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銀獅子戦記  作者: 黒狼
第二章 オーブ聖皇国侵攻編
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第十八話 ブリュム攻防戦 後編

「敵襲ッ!! 帝国軍がブリュム東より打って出てきました!! その数、騎兵約800ッ!!!」

「来やがったかッ!!! で、敵の旗印は!?」

「”白地に百舌鳥と獅子”の旗印を確認しておりますッ!!」

「百舌鳥に獅子だとッ!? ”銀髪の剣鬼”かッ!!!」


 待望の強敵が現れた事を知ったサミュエルは喜びの声を上げた。


「良し、お前らは弓櫓の周囲に展開、奴らを近づかせるなッ!! 直属の500騎は俺に続け、”銀髪の剣鬼”を討つぞッ!!!」

「「「ははッ!!!」」」


 サミュエルは素早く配下達に指示を出すと、自身も馬に跨り愛用の戦槌(メイス)を肩に担いだ。


「将軍直属の500騎、支度整いましたッ!!!」

「行くぞ、全騎俺に続けぇッ!!!!!」

「「「おおおーーーーーーーーーーッ!!!!!」」」





         ◆     ◆     ◆     ◆     ◆






 一方その頃、ブリュム東門より出撃したテオドール率いる騎兵800は、南門に張り付く聖皇国軍を強襲する為、城壁沿いに疾走していた。


「将軍、敵右翼を目視しましたッ!!!」

「全騎、鋒矢の陣ッ!!! 右翼を突破して敵陣の後方を掠めるぞッ!!!」

「「「ヤーーーーーーッ!!!」」」


 800の騎兵達はテオドールの指示に従い、駆けながら鏃の形に陣形を整えた。


「敵右翼、展開始めましたッ!!」


 隣を走る部下の指さす先で右翼の敵兵がテオドール隊を迎え撃つべく槍衾を展開しようとしていた。


「マルテッ!!!」

「おおさッ!! 弓騎兵、構えッ!!!」


 陣形の中央から後方に位置していた弓騎兵が、マルテの合図で一斉に矢を番え鏃を斜め上に向ける。


「一斉射の後、一気に突破するッ!!!」

「放てッ!!!!!」


 マルテの合図で無数の矢が放物線を描きながら、槍衾を展開する敵右翼へと降りそそぐ。


突撃(アンシュラーク)ッ!!!!!」


 敵右翼が降り注ぐ矢の雨に浮足立っている所に、宛ら一つの鏃と化したテオドール隊が突撃した。


 構えていた槍を兵士ごと踏みつぶし、逃げ惑う者を蹴散らしながらテオドール隊は敵右翼を両断して駆け抜けた。


「エミル、損害はどうかッ!?」

「損害は軽微、脱落者は……ありませんッ!!!」

「良し、このまま駆け抜けて敵の後方をかき回すッ!!! 皆の者、旗を掲げ、(こえ)を上げよッ!!!!!」

「「「おおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」」」




 ブリュム南門 城壁上



「姫様、将軍閣下の”鬨の声”が上がりました! 合図ですッ!!」

「姫様はやめなさい! ノエル隊、矢を番えろッ!!!」


 ノエルの合図で、城壁上に散っていた弩弓兵達が弩弓(クロスボウ)に矢を番えた。

 それに習う様に、補助としてつけられた兵達が予備の弩弓を巻き上げ始める。


「狙いは弓櫓上の弓兵ッ!! 大盾兵は弩弓を交換する僅かな隙を付かれないよう全力でフォローをッ!!!」

「「「ははッ!!!」」」 「「「心得たッ!!!」」」


 弩弓を携えたノエル隊が隠れていた城壁の影から飛び出して素早く構えを取った。


「全隊…………撃てぇッ!!!!!」


 ノエルの掛け声と共に一斉に矢が発射された。

 そして即座に城壁の影へ身を沈める。


「次ッ!!」

「はいッ!!!」


 すでに準備された新しい弩弓を受け取ると、それを持ったまま部下達に『待て』と手で合図を送る。

 そして、弩弓兵全員が新しい弩弓を受け取ったのを確認してから再び城壁の影から飛び出した。


「次射……撃てぇッ!!!!!」


 ノエル隊の弩弓から放たれた矢は板金鎧や木製の大盾を易々と貫くだけの威力を持つ。

 それが通常の弓兵とそんなに変わらない速度で連射してくるのである。

 その威力と連射速度を想定していない弓櫓上の弓兵は、それで一気に浮き足だって反撃の手が弱まってしまった。


「敵、弓櫓の攻撃が目に見えて弱まりましたッ!!!」

「アルノルト将軍に合図をッ!! 軍鼓を打ち鳴らせッ!!!」



  ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ



 待っていましたとばかりに、後方に控えていた軍楽隊が力の限り軍鼓を打ち鳴らした。




 ブリュム南門 南門前広場



「お、合図ですな将軍」

「うむ、君が指揮するブリーゼ勢は右翼、殿下からお預かりしたヤーデ勢は左翼に……中央は我がシュタイン勢の重歩兵が受け持つッ!!!」

「畏まりました。 では、某は隊の指揮に戻りますのでご武運を……」

「お互いにな」


 部隊の指揮に戻るオットーを見送った後、アルノルトは雄牛の角を象った兜を被って槍と大盾を手に重歩兵達の先頭に立った。


「全隊、構えッ!!!!!」

「「「おおおおおおーーーーーーッ!!!!!」」」


 アルノルトと配下の重歩兵達は城門ギリギリの幅で横並びに並ぶと、盾を構えて槍を突きだした。


「開門せよッ!!!!!」




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………




 アルノルトの掛け声に従い、南門が唸りを上げながらゆっくりと開いていく。


