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銀獅子戦記  作者: 黒狼
第二章 オーブ聖皇国侵攻編
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第二十六話 ブリュム撤退戦 -森の中の戦いー

『全騎、突撃ぃぃぃぃぃーーーーーッ!!!!!』

『『『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!!!!!』』』



「南より敵騎馬隊ッ!! 軍旗は……”百舌鳥に獅子”ッ!!!」

「”銀髪の剣鬼”かッ!!! 歩みを止めるなッ!! 左翼、護りを固めて迎え撃てッ!!!」

「左翼……ま、間に合いませんッ!!!!!」


 急ぎ足で進軍していた聖皇国軍に突如として現れたテオドールの騎馬隊が襲撃をかけた。

 不意を突かれた聖皇国軍は、成す術も無く横腹を食い破られた。

 だが、速度を重視した縦長の”長蛇の陣”であった為に最小の被害で済んでいたのだ。


「損害を報告せよッ!!」

「そ、損害は軽微ッ!! ですが、隊列を食い破られましたッ!!」

「チッ、寡兵で良くやるッ!!!」


 聖皇国軍の隊列を食い破った騎馬隊を率いるテオドールは、聖皇国軍の掲げる軍旗を”一瞥して”から即座に隊を北へと向けた。


『総員、撤退ッ!!!』



「敵が逃走しますッ!!」

「後衛の第五、六隊、先行して帝国軍を追撃ッ!!」

「「「ははッ!!!」」」


 北へと撤退する帝国軍にマティアスは即座に追撃指示を飛ばした。

 放った追撃隊が走り去るのを見送った後、マティアスは副官を自身の所へ呼びつけた。


「連中が逃げた先には何がある?」

「は、あの方角ならば確か小さな森があっただけかと……」

「森……恐らくは誘っているな」

「……如何致しますか?」

「第三隊に森の外周を右回りで、第四隊に左回りで回り込ませて敵の背後をとらせろッ!! 第一、二隊は部隊の再編が済み次第、先発隊へと合流するッ!!!」

「はは、直ちにッ!!!」





         ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 テオドール率いる騎馬隊は聖皇国軍に一撃加えた後、一路北の森へと向かっていた。


「敵兵、食い付きましたッ!! 兵数、目算で600以上ッ!!」

「思ったより少ないな……となると、先発隊か」


 テオドールは馬の腹を蹴って更に速度を上げる。

 それに伴って、追従する騎馬隊も速度を上げた。


 自分達が追いかける敵部隊が速度を上げたのを見て、聖皇国軍の追撃隊は逃がしてたまるかと更に速度を上げた。


 そして両隊は、一定の距離を保ったまま森の中へと駈け込んでいった。


「敵との距離は!?」

「徐々に狭まっていますッ!! 奴等、馬を潰す気かッ!?」

「構うなッ!! もう少しだ、速度そのままッ!!!」


 そして、森の奥まで駆け抜けた所でテオドールが叫んだ。


「全騎、散開ッ!!!」


 テオドールの号令で騎馬隊が一斉に散開した。


「「「ッ!?」」」


 目の前で追っていた敵部隊が突然、散開したのを見て聖皇国軍の追撃隊は僅かに速度を緩めてしまった。


『放てッ!!!!!』


 その隙を狙ってか、森の中に突然”澄んだ声”が轟いた。

 それと同時に無数の”風切り音”が広範囲から響き渡ったのだ。


「ッ!!? 総員、退…………」


 先頭を走っていた司令官が撤退命令を出し切る事は無かった。

 司令官と共に前方を走っていた数十騎は、何処からとも無く飛来した無数の太矢によって矢襖にされていたのだ。


「し、司令官が討たれたぞッ!! て、撤退……」

『次射、放てッ!!!!!』


 前方の味方が倒れたのを見た聖皇国兵は即座に撤退をしようと馬首を返した時、”澄んだ声”と共に”風切り音”が再び響き渡った。

 それにより、更に数十騎が無数の太矢に貫かれて馬から転げ落ちた。


「退けッ!! 退けぇッ!!!」

『総員前進ッ!! 敵を囲み討てッ!!!』


 前方の兵が矢に倒れた所を見て動揺した聖皇国兵の左右の木々の影や茂みから武器を手にした兵士が続々と駆け出して来た。


『各員、敵を殲滅せよッ!! ただし、深追いは厳禁とするッ!!!』

『『『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!!!!!』』』


 矢に射かけられ、左右より歩兵の攻撃を受けた先発隊は完全に不意を突かれて壊滅した。

 生き残った先発隊の兵達は、散り散りになりながら森の外へと逃げ去っていた。





         ◆     ◆     ◆     ◆     ◆






「いやはや、思った以上に上手く行きましたな!」

「……オットー、敵の損害は如何程だ?」

「ふむ、某の目算ではありますが200程でしょうか? 逃げ去った敵はその2~3倍ぐらい…………追撃をかけたにしては中途半端ですな……」

「3000の半数は追いかけて来るものかと思っていたが、あまりにも数が少なすぎる……」


 その時、テオドールの耳に僅かづつ大きくなっていく”蹄の駆ける音”が”森中から響いて来る”のが聞こえて来た。


「これは……」

「やられたッ!! 敵は”数百の兵を囮に我々を森に足止めした”様ですッ!! そして、その”足止めをした時間を使って我々を包囲した”という事……ッ!!!」


 オットーの悲痛な言葉に兵達の表情が強張る。


「狼狽えるなッ!! 一点突破で包囲を破るぞッ!!!」

「で、では、南側へ!! 其方が一番手薄ですッ!!!」

「いえ、いけませんッ!! 此方の罠を逆利用する様な輩ですぞッ!! 手薄な場所ほど危険と考えるべきかとッ!!!」

「ですが、他の場所を抜くとなると何処へ……」


 不安げな声を上げるノエル、策を読み切れなかった事で慌てるオットー、二人を尻目にテオドールはじっと南側を見つめていた。


「テオドール様、どうかしましたか?」

「いや……」


(嫌な感じだな……罠では無く、俺達を……いや、俺を誘っているのか……)


 テオドールは意を決すると、兵達に指示を出した。


「隊を二つに分ける! オットーは半数を率いて北を突破して退路を開けッ!!」

「りょ、了解いたしましたッ!!」

「残りは私と共に来い! 敵の総大将に襲撃し、突破までの時間を稼ぐッ!!!」

「総大将を襲撃と申しましても……どこに?」


 ノエルの問いにテオドールが無言で視線を南に向ける。


「ま、待ち受けていると……?」

「うむ、そこでだ、ノエルの弩弓隊には私の隊の後衛について貰う。 退路の確保と退く時の援護が役割だ、出来るな?」

「分かりました! テオドール様の背中は私が御守りしますッ!!」


 ノエルの返事に満足げに頷くと、テオドールは馬から下馬した。


「騎兵隊はオットーに預ける! 遊撃や伝令に上手く活用しろ!!」

「ははッ!! 必ずや退路を確保してまいりますッ!!」

「うむ、頼んだぞ」

「テオドール殿、ノエル殿も……ご武運をッ!!!」

「オットー参謀もお気をつけて!!」


 こうしてオットーは兵の半数を率いて退路を確保するべく北へ、テオドールはもう半数を率いて退路確保の時間を稼ぐ為に南へと向かうのだった。


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