怪奇事変 同調
遅れました、すみません。
第四十五怪 同調
「最近調子が良いじゃないか」
「ウッス!」
某学校で行われる部活動、今年は大会も控えて居るためメンバー全員がそれぞれ切磋琢磨している。
部はバスケ部、インターハイを勝ち抜くためのスタメンを選ぶためにみんな必死だ。
俺は……正直、半年前までは一軍にすら入れない程、技術も何もなかった、そう、なかったのだ。
あの日を境に変わった。
「よしそこまで!各自10分程、休憩したら再開だ!」
「「「「はい!!」」」」
部員全員が返事をして、俺も休憩に入る中、傍らから友人が声を掛けてくる。
「お前マジ最近調子良いな!アニメのキャラかよ」
「いや、そうでも……」
「謙遜すんなって!ドリブルなんて下手どころじゃなかったのに、今なんて全くボール見てなくてドリブルできてるし、スリーもすげーけど、ダンク決めた時なんて皆驚いてたじゃん」
「はは……」
身長は165cm、他のメンバーは170程の身長がある中、ダンクを決めてしまったのだ。
気持ち的にはやれそうだったから、その程度でできてしまったのだ。
「マジすげーよ、一軍上がってるしスタメンに選ばれるのも確定なんじゃね?」
「かな?まぁ何て言うかスタメンよりも俺はもっとボールに触れて、試合に出ていたいって気持ちの方が強いかも」
「はは!前回の練習試合でトリプルスコア決めてから酔ってるのか?」
「かも、まだまだもっと練習したいわ」
「たまんねーな、俺も負けてらんね!」
「1on1やる?」
「良いね、やろうぜ!練習終わってからな」
「おう」
こうして友人と楽しく喋れるのもあの出来事があったからだろう。
半年前の練習時に起きた事故を境に俺は別の誰かが憑依しているのではないかと思う程、バスケの腕前が上達した。
そう、半年前だ。
「そろそろ切り上げね?」
「いや、こんなんじゃまだ一軍にすら入れねーよ!」
半年前の俺は焦っていた、思う様に調子が伸びなかったせいもあるが、部活動を始めて2年、全く上達できていない。
それこそ後から入った後輩に追い越されてしまう程、技術の差では天と地程のレベルだった。
「俺は人一倍練習して上手くならないとダメなんだ!もっと上手くなってそれで——」
「分かったよ、でも流石に時間的にも帰らないと先公にドヤされるし、親も飯作ってるから」
「ああ、悪いな。お前は先に帰ってて大丈夫、俺はもう少し練習したら上がるから」
「そうか?まぁじゃ先に上がるはー、お疲れ」
「……」
ゴールを睨みシュートを決めるも、ゴールには入らず虚しく体育館にボールの弾む音がするだけだった。
「クソ!」
勢い任せにドリブルをするものなら、手からボールか外れてどこか行く始末、正直大会どころか練習試合でも通用しないレベルだった。
俺ができることと言えばせいぜいボールを回す事。
これもチームには必要なことだが、自分自身が得点を決める場面で決められないと言うハンデがあり、それをチームメイトも顧問も知っている。
『お前は点を取るよりもチームにボールを回して得点を稼ぐためのチームプレイに徹しろ』
それが顧問に言われた一言だった。
絶望した、まだできると励まれるならまだしも、まるで才能はないっと言われたような気分だった。
「クソ!クソ!」
ドリブルでレイアップを決めようとするもそれすらも外してしまう。
バスケにおいて基本的なシュートの型であるにも関わらずこんな簡単なシュートすら決められない。
本番ならディフェンスも居る中で決めなければならないシュートなのに……どうしてこんなに才能がないのか、落ち込むばかりだ。
「……俺、身長、低いんだよな」
165cm、バスケにおいて身長は試合において重要なファクターでもある。
だが同じ身長差でも点を決められない訳ではない。
高身長じゃないにしろ、何かしらのスキルを持っているものがチームに貢献したり、自身で点数を決める事などは、十分にある。
それに比べて俺はせいぜいボール回しが関の山、そのことに酷い劣等感を感じている。
「俺だって!」
ボールを持たずに助走をつけてゴールに手を伸ばすも、リングに触れることもできず転倒してしまう。
宙をみながら息を上がらせながらこれが現実と言わんばかりの悔や差しが込み上げてくる。
「才能なんて、才能は平等じゃなくて、不平等だ!」
力一杯床を叩く。
手が痛い、それでもそれ以上に悔しさが込み上げてくる中、ボールの弾む音が聞こえた。
まだ誰か他に練習している人物が居るのか見て見るも誰も居ない。
「?」
ドン、ドン、っとボールの弾む音だけが聞こえる。
試しに近くのボールを拾い、バウンドさせてみると同じ音だが、リズムが違う。
まるで試合中に聞くボール、それがバウンドする音だ。
リズム感で行くならばこれはドリブルだろう。
近くまで聞こえる中、自分を通りこしてその音は離れていく。
「ッ!?」
反射的に身体が動いてしまった。
試合で相手がゴールを決める際にブロックとして飛ぶ動作を自然にやってしまっていたのだ。
「(なにやって…誰も居ないのに…ッ)」
だがゴールのネットは僅かに揺れ、ボールがネットに触れる音と共に、地面にボールが落ちる音が聞こえた。
ゴールを決められた、ブロックさえ、才能はない。
っと言うより——
「何やってんだ、俺……」
誰も居ない場で1人で急に熱くなって思わず試合の光景を思い出して咄嗟にブロックに飛んでしまった。
誰もいない、自分だけの空間に。
だが再度ボールの音は聞こえた、まるでまだ続きがあると言わんばかりに。
「……」
何故こんな事をしているのか?
