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31. 嫉妬と憎悪

「アルカナー!」

「ありがとーう!」

「最高だぜ!」

「英雄様だ!」


 歓声と盛大な拍手の中、馬車は城門をくぐった。


 ポンポーン!


 魔法の花火が景気よく弾ける中、馬車はパッカパッカと蹄の音を響かせ、石畳の道を進んでいく。


 うわぁぁぁぁ!


 英雄の馬車の登場に街全体が歓声に包まれた。


 通りの両側は人の海で埋め尽くされ、みんな涙を流しながら、笑顔で『アルカナ』の偉業を讃えている。


「サンキュー!」

「アルカナ万歳!」

「命の恩人だ!」


 通りの脇の家の窓からも、老人が、子供が、母親が手を振り、声をかけてくる。花びらが、窓から投げられ、五人の頭上に舞い降りる。


 一行は圧倒されながらも、窓から手を振って応えていった。


「ボクたち、凄いこと……やったんだね……」


 シエルの碧い瞳に涙が光る。男装の下から、本当の感情が溢れ出している。


「落ちこぼれから……こんな風に……」


 ミーシャも目を潤ませる。聖女の仮面など、もうどこにもない。ただの感動に震える少女の顔があった。


「みんな……喜んでる……」


 ルナが窓から身を乗り出し、群衆を見つめる。この人たちの命を、自分たちが救ったのだという実感が、胸を熱くする。


「私たち……本当に……」


 エリナも、普段のクールな表情を崩し、涙を一筋流した。復讐だけを生きがいにしていた自分が、人を救う側に立っている。その事実が、心を震わせる。


 レオンは、そんな少女たちの姿を見つめながら、静かに涙を流す。


 たった数日前、全てを失った。


 仲間に裏切られ、恋人に捨てられ、家族に見放され、奴隷寸前にまで追い込まれた。


 だが今、新しい仲間と共に、英雄として凱旋している。


 運命は、確かに変えられたのだ。


 もちろんそれは【運命鑑定】のおかげではあるのだが、それでも今、素敵な仲間とともに大勢の人に祝福され、レオンは明るい未来への確かな手ごたえを感じていた。



        ◇



 馬車が冒険者ギルドの前に到着すると、そこには更なる群衆が待ち構えていた。


 ギルドマスターが、涙を流しながら立っている。


「よくぞ……よくぞ帰ってきてくれた!」


 その横には『アルカナ』を嘲笑っていた冒険者たちが、頭を下げて立っていた。


「すまなかった!」

「俺たちが間違っていた!」

「あんたらこそ、本物の英雄だ!」


 五人は馬車から降り立つ。


 うぉぉぉぉ!


 その瞬間歓声が上がり、街中から割れんばかりの拍手が沸き起こった。


 レオンたちはその迫力に一瞬気おされ、お互い顔を見合わせる。


 しかし、クスッと笑いあうと、みんなにっこりと笑いながら群衆に向かって大きく手を振った。


 うぉぉぉぉぉ! わぁぁぁぁ!


 花吹雪が舞い、魔法の光が空を彩り、ひときわ大きな歓声が天まで届く。


 『アルカナ』の伝説の、真の幕開けだった。



      ◇



 だが、この凱旋を忌々しそうににらむ一行がいた。


 レオンを追放した『太陽の剣』のリーダー、カインとセリナたちだった。


「ケッ! たまたま火山が噴火しただけで英雄気取りかよ!」


「ラッキーだけの新人の小娘たち……。あームカつく!」


 カインたちはスタンピードの報を受け、我先にクーベルノーツを逃げ出していた。Aランクパーティのリーダーとして、街を守るべき立場にありながら、真っ先に逃げ出したのだ。だが昨日、いきなり魔物全滅の報を受けて、慌てて戻ってきていた。


 しかし――それがレオンたちのパーティの成果だと聞いた瞬間、カインとセリナに戦慄が走った。


「あの無能にこんなことできるわけがない」


「そうよ! 何かの間違いだわ」


 恨み言を吐いてみても、街の人々はレオンの名前を興奮しながら口にしているのだ。


 新生パーティ『アルカナ』――その名前が、希望と共に語られている。


 カインの奥歯がギリッと音を立てた。


「いつか身の程を分からせてやる……行くぞ!」


 カインは鬼のような表情を浮かべ、今日の冒険、ダンジョンへと足を進めた。その碧眼には、嫉妬と憎悪が渦巻く。


 レオンを叩き潰す。自分こそが真の英雄だと証明する。そのためには、どんな手段を使ってでも――。



        ◇



 ダンジョン二階――――。


 まだ入って間もないというのに、『太陽の剣』は罠にはまり、行き詰まっていた。


 床に開いた落とし穴、壁から飛び出す毒矢、突如として襲いかかる天井の圧縮トラップ――どれもこれも、かつてレオンが事前に見抜いていたものばかりだった。


「おい! 話が違うぞ、どうなってんだ!?」


 カインの怒声が、ダンジョンの闇に響く。


「どうなってるも何も、【鑑定】スキルで罠なんて七割見つけられれば御の字ですよ!」


 新人の鑑定士はいきなり理不尽に詰められて、思わず言い返した。これ以上は無理だ。彼は精一杯やっているのに、このリーダーは何を求めているのか。


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