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銀獅子戦記  作者: 黒狼
第二章 オーブ聖皇国侵攻編
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第十六話 開戦

 踏み台に乗ったシャルロッテが自身の小柄な身体に比べて大分大きな外套を”目の前にそびえ立つ大きな肩”にそっと掛けた。


「これで良いですか、テオ様?」

「うむ。 すまんな、小柄なお前に手伝わせてしまって……」

「いえいえ、テオ様の身の回りのお世話は私の御役目ですから」


 自身の主人の”出来栄え”に満足しながらシャルロッテはそっと踏み台から降りた。

 その様子にテオドールがため息交じりで苦笑いを浮かべた。


「それではテオ様、お手をお出しくださいますか?」

「なんだまたか? わざわざすまんな」

「私が好きでやっている事ですから」


 シャルロッテはテオドールの手を取ると、その手首に”金髪で編まれた紐”を結びつける。


「テオ様と皆さんにご武運を……」

「行ってくる」

「はい! 行ってらっしゃいませ!!」


 シャルロッテに見送られながら、テオドールは外套を翻して部屋を後にした。





        ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 ブリュム城壁 南門付近  特設指令所



「アルノルト将軍、お疲れ様です」

「おお、来たかテオドール卿」

「戦局はどうですか?」

「うむ……」


 聖皇国軍は朝早くから動きを見せていた。

 歩兵を中心とした部隊を繰り出しブリュム南門を遠巻きに包囲したのだ。

 ただ、騎兵の姿は疎らにしか見えず、攻城兵器の姿も見えなかった。


「どう見るかね?」

「攻城兵器の準備が整っていないのでは無いでしょうか?」

「うむ、その上で”此方に圧力をかけに来た”といった所だろうな」

「では、今しばらくはお互い様子見ですか?」

「そうなるな……」


 アルノルトは南門の方を見つめながら溜め息をついた。


「と、将軍にお伝えしなければならない事があったのでした」

「私に……?」

「はい、先日帰還した際に連れ帰った者達はご存知かと思います」

「ああ、確か”デュランベルジェ家の嫡子”殿であったか」

「はい。 その嫡子殿……ノエル殿とその配下100名が我が軍と共に戦いに参加する事を希望しています」

「ほう……」

「彼等を弓兵、弩弓兵として歩兵隊へと組み込もうと思います。 承諾していただけますか?」

「ふむ、卿から見て嫡子殿とその配下は信における者達かね?」


 アルノルトは”顔色を窺う様な視線”をテオドールに向ける。


「”ブリュムの民を害さない限り”、信におけると思っております」

「…………」


 暫し押し黙ってテオドールを見つめた後、アルノルトは満足げに笑みをこぼした。


「いいだろう。 ノエル殿とその配下の処遇は卿に一任する」

「はッ」





        ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 ブリュム城内  練兵場



 多くの兵士達が固唾を飲んで見守る中、簡素な革鎧に身を包んだノエルが”その身にはやや大きい弩弓(クロスボウ)”を遠くに立ち並ぶ鎧を着た案山子に向かって構えた。

 その傍らには従者と思わしき少年が”すでに弦を引き絞られた弩弓”を二丁持って待機していた。


 ノエルは深呼吸すると、眼を見開いて狙いを定めた。


「行くよ”アル”!!」

「はい”姫様”!!!」


 ノエルは従者に声をかけてから、一間置いて引き金を引き絞った。




 ズダンッ




「次ッ!!」

「はいッ!!!」


 ノエルは矢を放った弩弓を後ろに放り投げて、即座に従者から次の弩弓を受け取る。




 ズダンッ




「次ッ!!」

「はいッ!!!」




 ズダンッ




 目にも止まらぬ早業で矢継ぎ早で三発の矢を放った。


「「「おお………………」」」


 周りから感嘆の声が零れた。


「すごい……三本の矢が全部、同じ案山子に……」

「ほぅ……それぞれ”頭”、”胸”、”腹”……急所を捉えていますな!」

「アタシも弓は得意な方だけど、この精度で三連発なんて芸当はできないねぇ」


 その腕前に称賛を受けてノエルは得意げな顔をする。

 傍らの従者の少年も余程自身の主が称賛されている事が嬉しいのか、ニコニコと笑みを浮かべていた。


「いやはや、素晴らしい腕前ですな!」

「そう言って貰えて光栄です。 とは言え……私個人の武技では、実際の戦場でどれほどの成果が上げられますかどうか……」


 

