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第7話

銀と赤の無数の剣線が空間に描き出されていく。一瞬のうちに消えては又生み出されていく。儚くも消えていくがその一撃には相手をしとめるという殺意が滾々と沸きあがり、それを芸術というにはあまりに遠過ぎた。

「はぁ、はぁはぁ…すばらしい! 先ほどの機体でも感じたがこのタイタンで疲労をここまで感じたのはこれが初めてだ」

「…そんな言葉が出るなんて、まだ余裕なの? それともそうと感じてしまうほど余裕がなくなったの?」

 先ほどまでと真逆だった。いつも、レオンが流達をあしらうように戦っていた。その状況を変えてしまうほどの機体を手にして流は一体何を感じていたのだろう? その答えはすぐに出た。

「…つまらないわ。レオン、あなたの機体にも何かあるのでしょ? ならすぐに出しなさい! もう持ちそうに無いのよ」

 実際、強力な磁力を操っているロキには、それを上回る強烈な磁場が渦巻いている。そんな中心にいる流は言いようのない不快感のなか戦っているのだ。だがその言葉に焦りと迷いを感じたのは流だけであり、違うようにレオンは受け取っていた。

「持ちそうに無い…。それは手加減をということか。舐められたものだな! 全力で戦うと言ったそばからこれか…。ならば、多少でも無茶してもかまわないだろうな? B! タイタンの装甲を1から9まで破棄する!」

「待て、レオン! それは承認するわけにはいかな…」

 どう、返ってこようとこれから行うことなど決まっていた。

「タイタンに装甲などいらない。巨人の前に道化師など吹き飛ぶが良い!」

 装甲をはずし、レオンを守るコアや関節など外骨格があらわとなる。その外された装甲を持ち上げロキに投げつける。

「少しでも軽くして、ロキのスピードにあわせるつもりか…レオンそれだけでは、まだ足りない」

 軌道を見切り流が回避した。だが。それは罠だったのだ

「同感だ、だからこそ装甲を外した」

「えっ? ! 右腕がっ」

 レオンは回避先を見切りロキの着地地点で待ち構え、ロキの右腕をつかむ。

「関節技というのは、相手に密着していないと効果が無くてな。 装甲など邪魔なだけなのだよ」

 そういい終えると、全身をねじらせ蛇のようにロキの右腕に巻きつく。その瞬間ロキの右腕がもぎ取られ、それに巻き込まれるように流の腕からもゴキュと嫌な音が漏れる。 

「あぁぁぁあああぁあぁ!」

 ロキの背中にまだタイタンが絡み付いているため自分の腕をかばうことができず、叫びだけが木霊する。

「これだけでは、終わらせない! その厄介なものも処分させてもらおう」

「てめぇ! させるかぁ!」

 すべてを守ることはできず、右すべてのブースターを犠牲にするも残ったブースター起動しスレイプニルで回避する。流の右腕から出血は見られないものの感覚はすでに無く、パンパンに膨れ上がった水風船を肩からぶら下げているようになってしまった。

「嘘…? レオンの組み手から逃げ延びるなんて?」

「くっ、こんなときに邪魔がはいるなんて!」

 そこには一番軽症で済んだアールが補給から復帰していた。

「こんな状況で2体1…先に邪魔者を排除する! ミョルミル起動!」

 残った左腕で刀を装備し一瞬で赤く染まっていく、残ったブースターで加速し間合いを詰めアールに切りかかる。

「あなた面白いこというわね? ミヨルミルって本体ハンマーのはずよ?」

 手負いということではっきりな油断をしたアールは、普段どおりシールドを使い防御をした。だがミョルミルは受けてはいけなかったのだ。

「地面に張り付け!」

 シールドとミョルミルが接触した瞬間、アールの機体が地面に吸いつけられるように張り付く。

「また、地面に! 今度は何よ!」

「ミョルミルは、ドラウプニル同様磁力を相手にぶつける技だ。今あなたの機体にはN400ほどの磁力をぶつけている。地面に引き寄せられ、その影響で簡単には体を動かせないはずです」

