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危険な太陽  作者: 裟久
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1章〜4章

この物語に登場する人物、団体は完全な空想です。実際におられる方とは一切関係しません。またこの物語をお読みになって不快になられても一切責任はとりません。以上のことを了解して下さった方のみお読み下さい。

一章【出会い】







大がまだ5歳の時。田舎に住んでいた大の家の隣りに大阪の町中から引っ越してきた家族がいた。



『隣りに引っ越してきました,安西ですぅ。よろしくおねがいしますぅ。』




どうやら安西というらしい。大の母親に関西弁で挨拶しているのが大にも聞こえてきた。




大はやんちゃで自然で遊ぶのが大好きな少年だった。




ある日…大が暇をもてあましぶらぶら歩いていると,一人の小さな女の子が野良犬に追いかけられていた。




『キャー///』




泣きべそをかきながら逃げる少女を見て大はあきれてしまい,大きめの棒を持って犬の頭を思いっきり叩いた。



『キャン//…』



犬はよろめいて逃げて行った。大は一目でこの少女が安西の娘だと想った。



まずこの辺の子供は女でも犬に追いかけられて泣いたりしない。野良犬がいるのは当然のことだ。





大は何も言わずにその場から立ち去ろうとした。



『ちょっとまってぇ!!』



少女はまだ半分泣きべそをかきながら大に近付いて来た。




別に忙しくもなかったが大は女と話すのが苦手だったので無視して歩いた。



『ねぇ,待っててばぁ!!うちの名前は安西里香や。名前教えてぇ。』




無視する大に里香はひるまず着いて来る。大はうざったくなり走って家に帰った。




次の日。



大は友達と近くの川に釣りに出かけた。5歳とはいえ釣りの腕前はなかなかのものだ。



『やっぱり大君はうまいな。かなわんよ。』




『そうか?』




大は地元では餓鬼大将のようなもので同世代の男の子からも一目置かれる存在だった。



『大って名前なんやぁ。』




後ろの草むらから不意に里香が現れた。


大はびっくりした。




『おまえなんだ?今日もおっかけてきてたわけ?』



大がめんどくさそうに里香を見た。



『なんや。レディに対してそんな言い方ないやろ。』



里香はニッコリ笑い大に近付いた。そして思いも寄らない一言を口にした。




『うち,大に惚れたねん。うちと結婚してぇ。』




『はぁ?』




里香も5歳なのだが,かなりませていていきなり大にプロポーズしてきた。



『うち本気で昨日一目惚れしてん。』







里香はちょっと頬を赤くして大を見た。



『おまえさぁ…ふざけるのは顔だけにしとけよ。』




大は里香を犬から助けたことを後悔した。

そしてまた逃げるように家に帰った。



『うちあきらめへんからなぁ〜!!!』



里香は走っていく大の背中に向かって大声で叫んだ。




その日以降,里香は大のあとを追いかけた。大も痺れをきらし,いつからか里香のことを近くにいても自然に想うようになっていた。













二章【告白】







大と里香が出会って10年の月日が流れた。




大と里香は高校受験を控えていた。







『なぁ?大?うちあんたと同じ高校行こうと思ってるねん。』



学校の帰り道。相変わらず抜けない関西弁で里香が話す。


『はぁ?おまえ止めとけ。俺、鬼多高だぜ?里香の頭だったらもっといいとこ行ける。』




大は相変わらず無愛想な性格だったが里香にだけは少し心を開いていた。


学校でもすぐ喧嘩をして問題を起こす大は卒業もやっとできる程だった。






一方里香は明るい性格で友達もたくさんでき,背が高くすらっとした体型に茶髪のロングヘヤー,ちょっと黒く焼いた肌でいつも化粧をばっちりした,どこから見てもギャルだった。だが頭は良く問題も起こさなかった。




