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銀獅子戦記  作者: 黒狼
第三章 テオドールの見合い編
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第五話 今後の予定

 テオドールが見合いの為にヤーデへと出発する朝、テオドール配下の主だった面々は見送りの為に領主館の正門前へと集まっていた。

 家宰のヴァルター、侍従長のマリー、先頃二人の養子となったジャンとララの兄妹、千人長のオットーとロルフ、そして今回の事で一番動いていた代官のルッツ。

 それ以外にもテオドールが爵位を得る前から付き従っていた者の中で手隙の者は大半がこの場に集っていた。


「テオドール殿、我等臣下一同、心より”ご武運をお祈りしています”」

「……たかが見合いで何が”ご武運”だ」


 臣下達を代表したオットーの発言にテオドールは呆れた顔をした。


「いえいえテオドール卿、オットー千人長の申される事も最もかと思いますぞ?」

「そうですね、”諸侯”には家名を存続させる義務がありますからね。 ”夫人を迎えて後継者を成す”事は急務と言えるでしょう」

「ぬ……」


 そこにルッツとロルフからの援護射撃が入った。


「すぐにとは言いませんが、夫人を迎える事には”もっと前向きに”ならねばなりませんよ、”男爵閣下”?」

「ロルフ、お前……」

「お気持ちは察していますが、すでに”ご自分一人の話では無い”のです”将軍”」

「……そうだな、分かってはいる。 気持ちを切り替えよう」


 そう言うとテオドールは大きく息を吐き出した後、顔を上げてその身を正した。


「来たようですな」


 その時、ダールグリュン家の家紋の入った馬車が領主館の前へと入って来た。


「皆、留守は任せる」

「は、此方はお任せくだされ」

「うむ。 では、行って来る」

「「「行ってらっしゃいませ」」」


 テオドールは臣下一同に見送られながら、馬車へと乗り込んだ。





        ◆     ◆     ◆     ◆     ◆






 馬車に揺られる事数日、テオドール一行はグラスト地方最大の都市ヤーデへと到着した。

 ヤーデは現在、数日後に行われる”東部方面軍第二軍団の騎馬隊大演習”の影響で普段以上の賑わいを見せていた。


「流石5000騎を超える規模の騎馬演習があるだけはあるな。 各騎士団の関係者だけでなく、その経済効果に当て込んだ商人なんかもかなり来ているな」

「わぁ……それでこのお祭り騒ぎですか」

「まあ、その方が俺にとっても都合がいい。 その裏で行われる見合いに注目が集まりづらくなるからな」

「その辺も考えての殿下の配慮なのでしょうね」

「うむ、そうだな」


 テオドールは馬車に同乗している面々に目を向けた。

 馬車にはテオドール以外に、テオドールの世話役としてついて来たテオドール付きの従者であるシャルロッテと、テオドールの従騎士であるエミルとクラウスの計三人が乗っていた。


「シャルは見合いの最中は俺の支度なんかの手伝いで忙しくなりそうだが大丈夫か?」

「はい、御仕度に不備があってはテオ様に迷惑をかけてしまいます。 そうならない様に精一杯、頑張らせていただきます!」

「うむ、無理はし過ぎない様にな?」

「はいッ!」


 テオドールは朗らかに返事をするシャルロッテの頭を優しく撫でると、次は従騎士二人に向き直る。


「お前達二人は基本的に、俺が見合いの間は特に仕事は無いがどうする? ゆっくり羽根を伸ばすなり、マルテの所で軍事演習に参加するなり、羽目を外し過ぎなければ何をしててくれてもいいぞ」

「えっと、それに関してなのですけど……」

「俺達は図書館へと行こうと思っています!」


 テオドールの質問に言いよどむエミルの言葉に、被せる様にクラウスが答えた。


「図書館へ?」

「はい、これからの閣下の戦いのお役にたつ為に、軍記や歴史書、兵法書などで勉強をしたいと思っています。 ヤーデの図書館の蔵書量はグラスト地方最大と聞き及びましたので」

「ふむ、確かに軍を動かすならばその手の知識の集積は有用だな」

「はい、閣下が見合いで手の離せない間は、”我々”は己を磨く事に費やしたいと思います」

「うむ、それは良い事だな」

「はい、ありがとうございます」

「……所で、さっきエミルが何か言おうとしていた様だったが?」

「あ、えっと……」


 突然話題を振られてエミルは再び言いよどんだ。


「閣下、聞いてくださいよ。 エミルの奴、図書館で勉強をすると言ったらこの調子なんですよ?」

「なッ!? お前、何をッ!?」

「幾ら座学が苦手とは言っても、流石にこの態度は見苦しいですよね?」

「お前ッ!!」


 クラウスの軽薄な態度に食って掛かろうとしたエミルに、クラウスは鋭い視線を向けた。

 その視線を見てエミルは、苦虫を噛み潰したかの様に口元を歪めて言葉を引っ込めた。


「ん? エミルどうした?」

「い、いえ。 あの程度の事で怒り出すなんて大人気が無いと思い返しただけです」

「む、あまり無茶はするなよ?」

「大丈夫です。 クラウスには負けてられませんから」

「そうか。 それよりもお前達、図書館で喧嘩何てするんじゃないぞ」

「それはクラウス次第です」「それはエミル次第です」


 テオドールの注意の言葉に、従騎士二人の声が綺麗に重なった。


「「……む」」


 その直後、従騎士二人が不機嫌そうな顔をして睨み合った。


「はぁ……本当に大丈夫なのか……?」

「はは……」


 頭を抱えるテオドールの横で、シャルロッテが少し困った顔で苦笑いを浮かべていた。


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