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アベルの青い涙  作者: 天野 七海
13/25

十三話 ラミダス

  「おい! 大将様に頭を下げるんだ!! 」


  若者の隣にいた住人が偉そうに命令した。

  慌てて軽く頭を下げるアベル。 他の仲間達も頭を下げたが、スチュアードだけがふてくされた態度で住民を睨んだ。


  「なんだ?……その目は……!! 」


 住民はスチュアードを睨み返し、足で蹴り飛ばした。

  奥歯を食いしばりながら悔しそうな顔をするスチュアード。



  「お前達の目的は何だ……!! 」


  怒りに満ち溢れた怒鳴り声が響いた。

 その声に驚いたのだろう。 村人達の話し声や行動がピタリと止まった。


 若者が発したのはその一言だけ。

 その後はアベル達の答えを待っているのか? 黙ったまま、じっと睨みつけるだけ。

 シーン……。 とした静けさの中、アベルには若者の燃える様な視線が無性に恐ろしく思えた。


  「ぼ、僕達は人を探しにやって来ただけなんだ…… 」


 やっとの思いで言葉を発したアベル。


「そうなんです。 信じて下さい 」


  「お願いです。 どうか話しを聞いて下さい 」


  トニー、ニコールも訴えてみたが、全く信じてもらえていないようだ……。大将の鋭い眼差しは変わる事は無かった。


  「この者達を投獄しろ! 」


  「はい……!! 」


  大将の命を受けた者達は、アベル達を掴み上げると引きずる様に連行した。

 

  「ここで大人しくしているんだな 」


 牢に放り込まれたアベル達。

 嫌味にも聞こえる言葉を吐いた住人は、ドアに鍵を掛けた。


 牢は、丸太を括り付けただけの簡単な作りだ。 しかし、両手、両足を縛られている為に逃げ出す事は不可能。 トニーの怪力を頼りたいが……。 縄は鋼の様に頑丈で、流石のトニーも歯が立たないようだ。


  「 クソッッ!! 何が大将様だ!! 」


  スチュアードが柱を蹴飛ばした。

 よっぽど悔しかったのだろう……。その後もブツブツと口を動かして文句を言っている。いつも冷静なスチュアードにしては、らしくない振る舞いだ。


  「あぁいい匂い。 お腹空いたわ〜〜 」


 トニーが切なそうに外を覗いた。


  「トニー、こんな時でもご飯の心配? 呆れたわぁ 」


  「ニコール、それは聞き捨てならないわね!腹が減っては戦は出来ぬ。と、昔から言うでしょう? 」


  「じゃあ、ここから出る方法が見付かったのかい? 」


  「いいえ 」


  「なんだ〜〜 」


  微かに期待したアベルは、がっかりして肩を落とした。


  「ここは、マリアに任せて 」


  マリアの視線の先に、一羽の鳥が……。

 しばらくすると、鳥は牢の直ぐ側まで羽ばたいて来た。

 目と目で会話をしているのだろうか? マリアと鳥は見つめ合ったまま、じっとしている。


  「お願いね 」


  マリアがそう言うと、鳥は上下に首を二回振った後、空に飛び去った。



 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


  どの位待っただろうか……。


  牢の隙間から小ネズミが入って来たではないか?!それも六匹いる。

  ネズミは鼻をヒクヒクさせると、それぞれに散らばり縄をかじり始めた。


  「いいぞ!! 」

 

  思わず声を上げるアベル。


  「しかし、ここを出たとしても肝心の霊泉が無くては…… 」


  「そうね、スチュアードの言う通り。 地図も奪われたままだし、宝剣が手に入らないわ 」


  「じゃあ、どうすれば…… 」


  ニコールは一瞬考え込み、言った。


  「とにかくここを出ましょう。 そして、態勢を整えてから奪うのよ 」


  「奪うって……。 何かいい考えが有るのかい?? 」


  「もう!! だから、一旦安全な場所に身を隠してから考えるって言ってるでしょ?!」


  「そんな事、言ってなかったじゃないか!! 」

 

  「アベル、貴方は何も考えて無いのね! 少しは自分で考えたらどうなの? その頭は飾りかしら?? 」


  「言ったな!! 」


  ニコールの態度に腹を立てるアベル。


  「アベルもニコールも止めなさい! 」


  トニーが止めに入るが、二人は睨み合ったままだ。

  ネズミが無事に縄を噛みちぎってくれた。


「ありがとう…… 」


 マリアが礼を言うと、ネズミ達は鼻をヒクヒクさせ上下に首を二回振った後、再び牢の隙間を潜る抜けて去って行った。


 身体の自由が効くと……。


  《ガタン!!》


  トニーの蹴りが一撃……!!