そもそも茶髪にしたのも大の彼女なんやからこんくらいはせんととかなんとか言い染めたのだ。




『どうせ高校行ったらこの村でらなあかんなるやろ。そしたら大と離れ離れになってしまうやんか。』




『いいじゃんよぉ…別に…』



大は口ではそう言ってたが心では里香と離れることに抵抗を感じていた。10年間もずっと自分を追いかけ回してきた里香がいなくなるのは信じられなかった。




『いやや!!』




『あっそぉ。』




半分涙目になりながら言う里香を見て大はフンッと笑い吸っていたタバコを道端に捨てた。




なんだかんだで里香は大が行く鬼多高に進路を決定した。親の反対も押し切り,担任教師の反対も押し切った。




それだけ里香にとって大は本当に大切な存在だった。


一目惚れって本当にあるんだと心から思った。



冷たくて無愛想で頭も悪くて…だけどどこか優しい大を愛していた。




大がいない生活なんて里香にとってはあり得なかった。卒業が近くなった中学校では告白ブームだった。




大は相変わらず一日中喧嘩をしては教師に説教される日々が続いていた。




『鷹邸!!おまえ今度なんかしでかしてみろ!!卒業できなくなるぞ!!!』


大は特別指導室で説教されていた。




『殴られて殴りかえしてなにがわりいんだよ!!』




『おまえがそういう性格だからすぐに不良に絡まれるんだ!!』




大は地元で喧嘩も無敵だった。自然の中で育った大は人並み外れた運動センスをもっていた。




そんな大を倒せば自分が最強になれると想う不良たちはうじゃうじゃいた。






大は説教の途中に腹を立て指導室を飛び出して屋上に出た。




たく…むなくそわりいぜ…




『俺と付き合ってください!!!』




屋上の隅で男子生徒がまさに告白をしていた。大はその光景を見て持っていたタバコを床に落としてしまった。



告白されている相手はまぎれもなく里香だった。



フンッ…何動揺してんだ…別に俺と里香は付き合ってる訳でもねえし…




大はタバコを拾い火をつけて里香から見えないところでタバコを吸い出した。



心では里香と自分はなんでもないと思っても,大は耳を済ませて告白の結果を聞いてしまった。







『ごめんなさい。うちあんたとは付き合われへんねん。』



里香は告白を断った。これには大も驚いた。なぜなら里香に告白した相手は校内で1,2を争う美男の田中だったからだ。




『なんで?せめて理由きかせて。』



田中は生まれて初めてふられたらしく間抜けな表情で里香に聞いた。




『うち好きな人がおるねん。世界一いい男なんや。田中くんも知ってるやろ?』



『鷹邸くんのこと?本気で好きだったの?』


里香が大のことを好きというのはだれもが知っていたが,美しい容姿と明るい性格の里香はやはりモテた。




『当たり前やん!!』




里香はそれだけ言うと大が聞いていることも知らず屋上から降りていった。




…あいつばかだな。




大はフンッと鼻で笑った。だがなぜか顔は笑顔になった。心のどこかで里香が他の男のものになるのを怖がっていたのかもしれない。







『鷹邸先輩///』




大が学校から帰ろうとすると後ろから女子生徒に呼び止められた。



正直大は驚いた。学校の連中の大半は大のことを怖がって近寄らないのに,里香以外の女子に話しかけられたのは初めてだった。




大が振り向くと小柄な女の子が下を向いて立っていた。どうやら2年生らしい。




『なに?』




大が無愛想に言うとその子は一歩大に近付いた。




『ずっと前からあたし先輩のことが好きでした。あたしと付き合って下さい。』




大は内心慌てた。女の子に告白されるなんて初めてだ。



だが実際大は密かにモテていた。キリッとした切れ長の目に高い鼻。上品な唇。180cmの長身のわりにしっかりついた筋肉と広い肩幅。



ただ危険な感じがするので好きになっても声をかける勇気がない子が多く告白されずにいたのだ。



告白された瞬間大の頭に里香の顔が浮かんだ。



『ごめんな..俺付き合えねえ..わりい』




大はそれだけ言って去ろうとした。




『せめて..せめて先輩を好きだった証が欲しいので…いつもつけてるそのピアスどれかくれませんか..?』




大が再びその子の顔を見ると涙を流していた。




『いいけど..』




大は自分の耳にはめていたピアスを一つ外すとその子に渡した。




『ありがとうございます..』


その子はそのまま走っていった。大は少し考えさせられた。女というのは話したことさえない男にふられてあんなに悲しむのかと。







大はその子のことを考えながら女について考えてみた。




今し方俺は女を泣かせてしまった。




大は自分の母親のことを考えた。大の母親は実は大が9歳の時に死んだ。







気の強い母は近所で酔っ払い同士の喧嘩を止めようとして刺殺された。







その母がいつも口癖のように大に言うことがあった。




『大,男はね,女よりも強い。分かるね?大人になればもっとよく分かる。なんで男の方が強いか分かるか?』




まだ幼い大には分からなかった。




『なんでだよ?』







『それは男が女を守るために強いんだ。だから母さんはおまえが女を泣かせたら許さない。』




いつも笑っていた母がそう言う時だけ真顔になっていたのを大は覚えていた。




『泣かせねえよ』






『ならいいんだ。』




そう言って母は大の頭を撫でた。




大には父親は憎い存在でしかなかった。いつも母親に暴力を振るっていた。だから母親も大に女を泣かすなと言ったのかもしれない。






大の母と父は父が20歳,母が16歳で結婚している。いわいるできちゃった結婚だ。




しかし,大が生まれてからは父は他に女をつくるようになった。たまに家に帰ってはまだ幼い大に暴力を振るってはストレスを解消しているようだった。




母は大をかばい殴られ蹴られるようになった。なぜ父がこんな風になってしまったのか分からなかった。




母は父がたまに家に帰って来ると大を外に逃げさせた。




大は母が家の中で殴られている音や両親が大声で喧嘩しているのを聞いて泣いていた。幼い大にはあまりに悲しすぎる家庭だった。




大が5歳の時とうとう母と父は完全に別居した。大はそっちの方がよっぽど良かった。



母の父から殴られてできる痣はまたたくまに消えた。




だが母と父は離婚はしなかった。明らかにお互い冷めているのに世間体を気にしていたのだろうか。







しかし母との暮らしは楽しかった。父は県外に住むようになりますます父の恐怖を感じなくて住むようになった。




母はまだ21歳だったので体力はあったようで,建設業者の雑用のような仕事をしていた。大も何度か母の仕事場に行ったことがあった。




なんと母は少しでもお金がもらえるようにと男の大工達と一緒に現場で力仕事をしていることもしばしばあった。




大はその光景を見る度に早く大人になって母を助けたいという気持ちが大きくなった。




だがその夢は叶わなかった。母は25歳でこの世を去った。


















大は一つ空いた耳のピアスの穴を撫でながら母のことを思い出しつつ家に帰った。






大の家は古いマンションの一室だった。そこで母の姉,つまり叔母とその娘と暮らしていた。




叔母も旦那とは別れていた。




『ただいま。』




『大くん,おかえりなさい。』




叔母はまだ33歳で。娘つまり従兄弟の亜季は小学生だった。




叔母は大が帰って来るとちゃんと玄関まで来て迎えてくれる。



大がどんな問題を起こしても何も言わず優しく接してくれる叔母は母とかぶって見えた。






貧乏だったことは確かだが大は父親と暮らすのは嫌だった。母が死ぬまで父と離婚しなかったせいで父が大を引き取ると言い出したのだが,叔母が当時9歳でまだまだ学費もかかる大を強引に引き取った。叔母は父がどんな人間か知っていたらしい。






大は自分の部屋に入りベッドに横たわった。なぜか心臓がまだ強く鼓動している。人に告白されることはこんなに緊張することなのかと考えた。




今まで恋愛に興味などなかった。生きるだけで精一杯だったからだ。中学校に入ってすぐに朝は新聞配達,学校から帰ったら地元の建設業者に行き材木運びのバイトをした。




体はへとへとだった。叔母はそこまで働いてくれなくてもいいと言ってくれたが,父親がいるのに叔母に引き取ってもらうのはわがままなような気がした。だから体が持つ限りバイトをして給料は全額叔母に渡した。






今日はバイトが休みだった。久し振りの休みだ。2週間に一回休みがあればいい方だ。




卒業式まであと3日だった。大はいろんなことを思い出した。しかしいくら思い出に浸っても喧嘩ばかりやってた気がした。少し笑えた。




俺は何やってたんだろ…3年間バイトか喧嘩しかしてねぇ…







―コツコツ




大の部屋をノックして叔母が入って来た。






『大くん,あと3日で卒業だけど,大事な話しがあるの。』




『何ですか?』








大は嫌な予感がした。良い知らせだとは想えなかった。




『私…再婚しようと想うの。』




叔母は少し照れくさそうに前髪をかきあげながら言った。




大は内心ほっとした。悪い知らせではない。叔母はまだまだ綺麗だし再婚は当然の話しだと想った。




『叔母さん…おめでとう!!!幸せになってください。』




大はここまで育ててくれた叔母の幸せを想い,心から幸せになってほしいと願った。




しかし…大の頭には一つ不安が過ぎった。叔母が再婚するとなれば当然親戚でもない自分は邪魔になる。






『叔母さん…俺もう義務教育終わったんだし…一人で住むよ!!!』




『大くん…』




叔母も大の意見に反対はしなかった。叔母は小さくごめんねと呟いた。




大は少しショックだった。一緒に住もうと言ってくれる気がしていた。いや…離れて暮らすのが当たり前と想っていてもやっぱり叔母なら止めてくれると想ったのかもしれない。




その光景をひっそりと亜季が泣きながら見ていた。小さい時から大と一緒にくらしてきて本当の兄のように思っていた。







大はその場に正座をし叔母に頭を下げた。




『お世話になりました。』










4日後大は家を出た。
















三章【高校入学】







大が越してきたマンションはびっくりするくらい狭かった。叔母から毎月仕送りが来るが,せいぜい5万円がいいところだ。どうやら再婚した相手もそれほどお金持ちではないらしかった。寮に入ればもっといい部屋で安いだろうが,誰かと住むなんてことが大にできるはずがない。






