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実は誰も気付いていなかったらしい

魔王軍驚愕の真実、明らかに

「ヤバいっすよ魔王様、大問題です!!」


 そう頭からツノを三本生やした小さな悪魔は叫んだ。彼の名は、そう……インプ君だ。同じ様な顔とツノと羽をしている奴が五十近くこの城には住んでいるが近頃何と無く見分けが付くようになってきた。


 しかしやはり急な話である。彼には魔王が座する謁見の間に、扉をノックして入るという思考が無いのかもしれない。そしてやはりものの数秒で本題ーー先程の言葉である。


「どうしたインプよ、また肉屋が倒産したか? 今度は一日一食ポテトサラダか?」

「あ、いやそんな大事ではないんスよ。多少面倒な事柄だと言うだけで」


 インプのその言葉を聞いて、謁見の間に集う魔物たちから溜め息が漏れる。先月程の肉屋倒産事件の余波は未だ大きく、三食に一食は肉が出るが基本主食は三食ポテトサラダである。幸いサイクロプスはまだ血を吐いていない。


 とにかく、だ。魔物たちはその様な地獄に叩き落される事が無いと知って安堵したのだ。しかし、それはたった一瞬の事だった。


「いや……四天王四砦、四番目の砦に誰も居ない事がバレたみたいっス」

「ふむ、と言う事は現時点で四天王が三人しか居ない事が人間に露見したと?」


 インプと魔王の会話に、謁見の間に居る全ての魔物が耳を疑った。耳が付いていない魔物も居たが、そんな事は蚊帳の外だ。


 四天王が三人しか居ない。そう言われて彼らは各々の記憶を思い出していく。四天王第一位は砦に引き篭もっている、第二位はありとあらゆる戦場を駆け回っている、第三位はほぼ常に魔王城で待機しているサイクロプスだ。


 ん?


 やはり三人しか居ない。その事実に気が付いたのか、側近は魔王へと恐る恐る声を掛けた。


「魔王様、本当に三人しか居ないのでしょうか? 確かにこの目ではそのもう一人を見た事がありませんが……」

「ああ、本当だ。かなりの高待遇で職安にも出しているのだが……来ないのだ、誰も」


 周りに控えていた魔物たちは戦慄した。側近にすら明かされてはいなかった軍事最高機密、その実態がまさかここまでブッ飛んでいたとは考えもしなかったのだ。


 何故四天王を職安で探そうとするのか、そこからなのか。つっこむべきはそこなのか。


「む、貴様ら。安心しろ、四天王第一位以外は職安ではなく縁故採用と出世だ。そう気にすることではない」


 魔王が絶妙なタイミングでフォローを飛ばすが、それは全くフォローになっていない。寧ろ第一位が職安勢であったと公開してしまっている。


 控えていた魔物たちの頭がどうしようもなく混乱してきた時、インプが何かを思い出したかの様に声を上げた。


「忘れる所だったっス、それで人間たちが第四砦に向けて進軍の準備を整えている。と諜報部隊が」

「……そうか、ならば直々に我が人間の進軍を止めようではないか。魔王の絶対的なる力を見せる時だ」

「いえ魔王様。一応ではありますが、只今魔王軍四天王第二位のデュラハンが向かっているとのことです」


 側近が魔王を止めるために言葉を発する。側近の手には連絡結晶があり、今し方その報告を受けたのだろう。その報告に謁見の間の魔物たちはホッとした様な感覚に包まれる。


 魔王軍四天王第二位、名はデュラハン。漆黒の鎧と槍で武装し、同じく漆黒の毛並みをもつ馬を駆る一騎当千の首無し騎士である。


 つい先程まで国境付近の砦を攻めていた様だが、強引な突撃によって終わらせたらしい。流石アンデッドだ、思考回路が飛んでいる。


 そんな訳でデュラハンは強い、人間程度には傷も付けられない程に強い。しかしこの場に居る数人が何とも悲しい不安感を抱いていた。魔王と側近だ。


「さて、奴は城に着くことが出来るだろうか……」

「正直、難しいでしょうね……。コンパスと地図を持ち歩いていて、奇跡が起こる事を祈るばかりです」


 そう、何故かデュラハンは致命的な程に方向音痴なのだ。コンパスがある、地図がある、だが迷う。酷かった時は魔王城に行く筈が、方向が真逆の人間の王都に行ってしまった程だ。


