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《ネバーファウンド・レルム》シリーズ

冒険者ヴィンセント:ゴブリン退治

作者: ふゆ


        一


「ヴィンセントさんは、何なんですか?」

 と、目を輝かせながら何やら哲学的な問いを投げてきた十二歳の少年の名はマルク。この村の鍛冶屋の息子だそうだ。

「何って、何が」

「職業です」

「職業? まあ……冒険者、だけど」

「そうじゃなくて、その、戦士ですか? 騎士ですか?」

 そう問われてようやく何を訊かれているのか合点がいった。冒険物語だ。書物や吟遊詩人の詩で語られる物語に登場する冒険者たちは、多くの場合戦士だの魔術師だのいった役割分担がされ、それが職業とかクラスとか呼ばれている。俺がその職業の何にあたるのか、ということだ。

 俺の今の服装は厚手の綿シャツに綿ズボン、革のブーツ、腰には貴重品を入れたポーチ、剣帯に剣。村に着いたときはこの上から革鎧を着てマントを羽織りザックを背負い、そこに兜と盾をぶら下げていた。それらは今、宿の部屋に置いてある。

 まあ戦士風と言えば言えるだろう。騎士に見えるかは知らない。

「少なくとも騎士じゃあない。平民出なんでね。戦士かと言うと、そもそも冒険者はある程度の戦闘はこなせないと話にならないから、ほぼ全員が戦士ということになると思う」

「はあ、いやでも、ええと、はい」

 納得したのかしていないのか、まあしてないだろうなという顔でマルクが頷く。

 ちなみに、そういった物語で描かれているような職業だのクラスだのの役割分担というのは実は全くの絵空事でもない。国や地域によっては冒険者組合のような互助組織があり、技能や実績を登録しておくことで依頼やパーティ編成に役立てているところもある。そしてそういった地域の冒険者たちは、自然にそれぞれの専門分野を突き詰めて専業化していく傾向がある。戦士だのなんだのいった名称が使われているかどうかは知らないが。

 一方ラファール王国領には今のところそういった組織は無く、また冒険者も単独や少人数での活動が主流なので、多少の得手不得手はあるにしても万能型が多い。

 そのことを説明してやろうかと考え、面倒くさいから別に良いかと思い直した。


 エイン村はベルムとフィリウス市を繋ぐ街道沿いの小さな農村だ。その近くの森にゴブリンの群れが住み着いたのが判ったのはおよそ一ヶ月前のことだった。このままでは遠からず村に害を為すというので村の男たちが退治に向かったのだが、思いの外手強く返り討ちに遭ってしまった。幸い死者や重傷者は出なかったものの、ここに至っては冒険者を雇うか領主に訴え出るかせねばなるまい――と、そんな折、まるで図ったように旅の冒険者が村に投宿した。

 まあつまりは俺のことだ。

 宿でひょっとして冒険者かと問われてそうだと答えるとすぐ村長が呼ばれ、前述の話をされた。冒険者を雇いに行くにしろ領主に訴え出るにしろ、近くの都市まで使いを出して戻るまで二、三日は掛かる、これも何かの縁、是非ゴブリン退治を引き受けて頂きたい、報酬は云々かんぬん……

 急ぎの旅でもないので引き受けることにした。ゴブリンは夜行性なので行くなら明るい時間帯が良い、今日はもう遅いので一泊して(無料になった)明日の朝誰かに案内して貰って行ってみよう、ということで宿の食堂で少し遅めの夕食を取っていたところへ訪ねてきたのがマルク少年だった。「冒険者さんですね? あの、お話聞かせてください!」


 つまるところ彼は、どこの村にもあらゆる時代を通じて常に一人か二人はいると言われる〝退屈な村で退屈な一生を送るより冒険者になって一旗揚げたいと常々考え悩んでいる少年少女〟、その一人なのだろう。統計的に言って実際に冒険者になる可能性はそれほど高くはない。冒険者になるのは、もっと分別の付く年齢になってから初めてその可能性を考えた者や、或いは――最初から他に選択肢が無かった者だ。