もちろん5万の中から高校の授業料も払わなければならない。家賃はなんとか3万円のところを借りた。




大はもちろんバイトをすることにした。学校帰り,毎日バイトを探して歩いた。もちろん里香は大にくっついたまま離れない。







『なぁ…大はどんなバイトしたいん?』




棒付飴を舐めながら里香が聞いてくる。




『時給が高けりゃ何処でもいい…てかなんでおまえついてくるわけ?』




『大の側にいたいから!!』




『意味わかんねぇ。』






高校に入ってから2ヶ月。里香はますます大人っぽくなっていた。腰まである髪には軽いパーマをあてている。



スカートはミニで細く形の良い足が見え隠れしている。




大は商店街に並ぶ店を一件一件見た。まず大は接客する作業は無理だと思った。






大が自身があるのは体力だけだった。だがなかなかいいバイトは見つからない。






『大?』




『なんだよ...』




大はめんどくさそうに返事した。






『大は辛くないん?叔母さん再婚してお金苦しいやろ?高校生でこんなに苦しい人いないんやない...?』






『だからなんだよ?』




里香の顔は本気で心配しているようだが,大は貧乏なんて怖くなかった。まだ叔母から毎月5万円もらえるくらいましだと思った。




だいたい中学校の時だって寝る間を惜しんでバイトをした。人より苦労してるとは思わない。たまたま親父に恵まれなかっただけで,それでもお袋には恵まれていたからそれで良しとする。






『大…うちなんでも協力するから…』




里香はいつになく真面目だった。こんなに悲しそうな里香の顔なんて見たことあっただろうか…。




『おまえがそんな悲しい顔すんなよ。俺はなんも不幸だと思ってねぇし,だから苦しいなんて思わねぇよ。』







大は自分が焦っていることに気付いた。里香の悲しい顔を見て心が痛かった。とっさに心配をかけたらいけないと思った。




里香は大の言葉を聞いて嬉しそうにほほ笑んだ。




『やっぱり大は強い男なんや!!!惚れ直したでぇ!!!』




『別に惚れなくていいって..』




大は真顔でそう言ったが,内心は里香の心配が嬉しかった。この世で自分のことを心配してくれる人間なんて里香以外にはいない気がした。里香は舐め終わった飴の棒を公園のゴミ箱に捨て,先々歩いて行く大を追いかけて小走りした。里香の顔は笑顔だった。




日が沈み始めた。




『里香…もうおまえ帰れよ。暗くなるぞ?』






『うちがいないと寂しいくせに何言うの?』




『勝手に言っとけ。』




里香は暗くなっても大につきっきりでバイトを探した。




すると前方に大型デパートが見えた。入口にはバイトを募集しているという内容の文章が書いてある紙が貼ってあった。




仕事内容は商品運びらしい。大はその紙を読んで店内に入って行った。




里香も大の後ろからついていき店内に入った。




『すいません...バイト募集しておられるんですか?』




大が中央カウンターのようなところにいる中年の女性に聞いた。




『兄ちゃんバイトしたいの?』




『はい!!雇ってもらいたいんですが…』




『こっちにどうぞ。』




中年の女性に連れられて大は店長らしき人の前に通された。里香は洋服売り場で待っていることにした。







店長は50過ぎくらいのおじさんだった。大は店長に一礼し働きたい旨を伝えた。




どんな質問をされるか緊張した。なんと言っても鬼多高というだけで今まで断り続けられた。それだけ鬼多高は荒れていたのだ。。




しかし店長の面接はシンプルなものだった。




『君…体力に自身はあるかね?』




『はい!!なんでもやります。』




『そうか。分かった。じゃあよろしく頼むよ。』






大はその一つの質問で採用された。時給もなかなか良かった。大は里香のいる洋服屋のある方向に歩き出した。







里香も喜んでくれるだろう。大は,なぜか里香を安心させたい気持ちでいっぱいだった。




大は少しためらいながら女物の洋服屋に入った。




里香を探すがなかなかいない。里香が大を残して帰るなんて今まで一度も無かった。おかしいなと思った。




何か嫌な予感がした。大は店の中をくまなく探した。その様子を見ていた二人の女子高生が大に近付いて来た。




『もしかして…彼女探してますか?』




里香は彼女ではないが他人から見たら彼女に見えるだろう。 そう思い頷いた。




『彼女っていうかまぁ…』



『さっき鬼多高の制服を着た長髪の可愛い女の子があたしたちの代わりに連れていかれちゃって...』




『はぁ?』






大は意味が分からなかったがやばいことは確かだった。



その二人が言うには店内にこの町では噂になるくらいの不良3人組が来たらしい。



そしてその二人が3人組に絡まれて困っていると里香が中に入ってその3人組にやめろと言ったらしい。




すると3人組は里香を連れて外へ出て行ったらしい。




『すいません...すいません...』




二人の女子高生は大に謝り続けた。




『謝らなくていいよ。じゃあ…』




大は店を出て走り出した。口では謝らなくていいなんて言ったが,心臓は爆発しそうだった。里香にもしものことがあったら…。




宛などないがとにかく走った。



商店街を走って行くと5人くらいでたまっている俗に言う不良少年達のグループを発見した。




二人の女子高生が言うには里香を連れ去った3人組はこの町では噂になるくらいの不良だ。不良は不良に聞くのが手っ取り早いと大は思った。




大はたまっているグループにすごい勢いで近付いて言った。




『おい…この町で噂になるくらいの3人組の不良って誰だ?そいつらどこにいる?』




『なんだてめぇ??いきなり突っ込んで来て。礼儀がなってねえんじゃねえか?』




リーダーらしき男が大を睨みながら言った。




『それどこじゃねぇんだよ。後で何発でも殴られてやるから教えてくれ。頼む。』




大はすごい形相で言った。そのリーダーらしき男も圧倒されたのか3人組の居場所を教えた。




『恩に着るぜ!!』




大は必死に走った。教えられた場所は商店街から少し離れた裏通りの廃墟のビルの地下だった。




確かに薄暗く不良がたまりそうな場所だった。




大はためらわず乗り込んで行った。 薄暗い部屋の中で3人組は酒を飲んでいた。ソファーに里香は寝かされていた。




大は自分の中の何かが切れる音を聞いた。




3人組はまだ大が侵入したことを知らないらしい。




大は低い声で怒りを露にした。




『おい。てめぇらその女返せや。』




3人は一斉に大の方に振り向いた。金髪に、剃り込みに、オールバックに3人ともいかにも不良ですみたいな出で立ちだ。




『ヘッヘッヘ…兄ちゃんまさかこの子の彼氏?』




『泣かせるねぇ…たった一人で助けにくるとわなぁ…』




里香をよく見ると口元が真っ青になっていた。明らかに殴られて気絶しているようだ。







大は3人の挑発なんて頭に入ってこなかった。そのくらい怒っていた。




『てめぇら里香に何した?』



『せっかくいいことしてやろうと思ったら大きな声で泣きながら抵抗してきたから一発殴って静かにしてもらっ!!!!!!/////グホッ…ッハ』




オールバックの男が言い終わる前に大は男の腹を一発殴った。幼少期からの経験からどこを殴れば致命的に効くか知り尽くしていた。事実オールバックの男は床に倒れ込みのたうち回った。