 そういい終えると、レオンに目を向けすぐにその場を後にする。

「お前達と戦っていると私程度がどうにかしようと思うのが間違いのように気さえもする。今の技でもう何も無いのか?」

「…あぁ。ロキにはもう隠しているものは無い。だけど、私にはまだ隠し事がある…」

「それは何だ? もはや、試合は終わろうとしている。白状することだ」

 お互いにブースターを起動させ加速の体勢に入る。ロキはミョルミルを投げ捨てカタールを。タイタンはぼろぼろの小太刀を両手に構える。

「言うかばーか! 私に勝ったら教えてやるよ!」

「楽しみにしているよ」

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 勝負はその一瞬でついた。 ロキは左腕部分が切り離され、さらに右足のひざ下に小太刀が刺さっている。流自身には刃が届いていなかったのが幸いしたがもうロキは動くことができない。だがタイタンは、先ほどまでとほぼ同じ状態のまま立ち尽くしていた。

「たく…遠慮なしに攻撃しやがって…まぁ、あの瞬間でも私を外してくれてるのには感謝するぜ」

「貴様もあの状態で、良くぞここまで…しかしこういう決着も…悪くない」

 そして、タイタンは糸が切れたかのように地面に叩きつけられるように倒れる。なぜなら、すべての伝達システムが集結している場所に同じくロキに装備されていたカタールの切っ先が突き刺さっていたからだ。

「へっ! ざまぁみろだ!」

 薄れていく意識の中、流れは空に手を伸ばしそこで意識が途切れる。

「…ここは? !あれからどうなった!」

 白い部屋に眠っていたのだが流は、ベットから飛び起きようとするが右手の激痛でうずくまるようにその場で停止する。

「相変わらず、猪突猛進だな。今君は重態患者としてICUの病室にいるんだぞ?」

 そんな流をやれやれといった様子で声をかけてきたのはアルフだ。

「ちっくしょぉ! アルフ! あの時はよくも私をはめやがったな!」

「はめるなんて人聞きの悪い。あの後レオン君と仲直りできたのだろう? ロキには通信機が搭載されていなかったから中継映像で確認したことだがね」

「そういわれれば、ロキに乗り込んでからまったく、みんなの声が聞こえなかったのはそのせいか…」

「おかげで、ヴァルキュリヤを回収した私はみんなからの罵声・叱咤をもろに受けたけどな…」

 そのときのことを思い出したのか、アルフは身震いを起こす。

「それで?試合はどうなったんだよ?」

 流のもっとも気になっていたことを切り出す。それを聴きアルフも先ほどまで、飲んでいたコーヒーを隣のテーブルに置きまっすぐに流をみる。

「回りくどいのは嫌いだから、先に結果を言う。われわれの負けだ」

「そっか…私達負けちまったんだ…くそっ!一番あいつには負けたくなかったのに!」

 うすうす、そうじゃないかと思っていてもやはり悔しいものは悔しいのだ。流は自分がまだ他にも何かできてのではないかと、自分の試合を振り返る。

「もし、私が最初からロキで出場していたら結果は変わってたのか?」

 もちろん、流はそんなことはしなかっただろうがやはり一番そこに負けの理由をもっていってしまう。

「君の言うとおり、最初からロキがでてでていれば私たちは圧勝していただろう。だがそれでは君の気がすまないだろう?」

「でも!」

「でもなんて言葉を口に出すな! 結果がすべてだ!」

 アルフがテーブルを叩きつけ、置いていたコーヒーが零れる。だがそんなことは意にも止めず、アルフは病室を後にする。

「あの野郎…私は患者で落ち込んでるんだぞ? もっと気の利いた言葉は言えねぇのかよ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」

 流は外に声が漏れることも気にせず、大声で泣き続ける。体の痛み・自分の行動をすべて洗い流すかのように…一通りの検査を受けた後、レイに連絡を入れる。

「…そう、無事で何よりだわ。今日はお疲れ様」

「あぁ、勝利を逃してしまってすまなかった…」

「そんなこと気にしなくていいのよ。トキもアリスも心配してるわよ?」

「わりぃ、あいつらの前に会わないといけないやつがいるんだ…場所を教えてくれないかな?」

 右腕にギプスを巻き、教えてもらった場所に移動する。そこには、ムワッとした熱気とむせ返るようなオイルの匂いで充満しているがそこに静かに佇んでいるものにゆっくりと近寄っていく。