 デュラハンが砦に辿り着けなければ、第四砦は人間の手に落ちてしまうだろう。もしそうなってしまえば魔王軍陣地へと斬り込む前線基地となり、戦況が大きく変わる可能性がある。


 それだけではない。例え中に四天王や魔物含め誰も居なかったとしても、砦を落としたと言う事実は変わらない。それに『砦の中には大量の魔物が居た』と言ってしまえばその場に居合わせた者以外は信じるだろう。そもそも、四天王が座する砦がもぬけの殻などとは誰も思わないのだから。


 その事態から『魔王軍など恐るるに足らず』と思われてしまえば、人間は間違いなく大規模な攻勢に出る事だろう。それだけは避けなければなるまい。


「デュラハンの援軍は最終手段と考えねばなるまい。しかし、四天王へと至る程の者となれば並の魔物では力不足か……」

「魔物にも強い者は居ますがそれは例外です、基本的には魔族に当たる種族が良いでしょう」

「我が魔王軍へと未だ協力を示していない魔族は海竜族かいりゅうぞく幻魔族げんまぞく吸血族きゅうけつぞくだったか」


 魔族、それは人間で言う貴族の様なものである。魔物とは比べ物にならない程に強大な魔力、能力を持ち、独自の領地や思想を持つ種族群である。


 海竜族はリヴァイアサンなどの海棲竜の集まりで、海で暇潰し程度に人間の商船などを襲っている。この種族との関係は薄いが、互いが危機に陥れば助けに入る位には仲が良好である。


 幻魔族は実体の無い不思議な生命体の集まりで、特にまとまりも仲間意識も無く、人間との戦争に参加していない。魔王軍との関係は無いに等しく、四十八年前の魔王軍慰安旅行で記念写真の隅に、心霊写真めいて写り込んだのが最後の出会いとなっている。


 最後に吸血族だが、これは読んで字の如く吸血鬼の集まりである。王である純血の真祖、その下に真祖の血を引く主祖、そんな彼等が極少数の眷族と共に森林の奥深くに城を築くと言う小さなコミュニティで活動しているらしい。


 人間との歴史は古く、吸血族総出で対立している珍しい種族である。そんな訳で争いが絶えない為魔王軍とは同盟を結んではいるが、同盟止まりである。人間程度には負けないと言うプライドがあるのだろう。


「海竜族を陸の砦の防衛に就かせるのは不可能、幻魔族はそもそも会えぬ、となると吸血族か」

「吸血族……眷族レベルでは論外、主祖ならば魔王軍の大隊長と同等クラスでしょうか」

「真祖が態々腰を上げることは無いであろうな、主祖が落とし所か……しかし砦には間に合わんか」


 その魔王の言葉に、側近はゆっくりと首を縦に振った。


 魔王城と吸血族の真祖の居城はそう離れてはいない。しかし魔王軍との協力体制を同盟から引き上げると言うのは、そうトントン拍子に進むものではない。何せ色々と政治的な話も絡むのだ。