  扉は外へ振り飛ばされた。


  「さすが、トニー!!」


  「あったり前でしょ〜〜。 こんなの朝飯前よ 」


  トニーは腕を組んで得意げなポーズを決めた。


  「さぁ、逃げるわよ 」


  ニコールの手引きで外に飛び出す仲間達。


 とにかく早くここを出ないと……。

  焦るアベル。

 警戒しながら外に出たのはいいのだが……。牢の周囲には人影は無く、妙に静まり返っていた。


  何か様子が変じゃないか??


  アベルが不審に思った時、遠くから悲鳴の様な声が聞こえてきた。 トニーとスチュアードも気が付いた様だ。


  「何かしら?? 」


  「向こうから聞こえる様です 」


  「行ってみよう! 」


  三人は進む方向を変え、ニコールとマリアもその後を追った。


 しばらく走り、アベルは急に足を止めた。


  なっ、何て事だ……。


  それは、とても悲惨な現場だった……。

 逃げ惑う原住民達を容赦なく撃ち殺す兵士達。 現場は機械音に似た銃声と悲鳴で埋め尽くされていた。


 ……モロゾフの手下だな!!


  アベルは形振り構わず駆け出し、トニーとスチュアードも後に続いた。

 今はただ、捕らえられた事も乱暴に扱われた事も忘れて、村の人達を救わなければ……。 そんな気持ちでいっぱいだった。


  トニーは敵の背後に回り込むと、両腕で抱きかかえて放り投げ、スチュアードは家の柱に立て掛けてあった槍を見つけると、兵士に向かって突き付けた。


  アベルも槍を手に取ってみたが……。

  いざ戦いとなると、何故か急に足が竦んでしまって体が動かない……。

  銃声と悲鳴が、耳の奥に木霊する様に響き続けた。

  槍の先端がブルブルと小刻みに震えた。


  「危ない!! 」


  スチュアードが叫び、アベルに飛び掛かった。 かすめた銃弾は柱をブチ抜き、細かい木片が飛び散った。


  「アベル、しっかりするのだ!! 」


  スチュアードは怒鳴ると、そのまま別の場所へ去った。


  突然、目の前で人が崩れる様に倒れた。


 横たわった男性が、アベルに向けて腕を伸ばした。その口元が、微かに動いている。 何か言いたい事があるのだろうか? アベルはしゃがみ込んで懸命に言葉を聞き取ろうとした。


  「た……のむ………… 」


  男性は掠れた声で言うと、グッタリと俯いた。


  「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!! 」


  何度も揺り動かしてみるが、男性はそれっきり動かず、返事も無い。

 そして、アベルは胸の鼓動を確かめようと男性の胸に耳を押し当てた。


 …何も聞こえない……。


 アベルは起き上がると、眠った様に息絶えた、亡き者の瞼をそっと指で閉じた。


 …わかったよ。 僕がこの村から敵を追い出してみせる。 だから安心して眠るんだ。


  アベルは再び槍を握った。 その腕に、見えない力が漲ってきた。


  …さっきまで生きていた人が今、僕の目の前で死んだ……。 僕に、何かを託して……!!


  気が付くと、アベルは槍を持ったまま敵に向かい猛進していた。

  もう、頭の中は何が何だか分からない!? だが……、一つだけ言える事は、アベルの中の何かが燃え上がり突き動かしている。と言う事だ。


  「うわーーーーーー!! 」


 アベルは 雄叫びを上げたまま、もの凄い勢いで人々を跳ね除けていた。

 アベルの猛進を慌てて避ける人々。

  そして、兵士の姿を見つけると、アベルは力いっぱいに槍を振り下ろした。

 兵士の腕から滑り落ちるライフル。

 村人が兵士に飛び掛った。

 

  その時、目の前で何かが光った。

 そして…… アベルの脇に居た兵士が俯き倒れた。


  何だ??


 また光が飛んだ。

 やはり、光の行く先には倒れた兵士が……。

 その姿をよく見ると、左胸に矢が刺さっていた。 他の兵士達もそうだ。 全て左胸が射抜かれている。 それも、一寸の狂いも無く正確に……。 もはや神業。としか言えないくらいに……。


 アベルは光が飛んできた方向を向いた。

  そこには、怒りの形相で立ちはだかる大将の姿があった。


  …あっ! あの人に間違い無い。僕達が探していたのは!


