第6話
互いの装備が火花を散らすようにお互いの闘志が燃え上がっていく。
「はっ! くっ ふゅ!」
「… しっ!」
もはや、流に体力などほとんど残っていない。だが、それでも動いているのは、チームメイトのこともあるが「こいつに負けたくない」という気持ちが一番現れているのであろう。流は、刀を打ち下ろしで叩きつけたあと、後ろに跳躍し間合いを取る。
「はっはっ…はっ…くっそ!」
何もかもが重く感じるのだろう。もはや、吸い込む空気でさえもまるで鉛のように感じていた。
「これで終幕なのか? お前が倒れれば、機体が0となりこちらの勝利が確定する。だがまだ私は、お前と戦いたい! まだ動くのであればかかって来い!」
レオンは、一歩一歩踏みしめるように流に近寄る。レオンとて、余裕があるわけではない。一撃が重い分 ヴァルキュリヤへのダメージが大きいと思われがちだが、レオンの機体のほうが数倍手数を受けているのだから当然といえば当然である。何か一発でも受ければ形勢などすぐに傾く。その何かを恐れているのだ。アイギス・セイレーンともにブラックボックスを目の当たりにし、 ヴァルキュリヤのブラックボックスをどこかで警戒し恐れている。あの、化け物が恐怖しているのだ…。
「…まだ足りないのか? まったく女神様は腰が重いこった!」
レオンが間合いに入ったことを感じ、刀からカタールへと変更し少しでもこの場所を持たせようとする。流自身もヴァルキュリヤのブラックボックスを心のどこかで期待していたのだろう。だが、いまだに発動したような形跡が無いのだ。
「お前も何かを隠していると思ったのだが…いや、もうそんなものとっくに使っていたのかもしれないな」
レオンは 足払いで、ヴァルキュリヤを地面に叩きつけクレイモアを両手で構える。
「死なない努力をしろ。だが腕の骨くらいは砕け散るだろう」
レオンの容赦ない一撃に、地面は砕けすさまじい粉塵で視界をさえぎった。
「B-E! 応答して! 流っ!」
「流…、レイ! アイギスはまだ動かないのか!脚部だけでも良い!」
「ここならグングニルもあります! 今すぐに流の元に行くべきです!」
「そんな無茶言わないで、リペアが完了するまで機体を外に出すことさえできません」
「ロキ」のメンバーが絶望に包まれる。だが一人を除いて、そんなことを関係なく行動に移していた。
「私が行く」
「「「え?」」」
その声とともに一体の機体が飛び立っていくのが見えた。
現在でも粉塵で辺りが何も見えないなか、一体が投げ飛ばされたかのように飛び出す。
「ちっくしょぉ! ヴァルキュリヤの反応速度でこの様かよ…G-6なら今のでぺしゃんこだな」
間一髪のところで抜け出せたものの、その代償が大きかった。レオンの放ったクレイモアの一撃により右足が大きくえぐられブースターも機能しない。残った装備は刀と片方のカタールのみ。
「これまでかよ…」
「ついに終わりか…。だが恥じることは無い。」
そう言い終え、再びクレイモアを振りかざす。だが、それが振り下ろされることは無く微動だにしない。流は、不思議に思いゆっくりと目を開けていく。
「えっ? 何でロキが?」
「どうした、流? 負けちまいそうじゃないか?」
そこにはロキと呼ばれた ブリュンヒルデシリーズがレオンの一撃を止めている光景があった。脚部にはブースターが無く代わりに両肩に4基のブースターを搭載しヴァルキュリヤのようにカタールと刀を装備しているがそのフォルムが異なっていた。
「どういうことだ? アスレチック中の新機投入は、ルール違反だろう? 仲間のために勝負を捨てたということか?」
クレイモアでロキをなぎ払いお互いに距離をとる。
「それはそちらでしょう? (アスレチック中殺意を持って、相手の生命を危機にさらしてはいけない)これを違反したのはあなた達ですよ」
二人の間に、まったく入りきれない流だったがついに口を開く。
「おぃ、てめぇ! 一体誰だ? 私のロキを勝手に乗りやがって!」
ロキが操縦者の意思を汲み取り大きくうなだれる。
「流…お前は雇い主の声すら識別できないのか?」
「はぁ? まさか…アルフか?」
「本当に気がついていなかったのか…後で説教だ」
そんなやり取りの中、通信が入ってくる。
「流! 無事ですか? 返事しなさい!」
「死んじゃって無いよね? ねぇってば!」
「すぐに行くから生き抜け!」
どいつもこいつも流が重症と信じきっているような口ぶりに流が大きく息を吸い…。
「勝手に殺すなぁぁぁぁぁ!!!」
「「「流!」」」
「やれやれだな…さて、レオン君?ここで提案だ」
「Bから情報が来た…申し出を受けよう!」
「また勝手に話進めやがって、何が決まったんだよ?」
「流! 君にはこのロキに乗り換えて、戦って欲しい」
「えっ、そんな…私がロキに乗るってどういうことだ!」