 彼の冒険者像は、先の〝職業〟の件のように多分に物語に影響されている様子だった。それを一つひとつ正してやる義理は無いが無意味に肯定することもせず、ほどほどに話を聞かせてやった。

 やがて、

「明日のゴブリン退治の道案内、俺がやります! 朝イチで親父と村長に話して許可貰ってきます、だから、よろしくおねがいします!」

 と言って帰っていった。


        二


 翌朝。俺は朝食を済ませると、鎧を身に着け、荷物の大部分は部屋に置いたまま松明や火口箱、応急処置セットに携帯食料などといった必須品を入れた小ぶりな鞄を出して背負い、兜と盾をそこにひっかけて宿を出た。

 果たしてそこには〝武装〟したマルク少年と困り顔の村長が立っていた。

「本気だったのかよ」

 俺が呻くと、

「いやあ、どうしても聞かんのです。それで、まあもしお邪魔でなければ、連れて行ってやってはくれませんか。これでも森歩きには慣れてはいますし……」

 と、村長。

 本人は懇願などするでもなく、黙って真っ直ぐこちらを見ている。

 革鎧のつもりか胸や肩の位置に革の板を縫い付けたシャツを着、手には木剣、腰の後ろにも短剣を差しているのが見えた。

 俺はしばらく考え、やがて小さく嘆息を漏らすと、

「まあ……いいすよ。じゃあマルクに頼むとします。ただ」と、マルクに向き直り、「案内だけだ。だからその木剣は置いてけ」

 その言葉を聞くと村長は安堵の色を見せた。こちらが受け入れたことと、戦闘には参加させないと言ったことに対しての安堵、それと彼をゴブリンの巣穴に近付かせること自体への心配が少々、といったところか。

 マルク本人も納得し、木剣を村長に預けると、笑顔で言った。

「じゃあ、出発しましょう!」


 マルクの先導で森の中を進んで行く。

「さっきの木剣とかその鎧とか、自分で作ったのか?」

「はい、そうです」

 俺が問うと、マルクは誇らしげに答えた。どちらも、まあそれなりにしっかり出来てはいる。

 だが、

「兜は無いのか?」

「え? ええ……」

 これには、尻すぼみの応えを返してきた。

「アレだろ、冒険物語の登場人物とかが殆どかぶってないから気にしてなかったんだろ。あった方が良いぞ。軽く小突く程度の打撃でも頭に受けると人間意外と死ぬことがある」

「は、はい!」

 実用的なアドバイス助言を受けたのが嬉しかったのか、笑顔で返事をしてきた。同時に、俺があっさり「死ぬ」という言葉を使ったことに対してだろう、その笑顔は僅かに引きつってもいた。

「その短剣は? ああ、そういえば鍛冶屋の息子だって言ってたな。親父さんが作ったのか」

「いえ、俺が打ちました」

「へえ?」

 興味が湧いたので見せて貰った。全長六十センチ強。剣身から柄まで一体型で、握りの部分には荒縄を巻きつけてある。刃は両刃で真っ直ぐ。完全な戦闘用だ。

 実は最初は藪を開くための鉈か何かだと思ったのだが、木剣と同じくこれも置いて来させるべきだったかも知れない。

 良く出来ている。拵えをしっかりすればこのまま武器として実用にも耐えるだろう。

「親父さんに習ったのか?」

「いいえ。親父は普段は主に農具とか馬の蹄鉄とかを打ってます。鍛冶の基本は叩きこまれたけど剣の打ち方は頼んでも教えてくれなくて、それは黙って打ったやつです。すぐ見付かって、取り上げられて、そのまま潰されるかと思ったけどしばらくしてから返してくれて……」