 大将は、全ての敵を始末すると弓矢を放り投げた。 そして、慌ててアベル達の元へと駆け寄ってきた。


  「 さっきは悪かった。許してくれ…… 」


  頭を下げ、手を差し伸べる大将。

  アベルとトニーは直ぐに大将と握手を交わしたのだが、スチュアードはためらって手を出そうとしない。 トニーは無理やりスチュアードの手を握って二人に握手をさせた。


  「俺の名は、ラミダス 」


  大将はそう名乗った。


  「僕はアベル。そしてトニーにスチュアードに…… 」


  仲間を紹介するアベル。


  「自己紹介している場合じゃありません、早く荷物を返して下さい 」


  スチュアードが傷付いた村人達に目をやった。


  「わかった。 おい、荷物を返してやってくれ 」


  「はい 」


 返事をした村人は、急いでその場を去って行った。



  スチュアードは霊泉を手に取るや否や、傷付き倒れた村人の居る方向へ走って行った。


  悲しみ、泣き叫ぶ子供達や家族。

 スチュアードは人だかりを掻き分けて、倒れた者に寄り添った。 そして、霊泉をその口元に数滴垂らして飲ませた。


  すると、どう見ても助かる筈など無いだろう……。と、思われる重症患者が、みるみると回復しているではないか……。


  『ありがとうございます…… 』


  『ありがたや……。 ありがたや…… 』


  涙を浮かべながら喜ぶ人々。

  村人達はスチュアードの周りに群がり、地面に頭が付く位に頭を下げ始めた。その様子は、まるで神を拝むかの様な姿だ。


  スチュアードは、次々に治療を施していった。

  傷の深い者が多かったが、幸い、息のある者が殆どだったので大事には至らなかった。

  しかし、そんなスチュアードにも救えない者が居た。 それは、既に息を引き取った者だ。


  スチュアード、そして仲間達の目の前には、あの男性が横たわっていた。

  その者の側に寄り添う妻と子供。


  「お兄ちゃん、父ちゃん目を覚ますんでしょ? 他の人も、お兄ちゃんの薬を飲んで治ったもんね…… 」


  無邪気に問いかける少年に、スチュアードは返す言葉が出て来なかった。

 

  「ねぇ〜お兄ちゃん、父ちゃんまだ起きないね? 眠っちゃったのかなぁ? 」


  「………… 」


  これ以上、何も出来ない自分の無力さを感じ取っているのだろう……。

  スチュアードは黙ったまま、悔しそうに拳を握りしめて立ち尽くしているだけだった。

  母親が、我が子の瞳を覗き込んで微笑んだ。


  「そうよ。 お父さんは疲れて眠ってしまったのよ。 だから、起こさない様にしましょうね 」


  「うん、わかった 」


  何も知らずに笑う幼子の姿が、アベルにはとても切なくて、痛々しかった。


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。


  葬儀がしめやかに執り行われた。


  幾十にも小枝が積み重なったベッドの上に、男性は眠るように横たわっていた。

 穏やかに眠る横顔。 今にも起き上がって話し掛けてきそうだ。


 村人達の歌声……。 それは、悲しくも優しい調べだった。

 アベルに歌詞の意味は分からなかった。 だが、何となく……亡き人の旅立ちを見送る歌だろう。 そんな事が感じられた。


 村人達は歌い終わると花を手向けていった。

 一輪……一輪……。

 重ねた日々を思い起こす様に積み重なる花々。

 別れを惜しんで泣き出す人。笑いながら昔し話をする人。何も言わずに頬や髪に触れ、涙を浮かべる人。 それぞれの想いがその場所にはあった。

 

 アベルには、男性の顔が何故だか微かに笑っている様に思えた。

 


  やがて……小枝に火が灯された。

  一気に燃え広がった炎は、子供の父親を一瞬で飲み込んだ。

 煌々と揺らめく炎……。

  煙が立ち込めた。

 やがてそれは白い帯となり、天に誘われる様に空高く登って行った。


  村人やアベル達はじっと黙ったまま、煙の行方を温かく見守るだけだった。


 

