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DEMONsFIVE  作者: Ilysiasnorm
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第4話 「正義から逃げた命」

更生プログラム施設の夜は、異様なほど静かだった。

 消灯時間を過ぎ、白い廊下には足音ひとつ響かない。

 だが――その静寂を、突如として引き裂く警報音が鳴り響いた。

「――異常反応確認!

怪人化因子、急激に活性化!」

 赤い警告灯が回転し、施設全体がざわめく。

 隔離ブロックの最奥。

 少年は、床に膝をついていた。

「……っ、やだ……!」

 全身を焼くような熱。

 胸の奥から、何かが暴れ出そうとしている。

「僕は……何も……!」

 必死に押さえ込もうとした瞬間――

 抑制装置が、内側から弾き飛ばされた。

 轟音。

 白い壁が砕け、衝撃波が廊下を走る。

「対象が暴走した! 封鎖を――」

 職員の声は、崩落音にかき消された。

 少年は、息を切らしながら走った。

 泣きながら、必死に。

「違う……!

僕は、悪くない……!!」

 逃げる途中、瓦礫に躓き、肩を強く打つ。

 血が滲む。だが止まらない。

 背後で施設の一部が崩れ落ち、夜風が吹き込んだ。

 少年は、そのまま街へ――解き放たれた。

 ヒーロー局は、迷わなかった。

「対象を“完全怪人”として認定。

市街地被害防止のため、排除を許可する」

 命令は即時。

 理由は単純だった。

 ――市民を守るため。

 それ以上でも、それ以下でもない。

「ブレイヴフォース、出動だ!」

 カイトの声が、基地に響く。

 セラが翼を広げ、ゴウが盾を構え、レイが照準を定める。

 ミナトもまた、無言で装備を整えていた。

「……ミナト」

 カイトが一瞬、視線を向ける。

「止める。

生きて捕らえられる保証はない」

 ミナトは、わずかに頷いた。

 それが“正義”だと、分かっているからこそ。

 夜の街は、悲鳴に満ちていた。

「怪人だ!」 「ヒーローを呼べ!」

 瓦礫の間を、少年がよろめきながら走る。

 片腕は動かず、呼吸も荒い。

「助けて……!」

 だがその声は、恐怖に掻き消された。

 空から、セラが降下する。

「動きを止める!」

 蒼い光が、逃走経路を塞ぐ。

 ゴウが前に立ち、盾で進路を断つ。

「ここまでだ!」

「来ないで!!」

 少年の叫びと同時に、力が弾ける。

 衝撃で路面が割れ、建物が傾いた。

「市民が危ない!」

 レイの声が鋭く響く。

 ミナトは一歩踏み出した。

「待て!!

まだ……話せる!!」

 だが、その声は届かない。

 カイトは歯を食いしばった。

「……行くぞ!」

 炎が走る。

 連携は完璧だった。

 その一撃は、少年を吹き飛ばす。

 致命ではない。だが――深い。

「……っ……!」

 血を吐き、少年は地面に叩きつけられる。

 その瞬間、崩れかけた建物が、轟音と共に崩落した。

 爆煙。

 視界が遮られる。

「反応が……消えた……?」

 セラの声が揺れる。

 瓦礫の下へ、何かが落ちていく音。

 カイトは、一瞬だけ迷い――そして、決断した。

「追うな。

避難を最優先する」

 それは、ヒーローとして正しい判断だった。

 だが――

 数時間後。

 ヒーロー局の声明が流れる。

「対象は排除された。

市民への被害は確認されていない」

 街は安堵し、人々はヒーローを讃えた。

 だが、瓦礫の影で――

 ミナトは、血痕を見つけていた。

(……生きてる)

 微かな因子反応。

 確かに、逃げ延びている。

(でも……もう、戻れない)

 正義は、彼を“死んだことにした”。

 地下。

 崩れた通路の奥で、少年は倒れていた。

 意識は薄れ、呼吸も弱い。

 その前に、黒い影が立つ。

「よく耐えた」

 声は静かで、責める色がない。

「正義に選ばれなかった者よ」

 少年は、うっすらと目を開いた。

 闇の中で、黒い輪が淡く光る。

「……ミナ……ト……」

 その名を呟いたまま、少年は再び意識を失った。

 影は、少年を抱え上げる。

「ようこそ。

君の居場所へ」

 闇が、二人を包み込んだ。

 その夜、ミナトは屋上に立っていた。

 街の灯りを見下ろし、拳を握る。

「……正義は、守った」

 だが、その声は震えていた。

「でも……救わなかった」

 風の中、低い声が響く。

『次は――お前が選ぶ番だ』

 ミナトは、目を閉じる。

 その先にある光景を、すでに知っているかのように。

 ――裏切りの夜は、もう遠くない。

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