表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/97

35. お前もか

「みんな! これからレオンを困らせちゃダメだゾ? ふふっ」


 エリナは得意げに言う。その表情は、まるで姉のようだった。


 少女三人は面倒くさそうにため息をこぼした。


「みんなで楽しく、仲良くね?」


 レオンはくぎを刺す。


「分かったわよぉ……。で、付き合う相手はアルカナの誰かってことでいいのね?」


 ルナが期待に満ちた目で聞いてくる。その緋色の瞳が、希望の光で輝いていた。


「うん、まぁ、みんなそれぞれ魅力的だから、きっとアルカナのメンバーの誰かになると思うよ?」


 レオンの言葉に、少女たちの表情が明るくなった。


「あら、別に全員でもいいんですのよ? ふふっ」


 ミーシャが爆弾を投下する。


「へ……?」


 レオンが固まった。思考が停止する。


「き、貴族には側室は普通に居るわ……」


 シエルが顔を赤くしながら踏み込む。その声は、小さく震えていた。


「そう、私が正妻で、側室ワン、ツー、スリーでもいいのよ? ふふっ」


 ミーシャが楽しそうにみんなを指さす。その笑顔は、まるで女王のようだった。


「なんであんたが正妻なのよ!?」


 ルナが怒った。その緋色の瞳が、炎のように燃えている。


「まぁ、あくまで一例だわ」


 ミーシャは優雅に微笑む。その余裕ある態度が、かえってルナの怒りを煽った。


「ぶーーっ!」


「はいはい、落ち着いて。どうなるかなんて未来のことは分からない。ただ……僕が好きなのは『仲良くできる優しい子』、これだけは言っておくよ」


「あら、私だわ!」


 ミーシャがおどけた調子で言った。


「はぁっ!? あんた面白いわ! ははっ」


 ルナが天を仰いで笑った。


 そのやり取りがおかしくて、みんなつられて笑ってしまう。


 重かった空気が、一気に軽くなる。笑い声が部屋に響き渡った。温かい空気が、テーブルを包む。


「じゃあ、『レオン争奪優しい子選手権』ってこと? いいじゃない、楽しくやろ」


 シエルは楽しそうに碧眼を輝かせた。


「そうよ? 楽しくね? レオンにキスとか……絶対ダメよ?」


 エリナはギラリと瞳を光らせる。その黒曜石のような瞳には、明確な警告が込められていた。


「分かったわ」


「はぁい……」


「しょうがないわねぇ……」


 三人の少女は渋々承諾する。


「ふぅ、良かった。エリナもありがとう」


 崩壊の危機が何とか回避できたようで、レオンは深くため息をついた。


 その時だった――――。


 ピロン! 


【スキルメッセージ】

【好感度状況】

エリナ:70→110【ラブ】※注意


「……へ?」


 レオンは固まった。


(エリナ……お前もかぁぁぁぁ!)


 いったいどこで地雷を踏んでしまったのだろうか?


 レオンはキュッと口を結んだ。顔が蒼白になっていく。


「ふふふ……レオンの独り占めなんて……私が絶対許さないんだから……」


 エリナは嬉しそうにレオンの腕をガシッとつかむ。


 そのほほは紅潮し、心なしか息も荒かった。その黒曜石のような瞳には、今までにない熱が宿っている。


 レオンは絶望した。


 運命は――また、新たな試練をレオンに課したのだ。


 世界一を目指すよりも、この少女たちの暴走を止める方が、よほど困難かもしれない――そんな予感が、彼の胸をよぎった。


 だが、少女たちの笑顔は、確かに幸せそうではある。


 それだけが、レオンにとっての唯一の救いだった。


 こうして、英雄たちの夜は更けていく。


 笑い声と、甘い空気と、そして――レオンの深いため息と共に。


 伝説の始まりは、思いがけない方向へと転がり始めていた。



       ◇



 翌日、一行は不動産屋に連れられて洋館の内見に来ていた。


 【運命鑑定】によると、アルカナ襲撃の計画があるらしい。


 宿屋では守れない――そう判断したレオンは、メンバーを説得して家を借りることにしたのだ。英雄としての報奨金もある今なら、まともな拠点を確保できる。


「どうですか? これは出ものですよ?」


 不動産屋のおじさんは自分のヒゲを撫でながら、自慢げに二階建ての広い屋敷を紹介した。


 リフォームしたばかりという瀟洒(しょうしゃ)な作りで、内装も一新され、とても快適そうだ。石造りの堅牢な外壁、重厚な木製のドア、そして手入れの行き届いた庭――どこを見ても、一流の職人の仕事だとわかる。


「うわぁ、素敵……」


「いいね! いいね!」


「うん、悪くない!」


「アルカナにふさわしいわ……」


 女の子たちも目をキラキラと輝かせている。


 先日まで野宿を繰り返していた彼女たちには、まさに別世界に見えていた。こんな場所に住めるなんて、考えただけだけでバラ色な生活のイメージが頭に膨らんでくる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