オールバックが殴られて慌てて金髪の男がビール瓶で大の頭を殴った。物凄い音がしてビール瓶が割れた。




大はぎろっと金髪の男の方に振り返った。額から血が流れていたが,まったく効いてなかった。




『…なっ...何!!!!?』








ビール瓶で殴られることなんて初めてでは無かった。長年の喧嘩歴から瞬時に急所を外す術を知っていた。




怯む金髪にはハイキックを一発見舞った。




金髪はよろけて床にぐったり倒れた。




残った剃り込みは大の強さに驚き逃げようとしたが,大は剃り込みの腕をがっちり掴んだ。




『馬鹿かてめぇ…逃げられるとでも思ってんのかコラ..』



『ゆっ..許してくれ。どうか…暴力だけは…』




『あん?てめぇ何言ってんだ?』




剃り込みは確かに震えていた。しかし里香はもっと怖い思いをしたに違いない。








『暴力?てめぇら女を殴ったんだろ?まあいい。てめぇみたいなざこ殴る気もうせる。』




大はまだぐったりしている里香を横に抱きあげ廃墟を出た。



商店街に出て病院を探した。周りの人は大をじろじろ見た。それもそうだ。顔が血みどろで女を抱き走っているのだ。




大が走っているうちに里香は意識を取り戻した。




ぼやっとした頭で目を開けると必死に自分を抱いて血みどろになりながら走っている大の顔が見えた。




大…。




『大…』




『里香?』




大は里香が目を覚ましていることを確認し安堵したような表情になった。




里香はもう大丈夫だと言って自分の足で歩き出した。もうすっかり夜になっていた。




二人は公園のベンチに座った。大はまだそわそわしていた。里香を病院に連れて行くというのだ。




『だから,大丈夫やって!!!大,心配しすぎや!!!』




『馬鹿かおまえ。殴られてこんなに痣になって…気絶してたんだぞ?病院いかなくてどおすんだよ..』




『大…助けてくれたんやね。』




いきなり里香は大の目をまっすぐ見つめて言った。




大は馬鹿や。自分は頭から血流してるのにこんな痣くらいで大騒ぎするなんてほんまアホやわ。




里香は大の血が付いている顔を制服の袖で拭ってあげた。



『…おまえ何してんだよ…制服汚れるぞ?』




里香はそんな言葉お構いなしに制服で大の顔を拭き続けた。幸せそうな顔で…。




大の髪は近くで見るとすごく伸びていた。前髪は目にかかるくらいだ。おしゃれで伸ばしている訳でなく散髪しに行く暇がないだけだと分かっていても里香にはかっこよく見えた。






『大?傷痛くないかぁ?』




里香はまだビール瓶で切れた大の頭の傷を見た。




『痛くねえよ。おまえ人の心配してる場合かよ。』




大は無愛想で里香のことを大事に思っていても優しい言葉を投げ掛けることができなかった。







『里香?怖かったか?』




大はとっさに里香に聞いた。よく考えれば怖いことだろうと思った。男3人にたった1人でさらわれたのだ。




里香は大の顔を拭う手を止めてベンチに座り黙り込んだ。下を向いて小さく震えた。微かに泣き声が聞こえた。







一時して里香は大の胸に顔を埋めて泣き出した。大は里香の頭に顎をのせて優しく里香の背中に手を回して抱き締めた。






10年以上の付き合いだが大が里香を抱き締めたのは初めてだった。




里香は大の体温の温もりを感じて泣きやんだ。ほのかに香るタバコの香りでさえ里香の傷ついた心を癒した。






『里香…もう心配させんなよ。いちいち喧嘩すんのだりいんだからな?』




大はまたいつも通り冷たい口調で言った。しかし里香はその言葉に隠された深い優しさを感じ取った。




『分かった。ごめんな…』







里香は大に抱き締められていることが夢じゃないことを祈った。心臓がトクトクと早く動いているのが分かった。










大はその日里香を家まで送ってまた古いマンションに帰ってきた。




…そういえば俺バイト決まったんだった…。




大はバイトのことをすっかり忘れていた。シャワーを浴びてから髪も乾かさず布団に入った。里香を抱き締めたことを思い出すだけで恥ずかしさが込み上げてきた。



俺なにやってんだろ…。








大は里香に対する甘酸っぱい想いをいただいたままぐっすりと眠った。














次の日大が学校に行くと周りの生徒に避けられている気がした。入学した時から大の喧嘩の強さは生徒の間にも広がり話しかけてくる生徒はほとんどいなかった。




だが今日の雰囲気はそんなものではなかった。




大はわけも分からず気が乗らなくなったので授業を抜けだし屋上に行くことにした。




屋上に行くまで女子トイレがあるのだが,そこから話し声が聞こえてきた。また授業をさぼっている生徒が世間話しでもしているのだろうと想った。鬼多高では当たり前の光景だ。








『知ってる?うちの学年の鷹邸っていう怖い人?』




『知ってる!!!超かっこよくない!!!?』




『あたしも顔とかかっこいいと想うんだけど,昨日ね…あの3凶を一人で潰したらしいよ。』




『えっ!!!3凶を?まぢ?3凶より強いなんて信じらんない!!!!』




『でしょ?なんか怖くて近寄れないよね。確かにかっこいいけど…』



どうやら昨日里香をさらった3人組は3凶と呼ばれていてかなり有名らしい。地元最強と名乗っているらしい。




大ははぁっと溜め息をついて屋上に上り煙草を吸った。



怖いか…俺が?