「ふうん」

 独学でこれを打ったというのなら、ちょっとした才能だ。父親も、取り上げたは良いものの職人としてこの剣を潰すことは出来なかったのだろう。

 短剣をマルクに返す。これを誉めてやると冒険者になるのを止められてると受け取って反発しそうだなと思ったので、特に何も言わない。


 やがて森の中、土の地肌むき出しのちょっとした広場に突き当たった。崖があり、洞窟の入り口がある。その脇に、ゴブリンの見張りが一匹、立っていた。

「あれか」

「はい」

 茂みに身を潜め、小声で言葉を交わす。

 答えるマルクの声と顔にはやや不安の表情が見えていた。もっとも、別にゴブリンを恐れているわけではなさそうだ。

 俺は小さく嘆息を漏らし、

「別に帰れとは言わねえよ。だが絶対出てくるなよ」

「――はい」

 今度はいくぶんしっかりと返事をしてきた。

 俺は兜をかぶって顎紐を留め、剣と盾を準備した。剣は全長約一二〇センチ、片手で扱うための短い柄を持った両刃の直剣。盾は腕に括り付けるのではなく取手を手で持って保持する、小型の丸盾だ。

「んじゃ、行くかね」

 マルクが隠れている場所がばれると良くないので、一度森の奥に戻って少し迂回してから飛び出した。


        三


「――――ッ!」

 俺に気付いたゴブリンの見張りが甲高い叫び声を上げた。それを待ってから間合いを詰め、喉に剣を突き刺す。

 ゴブリンは緑色の肌を持った小柄な二足歩行の生き物だ。基本夜行性で、猿よりやや賢く、道具を使う知恵を持ち、この見張りも棍棒で武装していた。ただ木切れを拾ってきただけというわけではなく、握りの辺りを削って持ちやすくしている。

 ロードと呼ばれるボスを中心に十匹から二十匹前後の群れを作る。ロードは群れの頭であり心臓であり、ロードが死ねば群れは散り散りになってほどなく全滅する。生き残りの中から新しいロードが生まれる可能性も無いではないが、そう高くはない。ロードだけは確実に殺し、他もなるべく逃さないように仕留める。それでこの仕事は片付くだろう。

 叫び声と共にゴブリンたちが次から次へと出てきた。どいつも見張りと同じような棍棒や、どこから拾ってきたのか錆びた剣などで武装している。それを、視界に入る端から適当に斬っていく。

 たちまち周囲にゴブリンの断末魔と血臭が満ちた。


 そして程なく戦闘は終わった。静寂が戻って来る。血臭は都合よく消えないが。

 転がっている死体の数は二十一。俺はそれを一つひとつ確認していく。

 ロードはいない。

「……ち」

 小さく舌打ちしたとき、

「すげえ……!」

 声がした。マルクだ。

 振り返ると、茂みから出て呆然とした表情で突っ立っていた。

「おい、出てくるなって言ったぞ」

「えっ、あ、はい、ごめんなさい。でも終わったみたいだったから……」

「終わっちゃいねえよ。ロードがいない」

「ろーど?」

「ゴブリンの親玉だ。そいつを仕留めなきゃこの仕事は終わらん」

 たまたま外出中、という可能性は低い。ロードは単独行動はせず、必ず少なくとも七、八匹の手下を引き連れて動く。もしそうならこの群れは三十匹近い規模ということになるが、そんなものは聞いたこともない。

 おそらく、この巣穴の奥にいる。

「……結局潜らにゃならんのか」

 それが嫌だったので見張りに声を上げさせたのだが。

「ダンジョンに潜るんですか?」

「ただの洞穴だよ」

 と、マルクをどうすべきか悩む。ここに置いていくのは危険かも知れない。ロードはまず巣穴の奥にいると思うが、ロードでなくても普通のゴブリンがたまたま外に出ているかも知れない。

 村に戻すにしても一人で帰させては同じことなので、一度一緒に戻ってから俺だけ引き返すことになる。その間にロードに逃げられるかも知れない。最初から外出中だったのならともかく、あまり面白くはない。

