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銀獅子戦記  作者: 黒狼
第二章 オーブ聖皇国侵攻編
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第十七話 ブリュム攻防戦 前編

 聖皇国軍の攻撃は、その日の正午前から始まった。



「さぁ、進めぇッ!!! 今こそ帝国の卑劣な者共からブリュムを取り戻せッ!!!」


 巨大な戦槌(メイス)を頭上に掲げて”聖影将軍 サミュエル”が声を張り上げる。


「弓櫓、前へッ!!! 城壁の上の弓兵を一掃せよッ!!!」


 サミュエルの号令に合わせる様に”聖雷将軍 ラザール”が弓櫓に前進の命令を出した。


 その攻撃に繰り出して来た兵力は凡そ8000。

 多くは歩兵であり、攻城用の車輪付きの弓櫓を取り囲みながら徐々にブリュムの南門へと迫って来ていた。




「城壁上の歩兵は大盾を構えて整列ッ!! 弓兵の壁となれッ!!! 弓兵は火矢の用意ッ!! 弓櫓の進撃を阻止せよッ!!!」


 城壁の上で”堅牛将軍 アルノルト”が矢継ぎ早に指示を出して即座に迎撃準備を整える。


「重歩兵隊は南城門前に集合ッ!! 東門のテオドール隊への連絡も怠るなッ!!!」


 アルノルトの命令を受けて、多数の伝令がブリュム各地へと散っていった。




 程なくして、聖皇国軍の攻撃が始まった。


 後に”ブリュム攻防戦”と呼ばれる事になる戦いの始まりであった。





        ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 本来、城を落とす際に”攻める側は、守る側の三倍の兵力を必要とする”というセオリーがある。


 しかし、帝国軍6000に対して、聖皇国軍は13000。

 しかも現在攻め手に用いているのは”聖影”、”聖雷”両将軍が率いる8000。

 正面から攻め落とすには、あまりにも少ない数であった。



 ブリュム城壁 帝国軍本陣



「奇妙だな……」

「いや、まったくで」


 防衛戦の指揮をしていたアルノルトとオットーは、敵の攻め手の弱さに首を傾げていた。


「様子見でしょうかね?」

「かもしれん……。 或いは、消耗戦でも仕掛けてくるつもりか……」

「それはあり得るかもしれません。 そうなると弓櫓の存在が厄介ですな……あれでは火矢で射かけてもどうにもなりませんからな」


 元来、弓櫓自体は木製で油を用い、火矢で燃やせば比較的簡単に破壊する事のできる代物だ。

 だが、聖皇国側も手慣れたもので”弓櫓の表面に水を染み込ませた獣皮を張り付けて燃えにくい様に対策”がなされていた。


「敵の出方を見たかった所もあるが、ぐずぐずしていては此方が不利か……」

「如何致します?」

「テオドール卿に伝令を。 それとデュランベルジェの御令嬢自慢の弩弓隊にも支度をさせてくれ」

「承知しました」


 そう言うと、オットーは各所へ伝令を走らせる為にその場を後にした。


「策か、様子見か……どちらにせよ先ずは一手、打たせてもらうぞ」




 ブリュム城外 聖皇国軍本陣



「先ずは堅実に守って来ましたか……”堅牛”の名は伊達ではないという事か」

「……で、俺は何時まで待てばいいんだ?」


 冷静に帝国軍の動きを分析しているラザールの横で、サミュエルがつまらなそうに呟いた。


「攻城戦だと俺に出番がねぇんだよな……」

「そうですね、サミュエル殿の隊は重装騎兵ですからね。 やる事と言ったら弓兵の護衛ぐらいなものですからね」

「ぐぅ……だから暇なんだよッ!!」


 やれやれといった表情でラザールがため息を吐いた。


「そんな様子では後々マティアス(あにうえ)殿にお叱りを受けるのでは?」

「ぐ…………」

「心配なさらなくとも、敵は直に動きますよ」

「何!?」

「敵には北の蛮族相手に武名を馳せた、”銀髪の剣鬼”の異名を取るテオドールがいますからね。 ”城壁の内側で遊ばせておくには勿体ない手駒”です」

「おぉ!! そんな猛者が居やがったのかッ!!!」

「その内、仕掛けて来ると予想されます。 サミュエル殿は周辺の警戒をお願いします」

「おうッ!! 任せとけッ!!!」


 サミュエルは先程とはうって変わった意気揚々とした様子で自身の部下達の元へと戻っていった。





        ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 ブリュム城内 東門前



「将軍、全騎出撃準備整いましたッ!!!」

「うむ」


 出撃の準備が整ったとの報告を受けたテオドールは、悠然と愛馬に跨ると腰に佩いた剣を引き抜いた。


「聞け、我が将兵達よッ!! 現在、ブリュムに攻め入っている敵は南門のアルノルト将軍によって抑えられ硬直状態にある! 我等はこれより東門より出撃し、硬直状態の敵の脇腹を急襲するッ!!!」


「「「おおおーーーーーーッ!!!」」」


「脇目も振らずに我に続けッ!! 逃げる者は追わずに立ちふさがる者だけを屠れッ!! 我等で敵を両断するのだッ!!!」


「「「ヤーーーーーーーーッ!!!」」」


 テオドールの檄に配下の騎兵800騎が雄叫びと気炎を上げる。


「開門ッ!!!!!」


 テオドールの指示に従い、ブリュムの東門が軋む音を響かせながらせり上がっていった。




 ギギギギ……………



 …………ガコーーーーーーーーーーンッ




 城門が開ききったと同時にテオドールはその手の剣を振り下ろし、同時に愛馬の腹を蹴った。


「出撃ッ!!!!!」

「おおおおおーーーーーーーッ!!!!!」


 テオドール率いる騎兵800は、宛ら一つの生き物の如く城外へと駆け出していった。




 ブリュム南門 城壁上



 未だに城壁上と弓櫓との間で矢が飛び交う中、ノエル率いる弩弓隊は”大盾を持った兵”と”弩弓を引き絞る補助役”と三人一組で城壁上に一定間隔で散っていった。


「良し、配置はそれで良い! 今はテオドール殿の合図があるまで頭を低くして待機してくだされ!!」

「此方は後は私が! オットー殿はアルノルト将軍の元へ!!」

「うむ、ノエル殿、此処は頼みましたぞッ!!!」


 城壁上の指揮をノエルに一任したオットーは、アルノルト将軍の居る本陣へと駆け出して行った。


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