表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

前世の記憶

作者: 雉白書屋
掲載日:2025/12/07

 とある一軒家のリビング。穏やかな昼下がり。

 三歳の男の子が床に座り、窓の外に広がる青空をぼんやりと見上げていた。

 ゆるやかな風がカーテンをふわりと揺らし、その端がそっと頬を掠めた。その瞬間、男の子はふっと瞬きをて、台所で洗い物をしている母親へ視線を向けた。


「なあに? どうしたの?」


 母親はその気配に気づき、やわらかく微笑んだ。


「ねえ、ママ……」


「んー?」

「ぼく、前世の記憶があるんだ」


「え!?」


 母親は思わず手にしていたコップを落としそうになった。前世の記憶――テレビや本で見たことがある。ちょうどこのくらいの年頃で、そういうことを言う子がいると。

 まさか、うちの子が……? 確かに、いつもより顔つきが妙に大人びていて、声の調子も落ち着いている。

 母親は蛇口をひねり、ごくりと唾を飲み込んだ。


「ど、どんな人だったの……? 軍人さん? それとも戦争や災害の被害者? ヨーロッパの人……?」


「おっぱーい」


「は!?」


「おっぱぶの常連」


「おっぱぶ!?」


「久々に行きてえなあ……」


「い、いや、あの、ちょっと待って……。えっと、じゃあ、お仕事は何をしてたの?」


「まあ、無職だったけど」


「おー……じゃ、じゃあ、どうして死んじゃったの?」


「普通に病死でしたよ。いやあ、不摂生が祟りましてねえ。はははは!」


「その喋り方やめて。ねえ、何かこう、悲劇的なエピソードはないの? 同情されるようなやつ……」


「高校を……退学になったんだ……」


「まあ、悪い先生に嵌められたのね……それで人生が狂って……」


「万引きがバレて……」


「わあ……」


「あの時代はセーフだったのに」


「どの時代でもアウトでしょ」


「ねえ、ママ……スマホ買ってくれない?」


「え、急に何……?」


「調べたいことがあるんだ……」


「あ、前に住んでいたところとか、友達のこと?」


「お気に入りのポルノサイトが、まだ生きてるかどうか」


「おおぅ……」


「いやあ、前世は環境に恵まれませんでしたが、今回は当たりですよ。陽当たり良好、庭つき一軒家。こりゃ最高ですわ。どうぞ、これからもよろしくお願いしますよ、奥さん」


「……」


「ところで奥さん、おっぱいをいただいてよろしいですかな? 久々にこう、乳首をくりくりっとね。奥さんもお好きでしょう? ――いたっ、な、何するんですか!?」


「今すぐ! 前世を忘れなさい! なんで、世間の同情を誘うような人じゃなかったのよ! 悲劇の少年! 転生の奇跡! テレビ! 出版! 講演かあああい!」


 リビングには母親の絶叫と、泣きわめく子供の声が響き渡った。

 ほどなくして、騒ぎを聞いた近所の住人が通報し、警官が駆けつけた。

 逮捕された母親は、取り調べでこう語った。

 自分は悪くない。前世が悪い、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