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第五話 冒険者の証

 翌朝、窓から差し込む鋭い日差しが、ルナの長い睫毛を揺らした。 

 ゆっくりと瞼を開けると、すぐ隣にカイトの寝顔があった。昨夜、彼の腕にしがみついたまま眠りについたことを思い出し、ルナの顔が一気に赤くなる。


(……温かかった。あんなにぐっすり眠れたの、生まれて初めて……)


 ルナがそっと離れようとすると、カイトがうっすらと目を開けた。


「……起きたか」


「あ、おはよう、カイト。……ごめんなさい、ずっとくっついちゃってて」


「気にするな。……よく眠れたならそれでいい」


 カイトは短く答えると、ベッドから身を起こした。


「支度をしろ。今日はまず、冒険者ギルドへ行くぞ」


「ギルド……? わたしも?」


「ああ。お前を俺の正式な『相棒パートナー』として登録する。この先、検問や町への出入りで、身分証がないと余計なトラブルに巻き込まれるからな」


 カイトは傍らに置いてあったルナの魔導銃を手に取った。


「昨日はまだ練習だけだったが、これからは実戦も増える。身分をはっきりさせておくことは、自分を守ることにも繋がるんだ」


 宿を出ると、アイアン・ポストの町はすでに活気に溢れていた。

 二人が向かったのは、町の中心部に構える無骨な石造りの建物――冒険者ギルド<アイアン・ポスト支部>だ。


 重厚なスイングドアをくぐると、中には朝から依頼クエストを物色する荒くれ者たちの熱気が充満していた。 

 カイトが姿を現すと、騒がしかったロビーが一瞬だけ静まり返る。


「おい、あれ……“死神”のカイトじゃないか?」

「隣にいるのは……珍しいな、エルフの娘か?」


 ひそひそという話し声が聞こえてくるが、カイトはそれらを無視して受付へと進んだ。 

 受付嬢は、カイトの顔を見るなり背筋を伸ばした。


「おはようございます、カイトさん。今日は……依頼の報告ですか?」


「いや、連れの新規登録だ」


 カイトに促され、ルナがおずおずとカウンターの前に出る。

 受付嬢は一瞬、ルナの肌の色と耳を見て目を見開いたが、すぐにプロらしい微笑みを浮かべた。


「承知いたしました。では、こちらの水晶に手をかざしてください。魔力適性と基礎能力を測定し、登録証を発行します」


 ルナは緊張で震える手を、淡く光る水晶の上に置いた。 

 しばらくすると、水晶の中にぼんやりとした文字が浮かび上がる。


「名前はルナ。……属性は『光』と『影』。魔力保有量は……あら、初心者にしてはかなり高いですね。特に支援魔法に秀でています。魔法の使えないカイトさんにはぴったりのパートナーですね」


 受付嬢が手際よく銀色のプレートに魔法陣を刻印していく。


「はい、これがルナさんの冒険者プレートです。ランクは一番下の『アイアン』からとなります。カイトさんのパーティメンバーとして紐付けしておきました」


 手渡された小さな金属板を、ルナは宝物のように両手で包み込んだ。 

 支援魔法がどういうものなのかルナには分からなかったが、『カイトにぴったりのパートナー』と言われたことが何より嬉しかった。


「……わたし、本当に冒険者になれたんだ」


「ああ。今日からお前は、誰の所有物でもない。自分の足で歩く一人の冒険者だ」


 カイトがルナの頭を軽く撫でた、その時だった。


「けっ、笑わせるぜ。そんなひょろいガキが冒険者だと?」


 背後から、酒臭い息と共に野卑な声が響いた。 

 振り返ると、三人の男たちがニヤニヤと下卑た笑いを浮かべて立っていた。

 リーダー格の男が、ルナのプレートを横から覗き込もうとする。


「おい、カイト。いくら腕が立つからって、こんな乳臭ぇガキを相棒にするなんざ冗談が過ぎねぇか? 見たところエルフ様のようだが、個々は西部だ。森の加護なんて通用しねぇ」


 ルナの体が強張り、プレートを握る手に力がこもる。


「お嬢ちゃん、ここはおままごとの場所じゃねぇ。大人しく森に帰って、歌でも歌ってな!」


 男たちは爆笑した。


「……笑われるのには慣れています。でも、もう下を向くのはやめました」


「ああぁーん?」


「わたしはカイトに必要とされたからここにいる! あんた達の指図は受けない!!」


 震えてはいたが、はっきりとした拒絶の言葉。 

 男は顔を真っ赤にし、拳を振り上げた。


「このガキが、生意気な口を――!」


 その拳が振り下ろされる前に、カイトの魔導銃が、男の眉間に突きつけられていた。


「……俺の相棒が、何か失礼なことを言ったか?」


「ひっ……、あ、いや……」


「聞こえなかったのか。こいつは俺のパーティメンバーだ。次に指一本でも触れようとしたら、その腕、二度と使えないようにしてやる。……失せろ」      


 カイトの低く、地獄の底から響いてくるような声。

 男は「ひ、ひぃっ!」と短い悲鳴を上げると、仲間を引き連れて逃げるようにギルドを飛び出していった。


 静まり返ったロビーに、カイトが銃をホルスターに収める音だけが響く。

 彼は何事もなかったかのようにルナに向き直った。


「怖かったか?」


「……ううん。ちょっと、足が震えてるけど。でも、ちゃんと言えてよかった」


 ルナはぎゅっと冒険者プレートを握りしめ、少しだけ誇らしげに微笑んだ。


「……上出来だ。あいつらみたいな手合いは、一度舐められたら終わりだからな」 

 カイトはルナの頭を、がしがしと撫でた。


「相変わらず容赦ないですね、カイトさん……」 

 受付嬢が、嘆息する。

「でも、ルナさん。あなたのその勇気は、冒険者として一番大切な資質ですよ。ようこそ、ギルドへ!」


 ルナは照れくさそうに頭を下げた。 

 カイトは掲示板に並ぶ無数の依頼書に目を向け、その中から一枚の羊皮紙を引き抜いた。


「よし、登録も済んだ。ルナ、初仕事だ」


「えっ、もう……?」


「ああ。この町から少し離れた岩場に、最近『サンド・ラット』が異常繁殖して、商隊の通り道を荒らしてるらしい。初心者向けの簡単な間引き――討伐だ。お前の銃の練習にはちょうどいい」


 ルナは自分の腰に下げた、まだ使い慣れない魔導銃に触れた。


「心配すんな、俺が側にいる」


「うん! わたし、頑張るよ、カイト!」


 二人はギルドを後にすると、ホープに跨り、町外れの岩場へと向かった。

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