ。などと、面白くて見回していると、奥から歳をとった男が出てきた。………あ、女もいた。
どっちも年寄りだな。
まあ、そんな事はどうでもいいのだ。
「ここは何をしている店なんですか?」
俺は問う。
「なんじゃ、外の看板を見なかったのか?にせよ、中を見れば分かるはずなんだがのう?」
「分からないから言ってるんだがなぁ」
男が喋り、俺がそれに応答する。
「ここは、武器に防具、鍛冶をするための鉱物や、魔術書なんかの冒険者の手伝いをするものや、日用品なんかも多く取り揃えているよ。ま、つまりは、万、入手が困難なものなんかでなきゃ、殆どのものは買える」
爺さんが喋った。もう爺さんでいいだろ。
「ああ、すまない。薬が抜けておった。状態異常、HPの回復、MPの回復等の効果のある薬も売っている。何か用は有るかね?」
んむ。おーけーだ、爺さん。理解した。
まず、俺の特性を考えてみよう。
投擲最強。あとはだいたいゴミ。ただし、投擲補助でいざって時には、どうにかなるかな。
………だが、油断はいけない事だ。油断は禁じるべき事で、油断は大きな敵となる。
石ころを集めるのも良い手だと考えたが、少し面倒だ。まあ、ここで駄目なときは、それをするが。
まずは、
「ここでは、ふっつ〜〜〜〜〜〜の、石ころって売ってるんですか?」
「ああ?ああ。売っているが?庭師とかがよく買っていくなぁ。あんたもしかして、庭師?」
「いや、違うけどさ」
てか、この世界の庭師は、石を敷き詰めるみたいなこともやるの?あれ、あっちではどうだったっけ?まあでも俺、そんな詳しくないし、良いか。
それよか、買い物だ。
「じゃ、まあそれを、これで買えるだけくれ」
言って、店のカウンターに、半金貨をおいた。
あともう少しで、バトル…多分。