大は中学の時から周りに怖がられているのが分かっていた。


喧嘩を重ねれば重ねる程周りが離れていく気がした。




それでも喧嘩は辞められなかった。ある意味途中から相手は誰だってよくなっていた。殴り合うという動作が好きになっていた。



中毒のような物だ。殴り合うと自分が生きているという実感が沸く。




そんな生活を送るうちに喧嘩では自分の右に出るものはいなくなった。








大は煙草を一本出すとふかしだした。すると後ろから誰か近付いて来る。




大はその気配に気付き後ろを振り向き睨んだ。




『フンッ…そんな怖い顔しなさんなって』




『おまえは..!!!』




大の方に近寄って来たその男は昨日商店街にいて3凶の居所を教えてくれた不良のリーダー的な男だった。




『おまえもここの高校だったのか…』




『まあな。一本もらうぜ?』



その男は大の煙草を一本とって吸い出した。




『昨日は彼女助けようとしてたんだな…』




『彼女じゃねえよ...』




『その割りにはすごい形相だったぜ,てめぇ?』




大は久し振りに里香以外の同級生としゃべった。




『おまえ名前なんていうんだ?』




『鷹邸大だ...おまえなんてんだ?』




『俺は(なつめ) (しょう)だ。』




翔は身長は小さく髪は坊主に近く金髪だった。いかにも怖いお兄さんだ。まあ正確にいえば怖い小さいお兄さんだが。






『なんかよ…俺おまえみたいな性格好きなんだよな!!まだ会って一日だけどなッ!!!ハハ..』




『!!?』




大はびっくりした。自分の性格が好きなんて言ってくれる人がこの世にいるんだなと思った。




大は照れ隠しにまた青空を見上げた。翔は相変わらずニコニコして大を見る。






『そういえばよ..あの彼女なんて名前なんだよ?』




『だから彼女じゃねえよ!!!』




『まあまあ…いいじゃんか!!!』




『…里香だよ。』






『里香ちゃんかぁ…!!!可愛い子だなぁ。』







翔は里香の顔を見たことがないはずだった。大は不思議に思った。




『おまえ…なんで里香の顔知ってんだよ!!!?』




『あっ!!いっけねぇ口が滑った。』



翔は苦笑いをしながら口に手を当てた。




『実はさぁ!!昨日気になって大の後をつけたんだよ。まあこういっちゃぁなんだが,3凶に一人でかかるなんて無茶だと思って...』




『はぁ?』




つまり3凶と大が闘ったあの時,翔は密かに見ていたのだ。




『俺おまえみたいに強い奴初めて見たよ!!!一人で3凶に勝てるやつなんていないと思ってたぜ…』







翔はそういうと制服をめくりあげ脇腹を見せた。




『どうしたんだよこれ…』




翔の脇腹にはナイフで切られたような傷跡があった。




『去年3凶にやられたんだ。夜に一人で帰ってたところをグサッとな..ハハハッ…』




翔は傷跡を撫でながら笑った。3凶はこの町で自分達が最強だということを知らしめるためこの地区でぐれていた翔達のグループを襲ったらしい。




『痛かったろ?さすがにその傷跡じゃぁ馬鹿な俺でも軽傷じゃねえことくらい分かるぜ?』




『彼女を守りたかったんだ。くさい台詞だと思うだろ?ヘヘッたまたまその夜彼女連れててな…でも俺はおまえみたいに守れなかった…』




翔は空を見上げて悲しい顔をした。大はその悲しさが伝わってきてそれ以上なにも聞けなかった。



翔の彼女は3凶にレイプされていた。




翔の彼女は遥といった。

悲しいことに遥はそのショックで今でも立ち直れていなかった。男を見るとそれだけで体が震える。




そのせいで男女共学の高校には行けず今は部屋に閉じこもっているのだった。






翔はそのことを大に言った。




『遥のことを話したの大が初めてだぜ…』




『そうか..』




『昨日おまえが彼女を助けたい気持ちがすっげえ伝わってきたよ。遥みたいになったら取り返しがつかなくなるからな…』



『あぁ…』







大は決まり悪そうに翔を見た。翔の悲しみがしみじみと伝わって来たのだ。




昨日会ったばかりの自分にここまで打ち明ける翔の気持ちが大には分からなかった。




それだけ翔は大に魅力を感じていたのだろう。




大も最初はただの不良と思っていた翔を少し見直していた。




一緒に話していてこんなに意気投合する奴は大の中ではなかなかいなかった。






『大!!アド教えろよ!!』




翔は自分の携帯を取り出して大に聞いた。






『わりい。俺携帯もってねぇから。』




大はきっぱりと言った。翔はばつがわるそうな顔をした。




『そんな顔すんなよ..はっきり言って俺は貧乏もいいとこだし,親もいねぇ。でも別に哀れまれる程じゃねぇぜ。親父と暮らすくらいなら一人の方がましだからな。』




大は今までの自分の境遇を翔に話した。母が死んだこと。父が暴力的だったこと。中学の時に喧嘩とバイトばかりしていたこと。






翔は大の話しを黙って聞いていた。翔は内心驚いた。普通の10代の若者がここまでたくましく生きれるのかと思った。




『大もいろいろあったんだな…。』




『まぁな…。でも悪い人生じゃねぇぜ...自由だしな。』




大は吸っていた煙草を捨てた。授業終了のチャイムが鳴った。大と翔は二人で屋上から降りていった。







靴箱のところでいきなり翔が口を開いた。




『大の今までの人生はすげえ厳しかったと想った…だけど大が悪い人生じゃないって想えるのは彼女のおかげだと想うぜ...?』




翔が真剣な顔で言ったので大も一瞬黙ってしまった。




『だから,別に里香は彼女じゃねえよ!!!』




『それにしても美人だよなぁ…そんなこと言ってると他の男にとられるぜ?』



大と翔はどちらともいうことなく一緒に帰っていた。



『大〜!!!!』




二人に向かって里香が走って来た。もうすっかり元気になっているようで内心大は安心した。




『大!!!先に帰るなんてひどいやん!!!』




『なんでてめぇにいちいち報告しなきゃいけねんだよ…』



大がブツブツ言っていると里香は翔の方を向いた。




『大のお友達?大に友達ができるなんて奇跡やなぁ…』




『翔だ。よろしくね。』




『うちは里香。よろしくなぁ。』




里香は満面の笑みで翔を見た。




流れでとうとう3人で帰ることになった。



本当は翔は空気を読んで先に帰ると大に言ったのだが,大がその必要はないと言ったのだった。




大にしてみれば昨日のことを思い出すと里香と二人になるのは恥ずかしかった。






三人は大のぼろアパートに上がり込んで世間話に花を咲かせた。




『里香ちゃん本当に可愛いのになんで大なんかおっかけまわしてんの?こんな無愛想でキレやすい男なのに』




翔が大の肩に腕を置きながら言った。




『だれが無愛想だ...』




『うちは大一本やねん。理由はないよ。こんないい男おらへんもん。』




里香はビールを飲みながらまた大のいる前で恥ずかしいことをスパッと言う。



『この幸せもの!!』




翔は大の頬をつついて冷やかす。



『だいたい誰も付き合ってねえっての...』




『またまた照れ隠しはいいからさぁ。』




翔はぽんぽんと肩を叩いてカキピーを食べた。もう時計は8時を回ろうとしていた。




『俺そろそろ帰るわ..!!!』



翔はいきなり立上がり玄関から飛び出して行った。わざと大と里香を二人きりにしようとしたのだ。




『待てよ..!!』




『じゃぁな.!!また学校で会おうぜ!!!』






―ガチャン






翔が玄関の戸を閉めたのでいよいよ大のアパートには里香と大二人きりになった。




里香はわざと気まずくならないように茶碗洗いをしだした。




『里香..いいよ。茶碗なんか洗わなくて。自分でするからよ。』




里香は何も言わずに茶碗を洗い続けた。とうとう茶碗を洗いきり里香は大の迎えに座った。




『大…昨日はありがとう。大に助けられてうち幸せやったよ。』




『いいよ。別に...』




大は照れ隠しに下を向いた。さすがに里香と二人きりで夜自分の家にいることは初めてだった。いつもは大が部屋に上げないのだが,今日は翔がどうしても大の部屋が見たいと言ったので里香も上げない訳にはいかなかったのだ。




