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アベルの青い涙  作者: 天野 七海
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五話 闇の世と一筋の光

 時が経つのは早いもので、モロゾフが闇の帝王として君臨してから既に三年の月日が流れた。


  地下に巨大な宮殿を作ったモロゾフは、闇の帝国軍。という軍隊を結成して次々に地上を支配していった。

  軍隊に所属した者とは、モロゾフに寝返った者たち。要は生身の人間だ。


 ホワイトタウンやその他の都市は焼き払われ、当時の華々しさは虚しく、灰と共に消えて行った……。


  農村では、子供から老人までもが必死に働いた。そうまでしなければ生きて行けないからだ。 もしも帝国軍に逆って農作物の出し惜しみをすれば、集落ごと襲われて捉えられる事になり、その者達は地下宮殿で強制労働させられるのだ。

 そこでは負のエネルギー収集が行われているらしい。しかし、連れて行かれた者は二度とは戻らず、どんな方法で収集しているのか? 誰も知るよしは無かった。


  それだけでは無い。

 モロゾフは、これまで人類が築き上げてきた科学や文明を根こそぎ取り上げたのだ。

  使用が許されたのは、従順に従う部下達のみ。それ以外の者は電気の使用さえも許されず、人々は原始的な生活を送るしかなかった。



  その頃、エンドリューは避難した者達と共に山間の渓谷に移り住んでいた。

  結界を張り巡らせたその場所に近づく者は無く、いつしかそこは「死の谷」と呼ばれ、人々から恐れられるようになった。


  その後、天界ではどんな事が起こっているのか?エンドリューには想像すら出来なかった。 天界の力を司る「アレセイアの鏡」が割れてしまってからと言うもの、天界との交信は途絶え、音信不通になっていたからだ。


  その時までは……。

 

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 

  と、ある「プロボ」と言う小さな町。

 そこで今、奇跡が始まろうとしていた。


  一見、暗黒の世とは無縁と思われる程に豊かな大地。 なだらかな坂には麦畑が広がり、土壁に覆われた住居が所々に見られ、緑の薫りが漂う、静かで喉かな町。


  プロボとは、そんな何処にでも有りそうな田舎町だ。


  だが、ここも例外ではなかった……。


  収穫物の殆どを徴収されてしまう為に人々は貧しく、希望を見出せないまま、働き続けるしかなかったのだ。


  この日もそうだ。

町人達は朝早くから鍬を持ち、汗水垂らしながら労働していた。

そんな、いつもと何ら変わらない光景だったのだが……。

突然、厚い雲が空を覆い始め、生ぬるい風が吹き始めたのだ。


  「嵐が来る。早く切り上げましょう」


  若者が叫んだ。

 周りで作業をする仲間達は手を休め、空を見上げた。

今にも落ちて来そうな黒い雲が、完全に太陽の光を遮った。


  「 あぁ、そうした方が良さそうだ」


  中年男性が同意すると、皆は慌てて農具を片付け始めた。


  すると……。

  何故だか辺りが急に明るくなったではないか?? 町人達は不思議な天候に驚いた。


  「な、何だ?? あれは……?」


  見上げた空の眩しさから手をかざし、指の隙間から薄目を開けてみると……。

  何と、人が立っているではないか…!!

 それも宙に浮かんだ状態で、人々を見下ろす様に……。


  やがて光は弱まり、町人達はその者を見た。


  純白の衣を身にまとい

  そよ風に揺らめく、長い赤毛…。


  その存在は、地上の者では無い。と、誰の目からもはっきりと確認できた。


  次の瞬間、大地を揺るがす様な地響きにも似た声が響いた。


  「皆の者、祈るのだ……。

 皆の祈りが満ちた時、神の流す一雫の涙が、大地に希望の子をもたらすであろう……」


  声の後、空から何かが降ってきた。それは若者の前に落ちて転がった。


  「そこの者……。希望の子が十六になりし時、それを渡すのだ。その役目、頼んだぞ」


 声の主はそう言い残すと、光に吸い込まれる様に空へと消え、厚い雨雲はみるみる散って行った。


  若者の手の中には、辞書くらいの大きさをした’箱’ があった。


 。。。。。。。。。。。。。。。



  その噂は、たちまちプロボの町を抜けて遠い町まで広がった。


  『暗黒の世を終わらせて欲しい』


  人々の切ない願い…。


  神に信仰を無くした者達までもが、藁にもすがる様な想いで祈り始めたのだ。

言うまでも無く、噂はモロゾフの耳にも入った。


  モロゾフは手下を集めると、その者たちに命令した。


  「噂の発端を調べあげ、当事者を処刑する事。そして、噂を口にした者は片っ端から捉えろ」と…。


  それからと言うもの…。祈る者、噂を口にする者、闇の帝国軍に逆らう者たちは次々に捉えられていった。


  拷問は残酷で、女、子供など関係無く、まるで虫けらの様に殺された。

 その時、多くの命が奪われたのだ。


  人々は恐れて口を閉ざし、記憶は薄れ、忘れ去られたかの様に時は過ぎた。


  しかし、確かに’箱’は今も存在し、若者の手の中に残っていた…。


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