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32. 柔らかな舌

「はぁ!? レオンは罠を全部見つけてたぞ!」


 カインの言葉に、鑑定士は呆れた表情を浮かべた。


「じゃぁ、その人に頼んでくださいよ。罠を百パーセント見つけられるなんて、そんなのもはや【神】ですよ」


「くっ! 役立たずが! クビだクビ!」


 カインの顔が、怒りで真っ赤に染まる。


「そんなのこっちから辞めてやる! Aクラスだっていうから期待してたのに、とんだ詐欺だ!」


 鑑定士の言葉が、カインの逆鱗に触れた。


「おい……。詐欺とはなんだ……? あぁっ!?」


 カインは思わず剣を振りかぶった。理性が、怒りに呑まれていく。


「うわぁ! 人殺し!! ひぃぃぃ!」


 鑑定士は慌てて逃げ出し、()()うの体で闇の中に消えていった。


「あーあ……。もう、今日はダメね……また新しいメンバー探しましょ?」


 セリナはカインに声をかける。その声には、もはや何の感情も込められていなかった。ただ、次の道具を探すかのような冷淡さだけがあった。


「くっそぉ! みんなレオンのクズのせいだ!」


 カインは剣を床に叩きつけ、獣のように吠えた。


 ガンッ! と金属音が響き――ダンジョンの闇に吸い込まれていく。


 かつて輝いていたAランクパーティ『太陽の剣』は、今や見る影もなかった。


 ダンジョン攻略には単に攻撃力のある剣士がいるだけでは難しい。そういう剣士の力をフルに発揮させる優秀な後方支援があってこそ上手く回るのだ。


 レオンという優秀な羅針盤を失った彼らは、ただ崩壊へと向かっていく。


 だが、カインはそれを認めようとしない。認められない。


 自分が間違っていたなどと、絶対に認めるものか――。


 嫉妬と憎悪に歪んだ瞳が、闇の中で鈍く光っていた。



       ◇



 その頃、アルカナの一行はギルドで歴史的快挙の後処理に追われていた。


 ギルドマスターへ報告し、ヒアリングを受け、報奨金金貨五百枚を受け取ると新聞記者に囲まれた。


 いきなりの英雄扱いにみんな圧倒されっぱなしである。


 なんとかこなしきった頃には陽は傾いていた。


 ギルドの中に居ても人々は次々と『アルカナ』のメンバーに握手を求め、子供たちは目を輝かせてサインをねだってくる。英雄として迎えられる喜びと同時に、その重圧がレオンの肩にのしかかっていた。


 少し落ち着きが出てきた頃、レオンはメンバーを見回す。


「お疲れさん! 腹減ったな。お祝いがてら『腹ペコグリフォン亭』でも行くか?」


 ヘトヘトになっている少女たちにレオンが声をかける。


「うん!」「やったぁ!」「わーい!」「いいですわね!」


 みんなの瞳がキラリと輝いた。



        ◇



 店に入るとおかみさんは上機嫌で迎え、奥の個室へと通してくれた。前回酔っ払いに絡まれたことで配慮してくれたようだ。


「英雄様たちのために、特別に一番いい部屋を用意しましたよ!」


 おかみさんの笑顔が、心から嬉しそうだった。


「よーし、食うぞー!」


「わーい、肉、肉ぅ!」


「お腹すいたー!」


「たくさん食べちゃおっと!」


「食べますわよぉ!」


 ルナがちゃっかりレオンの隣に席を取る。その動きは素早く、まるで魔法のようだった。


「あっ!」


 シエルも負けずにレオンの反対側の隣に滑り込んだ。


 タッチの差で座り損ねたミーシャは、ギリッと奥歯を鳴らす。その表情には、明らかな不満が浮かんでいた。


「なんで勝手に座んのよ!」


「早い者勝ちデース!」


「普通そうよね?」


 ルナとシエルが勝ち誇る。


「ずるーい!」


 膨れるミーシャ。その頬は怒りで赤く染まっていた。


「ほら、向かいの席が空いてるよ? ね?」


 レオンはうんざりしながら声をかける。もはや諦めの境地だった。


      ◇


 不穏なスタートになってしまったが、一応お祝いの席である。せっかくなのでみんなでエールを頼んだ。


 この国ではアルコールは十六歳から飲めるのだ。かなり高価なので、普段はなかなか飲めないが、今日は特別な日――そう、僕らは英雄なのだ。


「よーし、じゃぁ乾杯するぞ! アルカナにーーカンパーイ!」


「カンパーイ!」「ヨイショー!」「イェーイ!」「乾杯!」


 みんな一気にジョッキを傾けた。


 琥珀色の液体が、喉を通っていく。その苦みと爽快感が、疲れた身体に染み渡っていった。


「うはぁ、効くなぁ」


「ちょっと苦いけど、それがいいかも。ふふっ」


 日頃飲みなれないだけに、みんなやられ気味である。頬がほんのりと紅潮し、瞳が潤んでいく。


 しばらく肉をむさぼり、シチューをすすりながら、今日の凱旋の話で盛り上がる。


「まさかこんなに歓待してもらえるなんて思わなかったよ」


「そうそう! 生まれて初めてだよぉ」


「街を守れてよかった……」


 みんなしみじみと死闘の成果に胸が熱くなっていた。こんな日が来るなんて、つい数日前までは想像もできなかった。


「あらぁ、レオンったらぁ、ほっぺたにシチューが付いちゃってるわよ? ふふっ」


 すっかり酔っぱらって赤くなったルナが、そう言ってレオンのほほをペロッと舐めた。


 その柔らかな舌の感触に、レオンの思考が一瞬停止する。


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