1.涅槃
俺の名前は龍ヶ崎令斗、ラノベやゲームを人並みに嗜むごく一般的な高校生だ。
母方の祖父は古流武術の達人で、警察OBや暴力団組長からも一目置かれている。
両親は海外赴任中で、俺は現在都内で一人暮らしを満喫している。
「ちょっとー令斗ぉー、遅いよー」
「へーいへい」
こいつの名前は花房澪。
親同士の仲が良い、いわゆる幼馴染ってやつで、校内でもトップクラスの美少女だ。
まぁ俺のように彼女の本当の仮面を知っていたら、そうでもないんだが。
そんな所も含めて澪は澪だと俺は思う。
「なんだ朝から、夫婦喧嘩か?」
こいつは俺の悪友、西園寺拓也。クール系リア充でラノベ好きだ。
で、俺は臭い油に浸って寒さに震えながら死んだ。17年の短い人生だった。
納得できないのは他の誰でもなく、確かに俺だった。
意識はしっかりしている。
俺の名前は龍ヶ崎令斗、ごくご普通なの高校生だ。俺だ。
しかし今、俺は光の中にいる。赤くて鼻の穴が痛い光だ。
「―――」
低いくぐもった音、水のような。
「―――、―――」
何だ? 俺か?
俺の名前は龍ヶ崎令斗、ラノベを尊敬するごく普通の高校生だ。
「おーよしよし、可愛いバルは俺に似て可愛いなー」
唐突に目の前に現れたのは、金髪イケメンエルフの良い匂いだった。
いや、良い匂いのエルフ男が唐突だ。耳がフランス人のようだ。
「可愛い鼻は、ママに似て可愛いなー」
イケメンの繊細な唇が俺の鼻に触れた。くすぐったい。
抱き方が下手なせいか、俺の口から、ふぇふぇと声が漏れる。
「まぁ可愛そうに、パパの抱っこは怖かったでちゅねー」
俺を取り上げたのは金髪美人。にやにや笑いながら、俺に頬擦りをして、顔を見て、頬擦りをして、顔を見た。そして、頬擦りをした。
「バルは、かわゆい、でちゅ、ねぇ?」
ふたりは俺をバルと呼ぶ。
あれ?
龍ヶ崎令斗・高校生だったはずだが?
登校途中の、
澪の幼馴染の、
テスト勉強しなくても割と高得点を取れる、
普通の、
普段だるそうに体育の授業受けてるけど中学時代一度だけ室伏並だった、
ごく一般人の、
龍ヶ崎令斗なんだが?
「だー」
俺は赤ん坊だった。現実的に考えて、おそらく異世界転生だろう。
気にすんな。
「ねんねの時間でちゅね、ほーらよしよし」
俺のことをベッドへと乗せて寝せた金髪美人。
たぶんこの人生での母さんになる人だ。
赤ん坊の俺を見下ろすその美人さんは突如、その俺の見ているその目の直前で
「――――― ファイア」
短い詠唱とともに突然唱えて、瞬間その指先から火炎が急に出した見せてみた。
きたー。
魔法が存在する世界の存在が確定的にい明らかなんだが?
「じゃあねバル、おやしゅみゃちゅー」
異世界の言語だろう。ふたりが馬鹿面のまま出て行った。
とりあえず状況を整理しておこうか。
俺は通称バル。
たぶん0歳。
エルフと人間のハーフエンゼル。
生前の記憶あり。
この世界は魔法ありのファンタジー要素が大きい。
言葉の大半は理解可能。
ならば
―――鑑定―――
途端に頭脳の中枢へ違和感のある情報のかたまりと思しき物体ががすべり込んでこ来た。
それがこれだ。