表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/18

第二話 荒野に咲く白薔薇

 翌朝── 

 部屋の窓から差し込む光が、薄い布団に包まったルナのプラチナ色の髪を照らしている。 

 カイトは壁にもたれ、腕を組んで少女を見ていた。   


 昨夜のルナは、ろくに眠れなかったようだ。 

 何度もうなされ、その度毎に影が苦しそうに揺れていた。


「……お疲れのところを悪いが、そろそろ起きろ」


 カイトの声に、ルナの肩がピクリと跳ねる。


「おはよう、カイト……」 

 ルナは眠たげな目をこすりながら、ゆっくりと上体を起こした。

「ごめんなさい、寝坊して……」


「気にすんな。気分はどうだ?」


「昨日は、ちゃんと眠れなくて……」


「あんな目に遭った後だ。むしろ眠れたほうが驚きだ」


 ルナは俯いた。


「腹、減ってるだろ。まずは飯だ」 

 カイトは軽く伸びをすると、一階の食堂へ向かうよう顎で示した。

「それから町に必要なもんを揃えに行くぞ」




 活気付く〈バレル・ジャンクション〉のメインストリート。 

 カイトは、フードを深く被らせたルナを連れて、一軒の仕立て屋に入った。


「よお、マダム。こいつに合う服を見繕ってくれ。荒野でも動きやすくて、目立たないやつだ」


 恰幅の良い女性店主は、ルナを一目見るなり「あら、なんて綺麗な子!」と声を上げた。


「ちょっと、あんた。こんな可愛い子にそのボロ布はあんまりよ。任せなさい、この街で一番の掘り出し物を選んであげるから!」


 強引に奥の試着室へ連れて行かれるルナを、カイトは苦笑しながら見送った。 

 待つこと数分。 

 カーテンが開くと、そこには見違えるような少女の姿があった。


 砂塵を防ぐための頑丈な革のショートパンツに、動きやすい白いブラウス。 

 その上から、深い藍色のフード付きポンチョを羽織っている。

 ウエスタンハットはキャメル色で、カイトとお揃いだった。


「……どう、かな?」 

 ルナが不安そうに裾をいじる。 


 カイトは一瞬言葉を失った。 

 粗末な服を着ていた時も目を引いたが、整えられた彼女は、荒野に咲く一輪の白薔薇のようだった。


「……悪くない。似合ってる」


 カイトが感想を伝えると、ルナの頬がわずかに赤らみ耳が嬉しそうに揺れた。 

 だが、その微笑ましい空気は、店に入ってきた一人の女性によって破られた。


「あら、カイトじゃない。こんなところで何してるのよ?」


 声の主は、赤い革ジャンに身を包んだ女冒険者・サラだった。


 カラミティ・サラ──“災厄”の二つ名を持つ西部最強の女性ガンマンだ。 


「サラか。……別に、ただの買い物だ」


「ふーん? あんたが女の子を連れて歩くなんて珍しいじゃない。ねえ、今夜空いてる? いい情報があるんだけど……」


 サラがカイトの顔を覗き込むようにして笑う。 

 その瞬間、店内の温度が数度下がったような気がした。


 ルナの影が不気味に揺れている。 

 ルナの瞳は冷たく、射抜くようにサラを捉えていた。


「……カイト、行こう。ここは空気が悪い」


 ルナはカイトの腕をぎゅっと掴み、サラから引き離すように自分の方へ引き寄せる。


「お、おい、ルナ?」


「やだ、怖い。やきもちかしら?」


 からかうように笑うサラに、ルナの放つ威圧感はますます強くなっていく。 

 カイトは慌てて代金を支払い、ルナを連れて店を飛び出した。


     


「……ったく、おまえ意外と気が強いんだな」


 カイトが呆れたように言うと、ルナは不機嫌そうに唇を尖らせた。


「カイトが、鼻の下を伸ばしてたから……」


「伸ばしてねえよ。……次はここだ」


 カイトが足を止めたのは、魔力の残滓と硝煙の匂いが漂う武器屋〈アイアン・ドラフト〉だった。 

 壁一面に様々な形状の銃が並んでいる。 

 魔導銃は勿論、実弾を撃つ一般的な銃もある。


 魔導銃は、使用者の魔力を吸い上げエネルギー弾に変えて発射するタイプの火器。 

 鉛の縦断よりも発射速度、射程距離が長いが魔力持ちでなければ扱えない。


「お、カイトじゃねぇか。今日は修理か? それとも新調か?」


「こいつに一本、軽めのやつを見繕ってやりたい」


「……このお嬢ちゃんに?」 

 店主は驚いたようにルナを見る。


 カイトは真剣な目でルナを見た。

「俺と一緒に旅をするなら、自分の身は自分で守ってもらう。おまえが影魔法を使えるのは知っている。だが、極力使うな。おまえの正体がバレてしまう。そうすれば、また嫌な目に遭うだろう。これからは魔導銃がおまえのお守りだ」


「カイト……わたし、強くなる。あなたの足を引っ張らないように。……だから、ずっと隣にいてもいい?」


「……勝手にしろ。言っておくが、こう見えて俺は人気者なんだ。俺を殺したいって思っている奴はごまんといる。とばっちりで危険な目に遭うかもしれないぜ?」


「その時は、わたしがカイトのことを守る! 守れるくらいに強くなる!」


 カイトは苦笑した。


「ふむ……なら、この〈フェザーライト〉がいい」


 店主が出したのは、小型で細身の魔導銃。   

 魔力の通りが良く、扱いやすい初心者向けの銃だ。


 ルナは恐る恐る手に取った。


「……軽い。わたしでも……撃てる?」


「撃てるさ。おまえの魔力量なら何の問題もない」


 カイトはルナの手を取り、銃の構え方を教えた。   

 ルナの肩がびくりと震える。


「ち、近い……」


「銃はな、構えが九割だ。変な癖がつく前に覚えろ」


 カイトの手がルナの指を包み、引き金の位置を調整する。   

 ルナの赤い瞳が揺れた。


「……カイトが触ると、なんか……変な感じ」


「気にすんな。仕事だ」


「……むぅ」


 不満げに唇を尖らせながらも、ルナは銃を離さなかった。


「よし、それを買う。ホルスターとメンテ用の道具もだ」


「まいど!」


 店主が包みを渡すと、ルナは胸に抱きしめるように受け取った。


「……大事にする。絶対に」


「壊れたらまた買えばいい。命より安いんだからな」


「カイト……」


 ルナは小さく微笑んだ。   

 その笑顔は、昨日の怯えた少女とはまるで別人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