 結局……連れて行くしかないか。

「お前も一緒に来い。ただし絶対に離れるな」

「は、はいっ」


 松明と火口箱を出して火を付ける。左手に持ち、盾は背中へ。

 あとロープの束を出して一端を入り口付近の岩のでっぱりに結び、残りをマルクに持たせた。

「まず必要無いとは思うがな。万一俺とはぐれたら、その場でじっとしてるかロープをたぐって入り口に戻るか、自分の判断で行動しろ」

 マルクが頷くのを見てから、巣穴へ足を踏み入れる。


         四


 巣穴は、天然の洞窟をさらに掘り広げたものらしい。ゴブリンは体格の割に巣穴の通路は広めにするのを好む。お陰で剣を振り回すのに妨げにならない。

 概ね一本道で、たまに脇道に小部屋があった。

 武器庫のつもりか削った木切れや錆びた剣などのガラクタが山積みになっている部屋。寝床らしき枯れ草が積まれた部屋。腐りかけた動物の死体の部屋は食料庫か。

 警戒しながら、奥へ進む。


「あの、ヴィンセントさん」

 ふと、マルクが声を掛けてきた。

「うん?」

「さっきの戦い見て思ったんですけど、ヴィンセントさんってその、とんでもなく強いですよね?」

「んー……まあ、な。一応冒険者で喰ってるから」

「それにしたって半端じゃないですよ。前に村の大人たちが退治に向かったときは、って、ただの村人と比べちゃアレかもしれないですけど、でも、もっと大人数だったのに返り討ちに遭っちゃって、けどヴィンセントさんは一人であっさり全部やっつけちゃったじゃないですか」

「……お前の好きな冒険物語の登場人物のがもっとずっと強いんじゃねえの?」

「物語の登場人物にしたって『また〝俺最強〟かよ』って揶揄されるレベルです」

「む、そうなのか」

 うーん。

「ヴィンセントさんて何か特別な人だったりします? 実は伝説的な剣豪だったとか、王宮の騎士だとか」

 適当に誤魔化そう。

「まあ、その、なんだ。秘められた過去ってやつだよ。あんま聞いてくれるな」

「はあ……」

「ところでだな。一般的に、こうやって敵地に侵入したときはあんまべらべら喋るべきじゃないんだが」

「あっ……、ごめんなさい!」

「まあ良いけどな今更」


 やがて、大きな部屋に出た。突き当たりになっていて、余所への通路はない。

 その真ん中に一匹のゴブリンが立っていた。他より大柄で、肌の色は(松明の明かりなのではっきりはしないが)鮮やかな青。手に比較的状態の良い剣を持ち、ぼろ布を体に巻き付けているのは人間の王族や貴族がマントを羽織るの同じ、権威の象徴のつもりだろう。