  葬儀が終わり、村人達はそれぞれの家路についた。

 人気が無くなり静まり返った広場は、やけに寂しく思えるばかりだった……。


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



  「君らは、ただ者じゃ無いな? あの薬にしてもそうだ。 聞かせてもらおうじゃないか」


  ラミダスが皆の顔を窺った。


  「そーよ。初めから話を聞いてもらえていたら、誤解だってされなかったのよね〜〜 」


  「うん、そうそう、トニーの言う通りだわ 」


  トニーとニコールが頷いている。

  こんな二人を見るのは初めてだ。 どうも、気の合う時は女性?同士、間が合うらしい。


  「その事なら悪かった。 どうか許してくれ 」


 ラミダスは困った顔を浮かべると、皆の前で深々と頭を下げた。


 アベルはホッとした。

 捕らえられた時はどうなる事か? と心配したが、ラミダスは思った以上に話の分かってくれそうな人物だ。


  ラミダスが、アベル達をある建物の中へと案内した。


  部屋中は、長いテーブルに椅子が並べられ、床にはカーペットが……。 そこに足を踏み入れると心地良い弾力があった。どうやら、あの巨大生物の毛皮らしい。 それに、壁には槍や弓矢。といった狩の道具が立て掛けてあり、アベル達が捕らえられた網が無造作に固められていた。


  「さぁ、掛けたまえ 」


  ラミダスが椅子に座るように勧めると、アベルはゆっくりと腰を下ろした。

  切迫した空気の中、その緊張感からゴクリと唾を飲み込むアベル。

  アベルは深く空気を吸い込むと、ゆっくりと話し始めた。 自分達は何者で、どうしてこの山に来たのか? つまり、探していた仲間がラミダスである。という事を……。

 

  ラミダスは驚いているようだ。 まさか、自分が神に選ばれた者だなんて夢にも思わなかっただろうから……。


 アベルは席を立ち、ラミダスの前まで行くと、手を差し伸べてた。


  「僕達と、一緒に来てくれるよね? 」


  「………俺は、行けない 」


  「 えっ?! 」


  てっきり賛同してくれるとばかり思っていたので、アベルも他の仲間達も耳を疑った。


  「どうして?! 僕の話しを聞いただろう? 君の協力が無ければモロゾフは倒せないんだ!! 」


  「……悪いとは思う。 だが、俺はこの村の長だ。 世界の人々を助ける前に、この村を守る義務が有る。 だから行けない 」


  「そんな〜〜。 やっとの思いで見つけたのに〜〜 」


  ガッカリするアベルと仲間達。


  《バタン!!》


 その時、扉が勢い良く開き、部屋の中に三人の若者が入ってきた。


  「どうした? お前達?? 」


 ラミダスが問い掛けた。


  「話しは聞かせてもらいました。 どうかお願いです。 亡くなった者達の為にもモロゾフを倒して下さい 」


  「そうです大将。ここの事は我らに任せて、この方達と一緒に仇を取ってください 」


  「お願いします 」


  必死に訴える若者。

  しかし……、 ラミダスは相変わらず難しい顔をして黙ったままだ。


  「お前達の気持ちは良く分かった。しかし……。また奴らが襲ってきたらどうする?? 俺の弓が無ければ太刀打ちできないだろう? 」


  「確かに大将の弓にはかないません。 ですが、皆で知恵を絞れば何か太刀打ちできる方法が見つかると思います 」


  「そうです。 罠を張るとか、何か出来る事が有るはずです。 ですから、どうか安心して行って来て下さい」


  「しかし…………。 やっぱり行けない 」


  「そんなぁ〜〜 」


  声を上げるアベル。


  「ねぇ、ちょっと待って。 要は、敵に見つからないアジトが有ればいいのよね? 」


  「そんな場所があるなら問題は無い。しかし、ここは俺らのテリトリーだ。誰よりもこの山を知っている。村人全員が住めるような安全な場所など、何処にも無い 」

 

  「さぁ〜どうかしら? 」


  ニコールは意味ありげな返事をすると、ポケットからコンパクトを取り出した。

 そして開くと、何やら指で押して操作をしているようだ。


  「ねぇ〜、ここならどうかしら? 」


  ニコールはテーブルの上にコンパクトを置き、ボタンを押した。

 すると、映像が画面から飛び出したではないか!


  「何だ?コレは……?! 」


  若者達は驚き、映像に触れようと手を伸ばした。

 スルリとすり抜ける映像。

 ラミダスは、得体の知れない道具を信用していないようだ。


  「ここ知ってます!!」


  興奮状態で若者の一人が声を上げた。


  「本当か? 俺は、こんな洞窟知らんぞ 」


  「大将、実はこの前、狩りの帰りに足を滑らせ崖から落ちました。そうしたら、この洞窟の入り口に出たのです。 あんな絶壁にある洞窟です。大将さえも知らなかったのです。奴らに見つかる訳がありません 」