「全軍、前進ッ!!!!!」


 アルノルト率いる重歩兵は槍を構えたまま門の外へと突き進んだ。




 ブリュム城外  聖皇国軍本陣



 攻城の指揮を執っていたラザールの元へ、慌てた様子の伝令が駈け込んで来た。


「報告いたしますッ!! ブリュム南門が開き、帝国軍が進軍を開始しましたッ!!!」

「……右翼への騎兵突撃、弓櫓上の弓兵を狙った射撃はこの為の伏線であったか……味な真似を。 サミュエル将軍はどうしている?」

「将軍は直属の重騎兵500を率いて敵騎兵隊へ向かいました!!」

「ならば残った重騎兵の内、1000騎を本陣中央へ集結させろ! それと弓櫓とその護衛の歩兵隊には、敵歩兵隊を牽制しつつじわじわと下がる様に伝えろ!!」

「ははッ!!!」


 伝令は預かった指示を早急に各所に伝える為、入って来た時と同様に慌てた様子で駆け出して行った。


「我々だけで貫きたかったがそうもいかぬか……少なくとも噂に違わぬ実力はある様だな。 まあ良い、一気に貫けぬのならば、”じわじわと締め付けてやる”だけだ」





         ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 聖皇国軍右翼を突破したテオドール隊は、南門から攻め手に出たアルノルト隊に気を取られている聖皇国軍本体の背後を強襲した。

 ただ、それは敵陣に突撃するのではなく、隙を突いて素早く攻撃し、その後すぐに離れるという”一撃離脱”を繰り返したものだった。

 被害自体は大したものでは無かったが、前後から攻撃を喰らった敵兵は動揺し満足な対応が取れない状態になりつつあったのだ。


「敵の動き、大分鈍って来ましたね」

「これだけやれば十分だろう。 敵は歩兵と足の遅い重騎兵ばかりとは言え、これ以上グズグズしていたら包囲されかねん。 皆に指示を出せ、行きと同じく”敵をかき回しながらブリュム西門へ向かう”ぞ!!」

「はいッ!!!」


 テオドール隊は馬首を返すと、一路ブリュムの西門を目指して駆けだし始めた。

 その動きに気がついた敵兵も幾らかいたが、追いすがろうとするところを後衛の弓騎兵の一斉射で足を止められ追い付けずにいた。


 そして敵左翼を迂回してブリュムの西側に出た時、突如として”重々しい蹄の音”と共に”巻き上がる砂煙”がテオドール隊の”前方”に現れたのだ。


「前方に……敵騎兵隊だとッ!?」

「”黄金の太陽にそこから伸びる二本の影”の旗印……せ、”聖影将軍”の旗印ですッ!!!」

「”聖影将軍 サミュエル”かッ!!!」




「来やがったな! あの先頭のが”銀髪の剣鬼”かッ!!!」


 迫り来る敵騎兵の中に目的の人物を見つけると、サミュエルは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「敵の陣列を切り裂くぞッ!! 全軍吶喊ッ!!!」

「「「おおおおおーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」」」


 サミュエルの号令が戦場に響き渡り、それに呼応して配下の重騎兵達が鬨の声を上げる。

 そしてその勢いのまま、テオドール隊へと突っ込んで来たのだ。




「お、お師匠様ッ!?」

「速度は落とさず両翼を畳め、長蛇の陣ッ!! 奴らの脇をすり抜けるッ!!!」


 テオドール隊は速度を落とす事無く陣形を”両翼の無い縦長の陣形”へと変えた。

 テオドールは自身の背後にいた旗持ちより、軍旗を受け取ってそれを全速で駆けながら高々と掲げた。


「行くぞ、脇目も振らずに我が旗印に続けッ!!!!!」

「「「ヤーーーーーーーーーーーッ!!!!!」」」




 テオドール隊騎兵800とサミュエル隊重騎兵500は、互いに速度を落とす事無く正面からぶつかり合う様に駆け寄っていった。



「銀髪のぉぉぉぉッ!!!!!」


 巨大な戦槌(メイス)を振り上げながらサミュエルは、テオドールに向かって激走する。


「全騎、構うなッ!!! ただ、我が旗だけを見て進めッ!!!!!」


 そう叫ぶと、テオドールは軍旗を左に倒して自身もその方向へと馬首を向けた。


「てめぇッ!?」

「悪いが決着は後日だ。 全騎、このまま脇を抜ける、引っかかるなよッ!!!」


 怒りの形相のサミュエルを尻目にテオドールが脇を駆け抜けていく。

 その後をテオドール隊の騎兵が列を成して続いて行った。


「ぐぐ……全騎反転ッ!!! ついてこれる奴だけでいい、追うぞッ!!!!!」




「何とか抜けきったか……。 エミル、被害状況は!?」

「後陣に若干被害が出た様ですが、大半は……」

「ぐ……。 敵の様子は!?」

「重騎兵の速度を考えれば、追って来る事は…………えッ!?」

「どうした!?」

「て、敵重騎兵、追い付いてきますッ!! 数は10騎に満たぬ数ですが……」


 エミルのいう通り、サミュエルは怒りの形相で戦槌(メイス)を振り回しながら後陣へと迫っていた。


「銀髪ぅぅぅーーーーーーーッ!!!!!」


 このままでは後陣に食らいつくのも時間の問題だった。


「エミルッ!!!」

「は、はいッ!!!」


 テオドールは自身のすぐ後ろを駆けるエミルを呼びつけると、その手に持った軍旗を投げ渡した。


「お師匠様ッ!?」

「先頭を任す、一気に西門まで駆け抜けろッ!!!」


 テオドールはそれだけ言い残すと、馬首を返して敵の迫る後陣へと駆け出した。

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