今思えば,これも翔の計算だったわけだ。




さすがに大も男だ。これ以上里香を部屋に置いておく訳にはいかなかった。




『里香…もうおせえから,帰れ。送っててやるからよ。』




『うん...』




里香とかつてこれ程気まずくなったことはあっただろうか。大は不思議に思った。ただ一回抱き締めるだけでこんなにも里香を女として見てしまうとは…。




里香は高校に入って女子寮に入っていた。大はそこまで送っていくことにした。門限は9時だ。




寮付近の公園に着くと8時40分になった。




『大?ちょっと公園よらへん?』




『ああ。』




二人はここまで来るまでも一言も口をきかなかった。



里香は公園のベンチに腰掛けた。大も横に座った。




里香は少し悲しそうな顔をしていた。美しい髪から見える横顔を見ながら大はなぜ悲しんでいるのかできの悪い頭で考えた。




『大…うち大にとって邪魔かな?』




『はぁ?』




大は里香の口からこんなネガティブな言葉を聞くのは初めてだった。






『うちなぁ,大に付き合ってるわけやないって何回も言われるうちに本当に大がうちのことウザイと想ってるんやないかって考えてん。悲しくなるんや…。』




『…』




大は黙って里香の話しを聞いていたが,すぐに里香の言ったことは間違いだと想った。




『あぁ。俺おまえのこと本気でウザイと想ってる。』




『…!!!』




里香は手で顔を隠しながらベンチから立上がり寮に帰ろうとした。瞳からは既に大量の涙が溜まっていた。







大も立上がり里香の手首を掴んで自分の方を向かせた。大と里香の視線が交わった。



大はゆっくり里香を抱き締めた。




『そうやってすぐ泣くとことか,いつも調子乗ってるとことか,正義感強すぎて昨日みたいに男に向かって注意して痛いめに合うとことかウザイ。』




大は抱き締めたまま言う。そして更に大の抱きしめる腕に力が入った。




『それに…俺がこんなに里香を大事に想ってんのに本気でウザイと想われてるとか言うところがマジでウザいな…。』




大は里香の髪を撫でながら言った。里香の涙も嬉し涙に変わっていた。








『大〜//』




里香はまだ泣き声混じりな声で大の胸に顔を埋めた。翔の前できっぱり付き合ってないと大に言われたのがそうとうこたえていたらしい。




『でも…大はうちを女としては見てくれへんのやろ?』




里香は涙で化粧がおちかけている顔を上げて大に言った。




『なんでそんなこと言うんだよ?』




大は呆れたように里香に言った。




『だって…高校生が自分の部屋に女がいて早く帰れなんて言わんやろ?』




里香は少しふざけたように言った。




『馬鹿。俺はそんな軽い男じゃねえの。』




大も微笑みながら言った。大がこんなにも優しい笑顔を見せたのは何年ぶりだろうか。



大は公園の時計を見てあと3分で9時になるのを見て里香を離した。




『もう9時だ。寮に帰れ。』




『はいはい!!!じゃあ大…ばいばい...』







里香は大に小さく手を振り寮に帰って行った。その手を振る姿はとても幸せそうだった。大は里香が寮に入るまで見送った。







その頃里香の部屋で一緒に住んでいる奈美と早苗は窓から大と里香の様子を見ていた。




『里香めっちゃ幸せそう!!!ずっと気にしてたもんね…鷹邸くんが自分を女に見てくれてないって。』




『だけどうらやましいな…。鷹邸くんみたいにクールな彼氏がいて…。顔かっこいいしスタイルも言うことないし…。』




『あんたが惚れたらいけないでしょうが!!!』




『そういう奈美もこの前鷹邸くんかっこいいって言ってたじゃん!!!』







『ただいま〜!!!』




里香が弾んだ声で部屋に入って来た。




奈美と早苗はギロッと里香を睨んだ。




『ちょっ..ちょっと!!!?何よ?』




『幸せもの〜!!!』




奈美が嫌みっぽく言った。




『まさか見てたの?』




奈美と早苗は二人そろって頷いた。




『鷹邸くんてやるときはやる男なんだね〜///まさか里香を抱き締めるなんて想わなかった!!!』




奈美がきゃぁきゃぁ言いながら里香をはやし立てた。




『まあうちも今すごく幸せや…大のこと好き過ぎる自分が怖いくらいや…』




里香は少し頬を赤く染めて窓の外を見ながらボソッと呟いた。




早苗も奈美もそんな里香を見て幸せな気持ちになると共に自分達も幸せになりたいという願望が生まれた。






実は早苗は密かに恋をしていた。相手は先程まで里香と大と一緒にいた人。そう…棗翔だった。




だが見るからにヤンキーという感じの翔に話しかける勇気なんてなかった。




それに早苗は自分に自信が無かった。里香のように美しい容姿は持って無い。今まで付き合った経験も無かった。








『そういえば,二人はいい男おらへんの?』




里香がジュースをゴクゴクと飲みながら問い掛けた。




『あたしはいない。鷹邸君みたいにかっこいい人なかなかいないって…羨ましい...早苗は?』




『えっ..いや…いないよ…』




早苗の表情を見て里香はフフッと笑い早苗の横に寄って来た。




『その顔は恋してるやろ?』



『いないって...///』




『そうか…?まあ気が向いたら教えてなぁ!!!』




3人はいつものように川の字になって眠った。



左に寝ている奈美は彼氏がほしいなぁと思いながらクラスの男子の顔を一人ずつ思い浮かべながら品定めし,真ん中に寝ている里香は大のことを想い興奮して眠れず,右に寝ている早苗は翔の顔を思い浮かべていた。




それぞれ目は閉じているが眠れない夜になった。

































第四章【遠足】




高校1年の1学期がもうすぐ終わる頃,東高恒例の遠足が計画された。遠足と言ってもキャンプのような物で,山に入り自分達で魚などを取って食べるというなんとも生徒任せな行事だった。







