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4. 輝く少女たち

 ルナが前に出る。


 小柄な体を震わせながらも、その小さな手には確かな炎が宿っている。朝日を受けた赤髪が、まるで生きた炎のように揺らめく。


「う、動くな! 動いたら……」


 声は震えているが、その決意は本物だった。


「ほ、本当に焼くから!」


 必死な表情が初々しく、なんとも愛らしい。


 シエルが優雅に新たな矢をつがえる。


 男装していても隠せない、その所作の美しさ。銀髪が風に舞い、碧眼が冷たく光る。


「ボクは絶対に外さないよ? 試してみる?」


 静かな声には、貴族の誇りが宿っていた。


 そして、ミーシャ。


 聖女の微笑みを浮かべながら、優雅にロープを手にする。金髪が朝日を受けて後光のように輝いた。


「あらあら、もう観念なさった方がよろしいのでは?」


 甘い声。だが、その空色の瞳の奥には、氷のような冷徹さが潜んでいる。


「うふふ……」という不気味な笑みに、男は本能的な恐怖を感じた。


 復讐の剣士、炎の魔女、月の射手、氷の聖女――――。


 四人の美少女たちが、それぞれの武器を構えて男を囲む光景は、まるで神話の一場面のようだった。


 ミーシャが手際よくロープをさばいていく。まるで、リボンを結ぶかのような手つきで、しかし確実に男の自由を奪っていった。


「離せ! 俺は何もしてない!」


 縛り上げられた男が必死に喚くが、もはや手遅れである。


「それは衛兵に言えよ」


 レオンが静かな勝利の笑みを浮かべた。


 騒ぎを聞きつけた衛兵たちが、重い足音を響かせながら駆けつけてくる。鎧が朝日を受けて眩しく輝いた。


「何事だ!」


 隊長格の衛兵が状況を見渡し、縛られた男に目を留める。その瞬間、衛兵の顔が驚愕に変わった。


「こ、これは……ゴードン・ブラックじゃないか!」


 別の衛兵が慌てて手配書を取り出し、照合する。


「間違いありません! 左頬の傷、体格、全て一致します!」


 衛兵たちの驚きの視線が、レオンと四人の少女たちに向けられた。


「まさか、キミたちが……?」


 レオンが頷くと、隊長は信じられないという表情で首を振った。


「新人冒険者たちが、Cランクの賞金首を……」


 首をかしげながら、隊長は賞金引き換えの書類を差し出した。


「こ、これを持って賞金首受付窓口へ。金貨二百枚が支払われるだろう」


 衛兵たちは恭しく頭を下げると、喚き続ける男を引きずって行った。


 その光景を見ていた四人の少女たちの表情が、徐々に変化していく。


「本当に……賞金首だった」


 エリナが呆然と呟く。


 錆びた剣をゆっくりと鞘に収める。その瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れ、美しい顔に複雑な感情が広がった。驚き、安堵、そして――初めて味わう勝利の喜び。


「すごい……本当に未来が見えてたんだ」


 ルナの大きな瞳が、子供のような純粋な輝きを取り戻す。


 小さな手のひらを見つめる瞳には、先ほどまで宿っていた炎は消えたが、代わりに頬が興奮で薔薇色に染まっている。


「あたし、役に立てた……?」


 シエルの問いかけには、今まで誰にも必要とされなかった少女の切実な願いが込められていた。


 レオンはにっこりとうなずく。


「ボクの矢が……本当に役に立った」


 シエルが愛用の弓を両手で抱きしめる。


 男装の下から覗く細い指が、弓弦を愛おしそうに撫でる。碧眼には涙が浮かんでいた。それは、自分の価値を初めて認められた喜びの涙。


 ミーシャが優雅に金髪をかき上げる。


「うふふ、あなたってとても面白いわね」


 聖女の仮面はそのままだが、空色の瞳の奥で、本物の感情が踊っている。初めて出会った、自分を見抜ける存在への興味と期待。


 レオンは四人の美少女たちを見つめた。


 朝日が昇り、路地裏にも光が差し込み始める。その黄金の光が、五人を優しく包み込んだ。


「これで証明できたかな? 【運命鑑定】は本物だ」


 レオンは一人一人の顔を見つめながら、静かに告げる。


「そして――君たちの才能も、本物だ」


 エリナの瞳に、五年ぶりの希望が宿る。

 ルナの震えが、期待の震えに変わる。

 シエルの背筋が、誇りを取り戻してピンと伸びる。

 ミーシャの仮面の奥で、絶望を超え興味が芽生える。


 四人の美少女たちは、埃まみれで、傷だらけで、疲れ果てていた。


 だが、この瞬間――。


 彼女たちは確かに、美しく輝いていた。


 それは、絶望の底から立ち上がろうとする者だけが放つ、特別な輝き。


「ねえ」


 エリナが一歩前に出た。朝日を受けた黒い瞳が、レオンを真っ直ぐに見つめる。


「さっきの話、本気?」


「どの話?」


「あたしたちと一緒なら、世界を救えるって」


 レオンは微笑んだ。


「ああ、もちろん本気だ」


 四人が顔を見合わせる。そして――。


「そ、その話、の、乗ってやってもいいわよ?」


 ルナがほほを赤らめながら恥ずかしそうにそっぽを向く。


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