表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/102

37. 狂月の鴉

 陽の光が、その笑顔を照らす。


 つい数日前まで、絶望の淵にいた少女たち。


 それが今では、こんなにも幸せそうに笑っている。


 レオンは、胸が熱くなった。


(これが、僕が守りたかったものだ)


 少女たちの笑顔を見つめながら、レオンは静かに誓う。


 この笑顔を、この幸せを、何があっても守り抜く――。


 新たな拠点を手に入れた『アルカナ』。


 彼らの伝説は、ここから、さらに加速していく。



        ◇



 一方、その頃――――。


「奴ら、拠点を手に入れただと?!」


 カインは情報屋からの報告書をバン!とテーブルに叩きつけると、神経質に親指の爪を噛んだ。


 安酒場の薄暗い個室。酒と汗の臭いが充満する中、カインの碧眼は憎悪に燃えていた。


 報告書には、『アルカナ』が高級住宅街に豪邸を購入したこと、街の人々が彼らを英雄として讃えていること、そして――自分たち『太陽の剣』が笑い者にされていることが、細かく記されていた。


「英雄気取り……目障りよね……」


 セリナもキュッと唇をかんだ。その瞳には、嫉妬と憎悪が渦巻いている。


 かつて自分が捨てた男が、今では街中の注目を集めている。あの無能だったレオンが、今では伝説の英雄として語られている――その事実が、彼女のプライドをズタズタに引き裂いていた。


「レオンのくせに生意気だ。ぐちゃぐちゃに踏みつぶしてやらんと気が収まらん!」


 カインの声は、憎悪に震えていた。


狂月の鴉(ルナティック・クロウ)に……頼みますか?」


 『太陽の剣』のメンバーで盾役の大男、ガンツがカインを見た。その目には、邪悪な光が宿っている。


 狂月の鴉(ルナティック・クロウ)――それは、裏社会で恐れられる暗殺者集団だった。金さえ払えば、どんな汚れ仕事でも引き受ける。誘拐、暗殺、略奪――彼らにとって、人の命など虫けら同然だった。


「なるほど……小娘たちをぐちゃぐちゃに犯して再起不能にしてやれば、レオンも目を覚ますだろう。くっくっく」


 カインの口元が、歪んだ笑みを浮かべる。


狂月の鴉(ルナティック・クロウ)なら間違いないわね。ぽっと出の小娘たち、目立ちすぎちゃったわね。ふふふ……」


 セリナの妖艶な笑みには冷酷な悪意が浮かんでいた。


「よし! ガンツ。すぐに頼みに行け。ついでにお前も行って楽しんで来い」


「え? いいんですか? あの可愛い娘たちを……。ひっひっひ……」


 ガンツはいやらしい笑みを浮かべると、嬉しそうに出ていった。その足取りは軽く、まるで祭りにでも行くかのよう。


 個室に残されたカインとセリナは、顔を見合わせてニヤリと笑った。


「レオン……お前は出しゃばりすぎたんだ。俺より目立つとか許されんだろ? これはお前の自業自得だ……」


 カインは自分に言い聞かせるように呟く。その瞳には、もはや理性の光はなかった。


 嫉妬と憎悪に狂った男の目――。



      ◇



 翌日の夜――――。


 月も出ていない闇夜の中、狂月の鴉(ルナティック・クロウ)のメンバーは黒頭巾に身を固め、アルカナの拠点近くの物陰で息をひそめる。


 闇に紛れた彼らの姿は、まるで死神のようだった。


「あの美少女たちと楽しめるなんて、夢みたいだぜ。くっくっく……」


「昨日のババァはいまいちだったからな。やはり若い子じゃないと……」


 メンバーの男たちは襲撃が待ちきれない様子で軽口をたたいていた。その声には、下劣な欲望が滲んでいる。


「おい、静かにしろ……窓の明かりが消え始めたぞ。工作部隊はスタン魔道具の安全装置を解除しておけ」


 リーダー格の男が、鋭い視線で屋敷を睨む。


「お、いよいよか! 俺は銀髪の子な」


「なら俺は聖女だな。あの胸がそそるぜ」


 男たちの邪悪な笑い声が、闇に溶けていく。


 ほどなく、アルカナの屋敷の照明が全部落ちた。


 闇が、屋敷を包む。


「おやおや、あいつらお楽しみタイムか?」


「男一人に美少女四人だろ? 毎日とっかえひっかえしてるに違いない。羨ましい」


「まぁ、今日は俺らが楽しませてもらうんだがな。ひっひっひ……」


 下卑た笑い声が、夜気に響く。


「ヨシッ! シーフ行け!」


 リーダー格の男は小柄な男をまず放った。


 男は音もなくゲートの鉄の門扉についた錠前にとりつくと、あっさりと鍵を開け、サムアップして合図した。その手際は、まさにプロ。


「行くぞ!」


 男たちは隊列を組み、足音を立てずに一気にゲートをくぐっていく。


 ガンツも必死についていった。ちゃんと仕事を見届けないとカインに叱られるし、何より美少女のおこぼれに目がくらんでいた。その巨体が、闇の中を駆けていく。


 屋敷を目指してエントランスの石畳をかけていく襲撃者たち――――。


 その時だった。


 パチン!


 と、脇の植木の陰から指の鳴る音が響いた――――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