それは俺にも分からないが、自然と体は脳内でイメージした通りに動いた。
何回も、何十回も、そのうちブロックが上達していく自分がそこには存在していた。
そして翌日、同じ部活内で一軍と二軍の練習試合が組み込まれた。
一軍の動きは早くテクニックも上手い。
ゴール目前となり相手にレイアップを決められる瞬間、身体が自然と動いだ。
ブロックに飛ぶ映った俺に相手は体制を崩し、失点となってしまう。
「(あれ、今凄く自然に行けた……)」
「ナイス!!」
チームから声がかかる。
初めての感覚に同様しながら、その日も居残り練習をしていると、またあの音が聞こえてくる。
今度はシュートではなく、近くでする物音。
普通なら驚くはずなのに、俺は何事もなく構える、これが脳内が映し出したきっと俺にしか見えないビジョンだ。
恐らく相手はボールを持っている、これはドリブルの練習。
ドリブルで抜こうとする相手に食いつくもあっさりと抜かれてしまいゴールを許す。
「クソ!」
ディフェンスは何もゴールだけじゃない。
ボールを保有している選手の動きを見てボールを追う、そう、そこだ!
スティールを決めボールはバウンドする、保有できたボール、今度は俺がオフェンスだ。
だが——俺は今までドリブルを上手く成功させたことがない。
その圧倒的なプレッシャーから相手にボール奪取を許してしまう。
「クソ、待て!」
すぐさまディフェンスに向かいゴールを決める相手をイメージし、ディフェンスに成功する。
ボールを奪取すると今度はまたオフェンス、ドリブルできてはいるが、此処から動いていかなければならない。
動け、動ける、動かなけば——点は獲れない!
まるで誰かに操られてるかの如く身体は自然と動き、ドリブルをこなしながら相手のディフェンスをぶち破りシュートを打つ。
初めてのゴール、達成感、できた、できたのだ。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
喜びの雄たけびを上げながらガッツポーズをとる。
そして翌日の練習試合、対戦校との戦いは圧倒的だった。
ディフェンスとしての動き、オフェンスとしての動き、そこから点を獲るための鮮やかなプレイ。
監督もチームメイトでさえ驚いた表情だった。
俺は——生まれ変わった。
点数差は圧倒的、トリプルスコアでこちらの勝利、そのほとんどの点数の貢献は——俺だった。
そして俺は一軍へと昇格し、インターハイのスタメンとして活躍することになった。
準備は順調、初試合は過去にインターハイのベスト8に残った強豪だが、今は負ける気がしない。
そしていよいよ対戦が始まった。
相手がオフェンス、ディフェンスの要は俺ともう1人だった。
だが途中でスティールをしてボールを奪えば良いと判断した俺はボールキープしている相手に接近し、スティールを躱すも——
「あれ?」
——スティールってどうやるんだっけ?——
そんな馬鹿な頭が浮かぶ。
「オイ!」
チームメイトの言葉に我に返り急いで相手に追いつきディ——
「(あれ……)」
——ディフェンスってどうやるんだっけ?——
今まで当たり前に出来ていたことができなくなっていた。
次はオフェンス、ドリブルをするもボールを落としてしまい相手側のボールになってしまう。
「おい!真面目にやれよ!!」
仲間からの叱責を受けボールを必死に追うも、ドリブルの仕方も、ゴールの決め方もわからなくなり、ついには自慢のパスまでわからなくなってしまった。
「……」
「おい、真面目にやれよ!」
「……交代だ」
「え?俺まだ——」
「交代だ、下がれ」
監督の言葉に足元がふらつく。
もうばててしまった、つまりスタミナ切れ。
なんで、こんな重要な試合の最中なのにバスケの全てを忘れてしまったのだろうか?
なんで今なんだろう?
ずっと憧れてきたプレイが出来て、チームからも信頼された、なのにどうして大事な場面で——失ってしまった。
「どけよ!」
「……」
俺は——何も上手くなってなかったんだ。
ドン、ドン。
地面に落ちる音がする、そこは誰も居なくなった体育館。
そこに目を向けても誰も居ない。
ああ、確信した、驚くほどに冷静に。
俺はきっと誰かに魔法をかけられていただけで、本当の俺は底辺のままだったのだ。
第四十五怪 憑依
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