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銀獅子戦記  作者: 黒狼
第二章 オーブ聖皇国侵攻編
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第七話 戦後処理

 オーブ聖皇国 皇都ソレイユ  皇城 玉座の間



 玉座へと鎮座するは、”この国の国家元首”と”太陽神教の教皇”を兼ねる”聖皇 フランシス三世”。


 その両脇を固めるのは聖皇国が誇る二人の皇子。

 武名高き勇将 第一皇子アルベールと

 聖皇の寵愛篤き人望の皇子 第三皇子リオネル。


 そして、その眼前には聖皇国が誇りし数多の猛将、謀臣が立ち並んでいた。



 そんな中に、薄汚れた鎧姿の一人の騎士が通される。


 騎士は恭しく聖皇に頭を垂れ膝まづいた。


「へ、聖下へご報告いたしますッ!!!」

「構わん、申せ」

「ブリュムへと派遣されたセドリック殿下の軍が、力及ばず敗退いたしました!」

「兄上が敗れたッ!?」


 セドリック敗退の報にその場に僅かにざわめきが起こる。


「皆、静粛にッ!!!」


 それを聖皇に代わりアルベール皇子が声を上げて黙らせた。


「続きを申せ。 敗れた弟とサイモンはどうなった?」

「はは! サイモン将軍は殿として戦場に残り戦死いたしました……」

「ぐ……サイモンめ、帝国の子倅程度に討たれたか……」

「セドリック殿下は……ブリュムへと撤退中に敵の挟撃に遭い、捕縛されました……」

「何たる事だッ!!! サイモンを死なせただけで飽き足らず、虜囚の辱めを受けるなどッ!!!!!」


 報告を聞いたアルベール皇子がその場で大声を上げて激昂した。

 怒りに任せてその場で地団太を踏む。


「控えよ、アルベール」

「ぐ……ち、父上がそう申されるのであれば……」


 聖皇に窘められてアルベール皇子は渋々ながら引き下がった。


「聖下、よろしいでしょうか?」


 今まで控えていた”文官風の男”が臣下の居並ぶ列を抜けて前へ進み出た。


「おお、其方か」

「はは」


 文官風の男は片膝を付き臣下の礼を取った。


「臣ユーグ、聖下に進言いたします。 一先ずブリュムは捨て置き、セドリック殿下は帝国との交渉にて取り戻す事が宜しいかと存じます」

「何を馬鹿な事をッ!? ブリュムを掠め取った輩に頭を下げろと言うつもりかッ!!!」

「アルベール殿下、落ち着いてください。 ブリュムの立地、そして時機を鑑みれば今すぐ攻め入るのは得策ではありませぬ」

「確かに、このソレイユとブリュムの間は険しい山岳地帯……おまけにもうすぐ冬に入る……。 もし、山道を行軍中に雪にでも降られたら……」

「その通りです、リオネル殿下。 そして、恐らく敵もそれを見越してブリュムを攻めたのでしょう」

「ぐぐ……忌々しい連中だッ!!!」

「それで、其方ならこの状況をどう打破するか?」

「はは、まずは早急に使者を送りセドリック殿下と共に捕まっている捕虜の返還の交渉を行います。 条件としては”ブリュムとその周辺地域を正式に譲渡する”とでもすれば良いでしょう」

「ブリュム周辺の穀倉地帯を失うのは痛いですね……ですが、兄上や将兵の命には代えられない……」

「そして、セドリック殿下のご帰還を待って…………”南方に大軍を差し向けます”」

「「何ッ!?」」


 ユーグの意外な発言に両皇子が同時に声を上げる。


「ご存知の通り、我が国の南方は比較的温暖で冬でもめったに雪が積もる事はありません」

「ソレイユをがら空きにするつもりかッ!?」

「はい、最低限の守備兵を残しほぼ全軍を動員します。 臨時徴兵まで含めれば20万前後の兵を動員できるでしょう」

「その間に帝国の奴らが山越えをしてソレイユに迫って来るかもしれんのだぞッ!!!」

「それは無理です」


 帝国の襲撃の可能性を訴えるアルベール皇子に、ユーグはバッサリと言ってのけた。


「まず、第一にその頃には山道は雪に覆われています。 雪山に慣れた兵がソレイユを落とせる程の数いるとは思えませぬ。 第二に連中はブリュム統治に相当数の兵を割かなければなりません。 それだけで4~5000の兵はブリュムから動けないでしょう。 そして、第三に20万の大軍が迫って来る南方の”緑蛇”の元へ一番早く援軍を送れるのが何処か……。 最大兵数が30000に満たない西の帝国軍は、ソレイユに攻め入る兵数を確保する事などできません」

「た、確かに……」

「先ずは、我が国の南方を荒らす”緑蛇”めを押し返しましょう。 ブリュムの方は時機を見て、後々に取り戻せば良いでしょう」

「ふむ……」


 ユーグの話を聞いた聖皇は、玉座にもたれかかり思案した後、左右に控える息子達に声をかけた。


「息子達よ、其方等はユーグの策をどう思うか?」

「早急に兄上を取り戻す事には賛成です。 ですが、南方に大軍を差し向けるのは時機尚早では無いかと……」

「”緑蛇”の奴を叩く事自体には賛成だ。 だが、万が一を考えて数万はソレイユに残すべきだ!」

「策自体は良い、だが不安要素が拭えぬか……」


 聖皇は深くため息を吐いて再び思案した。


「……ユーグよ」

「はッ」

「南方へ差し向ける兵は”最低どれだけいれば良いか”?」

「最低数ですか……。 ”緑蛇”の軍の兵数が凡そ50000、それに援軍を加味しますと……国境まで押し返すだけならば10万もいれば……ですがその後、帝国領を切り取る事まで考慮に入れて……最低15万」

