姉ちゃん清潔
刀を売り、そのお金で麻の服を買う。
「この時代ぽっい姿になったね」
姉ちゃんは何を着ても似合うなー。
色気がやばい。
しかも黒いブラが見えちゃってるんだよな。
姉ちゃん黒好きなんだね。むふふ。
次に探したのは、長屋だ。
「服は高かったけど、借家は安いね。現代と比べるとなんだか違和感あるね」
借りた家は、当然一階立ての木でできた家だ。
お隣に、あいさつに回り夫婦だと間違われてとても嬉しい。
「いえ、これ弟なんです」
「あらそうなの? それにしても強そう。どこかのお侍様?」
「いえ、特には」
「あら、もったいないあなたならどこでも仕官できるわよ。うふふ」
姉ちゃんがこっちをちらっと見る。
戦国武将とか興味ないです。
横に首を振ると納得してくれたようだ。
一通り挨拶が終わると姉ちゃんが言った。
「まずは、石鹸でも作っちゃう?」
「石鹸?」
「ここで快適に過ごすには絶対に必要だと思うんだよね。石鹸」
ふむ。たしかに、すでに体はべとべとしてる。
というわけで。
「賛成」
「石鹸の作り方は、油にアルカリ性のものを入れて煮込めばいいのよ」
姉ちゃんのうんちくは長い。
「だから、とりあえずは油を買って、灰を貰って鍋で煮込もうかしら。将来的には苛性ソーダを作って量産して、大儲けしてやるわ」
おっめずらしく、うんちくが短かった僥倖。
座にやってきた。
座とは、現代で言う共同組合なんだそうだ。
「初めてのお客さんですね。座は初めてですかな?」
「ええ、油を買いたいのですが」
「そうでしたか、ここは油座。綺麗な女性には勉強させてもらいます」
綺麗な女性、良いこというじゃないか。
「これだけ、香りのいい油でよろしく」
「おお、そんなに買っていただけるので、じゃあそうですね。椿でどうでしょう。少々値が張りますが、匂いは間違いございません」
「ええ、それでお願いします」
買ったのは、小さな瓢箪に入った椿油。
違う店で鍋も買う。
お隣さんから灰を貰って、薪を買いに行って火を起こす。
火を起こすのが大変で、ライターやマッチのありがたさを知ることになる。
高速で擦る木の棒。
隣で姉ちゃんが。
「がんばれ。がんばれ」
と、言ってくれたので、さらにスピードを上げる。
ようやくできた種火を麻紐を解した中に入れ、クルクルと回すとぼっと火がついた。
薪に火が移り一安心。
「ご苦労様」
そんな一言が超うれしい。
ご近所様に種火を分けてみんな幸せ。
「マッチも作ったら売れそうね」
姉ちゃんの言葉に激しく同意である。
囲炉裏で煮込まれる椿油。
俺たちの食事は、道端で売っていた焼き魚になった。
俺が5本で、姉ちゃんが1本だ。
「姉ちゃん足りる?」
「うーん、少し多いかも」
小食なのは変わってないようだ。
新鮮とはいいがたい焼き魚はメジナ、地方によってはクロダイともいう。
駿府の城下町は港町だけあって、塩は安いのだろう。
塩はよく効いている。
椿油と灰の石鹸は、鍋の形で完成した。
それを適度な大きさに切って、ご近所に配って回る。
姉ちゃん曰く、宣伝になるんだそうな。
製造方法極秘の椿石鹸が、商人を通して大名の元に届くのはもう少し先の話である。