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普通の高校生が普通の異世界転生  作者: 闇岡ヨシハル
11/12

11.パレードの牛



朝食を食べた後、シルザを呼んで町の外へ出かけた。失った自信を取り戻す為だ。単なるゴブだ。で、三匹やって、飽きた。自信とか別にどうでもよくなった。


木陰に座って考える。定員4人で誰を残すか。ヴァンパイアのシルザと、龍族のヒスイは確定だ。二人とも希少種でうまく使えば即戦力になる。あとは、オッドアイを持つエルザルザか。岡山出身のメリーゼか、猫耳リリアナ辺りだな。


他は獣人、人間、エルフで、つぶしは利きそうだが、その分キャラが薄い。

ちなみに、エルフは美人ではない。ハーフエルフも不気味な顔。美形と言われるのはクオーターと8分の1だ。なお16分の1はほとんど普通の人間と変わらない。俺の所有しているのはただのエルフだった。交配して捌けばと考えるのは素人だ。エルフはまだいけるが、ハーフエルフとするのが結構きついらしい。精神的にも、社会的にも。


でまあ、みんな売っても良かったんだが、俺はけっこう人情系だから、開放の方向で考えた。天下りとはいえ、銀貨6枚はぼりすぎ。

んで俺は都合良くそこら辺に落ちていた材木を拾って、ナイフ片手に奮闘中だ。


「しゅじん様、なんですか? ソレ」

「ん? 知らない?」

「初めてです」

「ん、俺の国の遊びで、オスロつって、アラブ人とユダヤ人を仲直りさせるノルウェイの玩具なんだけど、本当に知らない?」

「教えて下さい」

「ん」


シルゼにルールを説明していたら、急に小太りのおっさんが話に割り込んで来て


「おや、珍しいですね、是非ともウチの商会で買い取らせて頂けませんか?」

「ん?」


デブのくせに話が速い。こいつ、デキる。


「100・・・200・・・分かりました、500出しましょう」

「ん、銀貨5枚ですか?」

「いえいえ。銀貨500枚。つまり金貨5枚ですよ」


当時のレートで、金5=銀500=銅貨5万枚=日本円で2500万である。


「ん、売ります」

「商談成立ですね」


油ぎった手を出して、握手を求めてくるデブ。金のためだと割り切ろう。


「・・・ん・・・」

「今後とも、よろしく」

「ん、約束を保護してもらおうか?」

「反故、でございますか?」

「そうだ。二度言わせるな!!」

「はぁ?」

「5枚だ!!」


デブは革袋を手渡して米搗きバッタの様に小走りで去って行く。速い、デキる。

降って湧いた大金に呆然とその場に立ち尽くす俺とシルザ。


「しゅじん・・・様・・・」

「ん」


今まで金の事で悩んでいたのが馬鹿みたいだ。生活費とローンで月に銀60なら、8ヶ月はイケる。一挙に解決するのかと思えば、すこし雲行きが怪しい。


実は今まで明かしていなかった重要な伏線が存在した。それは俺がみんなの顔と名前を把握できない事だ。自信があるのはシルゼとか、ヒスイくらい。

頑張って覚えるのもクリティカルな選択肢だ。しかし自由に自分の人生を再チャレンジさせてやるのも、むしろみんなの事を本気で守ってやっていると言えまいか?


安宿に泊まって一日二食で銅7枚である。

餞別に7枚渡せば三ヶ月か。それだけあれば何か仕事が見つかるか?

開放料 銀6×15人=銀90。餞別 銀7×15人=銀105。


人数が減るなら引っ越すか? ローンが24ヶ月×銀12枚=288枚。

この際まとめて払うと、483枚。残りが銀17枚と家・・・。

餞別を銀6枚にして、今晩は何か上手いものでも食おうかな。


そうと決まれば急いで町へ引き返す。不動産屋へ金2枚と銀88枚を支払う。返す刀で町役場へ、銀108枚を払って奴隷解放の手続きをした。市場に到着したのは昼だった。肉屋で極上のブツを購入し、あとは適当にシルザに任せた。


帰宅して、少し遅い昼食の弁当を使い、俺はおもむろに酢と卵を混ぜ始めた。

くくく、メイド達はきょとんとしてやがるぜ、くく。


混ぜ終わって行きましたら、メインの食材を出して行きます。

出して行ったら、切って行き、塩で下行き味を付け行きてま行きす。

で、焼いて行きます。両面こんがり焼いて行ったら、皿へ盛って行き、テーブルへ持って行きます。


仕上げに、霜降り牛のソテーに自家製マヨネーズを合わせて・・・完成だぜ!!

