表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/92

34. 胸に灯る小さな炎

 そんなレオンの後姿を眺めながら廊下に一人残されたエリナは、自分の頬に手を当てた。


(私、何をこんなに怒ってるんだろう……)


 自分でも理解できない感情が、胸の中で渦巻いていた。


 ルナやシエルがレオンにキスしているのを見て――何故か、胸が締め付けられるように痛かったのだ。


(まさか、私も……?)


 エリナは首を振って、その考えを追い払おうとする。


(私は絶対ほだされたりなんかしないわ! 男なんてクズばっかりなんだから!)


 ぎゅっと両手を握り締めた。


(ダメ! 私がみんなを守らなきゃ!)


 だが、胸の奥に灯った小さな炎はそう簡単には消えそうになかった――――。



       ◇



 レオンが個室に戻ると、三人が顔を合わさないようにそっぽを向きながら、黙々と食事をしていた。


 空気が――重い。


 テーブルの上には湯気の立つシチュー、香ばしく焼かれた肉が並んでいるのに、誰も楽しそうではなかった。ナイフとフォークが皿に当たる音だけが、やけに大きく響く。


「あー、ちょっと聞いてほしいんだけど……」


 レオンが口を開くと、三人はジト目でレオンを見上げる。その視線は、まるで尋問官のようだった。


「みんなの好意はとてもうれしい。ほんとだよ?」


 レオンは両手を上げて、誠実さを示そうとする。


 三人は続く言葉に不穏な予感を感じながら、無表情にレオンをにらみ続けている。その瞳には、明確な警戒心が宿っていた。


「でも、僕はこないだ振られたばっかりなんだよ? すぐに他の娘とどうこうということは考えられないんだ」


 レオンの言葉には、本心からの戸惑いが滲んでいた。セリナに裏切られた傷は、まだ生々しく胸に残っている。あの屈辱と絶望の記憶が、まだ消えていないのだ。


 三人はプイッとそっぽを向く。その仕草が、可愛らしくもあり、ままならなさも感じさせた。


「ボクが今、目指しているのは、みんながそれぞれ自分の才能を存分に花開かせて、アルカナが世界中に認められることなんだ」


 レオンの声は、真剣だった。その翠色の瞳には、揺るぎない決意が宿っている。


 エリナも個室のドアのところで、静かに聞いている。その黒曜石のような瞳が、鋭くレオンを見つめていた。


「それまでは僕は誰とも付き合わない」


 レオンの宣言に、少女たちの表情が揺れる。


「じゃぁ、世界に認められたら付き合うの?」


 ルナが鋭く突っ込んでくる。その緋色の瞳にはかすかな希望の光が見えた。


「うん、アルカナの育成が一段落ついたら、その時は恋人……欲しいかな」


 レオンの言葉に、少女たちの表情が一斉に明るくなる。


「誰にするのよ?」


 ミーシャがムッとした顔で聞いてくる。その空色の瞳には、明確な競争心が燃えていた。


「それはまだ決めてないよ」


「『決めてない』ってことは……三人のうち誰かって……こと?」


 シエルが恐る恐る聞く。その碧眼が期待に揺れる。


「ちょっと待って! なんで三人なのよ!?」


 エリナが慌てて口をはさむ。その顔は、真っ赤になっていた。


「あら? エリナも参戦するのかしら?」


 ミーシャが意味ありげな笑みを浮かべる。


「さ、参戦なんかしないわよ! で、でも……未来のことなんて分からないじゃない!」


 エリナは上目遣いでレオンの方をチラッと見る。


 その仕草が、妙に色っぽかった。普段の凛とした剣士の面影はどこへやら、今のエリナは恋する乙女そのものだった。


「何を調子いいこと言ってんのかしら?」


「ぶーーっ!」


 ルナとシエルが同時に不満の声を上げる。その表情には、明らかな嫉妬が浮かんでいた。


「まぁまぁ。でも、エリナがそうやって距離を保ってくれているというのは、僕にはありがたいんだけどね」


 レオンの言葉に、エリナがハッとする。


「へ? な、何がよ?」


 エリナが少しのけぞった。その黒髪が、ゆらりと揺れた。


「だって、全員が僕に惚れちゃってたら、もはやハーレムじゃないか。そんなの不健全だよ。誰かがビシッと言ってくれないと困っちゃうもん」


 レオンの言葉に、エリナの目が輝く。


「そ、そうよ! 最年長の私が(ただ)れた関係に発展しないように目を光らせるんだわ! うん!」


 エリナは力強く宣言する。その表情には、使命感すら浮かんでいた。


 少女三人はお互い顔を見合わせながら、無言で肩をすくめた。その表情には、明らかな呆れが浮かんでいる。


「ありがとう。さすがエリナ。オーガジェネラル相手に臆せず立ち向かった、まさに剣聖の卵だよね。期待してるよ? ふふっ」


 レオンの褒め言葉に、エリナの頬がぱっと赤く染まる。


「えっ? いや、ちょっと、やだなぁ、もぅ……うふふ」


 エリナは恥ずかしそうにパンパン!とレオンの背中を叩いた。その頬は、紅潮している。喜びと照れが入り混じって、彼女の心は高鳴っていた。


「痛い、痛いって……もぅ……」


 レオンは苦笑しながら、エリナの手を制する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