 ゴブリンロード。ゴブリンの群れを率いる個体だ。

「出やがったな」

 ゴブリンロードは敵意に満ちた目でこちらを睨んでいる。

「持ってろ」

 マルクに松明を持たせ、盾を左手で持った。

「松明はいざとなったら投げ捨てろ。良い油使ってるからそれぐらいじゃ消えない」

「は、はい」

 マルクの返事を待っていたかのようにゴブリンロードが威嚇の声を挙げた。

「――――ッ!」

 それに応じて俺は剣を構えると、いっきにゴブリンロードとの間合いを詰め――

「う、うわっ!」

 背後でマルクが悲鳴を上げた。視界の端で見ると――物陰に隠れていたらしいゴブリンがマルクに向かって棍棒を振り上げたところだった。


 ゴブリンの棍棒とゴブリンロードの剣がそれぞれの目標に向かって振り下ろされる。

 俺に向かってきた剣は盾で弾いた。大型の盾のように身体の近くで構えて正面から受け止めるのではなく、横から殴りつけるようにして剣の軌道を逸らす。

 マルクは――

「わああぁッ!」

 叫びながら、松明をゴブリンの顔面に突き出していた。炎に焼かれ、苦悶の叫びを上げたゴブリンの棍棒は目測を誤り、岩壁にぶち当たった。

 何とか一撃をかわしたマルクは、しかしそのまま松明を取り落としてしまった。

 松明の炎に下から照らされ、ゴブリンとゴブリンロードの影が洞窟の壁に巨人のように映る。

 俺はゴブリンロードに蹴りを入れて間合いを取り、マルクの方へ駆け出そうとする。ゴブリンは片手で顔を押さえながら再び棍棒を振りかぶる。間に合いそうにない。

 迷っている暇は無かった。俺は剣をゴブリンに向かって投げつけた。

「――――ッ!」

 狙いは過たず剣はゴブリンの喉を貫き、そのまま通路の向こうへ吹っ飛ばした。

 これでマルクは大丈夫だが俺は少々まずい。武器を捨ててしまった。ブーツに小刀が仕込んであるが、武器としては心許ない。

 ゴブリンロードの攻撃を盾で弾き、殴りつけ、蹴りを入れ、どうにか凌ぐ。

 相手の剣を奪えないか? ――否、ゴブリンの握力は半端ではない。

 投げた剣を回収出来ないか? ――否、マルクがゴブリンロードに対して無防備になる。

 マルクに剣を回収させる? ――否、松明が一つしかない。先ほどのゴブリンは明かりの届かない所まで吹っ飛んでしまった。松明を持って行かれると俺が戦えない。

 どうする――?!

 そのとき、

「ヴィンセントさん、これを!」

 マルクが手に何かを持っている。短剣。彼が腰の後ろに差していた短剣だ。

 それを、地面を滑らせるようにしてこちらに投げてきた。

「ナイス!」

 ゴブリンロードの一撃を避けざま、飛び込むような体勢から地面を転がり、短剣を手に取る。逆手に握り、体を半回転させ、立ち上がりながら、

「おおおッ!」

 下から抉るようにゴブリンロードの心臓を貫いた。


        五


「あー、マジやばかった」

 村への帰り道。俺は七回目ぐらいの呟きを漏らした。

「ヴィンセントさん、それもう九回目ですよ」

 九回目だった。

 ゴブリンロードの首を布に包み、あとついでにゴブリンたちが使っていた錆びた剣を五、六本抱えている。武器としては使い物にならないが、マルクの父親は鍛冶屋なので潰して地金にすれば何かしら再利用出来るだろうと、お土産のつもりで持ち帰ることにしたのだ。全部は持ちきれないので集めて洞窟の脇に適当に積んでおいた。どうせゴブリンの死体も早めに埋めるなり焼くなりしないとならないので、そのときに一緒に回収するよう村長にでも言っておこう。

「いやでも本当に助かったよあれは」

 咄嗟に適切な行動が取れるのは冒険者の資質の一つだ。意外と向いてはいるのかも知れない。

 と、マルクはやや神妙な面持ちで、

「あの、実は俺、ずっとこの村で退屈な一生送るよりは冒険者になりたいって思ってたんですけど」

 実は、も何も明らかにそうだろうと思っていたが、まあ口には出さない。

「おう」

「俺の打った剣でヴィンセントさんがゴブリンやっつけたの見て、ああ、ちゃんと使える武器を作ることが出来たんだ俺、って思ったら……」

「鍛冶屋としてきちんと修行してみようと思った、か?」

「……はい」

 何だか少年が決意する場面に居合わせてしまったらしい。

 ――まあ、選択肢があるのは良いことだ。

「ま、頑張ってみな」

「はい」

 森の中を村へ向かって歩く。このぶんなら正午までには村へ着けるだろう。報酬を受け取り、昼食も取って、今日のうちに出立出来るだろうか。事後処理やら何やらで時間が掛かるようならもう一泊しても良いか。

 そんなことを考えながら、

「あー、それにしてもマジやばかった」

 俺が呟き、

「十回目ですよ」

 マルクが言った。


       (了)

この世界は文明的には概ね中世ヨーロッパ風味ですが、倫理観衛生観念識字率は割と現代寄りで、マルク少年も字が読めます。流石に本は羊皮紙に手書きの写本なので彼がこれまで読んできた冒険物語は貸本が主ですが。後付けとかじゃないです本当です。

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[良い点] 描写が丁寧で、飽きさせずテンポが良いのが良かったと思います。 [一言] 装備のさりげない描写などが、主人公を引き立てていて、語り口調と合わせて魅力的に感じました。
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