「ようっ、ヴァルキュリヤ! ロキ! 今日はお疲れ様」

 そう、ここはロキの機体専用倉庫だ。その隣にはセイレーンやアイギスも並べられている。

「うわっ、あいつらの機体もぼろぼろじゃねぇか! こりゃ、負けてもしょうがねぇな」

 ロキほどではないがすべての機体に損傷が見られる。アイギスの左腕に搭載されていたシールドは根元ごと無くなっており、ランドスピナーは両足ともなくなっている。セイレーンにいたっては弓やニードルガンが装備されておらず、右手に矢を握ったまま指関節がぺしゃんこにつぶれていた。

「あいつら…、余裕なんてまったく無いじゃねぇか・・・アリスのやつ優雅に戦うって張り切ってたのに…矢を握ったまま相手の機体を殴りつけるなんてぜんぜん優雅じゃねぇよ!」

 泣かない…そう心に決めていたのに。私は泣く権利なんて無いと思っているのに…一緒に戦ったブリュンヒルデシリーズの傷を見るだけで、試合を思い出してしまう…すると涙が止まらないのだ。

「あいつらには絶対見せられないな…」

「誰に見せられないって言ったんですの?」

 振り向くとそこには、一緒に戦ったトキ・アリスが立っていた。

「結果は、アルフから聞いているな? われわれの負けだ」

「あぁ…聞いている」

 そこでしばしの沈黙を味わうが、その沈黙に耐えられなかったのか

「「「すまない(ごめん)私のせいだ!」」」

 ほぼ全員が、お互いに謝るという状態となり次の瞬間全員で大笑いしてしまう。

「ぶぁっははは! だっせぇ! 何謝ってるんだよ!」

「うっうるさい! 流こそ謝ってたじゃないか!」

「あははっ、こんなの初めてじゃない?」

 そうだ、今までは自分が悪いと思っていながらも相手をけなしてばかりだった。それが今回の戦いを通して、相手に賞賛で称え自分がちから及ばすであると素直に判断できるようになったのだ。

「全く…最後の最後にお前らのことを…」

「? 最後って何のことですの?」

「おまえ、アルフから全部聞いたんだよな?」

 キョトンとしている流だったがはるか向こうから歩み寄ってくる人物が視界に入り警戒態勢に入る。

「もっと、重症を負っていると思っていたのだが…もう良いのか?」

「レオン…テメェ何しにここにきやがった? !」

「きさまっ!レオンはお前を心配してここまで出向いたのだぞ? 本来なら絶対安静だというのに…」

 その言葉にハッとし、全身を見る。肋骨にはコルセットのようなものが巻かれ両腕にも痛々しいくテーピングが見え隠れする。流が自分の性だと顔を曇らせる。それを感じ取りエデンのイネスが言葉を発する。

「もぉ~負傷なんてお互いにいつもするでしょ? それが大きいか小さいかだけよ? そんなに気にしないの! ねぇ、アリスちゃぁん~~~」

「ひぃ! 気持ち悪い!トキ助けてぇ!!!」

 イネスに手を掴まれ、そのまま頬ずりをされるアリス。それをトキはすかさず止めに入る。

「ハァ…イネスのやつは何をやっているのか…すまないな。後で躾けておく」

「はは…おきずかい無く…」

「私がここに来た理由を伝えよう」

 再び、場が緊張に包まれる.