一泊とはいえ,そうとう体力を消耗するらしい。毎年ぐったりして帰って来るらしい。






行きのバスの中翔と大はクラスを無視して隣り同士で座った。



『なぁ大…?俺たちこんなことしてる場合じゃなくねえか?』




『確かにな。俺欠点4教科もあんだけど...翔は?』




『よっしゃぁ!!!俺3教科!!!』




大と翔ははぁっとテンションを下げた。




そんなこんなしている間に目的地に着いた。バスは1年生一同を険しい山の前に降ろすとすぐに去って行った。






『皆さん。今からグループごとにテントをはってもらって,夕ご飯を調達してもらいます。危険ですので無理はしないように…』






さえない顔をしている中年の男性教師が注意事項を述べていた。




教師の話しが終わり,それぞれ仲良し同士でテントをたてはじめた。だが今時の高校生はテントもろくに立てられないらしい。




『大?おまえテント立てれる?』




『おまえ立てらんないの?』




大はテントを器用に立て始めた。キャンプなんて行ったことは無かったが,ものを組み立てたりするのは幼少期から野生で遊んでいる大には難しくは無かった。





『さすが大だなぁ!!また見直したわ!!』




『てめぇ大袈裟だよ..』




翔は目を輝かせて尊敬のまなざしで大を見た。大は苦笑いをした。




『さて!!夕飯でも探してくるか!!大がついてりゃなんか調達できんだろ!!』




『翔は本当に人任せだなぁ…』




翔は気にする素振りも見せず大に釣竿を渡し川へと歩き出した。




大は昔やったように慣れた手つきで釣りを始め,間もなく2匹魚を釣った。




『大さぁ…里香ちゃんのことどうするの?』




『どうするって何が?』




翔のいきなりの質問に大は驚いた表情を見せて翔を見た。



『まだ言ってないんだろ?付き合って下さいとは...』




『なんで俺から言わなきゃいけないんだよ...』




翔はふぅっと溜め息をついて釣れた魚を持ちテントに歩きながら続けた。




『大は何も分かってねぇな。』




『何がだよ?』




『おまえは里香ちゃんが好きだ。すごく大事だと想ってる。おまえはそれでイイと想ってるかもしれないけど...里香ちゃんは違うと想うぜ...』



大は釣ってきた魚を焼きながら翔を見た。そしてこの男が言ってることに何一つ間違いがないことに気付いた。




『翔...じゃあ俺どうすればいいんだよ?』




大は力無く呟いた。里香を大事に想うがそんな事は口に出せないのが大の性格だ。




『告白するべきだ。』




『いつだよ?』




辺りはすっかり暗くなり,魚を焼くためにたいた焚き火の明かりが二人の顔を照らす。



『それは大のタイミングの問題だな。』




翔はいい具合に焼き上がった魚にかぶりついた。




『うん!!川魚ってなかなか上手いな!!』




『だろ?』




二人は互いの顔を見て微妙みながら魚を頬張った。



だいぶ時間が立ち辺りは漆黒の闇に包まれた。




翔と大はテントの中に入ると懐中電灯を付けて横になった。




『翔こそ,遥さんのことこれからどうする気なんだよ?』



『どうすればいいのかなぁ..』



『偉そうなこと言うくせに自分も迷ってるんだな..』




『まあな。恋愛ってそんなもんじゃねえのかなぁ...』




大にしてみれば,恋愛の話しをすることなんて初めてだった。改めて翔が自分にとって無二の親友だということを実感した。








午前1時を過ぎた頃だろうか..生徒全員が寝静まった頃,事件は起きた。






―ガシャッグシャ




『キャーー!!!!』




熟睡していた翔と大も大きな物音に目を覚ました。




『熊だぁ〜!!!!!逃げろ!!!』




同じクラスの男子生徒が叫びながら慌てて走り去って行った。




『大!!!?聞いたか!!?熊だって!!!やばいだろ!!』




『ぁあ。ったく..熊もいい迷惑だなぁ...』




翔と大はテントから抜けると辺りを見渡した。100メートル先に熊がいた。テントの中の食べ物を狙っているのだろう。




大の視力は人並みはずれている。熊が明らかに誰かに襲いかかろうとしていた。




同じクラスの京子という女子生徒だ。




担任教師も腰を抜かして助けに行こうとはなしない。




大はみんなとは逆に熊の方へ走って行った。




『おい!!!大!!何やってんだよ!!』




『翔!!先に逃げとけ!!』




翔も京子の姿を確認して大が助けに行こうとしているのに気付いた。








その頃里香と早苗と奈美も熊から離れた場所に非難していた。




『里香!!あれ京子じゃない??』




『本当だ!!やばいよ..』




京子に熊は一歩一歩近付いて行った。京子は腰を抜かして涙を流しながら熊を見ている。




『里香!!!誰か熊に近付いて...!!!あれ鷹邸くんだよ!!』



『えっ!!!???』




里香は慌てて熊に近付いていく生徒を目で追った。間違いなく大だった。




『あかん..大が死んでまう...』




里香は自分も大を止めに行こうと走りだした。しかし,奈美と早苗がそれを阻止した。



『里香!!落ち着いて!!』




『危ないから辞めて!!』




『大が..//離して...大〜!!大...///』







大はやっと熊の近くまで行くと,京子と熊の間に立ちはだかった。




熊はいきなり来た大に興奮したのか,襲いかかろうとした。



大は熊の振り下ろされてくる腕を両手で掴みなんとか攻撃を逃れた。




『ったく..さすがに熊は強いな..』




大は再び襲ってくる熊に右腕を噛ませ,その瞬間にあらかじめ持っていた竹で熊の股間を思いっきり一突きした。




キャフンッ...






熊は大の一突きのせいで完璧に死んだ。大の竹は見事に急所に刺さっていた。



大は右腕を犠牲にして熊を倒したのだ。


『はぁ..疲れた…』




大は京子に何も言わずそのまま翔の元に帰った。周りにいた生徒はみんな大の事を見ていたが,大は気にすることもなく歩いていった。




右腕からは大量の血が吹き出していた。




翔は大の方に駆け寄った。




『おまえ,馬鹿か!!一歩間違えれば死ぬとこだぞ??』




里香と早苗と奈美も駆け寄って来た。




翔は自分の着ていたTシャツを脱ぐと破って大の傷に縛った。




『そうや!!大の馬鹿!!』




里香は泣きながら大に怒鳴った。早苗と奈美は何も言わずに見守った。




大は翔と里香を見ながらフンッと笑った。




『でもよ...俺が行かなかったらあの子は死んでたよ。あの熊の雰囲気からして間違いなく殺る気だった。』







大の言葉に里香も翔も黙り込んだ。




『心配してくれてありがとな。』




大は翔と里香を見て微笑んだ。傷口からはまだ血が出ていて,翔が縛った白いTシャツはみるみる赤く染まっていった。




『ほら..いくぞ!!先生に見せた方が良いだろ。』




『いいよ..このくらい別に..』




大はいつも通り気怠い顔をして言った。しかし,里香も大の背中を押して無理やり連れて行った。








救護の先生は牧野佳奈だった。牧野は生徒から慕われて男のようにサパサパした性格だった。




『先生!!大が熊に噛まれたんだ!!診てやって。』




翔と里香は大を引っ張って牧野のいるテントに入った。




『あら..鷹邸くん,初めまして。』




牧野は30歳で相変わらず綺麗な顔で座っていた。



『佳奈ちゃん..今日も綺麗だなぁ!!』




翔は牧野を見ながら鼻の下をのばした。牧野はピンクのルージュにベージュのファンデーションに黒ぶち眼鏡で茶色い髪は胸の下まで伸びていてストレートだった。妖艶さは半端じゃない。男子生徒の憧れの的だった。