 照れ笑いを浮かべていたノエルであったが、”思いの外周囲の評価が好評である”と判断して、ここで思い切って自身の考えを提案してみる事にした。


「そこで、どうでしょうオットー殿。 流石にここまでの速射とまではいきませんが、傍らに弩弓を巻き上げる補助を置けば弓に迫る速度での連射も可能です」

「なるほど、それを弓を持たぬ歩兵にやらせようという訳ですな?」

「城壁に張り付かれるまでだけでも手伝っていただければ、弩弓を更に有効に活かせると思うんですけどどうでしょう?」


 ノエルの提案を聞いたオットーは『ほぅ』と感心する様に小さく呟いた。


「良い提案ですな。 今すぐに決定は出来ないですが、某の方からテオドール殿には話をしておきましょう」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます!! 良かったですね、姫様!!!」


 主と共にオットーに礼を言った従者の少年が朗らかな笑顔でノエルに語りかけた。


「ええ。 でもアル、”私の事を姫様と呼ぶのはやめなさい”とさっき言ったわよね?」

「あ……つ、つい今までの癖で……ごめんなさい、”姫様”!! …………あッ」

「アルフレッドぉ…………まあ、いいわ。 でも、お偉方の前ではやらない様にね?」

「は、はい、”ノエル様”!!」


 ノエルはため息を吐きながら、すっかり恐縮してしまっている自身の従者の頭を優しく撫でた。


「そういやノエル」

「何でしょう、マルテ千人長?」

「さっきから親し気な感じだけどその子は?」

「ああ、紹介してませんでしたね」


 そう言うと、ノエルは傍らの従者の少年を自身の前へと押し出した。


「この子はアルフレッドと言います。 私の乳母の子供で、私にとっては弟の様な者……でしょうか?」

「アルフレッドと申します!! ひめ……いえ、ノエル様の従者です!!!」

「ははは、元気な坊やだね!!」





        ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 それからしばらくして、報告の為に指令所へと赴いていたテオドールが戻って来た。


「皆、揃っているな? アルノルト将軍の許可は取って来た、これでノエルとその配下は正式に我が隊へと編入される事となった」

「お手数をおかけしました」

「うむ。 それでオットー、彼女達はどうだった?」

「中々いい腕をしておりました。 特に弩弓の腕前には目を見張るものがありましたな」

「ふむ……では、当初の予定通り弩弓兵としてオットーに任せる」

「承知しました」


 その後、別動隊を指揮するオットーに細々とした事を伝え終わった時、突如として一騎の騎馬が練兵場に駈け込んで来た。


「て、テオドール将軍、此方に居られましたかッ!!!」

「あれは、伝令の様ですな?」


 練兵場に駈け込んで来た伝令は、慌てた様子で下馬するとテオドールの目の前で膝を付いた。


「何があった?」

「報告いたしますッ!! 敵軍が動き出しましたッ!!!」


 今まで遠巻きに包囲していただけの聖皇国軍が思いの外早く動き出した事に、周囲から驚きの声が漏れた。


「敵の陣容は?」

「はッ!! 兵数約8000、数基の弓櫓の姿を確認しておりますッ!!!」

「我々への命令の変更は?」

「ありませんッ! ”何時でも出撃できる態勢で待機せよ”との事ですッ!!」

「了解した。 ご苦労だったな、下がれ」

「ははッ!!!」


 伝令は一礼すると、そそくさと馬に飛び乗って練兵場を駆け出して行った。


「聞いての通りだ! 各員、急ぎ支度を整え予め指定された待機場所へと急行せよ!!!」

「「「ははッ!!!」」

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