  「そうか…… 」


  「そうです。 我らが住民達を新しいアジトに連れて行きますから、どうか安心して仇を取って下さい 」


  「お願いします! 」


  「お願いだ。僕達からも頼むよ 」


  アベルは手を合わせてラミダスに頼み込んだ。 村の若者達も必死だ。


  「わかった。じゃあお前達、留守を頼む 」


  「はい! 大将 」


  ラミダスが仲間に加わって安心する仲間達。

 しかし、何か気に掛かるのか? アベルが浮かない顔でニコールに尋ねた。


  「ニコール。そのコンパクトだけど、あいつらも持っていないのかな? 」


  「大丈夫よ。 これはナビゲーションシステム。と言って、調べたい場所が一目で分かる道具なの。 でも、余りのも情報量が多くて、戦争の道具に使われてしまったのよ。 それで、私達の先祖は二度と戦争が起こらない様にこの機械を闇に葬ったの。 でも、この一つだけが当時の記録として博物館に展示されていたのよ。 もし、奴らが持っていたとしても、あえて情報量の少なくなった新型しか持っていない筈だから、この場所は調べられないわ。でも……皮肉なものね。人殺しに使われた道具が、こうして人の命を救う事になるなんて……」


  「ふーん。そうなんだ〜〜 」


 ニコールの言葉に皆が納得したようだ。


  「そうと決まったなら、早く出発するわよ 」


  「うん! そうしよう 」


 

 。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

 マガルの村人達に見送られ、ラミダスを仲間に迎えたアベル達は、次に目指す『剣』の眠る場所へと向かった。


 飛行船の場所へ向かう途中、ラミダスが、山に住む動物達の事を教えてくれた。

  あの巨大生物の他にも、この山には様々な生き物が生息しているらしい……。

 例えば、ヤギの顔をした狼や、飛び跳ねながら移動する猫。 それに、羽を広げると十メートル以上も有る、大き過ぎる大鷹。 そしてあとは……。虎の顔をした人食い大蛇だ。 どうやらラミダスの話しによれば、村の人が何人も食べられたらしい……。 そこで、村では大蛇狩りが度々行われているようだ。 しかも、射止める事が出来た者は、どんなに若かろうと一人前として認められるそうだ。 ラミダスは、既に十匹以上を仕留めたらしい……。 体の傷跡から想像すると、きっと弓の腕だけでは立ち向かえず、九死に一生を得た事もあったに違いない……。


 話しはとても新鮮で、アベルにとって興奮する内容ばかりだった。

 

 会話を楽しんでいると見慣れた場所に出た。 そうだ、飛行船を降りた場所だ。

  しかし……。 巨大生物の物と見られる大きな足跡が散乱していて、周囲の木は所々薙ぎ倒され、地面はボコボコと凹んでいる。


  「あぁ………… !!」


 声をあげたニコールが、急に駆け出した。


  目の前には、大きく凹んで変形してしまった飛行船。 その様子から、とても動きそうに無い事がうかがえた。


 無気力になり膝を落としたニコール。

 何も言葉が出てこない程、落ち込んでしまっている。 それも当然か……。


  「元気出せよ…… 」


 声を掛けるアベル。


  「落ち込んだ姿なんて、ニコールには似合わないわ 」


  ニコールの肩を優しく撫ぜるトニー。

 すると、ニコールが立ち上がった。


「まだ、道のりは長いのに〜〜!!」

 

 ムシャクシャした気持ちを晴らす様に、ニコールが地面を蹴った。


「道の事なら俺に任せろ。 地図を見せてくれ 」


  「大丈夫よ。 こっちにはナビが有るんだから 」


  「本当か? 俺は、そんな機械は信用しない。 自分の勘と足だけを頼りに今まで山を制してきたからな。 ……じゃあ聞くが、そのナビとやらは地面の状態まで分かっているのか? この山には沼地も有れば、地中に住む蜂の住処も有る。 知らずに入ったら最後だ。……どうだ??」


  「わかったわよ。 地図を渡せばいいんでしょ?!」


 一瞬ムッとしたニコールだったが、ラミダスの言う通りだ。 ナビは道順は示してくれるだろうが、流石に地中の蜂の巣までは知る訳がない。

 ニコールは、アベルから預かっていた地図を渡した。


  「 ここか? 目指す場所は? 」


 地図を広げると、ラミダスは赤い印を指した。


  「そうなんだ。 そこに宝剣が眠っているらしい……。 でも、そこには恐ろしい怪物が居るんだ 」


  「怪物ごとき、俺の敵じゃ無い 」


  「そうだね。 ラミダスは人食い大蛇も仕留めたんだもんね 」


 アベルが妙に納得して頷いていた。

 ラミダスの自信過剰振りに、思わず苦笑いを浮かべるスチュアードだった。



 



 

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