姉ちゃん優しい
「運が悪かったな。ここは俺たちの縄張りなんだよ。身ぐるみとその女を置いて、消えな。げへへへへへ」
森を抜け、小さな道を出たところで出くわしたのは、刀や槍を持った男たちだった。
汚い、それが第一印象だ。
「いい女抱えてるじゃねえか、今晩はお楽しみだ野郎ども!!」
いい女というところは、極めて同意である。だがお楽しみだぁ? 今晩お楽しみだぁ?
それを言っちゃ、おしまいだよな。
俺は姉ちゃんを降ろして臨戦態勢になる。
「囲め、奴は無手だ。恐れることは──」
まずは、リーダーらしき男の後頭部にハイキックを食らわす。
吹っ飛び崩れ落ちるそれをみて、後ろの男たちが間抜けな声を出した。
「へ?」
「た、太郎、手加減。試合でも手加減覚えたんでしょ? 手加減しなきゃ情報を聞き出せない」
「はーい」
そうそう、俺ってば自称試合では無敗なんだよ。
山田流古武術的には、全く問題ない目潰しに噛み付き、金蹴りなどでいつも反則負けになってたんだ。
ちなみにセコンドの父の指示に従った結果で、俺は悪くない。
今放った後頭部への攻撃も禁止の格闘技は多い。
男の剣閃を避け、首に手刀を落とし意識を刈り取る。
その勢いで、次の男の顎を撫でる様に蹴る。
怯えて固まる男には、みぞおちに一発。男は刀を落としくの字に折れた。
最後の男は、距離をつめると自分の持ってた刀を地面に捨て。
「もうしわけございません。お許しくだせえええええええええええ」
戦意喪失で完全勝利だ。
「太郎ご苦労様、テレビで見るよりかっこいいじゃん」
「うへへ。そ、そうかなー。こんなの普通だよ」
俺は今、最高に幸せだ。
かっこいいだってさ、ぐへへへへへ。
「じゃあ、おじさん私の質問に嘘偽りなく答えてくれたら、見逃してあげる。おっけー?」
「おうけい?」
「わかったかって、聞いてんの!?」
「は、はい!! わかったであります」
前かがみになった姉ちゃんエロス。おっぱいぷるんぷるん。
とはいえ、もしかしたら小さな武器なんか持ってて姉ちゃんに傷なんてつけられたら目も当てられんので、意識のあるやつを揺さぶる。
ちゃりんちゃりんと小銭が落ちてきた。汚い銅銭だ。
武器を持ってないなら問題ない。
他の奴らも同様に振る。
そして、持ってるものを集めておく。
刀に小銭に竹の水筒だな。
「じゃあ、今の年号を言いなさい」
「へ、へぇ。明応9年でございます」
「1500年ね。じゃあ次に──」
姉ちゃんの尋問は続く。
俺は、質問に答えるやつの隣に、気を失った面々を並べる。みんな一撃で沈んだため、気を失ってるだけで済んでいる。姉ちゃん犯そうとして、これで済んでるんだから感謝してほしいね。手加減しろって言った姉ちゃんに。
「太郎、今は1500年でここは駿河のあたり……静岡の東の方ね」
「へー、でこれからどうするの?」
「うーん、どうしよっか? 帰ろうと思えば、いつでも帰れると思うけど?」
小首をかしげる姉ちゃんが可愛い。
現代日本に帰ったらどうなるのだろうか?
また、体を鍛えに鍛える毎日がやってくるのだろうか?
これでもチャンピオンだ。試合の日々ってのもあるかもしれん。
観客の前に出たらどこでもブーイングされるくらい人気はないけどさ。
それなら、ここに居たほうが姉ちゃんと一緒に居られるのではないだろうか?
そのほうが幸せ?
「せっかく、過去に飛んだんだから観光でもして回ろうか」
「それいいね」
ニッコリ笑顔の姉ちゃん。
その笑顔で俺はすっきりさ。
コソコソ逃げてく山賊たちも許せるってもんだ。
「じゃあ、あっちに街があるみたいだからそこ行こう。刀持ってきて」
姉ちゃんは、自分の足で歩くらしい。残念だ。お姫様抱っこしたかった。道いらね。
山田古武術では、在りとあらゆるものを使いこなす。
刀もだし、その辺に落ちている石だって俺にかかれば武器になる。
俺は姉ちゃんを何からでも守る決意で隣を歩くのだった。