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アベルの青い涙  作者: 天野 七海
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二話 モロゾフの裏切り

  一見、平和になりつつあるスラム街。


  だが、人類の復興を考えるのであれば、苦しむ人々を一人づつ救うのでは埒が明かない……。

 本当の目的は、ホワイトタウンを崩壊した後に貧富の差を取り除き、金持ち達から労働者を解放する事だった。


 モロゾフも分かっていた。その任務こそ、今回の使命だと……。


 しかし、モロゾフには迷いがあった。


 モロゾフは人々の為に働き、役目を終える度に心の中で神に祈った。



  あぁヤハウェ様………。

 どんなに人を助けたとしても、感謝すらされないのは何故ですか?…。

 

 別に、礼が欲しい訳では無く、ただ……。


 私を目の前にすると、人は悪魔を見るかのように怯えた目をして決まって神に救いの祈りをする。 それは何故でしょう??

 助けたのは私、 兄でも無く、他の誰でもない。 私、だと言うのに……。


 それに、たった一つの拠り所であった、 あの人まで……。


 私は、これから何を支えにして行けばいいのでしょう??


 それに比べて兄は、人間達からまるで神の様に崇められている。

 同じ使命を受けた天使の身である事には変わり無いのに……。


  ヤハウェ様.......。


 貴方様は、私に兄の引き立て役になれとおっしゃるのですか? 私を捨て駒にし、犠牲にする。と、おっしゃるのですか...。


  私には、貴方様の考えがわかりません。


 私は、貴方様が思っている程に強くないのです…。 広い荒野を彷徨う、一頭のか弱い子羊と同じなのです。


  なのに何故? どうして? 兄では無く、私に破壊の力を与えたのですか?


  ならば、この不安に打ち勝つ強さを、鋼の心を私にお与えください……。




  モロゾフの心の叫びは、暗い闇の中へ吸い込まれる様に消えて行った......。



 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

(フフフ……)

 不気味な笑い声が響くように聞こえた。

  これは頭の中で聞こえるのか…? 何とも不思議な感覚だ。


  「誰だ、誰かいるのか…??」


  ハッと振り向いて見たものの……。

そこに人影は無く、 小さな祭壇が設けられた礼拝所は薄暗くて静まり返っていた。


  (フフフフフ……。ようやく我の声が聞こえたか……)

  再び、声が木霊した。


  「誰だ、私に何の用だ!!」


  (そう意気むでない。我の声が聞こえるとは……。 天使とはいえ、そなたの心が汚れた証……)


  「そうか、この忌々しい指輪のせいだな! ならば、こうしてくれよう!」


  モロゾフは、指から指輪を引き抜こうとした。しかし、どういう訳なのか? 全く抜けようとしない。


  (ハハハッ……。 無駄だ。我の声が聞こえた時点で、そなたはもう我の一部なのだよ)


  「うっっ……! ならば、この指ごと切り落としてくれよう」


  モロゾフは、祭壇に置かれた花瓶を割ると、ガラスの破片を指に押し付けた。

 

「ぐわぁっ……!!」


  すると、ビリビリと電流の様な衝撃が体中を駆け巡り、モロゾフの手からガラスの破片が滑り落ちた。


  (お愚か者めが……。言ったであろう。そなたは我の一部だと……。)


  しゃがみ込んだまま、苦しそうにモロゾフは胸元を掴んだ。


  (よく聞け、神に祈ったって無駄だ。どんなにそなたが訴えようと、我の魔力で通じぬ。……我は長い間、こんな窮屈な所に閉じ込められ続けたのだ。 今こそ神に復讐する時…。今、来たり……!!)


  「そんな事させるか!!」


  (フフッ……。よくもそんな事が言えたものだ。 知っておるぞ、そなたの願いを。 強くなりたいのだろう……??)


  「ちっっ!!」

 

 モロゾフが小さく舌打ちをした。


  (恥ずかしがる事は無い。ずっとそなたを見ておったし、心の声も聞こえておったわ)


  モロゾフはより一層強く、胸をえぐる様に掴んだ。

 

  (そなたも惨めで哀れな者よのぉ……。神に見捨てられ、たった一人の理解者まで失うとは )


  「見捨てられたのでは無いっっ!」


  (ハハハッ……。強がりも結構。…我ならその願いを叶えてやれるぞ。そなたの大切なものを取り戻す事も無理ではない)


  「なっっ!そんな手には乗らん」


  (良く考えてみよ。強さが手に入れば人間なんぞ意図も簡単に従えられる。そなたは強い。だが悪人になり切れぬゆえ、中途半端に人間を怖がらせているだけだ。 真の強さがあれば兄は勿論、神までも我が手に納める事が出来様ぞ)



  モロゾフは、地上に降り立ってからの事を振り返った。


 私は、今まで認めたく無かっただけなのかもしれない。兄には敵わないと……。

  この魔物の言う通り、確かに真の強さがあれば何もかも手に入れられるだろう。

  もう兄の影に成る事も、孤独と恐怖に怯える事も無い。

  そして、何よりも失いたくないもの、 ソフィア……。

 もう一度だけ君の笑顔が見られる。と言うのなら、悪魔に魂を売っても後悔などしないだろう……。


  「 ……… 」


  (どうだ? その気になったか?)


  「……私が、その提案を断ったらどうする?」


  (うぅ……。構わん。その時はそなたの指を離れ、他の憑り代を探すだけ。神の元からここに運んでくれただけでも良しとしよう)


  「じゃあ私で無くとも、他の者を使ってでも復讐する。と言うのだな」


  (さよう……。人間なんぞに比べ、生命力の強い天使の身の方が破壊力も上がるのだがな。だが拒む。と言うなら仕方が無い)


  「 ………わかった。本当に願いを叶えてくれる。と言うなら…… 」


  (そうか!! )


  「では、私は何をすればいいのだ?」


  (先ず……。そなたの兄に死んでもらおう)

 

  「なっっ! 兄を殺すなんて!! それに天界人には掟があって、同胞に手を下した場合、霊力を失って蛇に姿を変えられてしまうのだぞ」


  (フッ……。 そんな事は分かっておるわ。誰もそなたに殺させる。なんて言っておらん。そんなものは下衆な人間にヤらせればいい…)


  「どうして兄を殺さなくてはいけないのです……?!」


  (どうした……? 大切なものを取り戻すのではなかったのか? それには兄の存在は目障りだろう?)


  「だが……しかし、殺すなんて事までしなくても……」


  (だから駄目なのだ、そなたは。 まず人間界を支配し、神の国を恐怖に陥れる為には人間共の負の力が必要だ。その力さえあれば、天界の力の源と言われるあの鏡さえも砕け散るだろう。それには人間共が崇めるそなたの兄を殺し、人に恐怖心と怒りを植え付ける必要があるのだ)


  「……!!」


  (……よかろう。では、そなたに鋼の心をくれてやろう。……そなたの中から’良心’。という不純物を取り除いてくれよう。

 今からそなたは生まれ変わるのだ。悲しみも恐怖心も感じない。感じるのは怒りと憎しみのみ。

  恨め、憎め……。兄を……。神を……。その醜い心がお前に力を与えるのだ…)


  次の瞬間、モロゾフが崩れる様に床に倒れ込んだ。


  (目が覚めた時、暗黒の魔王が誕生する……。ようやく我の時代が訪れるのだ……。見ておれ……憎き神よ……。我を封印した事を後悔させてやる……。

 フフフッ……ハハハハハハッ……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……… )



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