「ふむ…………」


 聖皇は眼を閉じて暫し思案し、そしてゆっくりと立ち上がった。


「アルベール」

「ははッ」

「其方を南方に差し向ける軍の総大将に任命する。 兵15万を預ける故、太陽神の威光の元、見事”緑蛇”の軍を破って見せよ」

「お任せをッ!!!」

「ユーグ」

「はッ」

「其方を総大将付きの軍師に任命する。 其方の考案した策だ、見事に成し遂げて見せよ」

「御意ッ」

「”聖炎将軍 モルガン”、”聖氷将軍 ギャエル”、”聖嵐将軍 ルノー”、”聖雷将軍 ラザール”」

「「「「ははッ!!」」」」

「其方等はアルベールの指揮下に入り、共に戦え。 ”七聖将軍”の名に恥じない活躍を期待しているぞ」

「「「「御意ッ!!」」」」


 将軍達に命令を出した後、聖皇は徐に右手を高々と天へと翳した。


「”我らが父たる太陽神に栄光あれ”」

「「「「「太陽神に栄光をッ!!! 我等に勝利をッ!!!」」」」」





        ◆     ◆     ◆     ◆     ◆





 帝国軍占領下 ブリュム  領主館 会議室



「聖皇国からの使者!?」


 フェルディナント皇子が発した言葉にランドルフが素っ頓狂な声を上げた。


「うん、”ブリュムとその一帯の譲渡”を条件にセドリック他捕虜の返還を要求したいそうだ」

「この一帯を……ですか。 随分と大盤振る舞いですな」

「てっきり怒り狂ってブリュムに攻め込んでくるかとも思ったが……」


 皇子がため息を吐いて窓の外を見た。


「もうすぐ冬……だからか……」

「攻めたくとも攻められない、かと言ってセドリックが囚われたままではメンツに拘るって事ですか」

「で……どうしますか殿下?」


 皇子は暫し思案する。


「貰えるものは貰っておこう。 セドリックと本国へ帰還を望む将兵を解放する」

「畏まりました。 では、その様に……」

「ここまでは想定通りとして……後は誰をこのブリュムに残すか……」


 セドリック皇子を返還する事により、正式にブリュム一帯は帝国領になる訳だが、同時にブリュムが”新たな最前線”となる。

 故に、万が一に備えてブリュムは万全の態勢に整えておかなければならなかったのである。


「ギュンター」

「ははッ」

「ギュンターならば、”誰を残す”?」

「ふむ、私ならですか……」


 突然振られた質問に慌てる事無く、ギュンターは僅かに思案して答えた。


「私なら二名、ブリュムに残します。 守りに長けた将が一人、騎馬隊を指揮できる将を一人です。 一人だけと言うなら”私自ら”残る所ですが、現状で皇子の軍師をできるのが私だけなのでそれは避けた方が良いでしょう」

「やっぱり一人では手が回らないか……」

「それで残す将ですが、私はアルノルト殿とテオドール殿を推します。 アルノルト殿は守りに長け、更には我々の中では経験豊富な将です。 テオドール殿は将としての経験は少ないですが、騎士隊長時代から多くの戦功を挙げ、その武名は他国にも轟いています」

「騎馬を率いるというなら俺の方が優れていると自負しているが、その中でテオドール殿が選ばれたのは何か理由があるのですか?」


 ムッとした表情でマルクスがギュンターの意見に横やりを入れた。


「マルクス殿の軍は、我が方で”最速の兵”です。 それを一つ処に留めて置くのは得策ではありません」

「つまり、いつでも動けるようにしておきたいって事ですか?」

「ブリュムにせよ、”緑蛇”殿の所にせよ、いざという時に援軍を出す場合の第一陣は速度が求められますゆえ」

「そういうお考えなら致しかな無い……」


 不承不承ながらも納得したのか、マルクスはそれで引き下がった。


「如何でしょう殿下?」

「現状ならそれが最適だろうね。 他の皆もそれで良いかな?」


 それ以上、異を唱える者はいなかった。


「うん、では改めて命ずる。 ”堅牛将軍 アルノルト”、”騎獅将軍 テオドール”!!」

「「ははッ!!!」」

「両将軍は自身の配下の兵をそれぞれ2000ずつに、僕の配下の兵2000を合わせた6000の兵でこのブリュムに駐留し、この地を統治せよッ!! 尚、慣例に則り前任者を上将とする。 駐留軍総大将はアルノルトが副将はテオドールが務めよッ!!」

「「御意ッ!!!」」

「後の者達はそれぞれの所領に帰還し、次の戦いに備え軍備を整えよッ!! この度の戦の報奨は追って沙汰する事にするッ!!!」

「「「ははッ!!!」」」




 その後、帝国軍は素早く兵を纏めると、アルノルト、テオドール両将軍をブリュムへと残し一路ヤーデへと帰路に就いたのだった。

挿絵(By みてみん)

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