表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/97

95. 死の宝石の雨

「――来るぞ! ミーシャ!」


 レオンの叫びが、森に響き渡った。


 その瞬間――空がきらめく。


 アルカナ目掛けて水晶のような無数の棘が、「豪雨」のように降り注いできたのだ。


 それは恐ろしく、そして同時に美しかった。キラキラと光を反射しながら落下してくる無数の棘。まるで、死の宝石の雨。数百、いや数千という棘が一気に降り注ぐ。


「ホーリーシールド!!」


 ミーシャの叫びと共に、眩い光が五人を包んだ。


 彼女のロッドから放たれた神聖な魔力が、傘状の障壁となって五人を守る。透明な、けれど強固な光の盾。それは聖なる力で編まれた、最強の防御魔法――――。


 ガガガガガガガッ!!


 凄まじい轟音が、世界を満たした。


 数千の水晶の棘が、嵐のように容赦なく、光の障壁に叩きつけられる。途切れることなく、まるで機関銃のように。


「きゃぁぁぁ!」「ひぃぃぃ!」


 ルナとシエルが、思わず悲鳴を上げた。


 そのあまりの威力に、みんな圧倒される。障壁の中にいても伝わってくる、凄まじい衝撃。耳をつんざく轟音。止まらない攻撃。


 障壁が、激しく揺れる。


 パキッ。


 小さく、けれど明確な音がした。


 小さなひびが入った。障壁の表面に、糸のような細い亀裂が走る。


 パキパキパキッ。


 ひびが広がっていく。一本が二本に、二本が四本に。蜘蛛の巣のようにシールド全体に――。


「くっ……!」


 ミーシャが、歯を食いしばった。


 額に汗が浮かび、全身が震える。ロッドを握る手が、白熱するほど眩く輝き出す。膨大な魔力を、さらに、さらに注ぎ込む。全身の魔力を絞り出すように。


 けれど、攻撃は止まらない。


 ガガガガガッ!


 まだまだ降り注ぐ。終わりが見えない。


「もう……限界……!」


 ミーシャの声が、苦しげに絞り出される。


 シールドは今にも砕け散りそうにきしんでいた。


 レオンが叫ぶ。


「シエル! これで奴らを爆破してくれ!」


 リュックから特別な矢を取り出し、シエルに手渡した。


「え……? こ、これは……?」


 シエルが、驚いた表情で矢を見つめる。その矢尻には、赤く輝く魔法の結晶が取り付けられている。まるで宝石のように美しく、けれど危険な光を放っている。


「爆裂魔法の結晶の矢だ。当たれば大爆発を起こす」


 レオンの声は、切迫していた。手の内はなるべく明かしたくないが出し惜しんでる場合でもない。


「こ、こんな物が……どこで……」


「ギルドマスターから貰ったんだ。いいから、お願い! 今すぐに!」


「わ、わかった! 任せて!」


 シエルは、震える手で矢を弓につがえた。


 そして、狂信者たちの上空に狙いを定める。水晶の棘が降り注ぐ中、その隙間を縫うように。呼吸を整え、集中していった。心臓が激しく鼓動している。けれど、手は震えない。長年の訓練が、体に染み付いている――――。


 ヒュンッ!


 矢が、美しい弧を描いて飛んでいく。


 棘の攻撃を大きく避けながら、まるで意志を持つかのように軌道を変え、狂信者たちへと吸い込まれていった――――。


 ズン!と激しい爆発が遺跡を揺らす。


 赤い炎が、狂信者たちを飲み込み、衝撃波が広がり、石柱を揺らし、地面を震わせる。


 水晶の棘を生み出していた「歌」が、途切れた――。


 空中に残っていた棘も、力を失って地面に落ち、パリパリと音を立てて砕け散る。


「はぁ……はぁ……」


 ミーシャが、膝をつきそうになる。障壁を解除し、ロッドにすがりつく。


「ミーシャ!」


 レオンが、慌てて支える。


「はぁ、もう……勘弁してほしいですわ……」


 ミーシャが、弱々しく笑う。


 爆発の煙が、ゆっくりと晴れていく――――。


 狂信者たちは、吹き飛ばされていた。ボロボロの法衣が焼け焦げ、体中に傷を負っている。普通の人間なら、確実に即死していただろう。あれだけの爆発に耐えられるはずがない。


 しかし――。


 彼らは、死ななかった。


 ズル……ズル……。


 不気味な音を立てながら、まるでゾンビのように、体を引きずって立ち上がってくる。


 焼けただれた皮膚。折れ曲がった骨。けれど、その真紅の瞳には、まだ狂気の光が宿っている。まるで、痛みを感じていないかのように。いや、痛みという概念すら、もう持っていないのかもしれない。もう人間ではないのだ。ただ、命令に従うだけの、生きた屍。


「「「アアアアア……」」」


 再び空間が歪み始める。


「させないわ!」


 すでに駆け出していたエリナが、叫んだ。


 瞬足を全開にし、風のように駆けていく――。


 一瞬で、狂信者たちの目の前に迫り、剣を抜く。


 剣がギラリと輝き、その刃に闘気が宿る。


 一閃。


 二閃。


 三閃――。


 剣の軌跡が、銀色の光の線となって空間に残る。それは美しく、芸術的で、そして――死を呼ぶ、完璧な太刀筋だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