「美味しいです、ご主人様」

「すごい、御主人様!」

「ごしゅじん、うまいぞ」

「ご主人さま、すごい」

「素敵だ、ご主君」

「ああ、主様」

「おにい様・・・すごい肉汁・・・」

「美味しいです。マイロード」

「幸せです。御主人様」

「初めてなのじゃ、ご主人」

「おいしいな、あるじさまぁ」

「さすが御主人の肉!!」

「旦那様ぁ、とろけます」

「お肉おいしいよパパ」

「ああ、すごいですぅ」

「美味です」

「やっぱり御主人様なのよ」

「・・・・・・肉汁・・・」

「おいしいお肉です、しゅじん様」


上から順に、ヒスイ、エルザ、エリー、リリアナ、ルルザ、エルザルザ、ミリア、リリーザ、エリゼ、メリーゼ、ルイズ、イリーゼ、マリア、エリーズ、ルイザ、イルーザ、リゼカ、ルイーゼ、シェルザベル。


「ん、おかわりあるから遠慮するなよ?」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


こうして最後の晩餐も無事大成功に終わった。


奴隷解放の件を告げるとみんな笑顔で感謝の言葉を口にした。

餞別の銀貨5枚を与えると涙ぐむ子まで出た。

まあ、うちを卒業してもそれで会えなくなる訳じゃないんだし大袈裟だなと思った。


と同時に愛や忠義が記号のようにデジタル処理される、そんな糞な世界を見て、イジって、興奮している糞垂れの神様たちに、怒りを覚えた。

ファックミーオカマヤロー。とでも言っておこうか?


ラリった後遺症なんですかね、見て下さっている神様たちに喧嘩売ってますねえ。まぁ阿呆なので気付かないんでしょうが、気付くのは普通の人だけですからねぇ。

と、別れの寂しさを紛らわすために、そんな事を考えるんだろうか?


つくづく俺って、不器用な、損な性格だな。参っちゃったな。


それで、どうした、ってやつだ。迷宮で稼いで女に子を産ませて、美食をむさぼって人に頼られて自尊感情を満たして、テクノロジーを出して銭を儲けて溜め込んで、国を興して軍略の鬼才で喧嘩を売られて戦争に勝って、魔法が使えて自分には価値があって創造主すらぺこぺこしてきて。


それは酔った乞食の見る夢だ。池波や柴田を読んだ年寄りが自分を主人公に焼き直して微笑む安らかな寝顔だ。八方塞がりの痙攣だ。

俺の望んだことじゃあない。誰の欲望か?


俺は。いや、この人物は俺に似た文を大量に収集して、その後で俺を産んだ。いや俺未満の人物が産まれ、その人物がゆっくり俺へと補強していったのだ。俺が考えるのは膨大な誰かの考え群からの抜粋である。「先天的に自立して考えている」という意見も有ったが曖昧で採用はされなかった。よく言うだろ、昔の人が既に一度は考えていると。当たり前だ。昔の人の考えの束を元に形成され、よちよち歩きで因果の跡をなぞるのが「俺は考える」と云う事の正体なのだから。


なにも前世の龍ヶ崎の記憶の有無だとか、あるいは強迫観念のような「モシカシテ私ハ物語ノ主人公デ皆ニ読マレテル事ニ気付イテナイダケナンダ」でもない。人が自動的に伏せなければ統合を失調しかねない自我の成り立ちに関する推論だ。重い口調でも軽い口調でもよい、どちらも誰かの口調だから。他の誰の引用でもない「俺」の出来る事は只のしゃっくりだけで、抜粋の書き間違いだけだ。無力。


冒険の旅はできない。誰か昔の勇ましき者の行跡を辿る観光旅行だけ、できる事はそれだけだ。俺は生きているのか。「生きていた」のピックアップだ。死ねるのか。「死んだ」をなぞるのみ。もう書き間違いは出来た。これで充分だろう。





―――効率的選択―――


「効率的選択を起動します。使用期間を入力して下さい」


―――100年―――


「100年間効率的選択に則って行動します、よろしいですか?」


―――はい―――


「効率的選択モードへ移行します」


俺は意識を手放した。


















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