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Skyer  作者: 春菜
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地上の人

「そんなはずじゃなかった」とか、「そんなつもりはなかった」と言っても罪は罪。償う必要があるの。

だってそうしなければ私を赦せないでしょう?私も自分自身を赦せない。

そうやって私は自分を追い詰めて、追い込んで、逃げられないようにしてきた。

傷つけられたところを更に傷つけるようにしてきた私の目の前に現れた一人の男性。

目がとても綺麗な人で、優しくて、天使のような人だった。

どこにいてもすぐに見つけてこの手を取ってくれる。

すぐ迷子になる私はその手が大好きだった。

「どうやって私のいるところがわかるの?」

「君を見つけるのは簡単だよ」

「じゃあ、どうしていつもすぐ迎えにきてくれるの?」

「僕は君がいるからここにいる。君がいないとダメなんだよ」

あなたがそう言って笑う。その度に私は泣くほど嬉しかった。

「愛してるよ」

私の涙を拭う指に甘えるようにキスをした。

「私も、愛してる」

その手に繋がれて、どこへでも行った。

花咲く木の下。光を映してキラキラ輝く海。カサカサと音を立てて歩く道。色とりどりに輝く街。

どんな場所も幸せに満ちていて楽しかった。

私を繋ぐこの手が何よりも大切だった。

あなたはよく空を見上げていた。

遠くの空を掴むように手を伸ばして眩しそうに見上げていた。

「君をあの空に連れていきたい」

そう言うあなたの瞳はとても輝いていた。

「そうね。きっと綺麗でしょうね」

私はそう言って頷いた。

とてつもない夢物語だと思ったけど、あなたの笑う顔が綺麗だったから黙っていた。

それだけじゃない。頭の片隅で何かが「言ってはいけない」と叫んだから言えなかった。

その答えに気付かないフリをしていただけで私はずっと知っていたのかもしれない。

あなたは青い空に突き刺さらんばかりにまっすぐ立っている塔を見上げて言った。

「あの塔は背が高くて空に近いから、きっと君を空へ連れていける」

「空から見る街はどんな風に見えるのかしら」

「今いる場所が見たいの? いつも見てるのに」

「変かしら」

「君らしいよ」

笑うあなた。私の手を取って、階段を上がる。

その後姿に見つけてしまった。小さく折りたたまれた、白くて大きな翼を。

私とは違う世界の人。天使のような人。本当に天使だった。

地上に降りた天使の羽を私は奪い続けてきた。本当は自由に空を飛べたのに。

私がその手を離さなかったから、あなたはずっと地上に縛り付けられていた。

声を殺して泣き出した私に気付いたあなたが不安そうな顔で覗き込む。

「どうしたの?」

口を開けばあなたを引き止めてしまいそうで、私はただ首を振った。

ここに留めてはいけない。あなたはあるべき姿に、いるべき場所に帰ろうとしてるんだから。

だけど、そう思う反面。

「やっぱり怖いな。こんなに低いところから飛んだらまっすぐ落ちて地面に着いてしまいそうだ」

と言って、柵の向こうへ行くのを躊躇うあなたを見ると胸を撫で下ろして笑ってしまう。

「そんなに怖いなら飛ばなければいいのに。」

冗談めかした本心。あなたは不思議そうな顔をして言う。

「どうして飛びたくならないの?あの空へ羽ばたけばどこへだって行けるのに」

「だって私は地面の上で生きる生物よ。飛べないわ」

「僕と一緒なら君だって飛べるさ」

無邪気にそう言うあなたの顔に触れて私は言う。

「あなたがそうやって夢物語を語るとき、輝く瞳が好きよ。愛してるわ、私の天使さん」

早くその翼を広げた姿を見せて。大空を羽ばたくあなたの姿はきっと今よりも輝いて美しいんでしょう。

だけど、その隣に私はいない。

「行こうか」

そう言ってあなたが私の手を取る。再び階段を上がっていく。

次にこの手が離れるときがあなたが放れていくときだと覚悟をする。それももう何度目だろう。

再び繋がれた手に安心して、同じときにまた悲しむ覚悟をして、いつになったら終わるの?

早く終わらせてよ。

どうしてあなたは私を縛り続けるの?

「ちがう」

それは自らを否定する言葉だった。私は声に出さず呟いた。

昇っていくことに夢中なあなたの手を気付かれないように離して、目蓋を閉ざした。

目なんか逸らさなくても、どうせあなたの背中は涙でぼやけて見えてなんかいなかったのに。

私の涙を隠すように、優しい雨が音を立てて降り始めた。

「そんなつもりはなかったの。あなたを傷つけるつもりは……穢すつもりは……」

全ては私。

天上で暮らすはずのあなたを地上に縛っているのは、この手を離すことができないのは、その羽を広げさせないのは。

罪を償わなくては。天使を堕として、その羽を穢してしまった罪を。

そうしなければ私は一生、私を赦せない。あなたを赦せない。

いずれ失う運命にあるとわかっているのに私の前に現れた。

限りなく深い愛情を与えて、その分だけこの心を傷つけたあなたを赦すことなんてできないでしょう。

降り続いていた雨が止んで青く広がった空に大きな影が横切った。

影に向かって叫んだ。

「さよなら、私の天使さん」

小さな復讐を果たし再び目を背けた。これできっとあなたは私のことを忘れることができない。

あなたが私に犯した罪はこれで忘れてあげる。

さようなら。

いつか私の罪が赦されたならば、神に召されるその日にはまたあなたの手に繋がれることを祈ろう。

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