第3話
「…ぇ、すか…ちら、オペった…」
「こちらB-G、周波数をもう7ポイント絞ってください」
『聞こえますか? こちらオペレーター』
「大丈夫です。以後このチャンネルで固定しますのでマスターズに申請してください」
「了解。以後B-Oと呼称してください。B-E・B-Sリンク確認どうぞ」
「B-O、こっちは問題ない。視界リンク130~150まで掌握」
「は~い、こちらB-S。所持制限・ブリュンヒルデシステム、オールリンク確認。バックアップをB-Oに委託しますわ」
「委託確認。スタンバイスタート」
そうして、いよいよ育て上げた女神が一歩を踏み出す。しかし現時点ではまだ、その姿をさらしておらず、ぼろぼろの布で体を覆い隠している。
「戦術はあなた達にある程度は委ねます。でも、不安を感じたり・アラートが発生したときには、勝ち負けを関係なく退避しなさい」
「レイは心配性すぎる。マスターズにレギュレーションを突きかえした、あの勢いはどうしたんだよ?」
「大丈夫、私が状況を逐一確認してますから…見ていてください」
「アリスは、やれるだけやるよ~!」
「みんな…っ!さぁ、これからラストバトルよ! 「エデン」をくだしましょう!」
「「「了解!」」」
そして、各チームのスタンバイが終わり、マスターズのスタートによって開戦となる。
「B-S! 初手は任せた!」
そう流に急かされ、本来一番後方に位置するはずのシューターであるアリスの機体が先頭に立ち自らが持つ弓に一本の矢を装填する。
「神話より語り継がれた槍…。敵を討ち、我らを導け! グングニル!」
そのころ「エデン」では中立ポイントに向けてガードナーであるアールを先頭に進軍していた。しかし、矢を放たれた瞬間、エデンの広域サーチにアラートがかかる。
「S・G回避だ」
「「イエス!」」
アラートに反応しその1秒後には回避行動を完了し、先ほどまで自分達が展開していた場所にグングニルが通過した。もちろん、ロングショットが可能な兵器を主体に動くチームもあるがほぼ皆無であるといえる。理由は簡単、通過もしくは着弾までに時間がかかりすぎるため相手にいとも感単にかわされてしまう為だ。
「やつら、もう少し考えて行動すると思ってましたが中・遠距離の戦いを仕掛けてくるのでしょうか?」
そう、思考をめぐらせた瞬間、突然の突風によって視界をさえぎられ、機体も不安定になる。
「明らかに自然の突風ではないな。B! 状況報告を!」
「BよりO! 迎撃しろ! もう来るぞ!」
「B、落ち着け。開戦してまだ数分だ。制圧ポイントを…」
落ち着き払うレオンに危機感を感じたオペレーターが一気に叫ぶ。
「もう「ロキ」の2体が400M前方に来ている! 300…100…体勢を立て直し、迎撃しろ!」
「なんだとっ!」
本来、 縦150Km横130Kmという広範囲のステージを有するアスレチックでは、開始してまず行うのは中立のポイント制圧であり、そこからどう攻めるかを考えるものであるがセオリーをまったく無視し2体で敵本拠地に乗り込むなど自殺行為以上の問題である。 いや、それ以上に100Km以上の距離を物の数分で走破することが可能なのか? そうした矛盾がでてきた瞬間には、すでに女神が戦いに参上していたのだ。
「待たせたな…いくぜ! ヴァルキュリヤ」
「お前達はおもしろいぞ! 今は戦う。それで十分だ!」
そう言いつつ、お互いのエッジが武器を手にし、切りむすんでいく。
「O! すでにエッジが交戦しているが、もう一体どこにいるのよ? 広域サーチがこの突風でずれた危険性もあるわ。リンクのアップと指示を!」
SのイネスがBに叫んだ瞬間、鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
「叫んでんじゃないよ…一番後ろにいるはずのシューターが自分の位置教えてどうするの?」
そう相手に説教するような口調で、お互いの有視界へ姿を現す。
「そんなポンコツで挑むなんていい度胸じゃない」
そう、酷評される中、流がレオンと一旦距離を置き口を挟む。
「そろそろ、これ取ってもいいか? 邪魔でしょうがないぜ?」
「これも演出ってやつだよ…ショータイムだ!」
そうトキがボロ布を掴むとそれにあわせて流・アリスも続き空に投げる。そこには、各自のパーソナルカラーに塗られた機体が現れた。
「さぁ、アイギス…その力を今再び!」
「こけおどしは一度きりよ!」
そう言い、イネスがトキに向かってガトリング砲を放つ。それにあわせ、トキは左腕に装着していた盾を構える。
「展開装甲開放、B-S追加よろしく」
「了解~」
そして、ものの1分間でガトリング砲に振り分けていた弾数の120発をうちつくす。
防御と攻撃によって煙幕と硝煙のにおいが立ちこめるなか、イネスには何かが地面に刺さる音が聞こえたという。だんだんとその視界が開けていくと。
「なんなの…? なんなのよ、それは! ?」
「これが私の武器よ。」
そこには、無数の盾が地面に刺さっており、なおかつ先ほどの砲撃をすべて受けきった盾はアイギスの手元で高速回転をしつずけ、アイギスと同じグリーンに輝いていた。一瞬の虚をつきアイギスが跳躍し地面に向かってワイヤーを展開する。
「曲芸みたいで嫌なんだが…」
ワイヤーが盾を絡めとり、アイギスの手元に引き寄せる。そこにイネスが怒りに満ちたようにライフルを構え照準を合わせる。
「馬鹿が! わざわざ、的になりやがって! 落ちろ!」
「残念、落ちるのは私じゃないんだ」
ライフルから放たれた大口径の銃弾を紙一重でかわすとワイヤーで引き寄せた盾をフリスビーの感覚で投げつける。
「面白いじゃない? でも、そんな盾なんてクレー射撃も同じだ!」
もちろんそのとおりだ。だがしかし、この兵装を選んだ本人が曲芸といったのにはわけがある。先ほどのワイヤーをまだ盾に絡めつけたままであり、その軌道を自在にかえていく。そして、とっさにライフルで防御したイネスの撃破に成功する。
「言ったでしょ? 曲芸だって」