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29. ちょーーっと待ったぁ!

「え……? 守って……くれるの?」


 シエルの碧眼が、驚きに揺れる。


「そりゃそうだよ。シエルは大切な仲間。どんな手を使っても守り切るさ」


「ほ、本当……?」


 シエルの声が震えた。


「本当さ、約束する」


 レオンはニコッと笑う。


「レオンーー!」


 シエルはいきなりレオンに抱き着いた。感情が溢れ、もう抑えきれなかった。


「お、おいおい、ど、どうしたんだ?」


 レオンは行き場のなくなった手を上げて困惑する。


「ボク、『守る』なんて初めて言われたかもしれない」


 シエルの声は、涙に震えていた。


「え? 護衛ならいくらでもいただろ?」


「護衛が守ってるのは自分の仕事だし、貴族社会の掟よ。ボクのことなんてなんとも思ってないわ」


 シエルの言葉には、深い孤独が滲んでいた。誰も、自分という人間を見てくれなかったという絶望。ただの商品として、政略結婚の道具として扱われ続けてきた人生――――。


「そ、そうか……それは辛かったね……」


 レオンは、シエルの頭を優しく撫でた。その温もりが、彼女の心を溶かしていく。


 シエルは碧眼に涙を浮かべながら、レオンの瞳を見つめる。


「約束よ? 期待しちゃうからね?」


 その涙に濡れる碧い瞳には切実な願いが込められていた。


「も、もちろんだよ」


 レオンはシエルに気圧されながらも、ニコッと笑って頷いた。


 シエルにはその笑顔がどんな誓約書よりも確かなものに映った――――。


「嬉しい!」


 遠慮も羞恥も忘れて、きつく抱き着くシエル。ただ全身で喜びを表現した。


「お、おいおい……」


 その勢いにレオンはたじたじになる。


 ピロン!


 その時、レオンの脳裏にまたメッセージが浮かんだ。


【スキルメッセージ】

【好感度上昇】

 シエル:90→120【ラブ】※要注意


(はぁっ!?)


 また限界突破してしまった。


 彼女たちはなぜこんなにチョロいのか――――?


 普通に『仲間を守る』と、言っただけでなぜ落ちるのか?


 レオンは思わず宙を仰いだ。


 青い空が、どこまでも広がっている――。


 降って湧いたような突然のモテ期にどうしたらいいのか見当もつかず、思わず深いため息をついた。


(これ、本当に大丈夫なのか……?)


 ひしっと抱きついてくるシエルの熱を感じながら、レオンは新たな戦いがさらに一段深化してしまったことを憂えた。



      ◇



 翌朝――――。


 アルカナ一行は特別に馬車でクーベルノーツの街へと送ってもらうことになった。


 砦の兵士たちが見送りに出てきたが、その視線には感謝と畏怖が入り混じる。英雄として讃えられているはずなのに、どこか距離を置かれているような、そんな微妙な空気が漂っていた。


「さぁて、帰りますかぁ」


 レオンはやれやれと言った感じで馬車に乗り込んだ。ようやく一息つける――そう思っていた彼の期待は、すぐに粉々に砕け散ることになる。


 三人掛けのシートが向かい合っている馬車の中、レオンは奥の席に座った。


「じゃぁ私はここ! ふふっ」


 シエルはすかさずレオンの隣に滑り込むように座り込んだ。その動きは猫のように俊敏で、まるで獲物を狙う弓手のような正確さだった。


「ちょーーっと待ったぁぁぁ!!」


 ものすごい剣幕でミーシャが乗り込んできた。


 普段の穏やかな聖女の面影はどこにもない。その瞳には、明確な闘志(バトルオーラ)が燃えていた。


「あなた、何をちゃっかりレオンの隣に座っていらっしゃるの?」


 ミーシャの声は、表面上は丁寧だが、その奥には鋭い刃が隠されていた。


「あら、どこ座ったって自由でしょ?」


 普段控えめなシエルが珍しくミーシャに挑んだ。碧眼が意思の強さを示すように輝いている。


「私にはレオンとお話しすることがたくさんあるの! ちょっとどいてくださる?」


 ミーシャは聖女の微笑みを浮かべながらも、その言葉には有無を言わさぬ圧力が込められていた。


「嫌だと言ったら?」


 シエルは一歩も引かない。昨日、レオンに守ると約束してもらった彼女には、もう何も恐れるものはなかった。


「あぁ、じゃあ、僕が真ん中になるからさ? これでいいだろ?」


 レオンは二人の火花(スパーク)散る視線に耐えきれず、シエルと一緒に座席をずれた――――。


「ふんっ!」


 ミーシャはシエルをジト目でにらみつけながら、空いたレオンの隣に座ったが――――。


「あぁっ! ずるーい!」


 乗り込んできたルナがその配置を見るや、悔しさに顔を真っ赤にして叫んだ。


「まぁ、早い者勝ちですわ。ふふっ」


 ミーシャは勝ち誇った笑みを浮かべる。その表情は、聖女というより勝利を収めた女王のようだった。


「あーーっそう! じゃあ、あたしはココ!」


 ルナはいたずらっ子の笑みを浮かべると、レオンの膝の上にちょこんと座った。


「は?」「へ?」「おほぉ!?」


 一瞬、車内が凍り付く。


 レオンは太ももに伝わる柔らかなお尻の感触に、思わずクラクラしてしまう。


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