二十四話 大切なもの
夜通し続いた前夜祭も幕を閉じ、いよいよ挙式の時を迎えた。
緊張の余りであろう。 ラミダスの顔から笑顔が消え、完全に固まってしまっている。
そんなラミダスを励ますように、トニーが背中を叩いた。
「ラミダス、そんなに緊張しなくても大丈夫よ 」
「うん、いつものラミダスなら問題ないさ 」
「あら? いつものラミダスはどこへ行ったのかしら〜〜 」
アベルとニコールもラミダスの体を叩きながら笑ってみせた。
「 ラミダス頑張って! 」
「マリアにまで言われるとは……参ったな 」
ラミダスは、苦笑いを浮かべながらマリアの頭を撫ぜたのであった。
そして、アベル達はその場にラミダスを残して客席へ向かった。
宮殿の外には、一目ラミダス王子の姿を見ようと大勢の国民で溢れかえっていた。
中央に敷かれた赤い絨毯の両側には、金色のトランペットを手にした演奏隊が並び、美しい音色を奏でている。
キンカン…キンカン……。 鐘の音が響き渡った。
そして、客席に座る者達の視線が、石畳の先に有る扉へと向けられた。
……あっ、ラミダスだ。
扉が開き、その向こうに仲良く手を取り合うラミダスとマーガレット姫が……。
そして、歓声を浴びながら二人は赤い絨毯を歩き始めた。
バサバサ……。アベルの耳元に音が飛び込んで来た。 何と、幾十という数の白い鳩が一斉に舞い上がったのだ。
きれい……。 ニコールは上空へ目を向けた。
ラミダスとマーガレット姫の行く先には、優しい眼差しを浮かべたスチュアードと国王が立っていた。
前方まで二人が歩いて来ると、ラミダスが王の前で膝間付いた。 その姿を見守るように王は深く頷き、王冠を手に取った。
その時……。
一本の張り詰めた空気が走った。
新しい王子誕生の瞬間を、誰一人として瞬きする事さえ忘れて見守っている。
国王が、ラミダスの頭上に王冠を乗せた。 そして、ゆっくりと起き上がったラミダスは、真っ直ぐした姿勢で立った。 その……余りにも凛々しくて勇ましい姿に、皆は見惚れて言葉を失ってしまった。 アベルまでも……。
その後、スチュアードが二人に問い掛けた。 その言葉は暖かくて優しい。
その言葉に従って、二人は誓い合った。
アベルには言葉を聞き取る事が出来なかった。 それは、声が小さかったからではない。 ただ、今日という日のこの瞬間が嬉しくて、まるで自分の事の様に感じ、想いが溢れてしまったから……。
誓いの言葉が終わり、二人は向かい合った。 そして……ラミダスの両手が姫の肩へすっと伸び、二人は口づけを交わした。
『わぁーーーーー!! 』
皆は立ち上がり大歓声を贈った。
きっと……ラミダスとマーガレットにとって、この歓声こそが何よりの祝いになったであろう。
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別れの時がやって来た。
スチュアードは仲間達に言った。
「君達に何かあった時、直ぐに駆けつけるよ。 何しろ、アレセイアの鏡を見れば君達がどうして居るのか手に取るように分かるからね 」
そう言い残したスチュアードは、白い光に包まれて空へと昇って行った。
「元気でな 」
ラミダスが言った。
アベルはその言葉に、少しだけ寂しさを感じた。
「うん……君なら、立派な王子になれると信じているよ 」
「ありがとう 」
別れを惜しみ、ラミダスとアベルは固い握手を交わした。
「もう、二人とも大げさね。 いつでも来れるわよ。 GTなら直ぐなんだから〜〜 」
ニコールは二人に笑いかけた。
「そうだな 」
「うん、そうだね 」
顔を見合わせ笑うアベルとラミダス。
「ねぇ、ラミダス 」
「どうした?マリア 」
「もう、動物を殺して食べないで 」
マリアの言葉に、ラミダスは「わかったよ 」そう言いながらマリアの頭を撫ぜた。
そして、マリアはトニーの服の裾を引っ張った。
「どうしたの?」
「あのね。マリア、トニーと一緒に暮らしたい。 いいでしょ?」
「えぇ、いいわよ。 嬉しいわ! 」
トニーはマリアを抱きしめた。
「よかったわね 」
ニコールが隣で微笑んでいる。
「じゃあ……。 そろそろ行こうか? 」
アベルの言葉に仲間達は頷くと、アベル、トニー、ニコール、マリアの四人は大型飛行船に乗り込んだ。
ラミダスとマーガレット姫、そして沢山のバーニャ国の住人達に見送られ、アベル達を乗せたGT機は空へと飛び去った。
そして、一行はプロボへ向かった。
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窓の外は、雲ひとつ無い快晴だ。 それは、まるでアベルの心を映し出しているような空だった。
今、アベルの胸は穏やかで、清々しい気持ちでいっぱいだ。
その時、アベルは空を見ながら気が付いた。……大切なもの。 それは自分の中にあって、決して一人では輝かない。 という事を……。
「ラミダス、とても幸せそうだったわね 」
トニーが余韻に浸っているかのように呟いた。
「そうね、村の人達も嬉しそうだったし、本当に良かったわ 」
ニコールも優しい笑顔だ。
アベルはマガルの人達の顔を思い出した。 以前村で会った時は、何かに怯えているみたいだったが、バーニャで再会した時は皆が活き活きとした瞳をしているような気がした。
会話を楽しんでいるうちに、眼下にプロボの町が……。
ニコールとの別れがやって来た。
大型機GTは、ゆっくりと下降を始めた。
機体は、草原に生い茂る草を靡かせながら着陸した。
「ニコール、元気でね 」
「あなた達も元気でね 」
ニコールに抱き着くトニーとマリア。
そして、アベルはニコールの側へ。
「ニコール、僕達の旅は君の協力無しでは成し遂げられなかった。……本当にありがとう 」
「何よ? かしこまっちゃって……。 私達は仲間じゃない 」
明るい口調でニコールは言い返すと 「さようなら…… 」そう告げて手を振った。
その後、ニコールを乗せたGT機の扉が閉まった。
機体は浮き上がった。 そして、風がアベルの髪を柔らかく揺らした。
高い所まで昇ったGT機は、まるで別れを惜しむように、しばらくその場で止まっていた。
やがて……飛行船は空の彼方へと消え去って行った。