「お前が隠していることを白状してもらおうか? 宣言どおり勝利した私達には、その権利がある」

そう、言われ全員の目線が流に集中するがどうも様子がおかしい。

「いやぁ、その…なんだ? 今ここで言わなきゃだめか? みんなもいるし…」

「無論だ! 私達が勝利すれば秘密を明かすと証言したではないか」

「さっさと済ませてもらおうか? すぐに戻らないといけないのだから」

 アールに急かされ、流の顔がころころと変わっていく。

「はわぁ、えっと…もうぉぉぉぉ!それっ!」

 流は、レオンに抱きつきそのまま口ずけをする。

 その行動に取り巻きのトキやアリス達が何が起こったのか理解していないように体が固まっていた。だが流だけはもはや止まりはしない。

「好きです。レオン、あなたが良かったら結婚してください」

「告白を告白で返されてしまったのか? この場合どうすればいいのだ? 指示を頼む」

 キョトンとした様子でレオンがアールにまじめな顔で質問する。

「ちょっと待て? いつレオンが私に告白してくれたの?」

 レオンが子供のように頭を抱えながら

「いや…試合の前に告白したはずなんだが…」

(試合の前…何か言われたか? 「この試合が終わったら、俺の下に来い」…あ~これか…)と流は心の中で整理していたのだが…

「そんなんで分かるかぁ! ! 回りくどすぎるわ!」

 流は残った左手で近くに転がっていた箒を掴み振り回す。

「うわっ、馬鹿流! アリスに当たったらどうするんだ!」

「うるさい! トキ! お前も記憶を消してやるぅぅ!」

「ちょっと? 私達も巻き込まないでよ?」

 レオンを残し、トキたちを流が追いかける。レオンの正面を流が通過した瞬間。アスレチック中に喰らったあの足払いを受け、流はレオンの腕に収まる。

「こらレオン! 離せ! あいつらの記憶を飛ばすんだ!」

「飛ばされては困るな、みなには証人になってもらうのだ」

「はぁ? 何言って・・・」

 言い終わる前にレオンによって流の口が塞がれ長めのキスが交わされる。

「先ほどの答えだ。流、君の申し出を受けよう。それで、君の答えはどうなんだ?」

「…はっ! 望むところだ! 受けてやるよ!」

 それを見た全員が一箇所に集まりひそひそ話をはじめる。

「全く…不器用すぎるあいつらでやっていけるか心配だ…チームみんなで見守っていくか!」

「そうね、新生エデンの初仕事がこういう仕事ですっごいメモリアルだわ」

「全く、レオンがあんな東洋出の小娘に取られるなんて…」

「まぁまぁ、アールおばさん。 ひがみは大人気ないですよ?」

「うるさいわね、小娘! チームメイトになったからには、礼儀を叩き込んでやるわ! 覚悟なさい!」

 その会話で流がある疑問にたどり着く。

「さっきから何言っているんだ? 私達ロキはもう解散したんだぞ? アスレチックとはもうかかわらねぇだろ?」

「はぁ? 何言ってますの? これから私たちはエデンの2軍としてこれからもアスレチックに参加しますし、来期からの個人戦では、すでに流&ロキの参戦が決まってますわよ?」

「え? アリス何言ってやがんだ? トキも何か言ってやってくれよ?」

 疑問のまま、トキに話を振ると。

「まさかと思うが、アルフから何も聞いてないのか?」

「聞いてない!そんなことはこれっぽっちも聞いてない!」

「アルフ指令官殿も部下への連絡を怠るなど言語道断だ! レオン! イネス! 元指令官殿に撤回を求めよう!」

 まじめに、とらえるアールであったがもちろん、流に対しての嫌がらせを含めたサプライズだ。

「そういうことか…レオン下ろしてくれ!」

「あぁ、了解した」

 流が地上に着地すると、アリスに声をかける。

「なぁ、アリス? このなかで一番早く動ける機体はどれだ?」

「ん~? 損傷がなければロキなんだけど…今の状態ならヴァルキュリヤかな?」

「OK! ちょっくら、いって来る」

 右腕をギプスのまま操縦管につっこみ、 ヴァルキュリヤを起動させる。

「ちょっと! 流? どこに行く気?」

 そう問いかけたトキにとびきりの笑顔でこう答える。

「あいつを殺しにだぁぁぁぁあぁ!」

 その声に全員が反応し ヴァルキュリヤにしがみつく。

「離せ! みんな降りろ!」

「「はなすもんか! これからもずっとだ(一緒だよ)!」」

「OK! ならみんなで殺しに行くぞ!」

「「「「「了解!(おう)」」」」」

 ぼろぼろになりながらも、戦いをやめない女神伝説はこれから語り継がれていくことだろう。

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