 そう考えれば、例え協力を取り付けられたとしても砦には間に合わないだろう。


「魔王様、最悪砦の地下に設置されている自爆魔法の起動もお考えに。幸いあの砦には駐留部隊が存在しません故、発動したとしても我が兵に被害はありません」

「兵さえ居れば、砦の再建など幾らでも可能……か」


 魔王は何かを考える様なそぶりを見せた後、口を開いた。その言葉は、謁見の間に少なくない衝撃をもたらす事になる。


「側近よ、今すぐに好きな部下を連れて吸血族の真祖へ協力体制の強化に向かえ」

「な……!? お言葉ですが魔王様、今現状四天王の件を取り付けられたとしても到底間に合うものではありません!」

「策はある、それとも我が言葉が聞けぬか?」

「了解、致しました。必ずや、魔王様へと吉報をお届け致しましょう」


 側近はそう言って謁見の間を後にする。去り際の表情は、これで良かったのだろうかと悩んでいるものであった。


 それを見ていたインプは、恐る恐る魔王へと声を掛けた。


「あー、魔王様? 大丈夫なんスよね」

「インプよ、第四砦付近の地図を出せ。今すぐにだ」

「それならここにあるっス。一体何をなさるつもりなんスか?」

「極大魔法を使う」


 その魔王の一言に、謁見の間は凍りついた。


 極大魔法、それは魔法の上、大魔法をも超える最大最強の魔法である。一度放てば地形が変わるなどではなく消滅し、世界の理さえも書き換えると言われている。


 それを目の前で使うと言ったのだ。少し前の肉屋倒産事件時に発令された緊急命令クラスAよりも珍しい、いや奇跡である。


 目の前に広げられた第四砦付近の地図に手をかざし睨みながら、もう片方の手では連絡結晶を持っている。一体何をするのかと魔物たちが眺めていると、突如連絡結晶が輝き出した。相手と接続されたのだ。


「デュラハンよ聞こえるか、これより貴様を第四砦へと最短距離で向かわせる。空を見ろ」


 その言葉を皮切りに、魔王の体から常軌を逸脱した量の魔力が空へと向かって流れ出していく。


 その姿を見ていた魔物たちは、皆一様にその姿に見入ってしまっていた。ただ魔力を放出しているだけ。だが何よりも、優雅なのだ。


「デュラハンよ、空に流れる光の筋を追え。そこから先は貴様に任せる」


 その言葉を最後に、魔王は連絡結晶へ魔力を込めるのを止めた。


「魔王様……今のは何なんスか!?」

「メテオと言う極大魔法の簡易版だ。本来なら大陸全土を消し飛ばせるサイズの物を使うのだが、その何万分の一のサイズを使った」

「それじゃ威力が無いんじゃ」

「それで構わん、我はデュラハンへの道案内をしたまでよ」


 そう言うと魔王は深く息を吐き、不敵な笑みを浮かべた。


「デュラハン、大きな武勇を上げる機会だ。存分に暴れると良い……」


 謁見の間に、魔王の高笑いが木霊するーー。





































 とまあ、そんな訳だが。

 この話の終わりだけ話すとしよう。


 そもそも、人間は第四砦への本格的な侵攻を前々から考えていた。その作戦を、記憶に新しい『補給線分断作戦』の被害を危惧した騎士団が早めたのだ。


 そして千の騎士団員、二千の王国兵士、計三千にて第四砦へと進軍。砦の前で陣を組み、相手の出方を待っていた。しかし待てども待てども何も起きない。


 違和感を感じた騎士団が歩みを進めた瞬間、天を青白い光が通り過ぎた。流れ星よりも大きい、彗星である。それを神からの吉兆であると信じた人間たちは第四砦へと攻撃を掛けようとした。


 しかし、その彗星は吉兆でも何でも無かった。死を告げる死神の刃の輝きだったのだ。


 突如部隊後方から上がる悲鳴、前方の騎士団員がそこへ目を凝らすと王国兵士の隊列の中で漆黒が暴れ回っていた。そう、デュラハンである。




 魔王歴史学を学んだ御仁なら分かるだろうが、魔王が極大魔法によって発生させたミニメテオが彗星となり、方向音痴のデュラハンを導いていたのだ。


 ちなみに魔王からの連絡が来るまでデュラハンはずっと迷子だったのだが、幸運な事にその位置から彗星を追い掛けると人間の部隊の真後だったのだ。つまりバックアタックである。


 ここまで来ればもうお分かりだろう。ものの数分で兵士を片付けたデュラハンは、勢いそのままに騎士団をも蹴散らし第四砦の防衛を成功させたのだ。









 とまあ、人間に甚大な被害を与えたデュラハンは『駆け抜ける終焉(デッドエンド)』と言う大層な二つ名で人間に呼ばれる様になった。


 その裏で、側近が第四の四天王探しに奔走する事になると言うのは……魔王歴史学を研究した者でもないと知らない事実である。

次回、側近さん吸血族居城へ

恐らく近々キャラ説明が入るかと

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