「言葉通りの意味だ。エデンのルール違反に対してこちらも一つルールを侵してもいいという交渉をしてね。エデンとしても、エキシビジョン程度で違反をさらしたくないのさ」
「そんなこと知しったことかよ! 私がどんな気持ちでロキに乗らなかったか分かるだろ!」
「あぁ、知っている。だが、それでも君には戦って欲しいんだ!」
装甲が展開し、アルフの姿が現れていく。それに連動する形でヴァルキュリヤの装甲も展開していくのだが、流がそれを拒む。
「い…やだ…そんな反則の機体になんか乗りたくない! そんなことして何が楽しいんだよ!」
ヴァルキュリアが操縦者を下ろそうとする意思と流の留まりたいという意思が真っ向から対立する。だが、アルフはそんな流に対し平手を入れる。
「何しやがる! アルフは私の気持ちなんて分からないんだ!」
アルフは再度、平手を入れる。その手をさすりながら…
「お前の気持ちなど、もちろん知っているといったはずだ! だが俺の気持ちとレオン君の気持ちはどうするつもりだ!」
その言葉ハッとする。今の会話はチーム同士のチャンネルではなく、オープンチャンネルだ・・・
それゆえに、レオンの耳にも届いている。
「お前は、本来の機体ではなかったのか。お前にとってこの試合はどうでも良かったのか?」
「…違う」
「いいや、その機体…確かに桁違いの力を秘めているだろう。だが全力を出し切らないのは、相手を侮辱していることと知れ!」
「違う!」
流は、その場に泣き崩れる。いくら、取り繕ったところで相手に対して手加減したというその事実は変わらない。相手がトップチームの「エデン」であり、お互いに最大のライバルとして認め合っていたはずのレオンからの言葉が一番効いている。流からの妨害が無くなり完全にヴァルキュリヤと切り離されてしまった。
「君ならやれる。これから仕切りなおす手段がここにある。さぁ、存分に遊んで来い!」
そういい残し、破損したヴァルキュリヤへアルフが乗り込み右足を引きずりながらも森へ消えていく。数秒の沈黙の後に、流れがその身のみでレオンへ向き合い、静かに礼をする。
「レオン…私はあなたに失礼をした。この身が動かなくなるそのときまで、全力を尽くすことをここに誓う!」
その決意の元、ロキに飛び乗り装甲の中に消えていく。そこにもう迷いはなく、ただ全力で遊ぶということしか頭に残していなかったのだった。
「私こそ、先ほどの言葉を取り消そう。すべてを持って私も答えよう!」
レオンが再度クレイモアを構え突進しようとしたとき、赤いラインが横切るのが見えた。そのラインに沿って赤と青の火花がまるで線香花火のように消えていく。
「ロキは、いくつものブラックボックスを常に展開できるように作られている。そのうちの一つがスレイプニル。ベルスファーンの基礎を元に8基ものブースターでベルスファーン以上の移動が可能なんだよ」
流は、あえて自分の不利になるような情報を相手に与える。それでも、有り余るほどの機動性にレオンも戦法を変更する。
「鈍重極まりない、クレイモアでは届かないか…ならばこいつだ!」
先ほどセイレーンのニードルガンを捌ききった小太刀を構え、一瞬の接触の際カウンターを仕掛ける。
「さすがレオンだ。だけど、まだ私は武器を展開すらしていない」
その言葉通り、ロキの手には何も装備されていない。だが右手を前に突き出した瞬間そこから何かが掃射される。
「なに! エッジではないのか?」
その刹那でも小太刀でその何かを叩き落そうとするが逆に小太刀のほうが弾き飛ばされてしまう。
「一体何をした?」
「今のはドラウプニル。地球の磁力にすら反応するほどの磁力を相手にぶつける技でロキ本来のブラックボックスだよ」
一瞬のうちにロキがしゃがみこみ、両手の手甲がカタールへと変化する。再度、死角から死角へともぐりこみ相手にダメージを与えるヒット&アゥェイの戦法だがまったく一撃の重さが違うのだ。そのことに疑問を感じたレオンは素直に流に問いかける。
「なぜ、先ほどまでより強くなったのだ?」
「ロキは…混血なんだよ…」
「どういうことだ?」
「ロキはG-1からG-6まですべてのパーツが使われている! 道化師みたいに哀れなやつだよ…」
そう、ロキとは当初サブ機と思われていた機体であるが、調べていくと新調した部品や未使用の新しい装備が積まれていたまさしく無敗に一番近い機体だった。 ラボのスタッフが冗談でカスタムしていたのかはたまた、本気でアスレチックで使おうと思っていたのかは今となっては謎だがエッジ・ガードナー・シューターどの機体にも当てはまるし、逆を言えばどの機体にも当てはまらないような機体である。それゆえに混血と称された。だが、それゆえに流はこの機体を使うことを拒否したのだ。
「でも、私はロキを自分のパートナーと思っている…さて…レオンはまだ、やれるかい?」
先ほどまでレオンが口にしていた言葉を流がレオンに投げかける。
「無論だ! まだ、楽しませてもらおうか!」