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25. オーガジェネラル

「これは前座だ。彼らに任せておけ」


 軽蔑ではなく、熱のこもった期待の眼差し。


「お前の出番に向けて、温存しておけ!」


「……え?」


 エリナは驚いて顔を上げる。


 認められた――。

 ついに、認められたのだ。


「ハ、ハイ!」


 元気よく返事をして、湧き上がってくる笑みを誤魔化しがてら、水筒の水をゴクゴクと飲んだ――。


 冷たい水が、熱を帯びた体を冷やしていく。


 隘路の向こうから、まだ魔物たちが押し寄せてくる。


 だが、エリナはもう怯えていない。


 赤い剣が、朝日を受けて輝く。


 復讐の剣士は、守護の戦士へと生まれ変わりつつあった。



       ◇



 精鋭兵たちが交代しながら熾烈な前線を維持していた、その時だった。


 グォォォォ!


 大地を震わせる重低音の咆哮が、隘路全体に響き渡った。


 見れば、身長四メートルはあろうかという巨大なオーガジェネラルが、味方の魔物すら踏み潰しながら隘路を突進してくる。その姿は、まさに戦場の悪夢そのものだった。


 来た――。


 ブラッドもエリナも、反射的に剣の柄を握り締める。


 【運命鑑定】が示した、最後にして最大の脅威の登場だ。奴を逃せばアンデッドを再編されて悪夢は甦る。何としても、ここで仕留めなければならない。


 だが――。


「で、でかい……」


 エリナの顔が青ざめる。今まで見たどんな魔物とも、格が違った。


 筋骨隆々とした腕には、大木をそのまま削り出したような巨大な棍棒が握られている。一振りするだけで蜥蜴人(リザードマン)が数匹、まるで落ち葉のように吹き飛ばされていく。


 それはどう見ても、剣で戦うような相手ではなかった。


 オーガジェネラルはSランクに分類される魔物。通常であればSランクパーティが完璧なチームプレーで対応すべき敵なのだ。とてもこんな砦の兵士部隊でどうこうできる話ではないし、本来新人の自分には出番などないのだ。


 しかし――。


『エリナ、君は剣聖になれる』


 レオンに初めて会った時に言われた言葉が、魂の奥で響き続ける。


 そう、自分は未来を見えるレオンに【剣聖になれる】と、言われているのだ。そして『エリナがボスを倒す』と送り出されていた。


 運命は【勝利】を示している。


 しかし――――。


 果たしてその運命はどうつかんだらいいものか、皆目見当がつかない。


「レオン……。信じていいん……だよね……」


 エリナは剣の柄を握り締め、ギリッと奥歯を鳴らした。震える心を、必死に奮い立たせる。



        ◇



 一方ブラッドは小休止中だった兵たちに弓を構えさせる――――。


「てーーっ!」


 ブラッドの号令に、弓兵たちがオーガジェネラルに向けて一斉射撃を行う。だが、矢は鋼鉄のような筋肉に弾かれ、カランカランと虚しい音を立てて地に落ちるだけだった。


「くぅっ! 化け物め……」


 あまりにも非常識な強さに、歴戦の勇士であるブラッドすら顔をしかめる。


 オーガジェネラルは邪魔な魔物を吹き飛ばしながら、一気に前線へと迫る。その歩みは、止められない雪崩のよう。


「来い! バケモン!」


 ブラッドが勇敢にもオーガジェネラルと対峙するが――振り下ろされる棍棒は、まるでビルの上から落ちてくる鉄骨のような破壊力。避けるので精一杯だった。


「ゴミ……シネィ! ウガァァァ!」


 知性の欠片もない咆哮と共に、オーガジェネラルは巨大な棍棒をブンブンと振り回す。その風圧だけで、小石が弾丸のように飛び散る。ブラッドは近づくことすらできない。


「くぅっ!」


 ドガン! ドガン! と地響き立てながら次々と撃ちつけてくる棍棒。


 こんなのに剣を当てても砕かれてしまうだけだろう。


 ブラッドは棍棒の軌道を巧みに読み、ギリギリで避けながらチャンスを待った――。


「コザカシイ!」


 そんなブラッドにイラついたオーガジェネラルが、大きく横薙ぎを放つ、その時だった。


 なんとかギリギリで避けたブラッドは、チラリと脇で戦況を見守っているエリナに視線を送った――――。


 言葉なき意思疎通。そして、エリナはうなずいた――――。


 事前のブリーフィングで二人はレオンに言われていたのだ。


『ボスを倒せるタイミングは一瞬、その一回だけ。その時が来たら躊躇せずに行ってください』


 大振りのオーガジェネラルには一瞬隙ができている。ブラッドはこれこそがレオンに言われたタイミングだとそこに命を懸けた。


 直後、ブラッドはオーガジェネラルの懐へと一気に突っ込んでいく。


 しかし、思ったより早くオーガジェネラルは体勢を立て直していた――――。


「バカメ!」


 オーガジェネラルがブラッド目がけて棍棒を振り下ろそうとした、まさにその瞬間――その視界の端に、黒い影が映った。


 脇から突っ込んでくるエリナの姿だった――――。


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