翔とは対照的に大は牧野の顔も見ずに気怠そうに座る。







『先生..俺別に大丈夫だから病院とかいいですよ。適当に包帯でも巻いてください..』




牧野は大の腕を見て驚いた。くっきりと熊の歯形に皮膚が破れていて血が大量に流れ出している。




『ちょっと!!!?鷹邸くん!!?これ半端じゃないわよ!!!』




牧野は白衣を脱ぐと気合いを入れて布で腕を縛り血を止めた。




『鷹邸くん??病院に行くわよ!!』




『大丈夫だって..!!!』




『駄目。力ずくでも連れて行きます!!まったく..』




牧野は大を無理やりテントから引っ張り出すと自分の車に乗せて病院に向かった。




里香と翔は心配そうに大を見送った。




車から見える景色は漆黒の山道だった。少しの明かりも無い。大は牧野の横の助手席に座ったまま無言で前を見ていた。






『痛いはずよ?そんな深い傷を負ってわめかない子見たの初めてよ。』




牧野は長い前髪をかきあげながら大に言った。


『身体の痛みなんてコントロールできるだろ...』




『できないよ。普通の人間にはね。まず熊を目の当たりにして人を助けようなんて思考にならない。』




『何が言いたい?』




大は運転している牧野の横顔を見て問い掛けた。牧野は表情を変えずに言った。




『あんた..育ちは?』







大は牧野から目を離すと窓の外を眺めた。




『育ちはただ親父とは一緒に住んでなかったし,母親は早くに死んだ。それからは叔母と暮らしてる。今は一人暮らしだ。』




牧野は大の寂しい横顔をチラッと見ると何かを悟ったのかそれ以上は何も聞かなかった。




牧野と大の乗った車は間もなく病院に辿り着いた。



医者も目を丸くして大の傷口を見た。



『熊に噛まれたのか…もう長く医者をしてるがこんな傷口見るのは初めてだ。』




白髪頭の50歳くらいの医者は大の傷口を消毒して,局部麻酔をして傷口を縫った。



治療が終わると牧野が心配そうに大に近付いて来た。




『お医者さんなんだって?もう大丈夫なの?』



『縫ってもらったから大丈夫だよ。』



『そう…』




牧野はほっとした表情になり再び大を車に乗せた。



『今日はもう家に帰りなさい。送っていってあげるから。』



牧野は再び運転をし始めた。


牧野の運転する腕に火傷のような跡があることに大は気付いた。普段の大なら決して興味を持たないがなぜか気になって仕方なかった。






結局車内は静かなまま大の家の近くまで来た。




『この辺??』




『ああ。ここでいい。歩いて帰るから...』




大はそう言って車を降りた。



『夜も遅いんだし,気をつけて帰りなさいよ?』




『はいよ。』




『おやすみ。』






牧野の声を背に受けながら大は歩き慣れた道を帰って行った。




―ドカッ






無事に発車するはずだった牧野の車の方から物凄い音が聞こえた。大は驚いて後ろを振り替えると明らかに怪しい男達が牧野の車を取り囲んで牧野を外に引きずりだそうとしている。









なに...!!!?






大は慌てて来た道を走り牧野の車に行った。すでに牧野は車から降ろされていた。




『おい…何やってる?』




大が低い声で牧野を捕まえている男達に問い掛けた。3人の男がいた。みんな黒いスーツを着ていた。




『鷹邸君…逃げなさい!!!』



牧野が必死に訴えかけるが大は動こうとしない。1人の男が口を開いた。




『俺はこの女の亭主だぞ?おまえみたいなガキにつべこべ言われる筋合いはないねぇ。』




大は更に鋭い目になりその亭主を見た。




『亭主なのにこんなに無理やり車から引き降ろすとはな…。』




残りの2人の男がパキパキと指をならしながら大に近付いてくる。




『兄さんよ…先生を助けてかっこつける気かい?つべこべ言わないで去れ。身のためだぞ?』




もう1人も頷く。




『てめぇ名前なんて言うんだ?』




大がいきなり亭主らしき男に問い掛けた。




『金丸だ。自己紹介したところで君と会うことはもうなくなると思うけど…?』




大はフンッと鼻で笑った。




『俺は今から半殺しにする相手には絶対名前を聞くようにしてんだよ…』




『なんだとてめぇ…』




3人の男達は一斉に大に襲いかかろうとした。大はアドレナリンが出ているせいか熊に噛まれた傷の痛みを忘れて構えた。




『ちょうど喧嘩に飢えてたしなぁ…』




5分後3人の男は地面に寝ていた。




『鷹邸君…』




大はなんと無傷だった。今し方闘いを終えてむしろ快感さえおぼえていた。




『先生…あんたが気をつけて帰れよな。』




『ごめん…』




牧野は体を震わせながらまだ立ち尽くしていた。形の良い細い足には擦り傷があった。男達ともめた時についたのだろう。






『あんたさっきの誰だ?本当にあんたの旦那なのか?』




大はまだ震えている牧野に問い掛ける。牧野は下を向いたまま話だした。




『昔の旦那』




『つうことはあんた…』




金丸は絶対裏の人間だ。大はそのことを闘って気付いた。雰囲気で分かるのだ。




大の表情を見た牧野は自分のブラウスのボタンを開けて左胸元を見せた。




そこにはさそりの刺青があった。本格的に入れられたその刺青に美しささえ覚える。




牧野は悲しげな顔で大を見た。大もその視線に気付いた。



『いいよ。もう。』




大は牧野の服を元に戻した。



『送って行くよ。』




『…ありがとう』




大は牧野の車に乗ると牧野の家までついて行った。




『車に乗ってるのに送ってもらうなんて悪いわね。』




『車に乗っててもさっきみたいに襲われることもあるから別にいい。』




牧野は運転しながらありがとうと小さく言った。しかし明らかに顔はおびえているようだった。



牧野の部屋はいたってシンプルだった。教師にしてはいいマンションに住んでいる方か…。




『じゃあ…俺帰るから。ちゃんと鍵して寝ろよ?』




大は牧野を玄関口まで送るとすぐに帰ろうとした。




『待って...///』




『ん?』




いきなり牧野が大の腕を握って振り返らせる。その手は驚く程震えていた。今の牧野はいつも学校でみせる冷静沈着な“牧野先生”ではなかった。




『…なんだよ?』




『今日くらい…一緒にいてくれない?』




不安げな牧野の顔を見て大も断るに断れなかった。無理もない…ほんの数十分前に襲われたのだから。







大は女と話すことが基本的に苦手だった。それが夜に女と2人で同じ部屋にいるとは自分でもびっくりした。




牧野は化粧を落としてベッドに横たわった。もちろん1人暮らしなのでベッドは1つしかない。




『一緒に寝よっか?』




牧野がふざけて大に言う。笑顔を作れるようになった牧野を見て大は少し安心した。




『いいから早く寝ろよ…』




結局大は牧野の寝ている部屋で一晩中起きていた。ひどく疲れているはずなのに不思議と睡魔がやってこなかった。







牧野の寝顔を見ると自分の母親を思い出した。何も親孝行出来なかったのが悔しかった。













⇒続く

危険な太陽を読んでくださって誠にありがとうございます。続編が完成しましたら、また是非お読み下さい。

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